2022年07月25日号
先週の為替相場
米指標弱くドル売り進む
先週(7月18-21日)は、週末にかけて一時1ドル=135円50銭台を付けるなど、ドル売りが優勢な展開となった。今月26、27日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)について、米消費者物価指数(CPI)の予想を超える強さから一時1.00%の利上げを行うとの期待が広がっていた。しかし、その後複数の米FOMCメンバーによる0.75%利上げを支持する発言などを受けて、1.00%利上げの期待が後退。ドル売りを誘う形となった。また、20日に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会で0.5%利上げを行うとの期待が先週初めから盛り上がりを見せ、ユーロ買いドル売りを誘った面もある。さらに先週末の米指標の弱さなどもドル売りにつながっている。
13日の米消費者物価指数(CPI)の好結果などを受けて、先々週後半に1ドル=139円40銭付近と24年ぶりのドル高円安を付けた。物価高を受けて今月のFOMCで1.00%利上げが行われるとの見方が強まり、ドル買いにつながった。その後の調整局面が先週初めも続き、137円台半ば割れまで円高ドル安が進んだ。先々週後半に1ユーロ=0.9950ドル台までユーロ安ドル高が進んだ後、1.02ドル台後半までユーロ高ドル安に振れるなど、週前半はドル全面安基調となった。
ユーロに関しては、ユーロ圏消費者物価指数が現行方式での統計開始以来の最高水準を更新する前年比8.6%を付けるなど物価高が進む中、21日のECB理事会での11年ぶりの利上げが0.50%幅で実施されるとの観測が広がったこともユーロ買いドル売りにつながった。
週半ばにかけてはいったんドル安の調整が入った。ロシア産天然ガスの欧州向け供給への不安がユーロ売りドル買いを誘ったほか、日銀が21日の金融政策決定会合で緩和姿勢維持を強調するとの思惑もドル買い円売りにつながった。
21日の日銀金融政策決定会合の結果発表後、ドル円は不安定な動きを見せた。日銀金融政策決定会合では市場予想通り緩和政策の維持を決定。日銀経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、2022年度の物価見通しを前回の+1.9%から+2.3%に引き上げた。引き上げ幅が大きかったことで、海外勢を中心に今後の緩和姿勢後退への思惑が高まり、いったんは円買いが優勢となり、1ドル=138円00銭に迫った。しかし、その後の黒田東彦日銀総裁が記者会見で、「金利を引き上げるつもりは全くない」「今の円安はドルの独歩高、ユーロやポンドも下落」などと発言するとドルは対円で反発し、138円80銭台を付けた。
同日のECB理事会は0.5%の利上げを決めた。発表前にイタリアのドラギ首相(用語説明1)の辞任が正式に発表されたことを受けたユーロ売りなどに1ユーロ=1.0160ドル台を付けていたが、0.5%利上げ発表後に1.0280ドル近辺までユーロが上昇。ただ、1.03ドル手前の売りに上値を押さえられた後は一転して1.01ドル台半ばに下落するなどユーロの上値は重かった。
ECBが0.5%利上げと同時に打ち出した分断化阻止の施策であるトランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI) (用語説明2)の効果に懐疑的な見方が出ていることもユーロ売りにつながった。
22日にもユーロは対ドルで不安定な動きを見せた。ユーロ圏とユーロ加盟主要国の購買担当者景気指数(PMI)が軒並み弱く、ユーロ売りが強まった。1ユーロ=1.02ドル台から1.01ドル台前半までユーロが軟化した。しかし、その後発表された米サービス業PMIが予想を大きく下回り、好悪判断の境となる50も割り込む47.0というインパクトのある弱さとなったことでドル売りが一気に進み、1.02ドル台半ば超えまでユーロが反発した。
対円でも米サービス業PMIの弱さがドル売りを誘い、一時135円50銭台まで下落。その後少し買い戻しが入るも136円台前半までと、ドル売り円買い基調が継続した。
今週の見通し
26、27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)次第の面がある。前回に続いて0.75%の利上げ見通しが大勢となっている。13日発表の米CPIの上振れから一時1.00%の利上げを予想する動きが強まったが、その後は落ち着いた。米短期金利先物市場から見た利上げ確率を示すCME FedWatchでは、78.7%が0.75%の利上げ、21.3%が1.00%の利上げとなっている。FOMCメンバーの中でタカ派の代表格的なブラード・セントルイス連銀総裁とウォラーFRB理事がともに0.75%利上げの支持を表明。先週末の米サービス業PMIが47.0と、好悪判断の境となる50を大きく下回る弱い結果を示すなど、今後の米景気への警戒感も広がる中で、2割強も1.00%の利上げ見通しが残っている状況をどう見るか。
物価高への警戒感が相当強い中、FOMC声明文やパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見で次回以降の大幅利上げについて積極的な姿勢が見られないようだと、警戒感が強まる可能性もある。市場では9月の利上げについて0.5%に利上げ幅が縮小されるとの見通しが広がっており、声明などでこうした対応が示唆されるとドル売りが強まりそうだ。
ドルの対円レートは流れ的にはやや上値が重いという印象。先週、139円台まで上値を伸ばす場面があったことで、ドルは上方向のトライに一服感も出てきた。ユーロドルも心理的な節目とされた1ユーロ=1ドルをいったんしっかり割り込んだことで、短期的な到達感が出ており、ユーロ買いドル売りが出やすい地合い。ただ、米FOMC次第では流れが大きく変わる可能性があるだけに、FOMCの結果や声明文やFRB議長会見の内容などを確認して方向性を探りたいところ。
用語の解説
ドラギ首相 | マリオ・ドラギ(Mario Draghi)イタリア首相。2005年から2011年までイタリア銀行(中央銀行)総裁。このうち2009年から2011年までは2009年に発足した金融安定理事会(FSB)の初代議長。2011年から2019年までECB総裁。2021年にコンテ首相(当時)の辞任を受けてマッタレッラ大統領が新政権の樹立を同氏に要請。同盟、五つ星運動、民主党などの支持を受けて首相に就任した。 |
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トランスミッション・プロテクション・インスツルメント(TPI) | ECBが新たに打ち出した分断化阻止ツール。主目的はECBの金融政策方針がすべての加盟国に円滑に伝わることしており、資金調達環境が悪化した加盟国の債券を購入する制度となっている。購入に制限はなく、対象は残存期間が1-10年の公的部門の証券がメインとなっているが、民間の証券の購入も検討が可能となっている。政治的混乱もあって利回りが上昇しているイタリア債とドイツ債の金利差(スプレッド)がどの程度まで広がれば発動されるのかが注目されている。 |
今週の注目指標
米連邦公開市場委員会(FOMC) 7月28日03:00 ☆☆☆ | 26、27日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、日本時間28日午前3時に結果が公表される。米CPIの予想を超える伸びを受けて短期金利先物市場で一時8割を超えていた1.00%の利上げ見通しは20%強まで低下しており、0.75%利上げ見通しが大勢となっている。1%の利上げが実施されるとかなりのサプライズとなり、短期的にはドル高の動きが強まると見込まれる。ただ、米株の大幅安が同時に進むと見られ、直近高値である139円40銭付近を超えて140円を試すだけの動きになるのかは微妙なところか。大方の予想通り0.75%の利上げの場合は、声明や議長会見の内容次第。前回会合後の記者会見でパウエル議長は0.75%刻みが一般的になるとは思わないと発言しており、今後は利上げ幅を縮めてくる可能性がある。ただ、利上げ幅縮小を示唆した場合、物価高警戒の強い市場が神経質な反応を示す可能性があり、積極的な物価への対応を強調してくる可能性がある。この場合、ドル買いの動きが優勢となり、1ドル=138円台回復も予想される。 |
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米第2四半期GDP速報値 7月28日21:30 ☆☆☆ | 前回は在庫調整などもあり-1.6%とマイナス成長を示した同指標。今回は前期比年率+0.3%とプラス圏回復が見込まれている。もっともアトランタ連銀による米四半期GDPの見通し「GDP Now」は-1.6%を見込んでいる。2期連続のマイナス成長、いわゆるテクニカルリセッション入りも想定され、テクニカルリセッション入りした場合は1ドル=135円割れのドル安円高も視野に入ってくる。 |
米PCEデフレータ 7月29日21:30 ☆☆☆ | 13日に発表された6月の米消費者物価指数(CPI)が高い伸びを示した後を受けて、6月のPCEデフレータにも注目が集まる。市場予想は前年比+6.7%と前回の+6.3%から伸びが強まる見込み。コアPCE前年比の市場予想は+4.7%と5月と同水準の伸びが見込まれている。インフレ目標の対象である同指標がCPIと同様に予想を超える伸びを示すと、物価高への警戒感が強まり、1ユーロ=1.01ドル割れを試すドル高となる可能性がある。 |
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