2022年09月05日号

(2022年08月29日~2022年09月02日)

先週の為替相場

ドル高継続、ユーロに警戒感

 先週(8月29月-9月2日)はドル買いが広がった。8月26日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長によるジャクソンホール会議での講演で、景気後退が後退してもインフレを抑制するまで利上げを継続するといった物価安定への強い姿勢が示されたことが、今後の米FRBによる積極的な利上げへの期待につながりドル買いとなった。ジャクソンホール会議では、黒田東彦日銀総裁が金融緩和の継続以外の選択肢はないと発言し、日米の金融スタンスの差が強調される形でドル高円安となった。

 短期金利先物市場が織り込む利上げ確率を示すCME FedWatchでは、次回(9月20、21日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅の見通しについて、パウエル議長発言前まで0.5%と0.75%がほぼ拮抗していた。議長講演後に0.75%がやや優勢となり、週明けには0.75%利上げが約75%、0.5%利上げが約25%に差が広がった。東京市場で1ドル=139円の大台を付けた後は少し調整が入ったが、138円台前半では買いが入るなど堅調な地合いを維持した。

 1日の東京市場で7月に付けたドルの直近高値139円39銭を上回り、1998年以来のドル高円安圏まで上値を伸ばすと、米国時間1日午前に発表された米ISM製造業景気指数(用語説明1)の好結果が支えとなって140円台を示現する動きに。

 2日発表の米雇用統計(8月)を前に、140円を割り込む調整が入る場面もあったが、すぐに大台を回復するなど、堅調地合いを維持して米雇用統計の発表を迎えると、非農業部門雇用者数が市場予想を若干上回ったことなどを好感して140円80銭前後までドルが上値を伸ばした。ただ、失業率が予想外に悪化したことなどを材料に、上昇一服後はドル売りが優勢となった。雇用統計発表というイベントを通過したことでポジション調整の動きが強まったこともあり、140円割れまでドル売りが出ていた。

 週初のドル買い局面では、1ユーロ=0.9914ドル前後までユーロ安ドル高が進んだ。オランダ中銀のクノット総裁(用語説明2)ら、ECB内でも利上げに積極的なメンバーから9月8日の欧州中央銀行(ECB)理事会での0.75%利上げの可能性が示されたことでユーロ買いが入り、1ユーロ=1ドルの大台を回復。31日に発表された8月のユーロ圏消費者物価指数速報値が市場予想を超える前年比+9.1%となったこともユーロ買いを支え、1.00ドル台後半までユーロが上昇する場面が見られた。

 その後、米ISM製造業景気指数の好結果を受けたドル買いなどに0.99台前半まで下落したものの、ECB理事会での0.75%利上げ観測がユーロ買いを支え、米雇用統計前には1.00台を回復。雇用統計後にドル売りが強まったことで1.0030ドル台までユーロが買い戻された。

 もっともその後はユーロ売り優勢に転じた。8月31日から3日間の定期メインテナンスに入っていたロシアからドイツへの天然ガス供給パイプライン「ノルドストリーム1」にオイル漏れが見つかったとして、ロシア側が3日からの供給再開を延期すると発表したことがユーロ売りの材料となった。ロシアが同パイプラインを欧州へのけん制に利用するとの懸念が以前から広がっていたこともあり、1ユーロ=0.99ドル台前半にユーロが下落して週の取引を終えた。一方、1ポンド=1.15ドル台を一時割り込むなど、欧州通貨売りドル買いが優勢だった。

 米雇用統計後に1ユーロ=140円70銭台を付けた後、139円台前半にユーロが下落するなど欧州通貨は対円でも売られた。

今週の見通し

 米国の積極的な利上げ観測によるドル買いと日銀の金融緩和維持の姿勢の対照からドル買い円売りの動きが継続。

 鈴木俊一財務相が2日の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で為替に関する発言が「私も含めなかった」と発言し、円安進行が世界的な問題となっていないことが印象付けられたこともドル買い円売りの要因となった。

 140円台の大台にしっかり乗せたこともあり、上方向のターゲットが読みにくいが、142―143円に向けたドル上昇が予想される。

 ユーロの対ドルレートは欧州エネルギー問題への警戒感と8日開催予定のECB理事会での大幅利上げ期待が交錯し、やや不安定。8月のユーロ圏消費者物価指数の高さもあり、先週後半時点ではECB理事会での0.75%利上げを織り込みにいく動きが広がっていた。しかし、ロシアによるノルドストリーム1の無期限供給停止報道が警戒感につながり、0.75%利上げを抑える形となった。見通しが分かれている分、どちらになったとしても相場への影響が見込まれる。0.5%利上げにとどまり、ECB声明や総裁記者会見で今後に対しても慎重姿勢が示されると、ユーロ売りが強まり、1ユーロ=0.97ドル台に向けた動きも予想される。

 理事会までは上値の重い展開が見込まれる。直近安値0.9901ドルを割り込む動きもありそう。

用語の解説

ISM製造業景気指数 米供給管理協会(Institute for Supply Management:ISM)が全米の製造業約350社の購買担当役員に対するアンケート調査を実施し、その結果を基に作成する景況感を表す指数。景気の先行指標として注目されている。「新規受注(30%)、生産(25%)、雇用(20%)、入荷遅延(配送時間)(15%)、在庫(10%)」の5項目につき、「良くなっている(1)、同じ(0.5)、悪くなっている(0)」の三者択一の回答結果を点数化し、カッコ内数値でウエイト付けした加重平均で算出される。50が好況と不況の分岐点を意味する。項目ごとの数字も公表され、新規受注と生産は景気との関わりから注目度が高い。また、米雇用統計よりも発表が早いことが多い(発表日が同じ場合は、雇用統計の方が発表時刻が早い)ため、雇用部門の数字は雇用統計の先行指標として注目される。
クノット総裁 クラス・クノット(Klaas Knot)オランダ銀行(中央銀行)総裁。オランダのフローニンゲン大学で経済学の博士号取得後、1995年にオランダ銀行に入行。1998年に同行から国際通貨基金(IMF)の欧州担当エコノミストに移籍したが、その後にオランダ銀行へ復帰。2002年に再びオランダ銀行を去り、オランダ年金保険機構の責任者に就任したが、同機構とオランダ銀行が合併したことでオランダ銀行に復帰した。昨年12月に同銀行総裁に就任。オーストリア国立銀行(中央銀行)のホルツマン総裁と並び、ECBメンバーの中で利上げに積極的なタカ派姿勢で知られている。

今週の注目指標

豪中銀政策金利発表
9月6日13:30
☆☆☆
 豪準備銀行(中央銀行)は5月に利上げを開始し、6月以降3会合連続で0.5%利上げした。前回の会合後の声明では、今後の金融政策についてやや慎重な姿勢も見られたが、インフレの加速に言及、金融引き締め姿勢の継続を示しており、今回の会合でも0.5%の利上げが見込まれている。ただ、先月発表された四半期金融報告において、今年年末時点での政策金利水準見通しを3%程度と示していた。今回0.5%利上げを行うと2.35%となることから、今後の利上げベース鈍化が見込まれる。声明などで今後の引き締め鈍化が示されると、豪ドル売りが進み、1豪ドル=0.66ドル台を目指す可能性がある。
ECB理事会
9月8日21:15
☆☆☆
 ECBは前回7月21日のECB理事会で、約11年ぶりに利上げを実施した。利上げ幅は大方の0.25%予想に対して0.50%となり、中銀預金金利が-0.5%から0%に引き上げられ、2014年6月から続いたマイナス金利を解消した。ユーロ圏の物価上昇が著しいことから、今回も大幅利上げが見込まれている。もっとも利上げ幅については0.5%と0.75%で見方が分かれている。前回の会合直後は0.5%の見通しがほとんどだったが、先月後半にオーストリア中銀のホルツマン総裁やオランド中銀のクノット総裁など、ECB内でも利上げに積極的なタカ派のメンバーから相次いで0.75%利上げの可能性が言及された。8月31日に発表された8月のユーロ圏消費者物価指数概算値速報が前年比+9.1%と7月の8.9%、市場予想の9.0%を超える大きな伸びとなったことも大幅利上げ観測を強め、米主要銀行のエコノミストなども見通しを0.75%に引き上げる動きが目立った。しかし、ここにきてロシアによるドイツ向け天然ガス供給パイプラインであるノルドストリーム1の無期限供給停止方針が警戒感を誘っている。欧州のエネルギー問題の深刻さを増すことで景気支援の必要性が高まり、0.75%利上げ観測が後退する形だ。市場の見方が分かれる状況だけに、0.5%、0.75%どちらになっても大きな動きにつながる可能性がある。慎重姿勢が強調されるとユーロ売りにつながる一方、0.75%利上げを実施した上に、インフレに対する厳しい対応を強調してくると1ユーロ=1.00ドル台を回復してユーロが買われるだろう。
パウエル米FRB議長、ディスカッション参加
9月8日23:05
☆☆☆
 今月の米FOMCでの利上げについて、0.5%と0.75%で市場の見方が分かれる中、パウエルFRB議長の発言が注目される。パウエル議長は著名なシンクタンクであるケイトー研究所が主催する金融政策に関するディスカッションに参加する。質疑応答も予定されており、発言内容次第で今後の米利上げ見通しに大きな影響を与えそうだ。パウエル氏が積極的な利上げ姿勢を強調すると141円台に向けたドル高が予想される。
 

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