2022年07月04日号

(2022年06月27日~2022年07月01日)

先週の為替相場

ドルは対円で一時上昇後、下落

 先週(6月27日-7月1日)前半に円安が進んだ後、後半は株安とともに円高となった。

 多くの国・地域の中央銀行が物価高を受けて金融引き締め姿勢を強める中、緩和姿勢を維持する日銀との対比を意識した外貨買い円売りが週前半は目立った。特に日米金利差拡大を意識したドル買い円売りが優勢となり、6月29日には1998年9月以来となる1ドル=137円台を付けた。同日日本時間午後1時半に発表されたドイツ西部ノルトライン・ヴェストファーレン州(用語説明1)の消費者物価指数が市場予想を下回り、ユーロ売りドル買いが強まったことも、ドル全面高の流れに乗ったドル高円安の進行を後押しした。

 29日は欧州中央銀行(ECB)年次フォーラムで、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長、ラガルドECB総裁、ベイリー英イングランド銀行(中央銀行)総裁らが参加するパネルディスカッションが開かれた。この席でパウエル議長が「米経済は金融引き締めに十分対応できる状況にある」と発言すると、大幅利上げ観測を強まり、いったんドルが買われた。ベイリー英イングランド銀行総裁は「インフレが持続すれば、より強力に行動する」と積極的な利上げ姿勢を示す一方、英経済の減速リスクに言及するなど、各中央銀行総裁は金融引き締めとその副作用の双方を意識する姿勢を示した。中でもハウエル議長発言が景気に対して最も楽観的な印象を与えたとみられ、パネルディスカッション後はドル買いとユーロ売りポンド売りの動きが優勢となっていた。

 ドルは対円で高値を付けた後、調整に転じた。30日発表された米PCEデフレータが市場予想を下回ると物価上昇懸念が後退し、長期金利の指標となる米10年物国債の利回りが節目の3%を一時下回ったことがドル売りにつながった。半期末を前にした持ち高調整などから米国株が売られ、リスク警戒の円買いが強まった面もある。

 6月に入ってNY連銀をはじめとする各地区連銀調査による製造業景況感指数が軒並み市場予想を下回り、コンファレンスボード消費者信頼感指数など消費者の景況感調査も弱く出ているため、米国の景気後退懸念からドル売り円買いが強まった面もある。

 7月1日発表された6月の米ISM製造業景気指数が弱めに出るとの見方が広がり、発表1週間前の市場予想55.3は直前に54.5まで低下。結果は53.0と市場予想をさらに下回り、約2年ぶりの低水準だった。同指数のうち、今後の動向を予想する手掛かりとされる新規受注が49.2と、好悪判断の境となる50.0を下回ったことも警戒感につながった。発表前からドル売りを誘っていた同指標が下振れしたことでドル売りがさらに強まり、1ドル=134円75銭前後までドル安円高が進んだ。

 先週初めは一時1ユーロ=1.06ドル台までユーロが上昇した。その後はユーロ安ドル高に転じ、先週末は1.0370ドル前後までユーロが下落した。上述の独ノルトライン・ヴェストファーレン州の消費者物価指数が弱く出た後、同日欧州時間午後に発表されたドイツ全体の消費者物価指数も市場予想や前月発表値を下回る弱めの数字となりユーロ売りを誘った。30日に発表されたドイツ雇用統計で、失業率が5.3%と前回の5.0%から市場予想を下回って大きく悪化したこともユーロ売りを誘った。

 一方、ドル高円安もあって28日に1ユーロ=144円台までユーロが上昇したが、週後半のドル安円高と対ドルでのユーロ売りなどに139円台後半までユーロが大幅に下落している。

今週の見通し

 米国の積極的な金融引き締め姿勢を受けたドル買い円売りと、米国の景気後退懸念を受けたドル売り円買いが交錯する展開が予想される。6月10日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比8.6%と、市場の減速予想を覆して3、4月水準を超える伸び率だったことで、米国の積極的な利上げ観測が優勢な状況が続いていた。しかし、30日に発表された5月の米PCEデフレータが市場予想を下回り、4月分と同水準で3月分を下回る水準にとどまったことで警戒感がやや後退。米国債利回りの低下を伴いながら、ドル売りが強まった。

 パウエルFRB議長が景気鈍化リスクを意識しながらインフレ対応を進める意向を強く示していることも米国の景気後退懸念につながっており、リスク警戒感が強まるだろう。

 8日に発表される6月の米雇用統計次第では、景気後退懸念がさらに強まり、ドルの上値を抑えてくる可能性がある。前回5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が+39.0万人と市場予想の+32.6万人を超えた。4月分の上方修正後の結果だけに、米国の雇用市場の堅調さが改めて意識された。

 内訳をみると、レジャー&ホスピタリティ部門(カジノ・劇場などのアミューズメント部門、ホテルなどの宿泊部門、レストラン・バーなどの飲食部門からなる部門)が前月比+8.4万人と力強い伸びを示した。接客を中心とする同部門は2020年春のパンデミック時に約820万人の雇用を失った。コロナ過一服後は順調な回復を示しており、前回も雇用全体の伸びを支えた。多くの雇用が回復したものの、パンデミック前より134.5万人少なく、6月分も雇用増加が予想される。

 今回の市場予想は非農業部門雇用者数が27.3万人増、失業率が3.6%。前回時点での雇用者数は1億5168万人と、パンデミック前の雇用者数と比べて82万人少ないところまで雇用が戻っている。雇用者数の増加幅自体は抑えられているが、水準的にはしっかりとした伸びという印象。予想前後の数字が出てくると、米国の景気後退懸念を和らげる可能性がある。

 ただ、すでにパンデミック前の雇用者数水準を超えている小売部門で前回雇用者が減少していたことや、サプライチェーン問題での生産抑制が続く自動車・同部品部門でも雇用が減少していたことなど警戒感につながる材料もあった。市場予想に届かない雇用増にとどまった場合、リセッション懸念が広がる形でドル売り円買いが強まり、1ドル=133円台へドルが下落す場面が十分にありそうだ。

用語の解説

ノルトライン・ヴェストファーレン州 ドイツ西部の州で、州都はデュッセルドルフ。ドイツに16ある連邦州で最も人口が多い。州西部のルール川下流域に欧州を代表する工業地帯ルール地方がある。州都以外での代表的な都市にはドルトムント、ケルン、エッセンや旧首都であるボンなどがある。
PCEデフレータ 米商務省が発表する個人消費の物価動向を表す指標。米国のインフレ目標の対象指標となっている。同様の指標に米労働省が発表する消費者物価指数(CPI)がある。CPIの方が2週間ほど早く発表されるため、市場ではCPIを重視する傾向がある。発表対象、データソース、新商品や項目ごとの価格変化による消費行動の変化である代替消費の織り込みなどに違いがある。

今週の注目指標

豪中銀政策金利
7月5日13:30
☆☆☆
 豪準備銀行(中央銀行)は5月に11年半ぶりの利上げに踏み切った後、前回6月7日の定例理事会で約22年4カ月ぶりとなる0.50%の大幅利上げを実施した。市場は0.25%または0.40%の利上げを見込み、0.50%の利上げ見通しはごく少数だっただけに、サプライズとなった。豪州では第1四半期の消費者物価指数が前年比+5.1%、刈り込み平均で+3.7%とインフレ目標である2-3%のレンジを大きく超えている。今月27日に発表される第2四半期の消費者物価指数も高い伸びが予想されており、今回も大幅利上げ観測が強い。ただ、こうした異例の引き締め姿勢が今後の景気鈍化への警戒感も生んでいる。声明などで今後の利上げペース鈍化につながる表現があると豪ドル売りが強まり、1豪ドル=90円を割り込む豪ドル安円高も予想される。
米FOMC議事要旨
7月7日03:00
☆☆☆
 米FRBは6日(日本時間7日午前3時)に6月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を公表する。1994年以来となる0.75%の利上げに踏み切った同FOMCでどのような話し合いが行われたのかが注目される。パウエル議長はFOMC後の記者会見で、7月のFOMCで0.5%か0.75%の利上げが行われる可能性が高いとの見通しを示した。FOMCメンバーによる今後の見通しも注目される。市場は今月のFOMCでの0.75%ポイント利上げを織り込みつつあるが、ここにきて広がる米景気後退への懸念から、大幅利上げ観測はやや後退している。FOMCメンバーに慎重な姿勢が見られると、0.5%ポイントの利上げ観測が強まり、ドル売りが広がる可能性が高い。ユーロドルは1ユーロ=1.05台に向けた展開が予想される。
米雇用統計(6月)
7月8日21:30
☆☆☆
 上述の非農業部門雇用者数、失業率だけでなく、平均時給も注目される。市場予想は前年同月比+5.0%と、前回の+5.2%から鈍化する見込み。消費者物価指数が+8.6%、低めに出るPCEデフレータでも+6.3%と、物価上昇に賃金の伸びが届いていない状況での前回比鈍化は、今後の家計行動への警戒感につながる。米GDPの約7割を占める個人消費の先行き不透明感は米国の景気後退懸念を強め、ドル売り円買いが加速するだろう。非農業部門雇用者数の数字にもよるが、非農業部門雇用者数が弱く、平均時給も弱めに出た場合、1ドル=132円台の大幅なドル安につながる可能性がある。

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