2022年03月29日号

(2022年03月21日~2022年03月25日)

先週の為替相場

6年3カ月ぶりのドル高円安

 21日からの週はドル高円安がさらに進み、一時1ドル=122円40銭台と2015年12月以来およそ6年3カ月ぶりのドル高円安となった。

 金融引き締めに積極的な米国と金融緩和継続を強調する日本との対照的な状況がドル買い円売りの流れを強めた。

 3月15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は市場予想通り0.25%の利上げを決定し、早ければ次回(5月3、4日)の会合で資産縮小を決定する可能性に言及するなど、金融引き締めに前向きだったため、ドル買いが入りやすい。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が21日の講演で0.5%の大幅利上げの可能性に言及するなどFOMCメンバーによる利上げに積極的な「タカ派」姿勢が目立った。金利先物が織り込む利上げ確率を示すCME Fed Watchでは、次回5月の0.5%利上げ予想が3分の2を上回っている。

 一方、日銀は3月17、18日に日銀金融政策決定会合を開き、必要であれば躊躇なく追加的な緩和措置を行うとの従来方針を踏襲。黒田総裁が円安は日本経済にプラスと発言したこともあり、円売りが出やすい。片岡日銀審議委員(用語説明1)は24日の講演で、金融引き締めへの転換を否定するとともに、円安の副作用は非常に小さいと発言しており、市場は日銀が円安を許容していると受け止めた。

 先週初めは、春分の日で東京勢が不在となる中、1ドル=119円台前半でスタート。パウエル米FRB議長が全米企業エコノミスト協会(NABE)の講演で、必要なら毎会合で0.25%を上回る利上げを実施すると大幅利上げの可能性に言及したためドル買いが強まり、22日午前の東京市場で心理的な節目の120円を突破。その後もドル買いが続き、同日午前のロンドン市場では121円台を付けた。

 その後はいったん121円を挟んでもみ合った。堅調な地合いを保つ半面、上値追いにやや慎重な姿勢が見られた。上値を抑えていた122円台半ば手前を24日ロンドン市場で超えると、同日NY市場で122円40銭台までドル高円安が進んだ。

 25日朝の東京市場で122円43銭とドルの直近高値を更新した後、いったん調整に向かい、122円割れ。25日午前に衆院財政金融委員会に出席する黒田日銀総裁が円安への警戒感を示すとの見方が急速に進んだドル高を調整するきっかけとなった。総裁答弁は、これまでの金融緩和姿勢を堅持。円安については、円の信用が毀損しているものではないと無難な表現にとどめたが、日銀が同日の指値オペを見送ったことが円買いを呼び、121円10銭台のドル安円高となった。もっとも海外市場ではドル買い円売りが再び強まり、ドルは122円台に値を戻して先週の取引を終えた。

 ドル以外の他通貨も対円では基本的にしっかり。ユーロは対ドルが売られる局面で、対円でも一時的に売りが出たが、中長期的な上昇トレンドを維持。今月7日の124円40銭前後からの上昇トレンドを強め、一時134円70銭台まで買われた。ポンドも上昇基調を続けて1ポンド=150円台から161円台半ばまで上昇した。

 ユーロの対ドルレートはウクライナ情勢の先行きに対する楽観的な見方や欧州中央銀行(ECB)による年内利上げ観測が支えとなったが、ドル買いの勢いも強く、1ユーロ=1.10ドルを挟んで推移。1.0960ドル台で2回下値を支えられるなど1.09ドル台半ばが底堅い一方、1.1050ドル前後が重かった。

今週の見通し

 高値警戒感はあるがドル高円安基調の継続が見込まれる。先週末に対ドルで1円以上の大幅な円高に振れたことがスピード調整となって過熱感は後退しており、ドルはもう一段の上値を試しやすい流れにある。

 リーマンショック前にドルの上値を抑えた124円20銭前後を突破すれば、2015年6月に付けた125円80銭台がドルの上値目標として強く意識されるだろう。

 ただ、3月4日の114円60銭台からの上昇幅はかなり大きい。今年1、2月の2回上値を抑えた116円30銭台を3月11日に明確に抜けてから、ここ2週間ほどの急速なドル上昇に高値警戒感が出ている。4月1日に控える3月の米雇用統計発表を前に、いったん大きくドル高の調整が入る可能性もある。

 米国の大幅利上げ観測と日銀の金融緩和継続や円安容認の姿勢がドル高円安の流れにつながっている。3月31日の米PCEデフレータ(用語説明2)、4月1日の米雇用統計とISM製造業景気指数などで大幅利上げ観測が後退すれば、スピード調整に伴う大幅な円高ドル安も想定される。ただ、各種統計の市場予想はいずれもしっかりした数字が見込まれ、大幅利上げ観測を支える結果が見込まれる。週後半にかけてドル買いが一段と強まる可能性もあるが、日銀が円安をけん制する動きを見せるとドル高調整を誘うだろう。

用語の解説

片岡日銀審議委員 片岡剛士日本銀行政策委員会審議委員。慶応大学出身。三和総合研究所に入社後、慶応大学商学研究科修士課程修了。三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員を経て、平成29年7月から同職。積極的な金融緩和による景気浮揚を唱える「リフレ派」エコノミストとして知られる。日銀金融政策決定会合の採決で、より積極的な緩和を求めて反対票を投じることが多い。
PCEデフレータ 米商務省が発表する個人消費支出(Personal Consumption Expenditure )のデフレータ。個人消費の物価動向を表し、変動の激しい食品とエネルギーを除いたものをコアデフレータとしている。米FRBのインフレ目標の対象指標。米消費者物価指数(CPI)より調査対象地域や調査範囲が広い。CPIの調査対象は全米75都市の財やサービスの価格。一方、PCEデフレータは農村部データも集計し、非営利団体のサービスや雇用主が提供する医療保険やメディケアも調査対象とする。

今週の注目指標

米PCEデフレータ(2月)
3月31日21:30
☆☆☆
 10日に発表された2月の米CPIは前年同月比7.9%と1982年1月以来およそ40年ぶりの高い伸びを記録した。食品とエネルギーを除く「コア」はプラス6.4%とこちらは1982年8月以来の高い伸び。
 31日に発表される2月の米PCEデフレータは前年同月比6.4%(前回6.1%)、同コアデフレータが前年比5.5%(前回5.2%)と、ともにインフレ目標の2%を大幅に上回る見通し。CPIの上昇傾向から市場予想前後の高水準は十分に予想される。FRBがインフレ目標の対象とし、金融政策運営で重視するとされるPCEデフレータがCPIと同様に強く出れば米国の大幅利上げ観測を高め、1ドル=123円台を超えてドルが一段高となる可能性もある。
米雇用統計(3月)
4月1日21:30
☆☆☆
 前回2月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数の増加幅が前月比67.8万人と、市場予想の40.0万人を大幅に上回った。失業率が3.8%と新型コロナウイルス流行直前の2020年2月以来の水準に低下する一方、労働参加率は62.3%と1月の62.2%から上昇した。労働参加率が上昇すると失業率は一時的に悪化するとされ、労働参加率が上昇する中での失業率の低下は労働力需給の強い引き締まりをうかがわせた。
 前回の雇用者数変化の内訳を見ると、最も目立ったのがレジャー&ホスピタリティ部門の17.9万人増。12月が18.6万人増、1月が16.7万人増となっており、順調に雇用が回復している。同部門はカジノ・劇場・リラクゼーション 宿泊、外食などで構成し、基本的に接客を伴う職種のため新型コロナの影響を最も強く受けていた。とくに単一部門としては最も雇用者数の多い外食は12.37万人増と大幅に伸びた。
 その他、ヘルスケア&社会福祉部門が9.42万人、小売部門が3.69万人それぞれ増加した。これらの職種も対面での仕事がメインのため新型コロナの影響が強かった。こうした部門での雇用増は新型コロナの感染状況の改善によるものとみられ、景気の先行きについての見方を上向かせた。
 一方で弱さが目立ったのが自動車・同部品製造の1.8万人減。半導体不足などサプライチェーン問題が続いているとの印象を与えた。
 今回の雇用統計では、非農業部門雇用者数の市場予想は45万人増と、前回比で伸びは鈍化するが、かなりの高水準が予想されている。失業率は3.7%と前回水準をさらに下回る見込み。
 ここに来て、米FRBの大幅利上げへの観測が強まっている。雇用の順調な拡大は大幅利上げのハードルを下げる。事前予想と同等または予想を上回る数字が出ればドル買いが強まり、1ドル=125円の心理的なターゲットに向けたドル高円安が意識される。
米ISM製造業景気指数(3月)
4月1日23:00
☆☆☆
 前回2月の米ISM製造業景気指数は58.6。2020年11月以来の低水準となった1月の57.6から改善し、市場予想(58.0)を超えた。新規受注が61.7と、低調だった1月分(57.9)から回復して全体を支えた。雇用は52.9と、1月の54.5から鈍化している。2月分はロシアによるウクライナ侵攻前に調査されており、ウクライナ情勢の影響が懸念される。今回の市場予想は58.3と前回から小幅鈍化。ウクライナ情勢の影響が予想以上に強く出ると市場の警戒感を誘い、1ドル=120円台に向けたドル安円高も予想される。

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