2022年08月01日号

(2022年07月25日~2022年07月29日)

先週の為替相場

米第2四半期GDPの弱さがドル売り誘う

 先週(7月25-29日)は後半にかけてドル売り円買いが進み、一時1ドル=132円51銭を付けた。日銀金融政策決定会合(7月21日結果発表)後の円売りなどに138円台後半を付けた後、一転して売りが強まり、22日に発表された7月の米サービス業購買担当者景気指数(PMI)速報値の弱い結果を受けてドル売り円買いが加速。一時135円台50銭までドルが下落し、136円台前半で先々週の取引を終えた。同水準で先週の取引がスタートし、先週半ばまで急速なドル安調整に向かった。

 26日に開催された欧州連合(EU)緊急会合で加盟国の冬季ガス使用削減で合意したことがエネルギー問題の深刻化を改めて印象付けたことや、スイス系金融機関が来年のユーロ圏成長率見通しをマイナスに引き下げたことなどを受けて、ユーロ売りドル買いが強まったことも、ドル全般の買い戻しを誘った。対円では137円40銭台を付けた。

 その後は一転してドル売り円買いの流れ。26、27日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、大方の予想通り政策金利を0.75%引き上げた。FOMCの結果公表直前、短期金利先物が織り込む利上げ割合は、0.75%上げが約75%と大半だったが、1%利上げも約25%と一定の割合を占めていたため、発表後にドルが売られた。採決は全会一致で0.75%利上げを決め、1.00%支持者がいなかったことも、ドル売りにつながった。

 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長はFOMC後に記者会見し、「FOMCはインフレ抑制に強くコミット」「インフレを2%目標まで引き下げることが不可欠」と発言し、いったんは1ドル=137円40銭台までドルが買い戻された。しかし、「ある時点から利上げを抑制することが適切」と、今後の利上げ幅縮小に言及すると136円30銭台までドルが急落した。

 その後もドル売り円買いの流れが継続し、翌28日の東京市場で135円10銭台までドル安が進行。さらにNY時間28日朝発表された米第2四半期GDP速報値が、市場予想の+0.5%に対して-0.9%と予想外のマイナス成長となったことでドルの下落が加速。第1四半期の-1.6%と合わせ2期連続マイナス成長によるテクニカルリセッション(用語説明1)入りとなった。この結果を受けてFRBの今後の利上げペースが鈍化するとの見方が広がり、ドル売りの流れが優勢となった。

 ロンドン時間29日朝に1ドル=132円50銭台までドルが下落した後、NY市場では134円台後半まで買い戻されが、その後133円台前半で終了。荒っぽい値動きながらドルの上値は重かった。

 ドル安基調の中、1ユーロ=1.02ドル台後半のユーロ高を何度か試したが、同水準のユーロ売りを崩せなかった。もっともユーロ安方向は1.0100ドル前後が底堅く、レンジ内での取引に終始した。

 ユーロは対ドルで上値が抑えられる一方、ドル安円高が急速に進んだことで、ユーロは対円で軟調だった。ドルの対円レートと同様に先々週後半からのユーロ安が続く形で、1ユーロ=142円30銭台から135円台にユーロが急落した。

今週の見通し

 米第2四半期GDP速報値の弱さを受けて、米経済の先行き不透明感が広がっている。個人消費が市場予想以上に鈍化していたことに加え、設備投資が減少し、住宅投資は前期比年率-14%と急速に落ち込んだ。金利上昇の悪影響が強く出た可能性があり、FRBが利上げペースを緩めるとの見方が市場で広がっている。

 ただ、今後についてはパウエルFRB議長がFOMC後の記者会見で強調したように「データ次第」という面が強く、物価、雇用、景況感などの米経済指標が注目度を高めてきそうだ。

 今週は米ISM製造業景気指数(用語説明2)、米同非製造業景気指数、米雇用統計(いずれも7月分)の発表が予定されている。米景気の先行き不透明感を強める結果が出ると、ドル売り円買いが加速する可能性があるため、要注意。

 米雇用統計は毎回市場の注目度が高い指標であるが、今後は注目度がさらに高まるだろう。

 前回6月分の雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を大きく上回る前月比+37.2万人となり、米雇用市場の堅調さを印象付けた。コロナ禍で大きく雇用を減らしたレジャー&ホスピタリティ部門(カジノ・劇場などのアミューズメント部門、ホテルなどの宿泊部門、レストラン・バーなどの飲食部門など、接客を主とする分野)が前月比+6.7万人と順調な伸びを示して全体を支え、運輸・倉庫部門、ヘルスケア・社会福祉部門なども雇用が拡大していた。

 今回の予想は前月比+25万人と前回から伸びが鈍化する見込み。新型コロナによって2020年春に雇用者数は大幅に減少したが、コロナ前の2020年2月と比べて52.4万人少ないところまで雇用者数が回復してきており、アフターコロナでの底上げ分が小さくなっていることを加味すると、決して悪くない水準と言える。

 予想前後の雇用の伸びが確認されると米景気の底堅さに対する期待からドル買いを呼び、1ドル=135円台回復に向けた動きも予想される。

用語の解説

テクニカルリセッション リセッション(景気後退)の定義は各国で異なるが、欧米では四半期GDPが2四半期連続で前期比マイナスとなることをテクニカルリセッションと呼び、景気後退の一つの目安としている。バイデン米大統領は今回の状況について、雇用が堅調なことなどを理由に「私にはリセッションとは思えない」と発言している。
ISM製造業景気指数 全米供給管理協会(ISM: Institute for Supply Management)が米国の製造業約350社の購買担当役員に対するアンケート調査を実施し、その結果を基に作成した景況感を表す指数。景気の先行指標として注目される。「新規受注(30%)、生産(25%)、雇用(20%)、入荷遅延(配送時間)(15%)、在庫(10%)」の5項目につき、「良くなっている(1)、同じ(0.5)、悪くなっている(0)」の三者択一の回答結果を点数化し、カッコ内数値でウエイト付けした加重平均で算出される。50が好況と不況の分岐点を意味する。

今週の注目指標

ISM製造業景気指数(7月)
8月1日23:00
☆☆☆
 前回6月の同指標は市場予想の54.5を下回る53.0と2020年6月以来の低水準となった。5月の56.1から急低下した。新規受注が好悪判断の境となる50を割り込む49.2と5月の55.1から大きく落ち込んでおり、全体を押し下げた。今回は52.2と前回から小幅な鈍化が予想されている。好悪判断の境となる50は上回る見込みで、市場予想前後であれば相場への影響は限定的か。予想を割り込んで50を下回ると、131円台を試すような急速なドル安も予想される。ただ、同系統の指標である米製造業PMI速報値が52.3と市場予想の51.9を超えており、比較的しっかりした数字が予想される。
米ISM非製造業景気指数(7月)
8月3日23:00
☆☆☆
 前回6月は55.3と市場予想の54.0を上回ったが、5月の55.9から低下し、2020年5月以来の低水準だった。新規受注が5月の57.6から55.6に2ポイント低下。雇用は5月の50.2から47.4に落ち込み、好悪判断の境となる50も割り込んだ。今回は54.0とさらに鈍化する見込み。同系統の指標である米非製造業PMI速報値は市場予想及び前回値の52.7を大きく下回る47.0に悪化し、市場にサプライズを与えた。ISM非製造業も同様に大きく落ち込むようだと、米景気の先行き不透明感が強まり、1ドル=130円台へのドル安もありそうだ。
米雇用統計(7月)
8月5日21:30
☆☆☆
 市場予想は非農業部門雇用者数が前月比+25.0万人、失業率が3.6%。雇用の伸びは前回を大幅に下回りそうだが、市場予想前後の数字であれば、米雇用市場は堅調との印象は変わらないだろう。ただ、予想を下回る10万人台の雇用者増にとどまった場合や、前回と同水準が予想される失業率が悪化した場合、景気の先行きに対する警戒感が強まるだろう。また、平均時給も要注意。市場予想は前年比+4.9%と前回の+5.1%から鈍化する見込み。PCEデフレータが前年比+6.8%、米消費者物価指数(CPI)にいたっては前年比+9.1%と物価の伸びが著しい中、給与の伸びが追い付いていない状況が強調されると、米個人消費の減退懸念につながり、ドル売りが進む可能性が高そうだ。市場の警戒感が強まると1ドル=130円の大台を割り込む大きな動きとなる可能性がある。

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