2022年08月15日号

(2022年08月08日~2022年08月12日)

先週の為替相場

米消費者物価指数の伸びが大きく鈍化

 先週(8月8-12日)は10日発表された7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったため、ドル売りが一気に強まった。5日発表された7月の米雇用統計で、非農業部門雇用者の増加数が市場予想の2倍を超えるなど力強い結果だったことで、1ドル=135円台半ばまでドル高円安が進んだ。ドルの高値圏で先週の取引が始まると、米CPI待ちの雰囲気が強まり、135円00銭を挟むレンジ取引が続いた。米CPIの弱い結果を受けて一気にドル売りが進み、一時132円00銭台までドルが下落。その後、週末にかけてドルが値を戻した。

 米CPIは前回6月分が前年同月比9.1%と約40年半ぶりの高い上昇率を記録した。7月に入ってエネルギー価格が落ち着き、米国のガソリン小売価格が6月と比べて約7.5%の低下(全米全種平均・米エネルギー情報局調査)したこともあり、7月のCPIはある程度の鈍化が見込まれていた(市場予想は前年比+8.7%)。もっとも、これまでのエネルギー価格上昇を受けて幅広い品目で価格が上昇しており、予想ほど下がらない可能性も発表直前まで残った。

 結果は+8.5%と市場予想を下回った。前回前年比+59.9%を記録したガソリン価格が前年比+44.0%にとどまり、全体の伸びを抑えた。もっとも前回+12.2%まで上昇した家庭用食品が、今回は+13.3%とさらに伸びるなど警戒感の続く項目もあった。住宅費も前回から伸び率が拡大しており、今後への警戒材料となっている。

 とはいえ、天井知らずに上昇していた米国の物価高が予想以上に抑えられたことは、市場の安心感につながった。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は前回(7月26、27日)の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、次回(9月20、21日)FOMCでの利上げについて、それまでに公表される物価や雇用を含む多くの経済指標に基づいて判断すると発言。先月の米第2四半期GDP、今月5日の米雇用統計、10日の米消費者物価指数と、重要指標の結果を受けてレートが動きやすくなっていた。

 7月に節目の1ユーロ=1ドルを一時割り込んだ後、ユーロの上値を抑えていた1.03ドル前後の水準を超えて、1.03台後半までユーロ高ドル安が進むなどドルは一時全面安基調となった。週末にかけてはドル円と同様に調整が入り、1.02ドル台にユーロが値を落としている。

 ドル主導の展開で、ユーロ円や豪ドル円などドル以外の通貨の対円レートはやや不安定な動きとなった。しかし、円買いの勢いが勝り、ユーロや豪ドルなどの上値は重い。1ユーロ=138円台前半で米CPIの発表を迎えた後、138円台半ばまで上昇したが、週末にかけて136円台後半までユーロが対円で下落している。

今週の見通し

 世界的に夏休みシーズンということで、8月は比較的落ち着いた動きとなることが多い。しかし、今年のドル円相場は米雇用統計後の急騰、米消費者物価指数後の急落と、大きな動きが見られている。もっとも、今週はそれほど大きな指標発表もなく、落ち着いた動きが予想される。

 7月28日発表の米第2四半期GDP速報値が予想外に落ち込み、2四半期連続のマイナス成長となった。しかし、5日の米雇用統計の力強い結果で米国景気の先行き不透明感はかなり払しょくされた。先週の米CPIの鈍化で物価高懸念もやや後退しており、今週の米小売売上高(用語説明1)や住宅着工件数など家計と密接に結びついた経済指標が強く出るようだと、警戒感がさらに後退する可能性がある。

 もっとも、今後公表される経済指標が市場予想から大きくずれない限り、相場の反応は限定的とみられる。今後の米FOMCの姿勢が注目される中、市場は今月25~27日に開催されるジャクソンホール会議(用語説明2)でのパウエルFRB議長の講演に注目しており、同会議までは比較的落ち着いた動きとなる可能性が高い。

  例外はあるが、同会議ではこれまでFRB議長が今後の金融政策動向について言及する場となることが多かった。パウエル議長は昨年の同会議の講演で、年内の量的緩和縮小を示唆した。

 パウエル議長は2会合連続での0.75%利上げを決めた前回のFOMC後に記者会見し、「次回会合で異例の大幅な利上げをもう一度行うことも適切となりうる」と発言する一方、判断は「今後のデータ次第だ」とした。また、いずれ利上げペースを落とすと述べ、今後の利上げ幅縮小の可能性を示唆している。

 米雇用統計の力強い結果は3回連続0.75%利上げのハードルを下げたが、米消費者物価指数が鈍化し、0.75%追加利上げの必要性は後退した。市場の見通しが割れる中、ジャクソンホール会議を待ちたいとの雰囲気が広がり、今週は1ドル=132円台から133円台のレンジ取引に終始するとみている。

 ユーロドルなど他の主要通貨も米消費者物価指数発表後にドル安が落ち着き、値動きが一服し、1ユーロ=1.02-1.04ドルを中心としたレンジ取引と予想する。

用語の解説

米小売売上高 米商務省センサス局が米国内で販売されている小売業・サービス業の売上高を調査・集計して発表する。米国の個人消費の動向を表す。個人消費のGDPに占める割合は米国で約7割と、他の先進国より高い傾向にあり、個人消費が景気全体に与える影響も大きい。全体に占める売上高の割合が最も大きい「自動車及び同部品」部門は、販売店のセールなど景気と直接の関係がない要因による月ごとのブレが大きいため、自動車を除いたコア部分も合わせて注目される。
ジャクソンホール会議 米カンザスシティ連銀が主催して、毎年8月下旬にワイオミング州ジャクソンホールで開催される経済シンポジウム。コロナ禍で2020、21年はオンライン開催だったが、今回は3年ぶりに対面で実施する。各国から中央銀行の要人が招かれ、米FRB議長が講演することが多い。今年もパウエル議長が出席し、今後の金融政策について発言する予定。

今週の注目指標

米住宅着工件数(7月)
8月16日21:30
☆☆
 米国の物価高と米FRBによる積極的な利上げにより米金利が上昇傾向。住宅ローン金利に関係する長期金利も上昇しており、米連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)による30年物固定金利は6月に一時5.81%まで上昇した。7月以降は低下傾向が見られ、直近で5%を下回ったが、今年初めの3.2%台からの大幅上昇は住宅市場の懸念材料だ。米住宅着工件数は4月に181万件へ増加したが、5月は159.1万件、6月は155.9万件まで減少した。今回も小幅の減少が予想されている。米第2四半期GDP速報値で住宅投資が前期比年率-14%となるなど、ここにきて景気拡大の足を引っ張っている住宅市場への警戒感がさらに強まれば1ドル=131円台のドル安も予想される。
NZ中銀政策金利
8月17日11:00
☆☆☆
 ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は昨年10月に政策金利の引き上げを開始。利上げは前回まで6会合連続で、直近では3会合連続で0.5%と大幅な利上げ幅だった。先月発表されたNZ第2四半期消費者物価指数(CPI)が前年比+7.3%に上昇しており、物価高傾向が顕著になる中、今回も0.5%ポイントの大幅利上げが予想されている。一部で0.75%利上げも予想されたが、今月8日発表されたNZ準備銀行の四半期調査で2年インフレ予想が3.07%と9四半期ぶりに低下。今後の物価上昇が落ち着くとの見方から、0.75%利上げ見通しは急速に後退している。大方の予想通り0.5%利上げの場合、今後の姿勢が注目材料となる。利上げ幅を縮めていく姿勢が強調されれば、1NZドル=83円台を試すNZドル安円高の可能性がある。
米小売売上高(7月)
8月17日21:30
☆☆
 先月28日に発表された米第2四半期GDP速報値で、個人消費の伸びは前期比年率1.0%と前期の1.8%から鈍化した。GDPの約7割を占める同部門の鈍い伸びは、市場予想を覆す2四半期連続マイナス成長の一因となった。一方、個人消費と密接な雇用情勢は7月の米雇用統計を見る限り堅調を保っている。個人消費の動向を示す小売売上高も雇用統計と同様に強めに出てくると、今後の米景気回復への期待につながる。市場予想は前月比+0.3%、変動の激しい自動車を除くコアは前月比+0.2%にとどまる見込み。予想を超える強い数字が出るとドルが買われ、1ドル=134円台回復が意識されそうだ。

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