2022年07月11日号

(2022年07月04日~2022年07月08日)

先週の為替相場

対ユーロ中心にドル高優勢

 先週(7月4日-8日)はドル買いが優勢だった。特にユーロ売りドル買いが優勢で、一時1ユーロ=1.0ドル台後半までユーロ安ドル高が進行。節目の1ユーロ=1ドルが意識されている。

 先々週のドイツ物価統計が弱めに出たことで、欧州中央銀行(ECB)の大幅利上げ観測が後退。景気後退が強く懸念される中でも積極的な利上げ継続が予想される米国との金利差拡大見通しがユーロ売りドル買いを招いた。

 ECBは7月21に定例理事会を開く。11年ぶりの政策金利引き上げが確実視されているが、上げ幅は0.25%の見込み。9月8日の定例理事会でも追加利上げの可能性が高く、データ次第では0.5%の大幅利上げの可能性も示唆されている。ただ、0.75%の利上げを実施している米国との金利差は拡大が予想され、ユーロ売りドル買いにつながっている。

 欧州の景気後退懸念もユーロの売り材料。物価高の影響もあって世界的に景気減速が懸念されているが、エネルギー価格高騰の打撃が大きい欧州経済の先行きに対して市場は警戒感を強めている。加盟各国間で国債利回り格差が広がる「域内市場の分断化(用語説明1)」へのECBの対策について、ドイツ連邦銀行(中央銀行)のナーゲル総裁(用語説明2)が「異例の金融政策手段を正当化できるのは例外的な状況だけだ」と注文を付けており、ECB内部の対立も市場の警戒感を増幅している。

 一方、ポンドは買い戻された。先週半ばの1ポンド=1.1870ドル台から先週後半に1.2050を超えるポンド高ドル安に振れる場面があった。ジョンソン英首相が辞意を表明し、政治的混乱がようやく収束するとの見方がポンド買いにつながったようだ。

 豪準備銀行(中央銀行)は5日の理事会で市場の大方の予想通り0.5%の利上げを決定。ごく一部で0.75%の利上げが予想されたことや、物価が年内でピークアウトし、来年は政策目標値である2-3%に向けて落ち着いていくとの見通しが示されたことで、発表直後は豪ドルが売られた。理事会前に1豪ドル=0.69ドル手前まで豪ドルが上昇し、発表後は0.6760ドル台まで下落した。もっとも週後半にかけて豪ドル買いが優勢となり、0.6870ドル台まで買い戻された。

 ドルの対円レートはドル高基調を受けて基本的にしっかり。米国の景気後退懸念などから先週初めに1ドル=134円80銭を割ったが、その後は136円台前半までドルが上昇。連休明け5日の米国市場で景気後退懸念から米株安、米債券利回り低下などが進んだ。その後135円を再び割り込む場面もあったが、週後半にかけて再びドル買い円売りが優勢となった。

 週末8日に安倍晋三元首相が銃撃されて死去する事件を受けて、136円台から135円台前半まで一時円買いが入ったが、6月の米雇用統計の好結果もあり、1ドル=136円台を回復して先週の取引を終えた。

今週の見通し

 8日発表された6月の米雇用統計が好結果だったため、米連邦準備制度理事会(FRB)は積極的な金融引き締め姿勢を続けるとの見方が強まっている。景気後退が懸念される中で、ドル高円高となる可能性があり、ドルが対円でどこまで上値を伸ばすは微妙だ。ただ、ドルは下がると買いが入りとみられ、流れはドル高方向か。

 ユーロ売りドル買いの流れもドル全面高基調につながっている。ユーロドルは節目の1ユーロ=1ドルを付けに行く展開が予想されている。ウクライナ問題の長期化によるエネルギー価格の高騰で、欧州経済がかなり厳しいとの見方が広がっており、ユーロは値を戻すとすかさず売りが出る流れ。1ユーロ=1ドル手前ではオプション取引などに絡んだユーロ買いの注文が入っているという見方もあるが、ユーロが上値の重い状態を続けると買い注文を消化してユーロの下値を試す展開となりそうだ。

 1ユーロ=1ドルを割り込んでドル全面高の流れが強まると、1ドル=140円に向けた動きが強まるだろう。ユーロ売り円買いが強まる可能性もある。

 6月後半の1ユーロ=144円台から先週は136円台までユーロ安に振れた。リスク回避のドル買い円買いが強まると、対ドルでのユーロ安とドル安円高の両面からユーロの対円レートは大幅安になりやすい。ただ、大幅にドル高円安が進む局面ではユーロも対円で買い戻されるなど不安定な動きが続いている。

 ドル高円安方向の動きが意識されるが、ドル以外の他通貨に対して円買いが優勢となる分、ドルの対円レートは上昇の勢いに欠けそうだ。

用語の解説

域内市場の分断化 域内市場の分断化(market fragmentation)とは、多くの国が集まった統一通貨であるユーロの抱える論点の一つ。加盟国ごとに金融市場の状況が異なる中で、ECBの金融政策は統一されたものが基本となるため、危機の際に経済がぜい弱な南欧など一部の国の国債利回りが跳ね上がるなどの事態が生じやすくなる。ギリシャ危機の際にも問題視された。域内金利格差が行き過ぎだとECBが判断すれば、分断化とみなされ、利回りの上昇が目立つ国の国債を、買い入れに際して重点的に購入するなどの対応が実施される。
ナーゲル総裁 ヨアヒム・ナーゲル(Joachim Nagel)ドイツ連邦銀行(中央銀行)総裁。タカ派で知られたワイトマン前総裁の後任として今年1月、総裁に就任した。ドイツ連銀出身で、ドイツ政府系金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)を経て、2020年11月より国際決済銀行(BIS)で銀行業務部門副責任者を務めていた。独メディアによると、昨年の総選挙で政権を握ったドイツ社会民主党(SPD)の党員。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI・6月)
7月13日21:30
☆☆☆
 前回の米消費者物価指数の上昇率は前年同月比8.6%と、市場予想や4月分の8.3%を上回り、直近のピークだった3月の8.5%も超えて、1981年12月以来の高い伸びとなった。ウクライナ情勢などを受けたエネルギー価格の上昇が予想外の物価高騰を招いた。内訳はガソリン価格が48.7%の高い伸び。サプライチェーン問題で価格が急上昇する自動車も、中古車が16.1%、新車が12.6%とそれぞれ高い伸び。食品価格は10.1%、中でも家庭用食品は11.9%の高い伸びだった。車社会である米国で、自動車価格とガソリン価格の高騰は家計を直撃する。食品価格の上昇と合わせて家計の苦境が印象付けられ、米FRBの大幅利上げ観測につながった。今回の予想は前年同月比+8.8%と上昇率がさらに高まる見込み。ガソリン価格上昇が止まらず、全米ガソリン小売価格は5月の1ガロン=4.444ドルから6月は4.929ドルへ11%近く上昇し、物価全体を押上げている。物価高の長期化が米FRBの大幅利上げ継続観測につながり、1ドル=138円台のドル高円安も予想される。
カナダ中銀政策金利
7月13日23:00
☆☆☆
 カナダ銀行(中央銀行)は前回6月1日の会合で、政策金利を0.5%引き上げた。利上げは3会合連続、0.5%の大幅利上げは2会合連続となった。6月22日発表された5月のカナダ消費者物価指数は前年同月比+7.7%と、1983年1月以来の大幅な伸びだった。米国同様にガソリン価格高騰が背景にあるほか、食料品、住居費の上昇も目立ち、カナダの市民生活に大きな影響が出ている。カナダ中銀はこうした状況を受けて今回は0.75%の利上げに踏み切ると見られている。ただ、先週8日に発表された5月のカナダ雇用統計では、雇用者数が予想外の減少となるなどカナダ経済の状況がそれほど強いものではなく、市場では今回も0.5%の利上げにとどまるとの見方がそれなりの割合で残っている。予想が分かれているだけに、結果次第でカナダの値動きが大きくなりそうだ。大勢の見通し通り0.75%利上げなら1ドル=1.28カナダ割れのカナダ高が視野に入るだろう。
米小売売上高(6月)
7月15日21:30
☆☆☆
 前回の米小売売上高は、市場予想の前月比+0.2%に対して結果は-0.3%だった。ガソリン価格高騰のあおりで自動車販売が低迷。同部門の売り上げが4月の+1.8%から-3.5%と減少に転じ、全体を押し下げた。自動車を除く小売売上高は+0.5%。市場予想の+0.7%には届かなかったが、プラス圏を維持した。今回は前回の反動もあって+0.9%と強めの数字が見込まれている。ガソリン価格が6月に入ってさらに上昇し、ガソリンスタンド売上高が全体を押し上げると見込まれている(車社会である米国でガソリンは生活必需品であり、ガソリン消費量への価格上昇の影響は限定的なため、価格上昇が売上高増加に直結しやすい)。ただ、他品目の消費が圧迫されるリスクは大きい。ここ数カ月、米国の消費者は貯蓄を取り崩し、クレジットカードの使用を増やしており、消費の拡大がいつまで続くか懸念されており、小売売上高の伸びが市場予想を下回る可能性もある。売上高増加率が市場予想を大きく下回ると、リスク警戒感から円買いが強まり、1ドル=135円台へドルが下落する可能性がある。

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