2022年03月22日号

(2022年03月14日~2022年03月18日)

先週の為替相場

6年超ぶりの円安

 14日からの週は円安が一段と進み、ドル円は2016年2月以来6年1カ月ぶりに119円40銭前後のドル高円安に振れた。ウクライナ情勢の進展への期待感などからユーロは対ドル、対円ともに上昇。対円ではユーロ全般の買いと、円売りの両面からユーロ高に傾き、先週初めの1ユーロ=128円台から132円手前までユーロが上昇している。

 ウクライナ情勢と並ぶ注目材料だった米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通り0.25%の利上げを決定。早ければ次回5月3、4日のFOMCで資産縮小を決定する方針を表明し、金融引き締めに積極的な「タカ派的」な姿勢を示した。もっとも金利の先高観測が強い中で米株式市場が堅調に推移したことを受けてリスク選好が強まり、対ユーロでドルがうられた。

 FOMC翌日の英イングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会(MPC)(用語説明1)も市場予想通り0.25%の利上げを決定。前回MPC(3月17日)では9人中4人の0.50%利上げ案にこうして0.25%利上げを決めた。しかし、今回は9人中8人が0.25%利上げを支持し、残り1人は金利据え置きを主張したためタカ派姿勢が後退したと受け止められ、ポンド売りが出る場面があった。

 17、18日の日銀金融政策決定会合では、必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じると、緩和的な従来の姿勢を堅持した。世界的に金融引き締めの動きが強まる中で、日銀が緩和継続の姿勢を崩さなかったことで、円売りが広がった。また、黒田日銀総裁は決定会合後の会見で、現在の円安は日本経済にプラスだと発言。物価高は輸入価格の上昇によるもので、金融引き締めが適切ではないとの見方を示すと、円売りがさらに強まり、週末にかけての1ドル=119円40銭前後までのドル高円安を誘った。

 その他、週後半にかけての豪ドルを中心とした資源国通貨買いの動きも目立った。先週前半はウクライナ情勢への警戒感に加え、新型コロナ感染の再拡大を受けた中国の都市封鎖が商品需要減退の懸念から豪ドルに売りが出た。対ドルでは1豪ドル=0.7165ドル前後まで豪ドルが下落。対円での下げは限定的だったが、1豪ドル=84円60銭前後を付けるなど上値は重かった。

 週後半には原油など商品市場全体の堅調を支えに1豪ドル=0.74台を回復し、対円では2018年以来の1豪ドル=88円台の豪ドル高円安となった。

今週の見通し

 ドル高円安基調の継続が見込まれる。先週、2016年以来となる円安水準までドル買い円売りが進んだことで、さすがに高値警戒感が出ているが、流れはまだドル高方向。心理的にも大きな節目となる120円を意識する動きを見せている。

 米FOMCはタカ派姿勢を強く示した。FOMC後の連邦準備制度理事会(FRB)理事や地区連銀総裁の発言には、約40年ぶりの高水準となっている物価上昇への警戒感が強く見られた。特に今回のFOMCで0.5%の利上げを主張したブラード・セントルイス連銀総裁(用語説明2)は年内に政策金利を3%超まで引き上げることを主張するなど、タカ派姿勢を強く示している。その他、ウォーラーFRB理事をはじめ、FOMC内部でタカ派的な姿勢を強く示すメンバーが増えてきている印象で、今後0.5%の大幅利上げの可能性は十分にありそうだ。英中銀はウクライナ情勢を受けた先行き不透明感を警戒する姿勢を見せながら、3会合連続での利上げを実施して金融引き締め姿勢を維持。10日のECB理事会のタカ派姿勢もあり、世界的に金融引き締め姿勢が目立つ。一方、日銀は金融緩和姿勢の維持を強調。世界の潮流から外れた対応から円売りが強まっている。

 リスク警戒感からの円買いを呼んでいたウクライナ情勢は、停戦に向けた進展が期待され、ドルの対円レートを支えている。先行き不透明感は続いているが、リスク警戒局面での円買いの勢いがやや弱くなっており、ドル高円安基調を崩すものではないという印象だ。

 資源国通貨を中心に対円で上値を試す勢いが強く、ドルの対円レートを支える格好。ドル円に関しては1ドル=120円台乗せにとどまらず、さらなる上値進行も予想される。

 2015年に付けた125円台はまだ遠いものの、122円程度までのドル高円安は十分にあり得る流れとなっている。

用語の解説

英中銀金融政策会合 英イングランド銀行金融政策会合(MPC:Monetary Policy Committee)。英国の中央銀行であるイングランド銀行(BOE)が金融政策を決定する会合。総裁、副総裁を含むBOE内部の委員5人と、外部委員4人の9人で構成し、年8回の会合で英国の金融政策を決定する。
ブラード・セントルイス連銀総裁 ジェームス・ブラード(James Bullard)セントルイス連銀総裁。ウィスコンシン州出身。インディアナ大学で経済学博士号を取得後、調査部門のエコノミストとしてセントルイス連銀に1990年入行。副総裁などを経て2008年4月に同行総裁に就任。FOMCメンバーの中で、物価への警戒感が強いタカ派の代表格と見られている。

今週の注目指標

英物価統計(2月)
3月23日16:00
☆☆☆
 先週の英中銀金融政策委員会で物価高の抑制を狙い、3会合連続で利上げが実施された。消費者物価紙指数、生産者物価指数、卸売物価指数が同時に発表される中、インフレ目標制度の対象ということもあり、消費者物価指数の前年比が最も注目を集めている。前回1月分は前年比5.5%と1992年3月以来の高水準を記録。今回は5.9%とさらに高い水準が見込まれている。次回以降の大幅利上げへの期待が強まるようだと2016年以来となる1ポンド=160円台のポンド高も視野に入る。
南ア中銀金融政策会合
3月24日
☆☆☆
 インフレへの警戒感から、昨年11月の会合で3年ぶりの利上げに踏み切った南ア中銀。1月27日の会合でも追加利上げを決めた。1月分の南ア消費者物価指数は前年同月比5.7%と、5か月連続で5%台。今月23日に発表される2月分の消費者物価指数前年比は5.8%と小幅上昇が見込まれ、物価高傾向が継続している。前回の会合で全会一致での利上げとはならず、据え置き主張の委員が出たように、南ア経済の厳しい状況から慎重な姿勢も見られるが、物価高への対応から今回も0.25%の利上げが見込まれている。声明などで今後の追加利上げ見通しが示されると、南アランド買いが強まるだろう。対円では1ランド=8円50銭超えを試す動きも。なお、結果発表の時刻は未定となっているが、日本時間午後10時10分過ぎの発表がほとんど。
NATO緊急首脳会議
3月24日
☆☆☆
 ウクライナ情勢をにらみながら北大西洋条約機構(NATO)は24日に緊急首脳会議を開き、バイデン米大統領も訪欧して参加する予定。ウクライナ支援の強化やNATO加盟国であるバルト三国への戦力増派などが話し合われる見込み。ウクライナ政府は同国領空に飛行禁止区域の設定を求めているが、こちらは見送りが予想される。ロシアに対する制裁強化などが示され、欧州を中心に経済的な悪影響がさらに大きくなるとの見方が強まればユーロ売りの展開が予想される。1ユーロ=1.0000ドル割れをトライする展開となる可能性もある。

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