2022年07月19日号
先週の為替相場
ユーロ安進み、一時1ユーロ=1ドル割れ
先週(7月11-15日)は、1ドル=139円と24年ぶりのドル高円安となった。一方、ユーロ安が進み、節目の1ユーロ=1ドルを割り込む場面があった。
13日に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比+9.1%と市場予想の+8.8%を超える伸びとなった。この結果を受けて、7月26、27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、1.00%の大幅利上げが決まるとの見方が広がり、ドルが買われた。
短期金利先物の動向からみた利上げ可能性を示すCME FedWatchでは、米CPI発表まで7月FOMCでの0.75%利上げを9割以上織り込んでいた。しかし、CPI発表翌日には0.75%利上げの可能性は3割弱に低下する一方、1.00%の利上げが7割を上回った。その後1%利上げの割合は一時8割超えた。
こうした動きを受けて、1998年9月以来約24年ぶりの1ドル=139円台までドルが上昇した。
ユーロはCPI発表前に節目の1ユーロ=1ドルをいったん付けた。ロシアからドイツへ天然ガスを供給するパイプライン「ノルドストリーム1」(用語説明1)が、11日から定期点検に入り、供給が一時中断。21日からの再開予定がウクライナ情勢から先送りされるとの見方がユーロ売りを誘った。
1ユーロ=1ドルを付けた後もユーロの戻りは鈍く、米CPI発表直後にドルが買われると、1ユーロ=0.9998ドルを付けた。CME FedWatchでの1%利上げ観測の強まりから、0.9950ドル台までユーロ安ドル高が進んだ。
もっとも、FOMCメンバーのうち利上げに積極的な「タカ派」姿勢で知られるウォラー連邦準備制度理事会(FRB)理事(用語説明2)とブラードセントルイス連銀総裁が0.75%利上げを支持する姿勢を示したことから、1%利上げ観測はやや後退。15日に発表された7月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)の中で、5-10年後のインフレ期待値が6月の3.1%、市場予想の3.0%を下回る2.8%にとどまったことも、今後の大幅利上げ期待を後退させた。
先週末はドル高の調整から1ドル=138円台前半、1ユーロ=1.01ドル近くまで調整が入って取引を終えている。
その他通貨ではカナダ国立銀行(中央銀行)が13日、政策金利を1.5%から2.5%に引き上げた。市場予想は0.75%が大勢だった。8日発表された6月のカナダ雇用統計で、雇用者数が予想外の前月比マイナスだったため、0.5%利上げも予想されていたため、1.0%利上げは市場参加者にサプライズと受け止められた。利上げ決定後にカナダ買いが一時強まったが、NY原油が14日の時間外市場で一時1バレル=90ドル台へ急落するとカナダ売りが強まり、その後に原油が値を戻すと再びカナダが買われた。政策金利の変更以上に原油価格に振り回された。
今週の見通し
13日発表の米CPIの上振れから26、27日のFOMCでの大幅利上げ観測が強まっている。前回に続いての0.75%利上げがほぼ確実視されていたところから、一時は1.00%利上げ予想が大勢となった。ただ、FOMCメンバーから1.00%利上げに慎重な見方が示されると1.00%利上げ予想は後退し、足元では0.75%利上げ予想が大勢。
もっとも米CPI発表前のように0.75%利上げを完全に織り込む形とはなっていない。ただ、0.75%でも利上げ幅としては相当大きく、下がるとドル買いの流れが継続しそうだ。
今週予定されている日銀金融政策決定会合(20、21日)と欧州中央銀行(ECB)理事会(21日)の結果次第でドル買いが加速する可能性もある。日銀は金融緩和姿勢の維持が濃厚だが、海外勢を中心に一部の市場参加者の間で、日銀が円安けん制を目的に緩和姿勢を後退させるとの見方が根強く残っている。大方の予想通り緩和姿勢を維持し、必要であれば追加緩和に動くとの従来姿勢を強調してきた場合、どこまで円売りの反応が出てくるかが注目される。流れはドル高円安方向で、1ドル=140円台を試す可能性は十分にある。
エネルギー問題から、ECBは金融引き締めに慎重な姿勢を示す可能性が高いだろう。ノルドストリーム1再開予定日は21日だが、ロシア国営エネルギー企業ガスプロムは、欧州の買い手数社に対して不可抗力条項を宣言しており、供給制限が長引く可能性がある。欧州経済の停滞懸念が強まると、再び1ユーロ=1ドル割れのユーロ安ドル高を付けに行く可能性もある。
用語の解説
ノルドストリーム1 | バルト海の下を通り、ロシアからドイツへ天然ガスを供給する天然ガスパイプライン。ロシア北西部ヴィボルグからドイツ北東部グライフスヴァルト近郊を結ぶ。ロシア国営エネルギー企業ガスプロムが同パイプライン運営会社の大株主となっている。11日から点検のため供給が休止されている。予定通りの21日供給再開が危ぶまれている。 |
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ウォラーFRB理事 | クリストファー・J・ウォラー(Christoher J.Waller)。米ノートルダム大学教授を経て2009年よりセントルイス連銀の副総裁。2020年12月より現職。ブレイナードFRB副議長を筆頭に利上げに慎重なハト派姿勢が目立つ現理事たちの中で、利上げに積極的なタカ派姿勢で知られている。 |
今週の注目指標
英消費者物価指数(CPI・6月) 7月20日15:00 ☆☆☆ | 6月の英物価統計が発表される。消費者物価指数・小売物価指数・生産者物価指数が同時に発表される中、注目度を集めている指標がインフレ目標の対象である消費者物価指数の前年比。5月分は前年同月比+9.1%と現行統計開始以降で最高水準を更新。過去の推計値と比べても約40年ぶりの高水準となった。前回は食品・非アルコール飲料が+6.7%から+8.6%に急上昇したことが目立った。今回は+9.2%とさらに上昇する見込み。規制の関係で4月に跳ね上がった電気・ガスも高い水準を維持している。イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁が12日の講演で0.25%利上げ以外に検討している選択肢が存在することを理解してほしいと発言。0.5%の大幅利上げを示唆した。物価上昇の継続がそうした利上げ観測を支えると1ポンド=165円に向けたポンド高に動く可能性がある。 |
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日銀金融政策決定会合 7月20日21日 ☆☆☆ | 今回会合では金融政策の現状維持が見込まれている。歴史的な円安進行を受けて、海外勢の一部で長期金利の許容変動幅拡大などの緩和措置後退を示すのではとの期待が見られ、現状維持を決めた後の反動が注目される。また、同時に発表される経済・物価見通しの展望(日銀展望リポート)では、2022年の物価見通し上方修正、経済成長見通し下方修正が見込まれている。ある程度の修正は織り込み済みだが、物価見通しが予想以上に高水準だった場合や、2023年も物価見通しが引き上げられ、物価上昇について従来の一時的との表現が後退した場合には緩和後退姿勢からの円買いが入り、1ドル=137円台前半に向けた動きも予想される。 |
ECB理事会 7月21日21:15 ☆☆☆ | ECBは21日の理事会で11年ぶりの利上げに踏み切るとみられる。ユーロ圏の消費者物価指数の伸び率が8%を超えてきており、物価高への対応でECBも積極的な対応を示す必要が出ている。一部では0.5%の利上げ観測もあるが、エネルギー問題などを受けて景気停滞が強く懸念されているため、大幅利上げ観測は抑えられている。大方の予想通り0.25%利上げを実施した時に、市場の予想以上に0.5%を想定する動きが強まっていた場合は1ユーロ=1ドルを明確に割り込んでユーロ安が進む可能性がある「。また、前回会合で第1段階の対応が示された域内市場の分断化(フラグメンテーション)抑制のための協議もより踏み込んでくるとみられる。前回の会合でパンデミック金融購入プログラム(PEPP)の満期償還金について、柔軟な対応を行うことを発表した。償還金は月平均で約170億ユーロあり、そのうち120億ユーロがドイツ、フランス、オランダなど財政が比較的健全な国の債券となっている。この一部をイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャなどの債券購入に回し利回り格差を抑える方針。今回はユーロ加盟国の国債利回りがファンダメンタルズで正当化できない範囲で上昇した場合に、当該国債の買い入れを無制限で行う「トランスミッション・プロテクション・メカニズム」を決定するとみられる。分断化抑制への積極的な姿勢はユーロ買いの材料となる。 |
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