2022年06月06日号

(2022年05月30日~2022年06月03日)

先週の為替相場

再び1ドル=130円台のドル高円安

 先週(5月30日-6月3日)はドル高円安が進み、週末にかけて1ドル=131円に迫った。

 米国では利上げ観測の強まりを背景に長期国債利回りが上昇し、ドル買い円売りを呼んだ。利上げに積極的な「タカ派」として知られるウォラー米連邦準備制度理事会(FRB)理事が、9月以降も0.5%利上げを続ける可能性に言及。その後、利上げに慎重な「ハト派」の代表格であるブレイナードFRB副議長が9月の金利据え置きに否定的な発言をした。6、7月はパウエルFRB議長が0.5%利上げに言及していたため、9月以降の利上げ継続がFRBのコンセンサスであることが印象付けられ、ドル買いにつながった。1日発表された米ISM製造業景気指数、3日発表された米雇用統計=いずれも5月=が景気拡大を示す内容だったこともドルを押し上げた。

 週明け5月30日は1ドル=126円台でスタート。祝日(メモリアルデー)で米国が休場となる中、欧州株高を好感したユーロ買い円売りから、週初からドルは対円で堅調だった。その後、ウォラーFRB理事が「インフレが著しく低下するまで、毎回の会合で0.5%の利上げを提唱する」と発言するとドル買いの勢いが強まり、1ドル=128円台を付けた。5月25日に公表された連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(5月3日、4日開催分)で、大方の委員の見方として、6、7月の利上げを受けて年内に金融引き締めの効果を検証する好位置につけることができるとの見通しが示されると、9月以降は利上げの一時休止観測が市場に広がっていただけに、サプライズとなる形でドル買いが強まった。

 1日発表の米ISM製造業景気指数(5月)は、物価高などの影響で4月から鈍化するという市場見通しに反して上昇。先行きを見るにあたって重要視される新規受注が3カ月ぶりの高水準となるなど今後への期待が広がる結果となり、ドル買いの流れを支えた。

 利上げに慎重なブレイナードFRB副議長が「9月の利上げ休止は非常に想定しにくい」と発言したことなどもドル買いにつながり、ドル円は130円台にしっかり乗せる展開となった。

 注目された3日の米雇用統計(5月)は、非農業部門雇用者数が前月比+39万人と、市場予想の+32.6万人を上回る伸びを示した。4月の数字が上方修正されるなかでの力強い結果にドル買いが強まり、1ドル=131円近くまでドルが上昇した。

 ユーロドルはドイツ輸入物価指数が前年比+31.7%と市場予想より強く出たこともあり、週初はユーロ買いの動き。1ユーロ=1.0780台を付ける動きを見せた。しかし、ウォラーFRB理事発言を受けたドル買いなどに上値が抑えられ、1.0680ドル台にユーロが軟化した。

 その後いったんは1.07ドル台半ばまで値を戻したが、上値は重く、米ISM製造業景気指数の好結果を受けたドル買いや、欧州連合(EU)首脳がロシア産原油の一部禁輸で合意したことなどを材料にユーロ売りドル買いが強まり、1.06ドル台前半までユーロが売られた。

 もっとも、市場はECBの7月利上げ開始と、年末までの0.5%の追加利上げを見込んでおり、1.07ドル台後半へユーロが上昇した。

 その他通貨では、カナダ銀行(中央銀行)が1日、市場予想通り0.5%の利上げを決定。声明で「金利はさらに上昇する必要」と追加利上げを示唆したため、カナダ買いが広がった。一時1バレル=120ドルに迫ったNY原油の上昇が、石油生産量世界第4位(2020年英BP調査・用語説明1)であるカナダの経済にプラスとの見方もカナダ買いを誘った。先月のカナダの対ドルでの安値1ドル=1.30カナダ台後半から、先週末の1.2550カナダ台までドル安カナダ高が進んだ。

今週の見通し

 ドル高基調継続へ、10日の米消費者物価指数に注目集まる。

 6月3日に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を超える伸びとなるなど強い結果だった。市場は9月以降もFRBによる0.5%の大幅利上げが続くという見方を強めており、ドル高の流れが予想される。

 先週のウォラーFRB理事発言もあり、9月FOMCでの0.5%利上げ観測が強く、ドル高基調が継続しそうだ。金利先物市場からみた利上げの織り込み度合いを示すCME FedWatchによると、5月30日は9月利上げが0.25%ポイントとの見通しが6割超える多数派だったが、ウォーラー氏発言を受けて、6月6日は7割強が0.5%以上の利上げを見込んでいる。

 ドルの目先の上値目標は5月9日に付けたドルの直近高値1ドル=131円35銭。もっとも、131円接近に伴い売り注文も出ており、上値追いにはやや慎重な姿勢もうかがえる。5月9日のドル高値更新後はいったん126円台前半まで値幅調整的なドル安が進んでおり、ドル上昇に一服感が強まると大幅なドル高調整に転じる可能性もありそうだ。

 今後の流れを左右するカギとなるのが10日発表の5月の米消費者物価指数(CPI)(用語説明2)。3月分が1981年12月以来の前年比+8.5%を記録し、4月分は+8.3%と伸びが減速した。減速は昨年8月以来だったが、市場予想の+8.1%までは減速しなかったため、インフレのピークアウト期待が後退した。

 4月分が前月比で減速した要因のひとつが、エネルギー価格低下だった。ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中で、5月に入ってエネルギー価格が再び上昇しており、今回の市場予想は前回と同水準の前年比+8.3%となっている。

 米物価のピークアウト期待が後退し、高水準での物価高傾向が続くという見通しが広がると、9月以降の大幅利上げ観測が一段と強まり、ドルは5月に付けた対円での直近高値を超え、2002年1月に付けた1ドル=135円10銭台を目指す可能性もある。

用語の解説

石油生産量 英国の石油メジャーBPが毎年公表しているリポート(Statistical Review of World Energy)によると、2020年のカナダの石油生産量は日量513.5万バレルと、米国、サウジアラビア、ロシアに次いで世界第4位。生産量が日量1647.6万バレルで世界1位の米国は消費量が生産量を上回っており、純輸入(輸入>輸出)となっていることから、カナダが主要7カ国(G7)唯一の石油純輸出(輸出>輸入)国となっている。
米消費者物価指数 米消費者物価指数(CPI : Consumer Price Index)とは、米労働省労働統計局(BLS)が、都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を調査して指数化したもの。変動が激しい食品とエネルギー価格を除いたコア部分の指数も同時に発表される。米国のインフレ目標の対象は個人消費支出(PCE)デフレータであり、日本を含め多くの国がインフレ目標の対象とするCPIではない。しかし、発表時期がPCEデフレータに比べて約2週間早く、水準は違うものの、変化の傾向が似ているため、市場の注目度は物価関連指標の中で最も高い。

今週の注目指標

豪準備銀行(中央銀行)政策金利
6月7日13:30
☆☆☆
 5月3日の金融政策委員会で市場予想を超える0.25%ポイントの利上げを決定し、ロウ総裁は記者会見で追加利上げが必要になるとの見通しを示した。四半期報告でも追加利上げが必要になるという見通しを示し、その後発表された金融政策委員会議事要旨では、0.4%利上げを検討していたことも判明した。利上げ幅については見方が分かれ、前回を超える0.4%で0.75%とするという見通しが大勢だが、0.25%利上げで0.6%とするというも根強く、0.5%利上げで0.85%とするとの見方もある。大方の予想通りの0.4%か予想を超える0.5%利上げなら1豪ドル=95円を目指して豪ドルが買われるだろう。0.25%利上げにとどまれば、豪ドル売りが予想される。
ECB理事会
6月9日20:45
☆☆☆
 欧州中央銀行(ECB)理事会が9日に開催される。資産購入プログラム(APP)の継続中だけに、政策金利は据え置きが見込まれる。市場は今回の理事会でAPPの終了を発表し、7月の利上げ開始に向けた準備を進むとみている。ユーロ圏の消費者物価指数(5月)は前年比+8.1%へ上昇し、早期の利上げ開始で市場予想は一致している。7月と9月の各0.25%の利上げが市場コンセンサスに近いが、それ以上の利上げも予想されている。声明文やラガルド総裁の記者会見を受けて大幅利上げ観測が強まれば、中期的に1ユーロ=1.10ドルに向けてユーロ買いが強まるだろう。
米消費者物価指数(CPI、5月)
6月10日21:30
☆☆☆
 前回4月分の米CPIは前年比+8.3%、変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアCPIは+6.2%だった。3月の各+8.5%、+6.5%からは伸びが減速したが、市場予想の+8.1%、+6.0%を上回り、物価のピークアウト観測は急速に後退した。
 前回はガソリン価格上昇の減速が目立ち、3月の前年比+48.0%から+43.6%に伸びが鈍化した。高水準だったが、3月分より大幅に減速した分、CPI全体の伸びを抑えた。EIA(米エネルギー庁エネルギー情報局)集計の全米全種平均でのガソリン価格が3月の1ガロン=4.222ドルから4月は4.109ドルまで約2.7%下がった影響が出たとみられる。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化もあり、5月は米国のガソリン価格が再び上昇した。EIA調査では、全米全種平均で5月のガソリン価格は4.444ドルと4月比8.15%高と大幅に上昇し、CPI全体を押し上げげそうだ。エネルギー関連を除く項目は、ある程度の鈍化が予想されるが、ガソリン価格高騰は物流コストを通じて多くの商品価格に影響するため、CPIは高水準で推移するだろう。市場予想は前回と同じ+8.3%。市場予想以上の上昇が確認されるとドル買いにつながり、1ドル=132円台を試す展開となりそうだ。

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