2022年08月29日号

(2022年08月22日~2022年08月26日)

先週の為替相場

ドル高傾向強まる

 先週(8月22-26日)は25日から27日にかけて開催された米経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」をにらむ展開となった。同会議は歴代のFRB議長が金融政策の重要な変更や今後の姿勢について強調する場だった。現地時間26日午前10時(日本時間同日午後11時)、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が講演した。

 先週初めはドル高円安基調を維持したが、ジャクソンホール会議を控え、上値追いに慎重な姿勢が見られた。先々週末19日に1ドル=137円台乗の後、少し調整が入って136円台後半で先々週の取引を終えると、週明けも同水準でスタート。その後137円台後半までドルが上昇したが、そこで買い一服となった。

 23日午後10時45分に発表された8月の米購買担当者景気指数(PMI)は、非製造業PMIが44.1。市場予想は50.1と低調だった7月分からの改善が予想されていただけに、インパクトのある結果となった。15分後に発表された7月の米新築住宅販売件数(用語説明1)は前月比-12.6%と減少し、PMIの下振れとともに、ドルがいったん売られる材料となった。

 1ドル=137円台後半から135円台まで調整が入った後に買い戻しも入ったが、137円台では売りが出るなど、ジャクソンホール会議を前にしたポジション調整が目立った。

 パウエル議長講演は136円60銭台で迎えた。パウエル議長が家計と企業への痛みを認識しながら物価抑制に伴うコストとして大幅利上げを続ける姿勢を示すと、直後にドル買いが入って137円30銭台を付けた。その後は高値から1円以上のドル安となる136円20銭台を付けた後はすぐに反転。議長講演前の水準を超えると、137円台半ばを超えてドルが買われた。

 先週前半、1ユーロ=0.9901ドルまでユーロ売りドル買いが進んだ。ドル全面高基調に加えて、週明けの欧州天然ガス価格が一時10%超の急騰となり、欧州のエネルギー問題への強い懸念がユーロ売りを誘った。

 22日の欧州市場で7月14日以来となる1ユーロ=1ドル割れを付けると、その後もユーロ売りが継続する形で、23日に0.9901ドルまでユーロ安ドル高が進行。その後はジャクソンホール会議を前にしたドル高の調整や23日の米経済指標の低調を反映したドル売りなどもあったが、1.00ドル超えではユーロ売りが出るなど、週後半までユーロは上値が重かった。

 パウエル議長講演前に1ユーロ=1.0070ドル前後を付けた後、議長講演後はいったんドル買いが強まり1.0020ドル割れ。その後はドル売りで1.0090ドル前後までユーロ高に動いたが、再びドル買いが強まり、0.99ドル台後半で先週の取引を終えた。

 ユーロの対円レートはドル主導の展開で方向性が定まらなかった。先週半ばまでユーロ売りが優勢。エネルギー問題への懸念からユーロ売りが優勢となり、一時1ユーロ=135円台半ばのユーロ安円高に振れた。ジャクソンホール会議を前にしたユーロ高ドル安などから、週末には138円00銭近くまでユーロが上昇。その後はユーロ売りドル買いに押され、137円00銭近くで先週の取引を終えた。

今週の見通し

 ジャクソンホール会議を終えて米国の大幅利上げ観測が広がる中、ドル高基調がどこまで強まるかが焦点となる。ジャクソンホール会議では日銀の黒田東彦総裁が金融緩和を継続する以外に選択肢はないと改めて強調。同会議ではECBのシュナーベル理事が景気減速のリスクを指摘する一方で物価高への強い対応の必要性を示すなど、米国以外でも積極的な金融引き締め姿勢への言及が見られたため、黒田総裁の緩和強調が目立ち、円売りが出やすくなっている面がある。

 7月に付けたドルの直近高値を突破し、1ドル=140円の大台乗せも視野に入る。

 ジャクソンホール会議後、次回(9月20、21日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅の市場予想は0.75%が大勢。米短期金利先物が織り込む利上げ確率は、ジャクソンホール会議前まで「0.75%」と「0.50%」が拮抗。会議直後は「0.75%」が約60%程度と、「0.50%」を上回った。週明けは「0.75%」が75%前後まで増加した。ただ、「0.50%」が25%ほど残っている。今週予定される米ISM製造業景気指数や米雇用統計(8月)など重要統計の内容次第では、0.75%の大幅利上げ見通しが一段と強まり、ドル高がさらに進む可能性がある。

 2日発表される米雇用統計に市場参加者は関心を強めそうだ。前回7月分は非農業部門雇用者数が+52.8万人と市場予想の前月比+25万人を大幅に上回った。6月分が速報値の前月比+37.2万人から+39.8万人に上方修正されたが、修正後データも大幅に上回る伸びとなった。失業率も3~6月分まで続いた3.6%での横ばいから3.5%に低下しており、労働需給の逼迫(ひっぱく)を強く印象付けた。

 米FRBは雇用の最大化と物価の安定を二大命題(用語説明2)として掲げている。雇用部門の堅調が確認されたことで、FRBが物価安定に向けた動きを強めてくるとの思惑が市場の大幅利上げ観測を増幅し、ドル買いにつながった。

 今回の市場予想は非農業部門雇用者数が前月を下回る前月比+30.0万人。雇用者数の増加幅が予想前後にとどまると、昨年4月分の+26.3万人以来およそ1年4カ月ぶりの低い伸びとなる。

 もっとも、米国の雇用者数は前回の発表分で1億5254万人と、コロナ流行が本格化する前の2020年2月の1億5250万人を超えた。今後はコロナ禍からの回復という底上げ材料が薄れてくる。コロナ前まで前月比30万人増は相当な高水準とされていたため、雇用者数の増加幅が市場予想前後に減少しても、雇用情勢に対する堅調な印象は変わらないだろう。

 前回(7月26、27日)のFOMCでは、9月のFOMCでの利上げ幅について「データ次第」と表現された。パウエルFRB議長は先週のジャクソンホール会議での講演でも同じ表現を使用した。こうした状況で米雇用市場の堅調さが確認されると、9月FOMCでの0.75%利上げ観測を強める形となりそうだ。雇用者数の増加が市場予想以上だと、1ドル=142円程度までのドル上昇も視野に入ってくる。

用語の解説

米新築住宅販売件数 米商務省センサス局が、全米及び4つに区分した地域別(北東部、中西部、南部、西部)の新築住宅の販売件数、販売価格、在庫状況などについて調査し、公表するもの。住宅の新築は家具・家電製品など耐久財に対する家計の需要を誘い、建築資材の需要にもつながり、関連産業への波及効果が大きいとされている。
米FRBの二大命題 1977年に改正された連邦準備法第2条A項では、米FRBの金融政策運営の目標を雇用の最大化、物価の安定、適度な長期金利であると定めた。このうち適度な長期金利は物価目標の達成に伴って実現するとみられるため、一般的に二大命題(Dual Mandate)として雇用の最大化と物価の安定が挙げられる。

今週の注目指標

中国製造業PMI(8月)
8月31日10:30
☆☆☆
 中国国務院による8月の購買担当者景気指数(PMI)が31日に発表される。前回7月分は製造業PMIが6月分の50.2から若干改善して50.3になるとの市場予想に反して、49.0と好悪判断の基準となる50も下回り、中国経済成長の鈍化懸念につながった。非製造業PMIは6月分の54.7から鈍化し、市場予想の53.9も下回る53.8となった。今回は製造業PMIが49.2、非製造業PMIが52.2の見込み。製造業PMIは前回から若干ながら改善するが、依然として50を下回っている。前回値からさらに悪化するようだと、中国経済成長の鈍化に対する懸念がさらに強まり、1豪ドル=0.68ドル割れなど資源国通貨売りが予想される。
米ISM製造業景気指数(8月)
9月1日23:00
☆☆☆
 前回7月の米ISM製造業景気指数は2020年6月以来の低水準となる52.8だった。市場予想の52.0を上回ったが、6月分の53.0から悪化した。6月分で好悪判断の境である50を下回った新規受注が48.0とさらに悪化し、全体を押し下げた。雇用は49.9と6月から改善したが、まだ50を下回っている。今回は52.0と悪化が見込まれる。新規受注や雇用など市場が重視する項目の悪化が目立つと、1ドル=137円台に向けてドル高調整に動く可能性がある。
米雇用統計(8月)
9月2日21:30
☆☆☆
 前回7月分の雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想の前月比+25.0万人を超える+52.8万人となった。失業率も予想及び前回値を下回る3.5%に低下した。内訳をみると、教育・医療福祉部門が前月比+12.2万人と大きく伸びた。特に医療・社会扶助部門は+9.66万人の伸びとなっている。日本でも人手不足の介護部門を含む同分野は、米国でも雇用が伸びやすい部門ではあるが、この伸びは相当に力強いという印象だった。続いて目立ったのが、このところの大幅増を支える部門の一つであるレジャー&ホスピタリティ部門の+9.6万人。中でも飲食部門は7.41万人の大幅増。1100万人以上の雇用者を抱える同部門は、コロナ禍で雇用者が大幅に減ったが、順調な回復を見せている。その他建設部門が+3.2万人、製造業が+3.0万人、小売業が+2.16万人、運輸・倉庫が+2.09万人、専門及びビジネスサービスが+8.9万人と幅広い分野で雇用が伸びた。半導体不足などサプライチェーン問題を抱える自動車及び同部品は-0.22万人と小幅のマイナス。小売業の内訳をみると自動車ディーラーが-0.13万人など自動車関連はまだ不調が続いている。
 今回の市場予想は非農業部門雇用者数が前月比+30.0万人。予想通りの伸びにとどまると、昨年4月分の+26.3万人以来、約1年4カ月ぶりの低い伸びとなる。ただ、水準的には悪くない伸びであり、予想前後の数字が出てくると、雇用環境は決して弱くないと市場は受け止めそうだ。予想以上の伸びが見られると、9月FOMCでの0.75%利上げ観測がさらに強まり、1ドル=140円台を超えて142~143円に向けたドル買い円売りが強まるだろう。

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