2022年09月12日号

(2022年09月05日~2022年09月09日)

先週の為替相場

ドル高継続、ユーロに警戒感

 先週(9月5-9日)は半ばにかけてドル買い円売りが強まり、一時1ドル=144円99銭と145円に迫った。

 2日発表された8月の米雇用統計の堅調な結果もあり、週明け5日は1ドル=140円台に乗せて取引が始まった。5日の米国が祝日のため参加者が少なかったこともあり、比較的落ち着いた値動きでスタートした。もっとも、1日の米ISM製造業景気指数や、2日の米雇用統計の好結果を受けて、米短期金利市場では9月20、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.75%の利上げを実施するとの見方が広がり、徐々にドル買いが優勢となった。ドルは2日の米雇用統計直後の高値を超えると買いが加速し、7日には一時144円99銭前後まで買い進まれた。

 145円を付けきれずに利益確定売りなどで軟化すると、その後は144円を挟む展開。143円台前半までドルが下落したところで、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が積極的な利上げの継続に前向きな発言を行ったことから、144円台半ば近くまでドルが戻すなど方向感が定まらなかった。

 週末にかけてはドル売り円買いが優勢。日銀の黒田東彦総裁は9日昼前に首相官邸で岸田文雄首相と協議した後、記者団に対して「1日に2円も3円も動くのは急激な変化だ」と急速な円安に警戒感を示すとドル高を調整する動きが広がり、一時141円台半ば近くまでドル安円高に動いた。

 ユーロは6日に1ユーロ=0.9860ドル台を付けるなど、週半ばまで売りが優勢だった。7日の米国市場での株高などを受けたリスク選好の高まりがドル高の調整を促し、1ユーロ=0.98ドル台から節目の1ユーロ=1ドルを超えるユーロ高ドル安となった。

 8日の欧州中央銀行(ECB)理事会では、大方の市場予想通り政策金利を0.75%引き上げた。ラガルドECB総裁は理事会後に記者会見し、2回以上5回以下という数字を挙げて追加利上げなど必要なステップを踏むことに言及。市場の想定より積極的な利上げ姿勢がユーロを支えた。

今週の見通し

 先週末にドル高の大幅な調整が入ったが、流れとしてはドル高円安方向が継続するとみられる。20、21日の米FOMCで0.75%の利上げがほぼ織り込まれる中、日銀は金融緩和を維持する姿勢を貫いており、日米の対照的な状況からドル買い円売りの流れが継続するだろう。

 世界的な大幅利上げの流れから景気停滞への懸念が広がっている。しかし、米国は8月の雇用統計の好結果などにみられるように、経済の底堅さが確認されたことで、投資資金が集まりやすい地合いになるだろう。

 ただ、今週は8月の米消費者物価指数(CPI)の発表を13日に控えている。ここにきてガソリン小売価格の低下が目立っており、前回は市場予想を超える物価上昇率の縮小が見られた。今回も物価上昇率の縮小が見込まれており、9月はともかく、その次の11月1、2日会合以降の大幅利上げ観測が後退する可能性がある。

 先週のドル上昇局面でも1ドル=145円を付けきれず、米CPIの結果次第ではもう一段の大幅なドル高調整も考えられる。

 米CPIを無難にこなせばドル高円安の流れが継続か。1ドル=145円台に乗せると、節目の150円突破が現実味を帯びてくるだろう。

 ユーロはウクライナ情勢の進展に注意したいところ。先週末にウクライナ東部でウクライナ軍がロシア軍を押し返したとの報道(用語説明2)が、今後の期待につながっている。停戦観測が強まれば、ユーロ買いが一気に強まる可能性もある。

用語の解説

ラガルドECB総裁 クリスティーヌ・マドレーヌ・オデット・ラガルド(Christine Madeleine Odette Lagarde)欧州中央銀行(ECB)総裁。米シカゴに本部のある国際的な法律事務所ベーカーマッケンジーの所長などを経て、2005年にフランスの農業・漁業相に就任。2007年に同国の財務相にあたる経済・財政・産業相に就任した。2011年に女性初の国際通貨基金(IMF)専務理事となり、2019年7月より現職。
ウクライナ東部戦線 ウクライナのゼレンスキ―大統領は11日にビデオ演説し、ウクライナ軍が東部ハルキウ州で攻勢に転じ、占領下のロシア軍が軍事拠点としていたイジュームの奪還を宣言した。同国のザルジニー総司令官は同日、ウクライナ軍がハルキウ州で3000平方キロメートル以上を奪還したとSNSに投稿しており、ウクライナ軍の攻勢が激しくなっている。ロシア国防省は10日にイジューム周辺のロシア兵に撤退を命じている。

今週の注目指標

米消費者物価指数(8月)
9月13日21:30
☆☆☆
 9月20、21日開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.75%利上げへの期待が強まっている。今月発表された米雇用統計、米ISM製造業・非製造業景気指数などの重要指標の堅調な結果が大幅利上げのハードルを下げた印象。パウエル米FRB議長などの積極的な利上げに前向きな姿勢もあり、一時は拮抗していた短期金利先物市場から見た利上げ割合を示すCME FedWatchでの0.50%利上げ見通しとポイント利上げ見通しの割合は、週明け時点で0.75%が88%と圧倒的大差をつけている。こうした中、市場が注目しているのが米国の物価動向。利上げの背景にある物価高に落ち着きが見えてくるようだと、0.75%利上げ期待が後退する可能性があることに加え、次回以降の利上げ期待についても大きな影響を与える。前回7月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+8.5%と6月の+9.1%から大きく鈍化。市場予想は+8.7%で鈍化自体は見込まれていたが、予想を超える鈍化となった。変動の激しいエネルギーと食品を除いたコア指数は前年比+5.9%と6月と同水準。こちらも市場予想の+6.1%を下回った。背景にはガソリンをはじめとするエネルギー価格の伸びの鈍化がある。7月のガソリン価格は前年比+44.0%と、水準的には相当高い伸びであるが、6月の+59.9%と比べると15%ポイント以上伸びが小さく、全体の鈍化につながった。一方家計に響くもう一つの懸念材料である食料品は前年比+10.9%と6月の10.4%からさらに伸びている。特に家計用食品が+13.1%と6月の+12.2%から伸びており、こちらは警戒感を誘った。今回の予想を見てみると、前年比+8.1%とさらに伸びが鈍化する見込み。EIA調査による8月のガソリン価格は1ガロン当たり4.087ドルと今年2月以来の低水準。7月と比べて12.4%の大幅ダウンとなっており、全体を押し下げてくると見込まれている。もっとも、これまでのエネルギー価格の上昇を受けたコスト高による広範な財・サービスの価格上昇傾向は継続すると見られる。そのためコア指数の予想は前年比+6.1%と前回の+5.9%を上回っている。前回同様に予想以上に鈍化が大きなものとなった場合、ドル売りが強まり、1ドル=141円台前半に向けてドルが売られる可能性がある。
豪雇用統計(8月)
9月15日10:30
☆☆☆
 前回7月分の豪雇用統計は、雇用者数が-40900人と市場予想の+25000人に反して減少した。正規雇用が-86900人とかなり厳しい内容だった。失業率は6月と同じ3.5%との予想に対して3.4%と低下。48年ぶりの低水準となった。もっとも労働参加率が66.8%から66.4%に低下しており、失業率低下はその分(職が見つからない人が求職活動自体をやめてしまうと、失業者ではなく、雇用統計の計算自体から省かれるので、失業率が低下する)という可能性が高いため、総じて弱いという印象。9月6日の豪準備銀行(中央銀行)理事会での0.5%利上げが一部で疑問視されたが、4会合連続で0.5%利上げを実施した。今回の予想は雇用者数が+29000人と雇用の回復が期待されている。失業率は前月と同じ3.4%の見込み。予想を下回り2カ月連続で雇用が減少すると、10月4日理事会での追加利上げ観測が後退し、豪ドル売りが広がり、1豪ドル=96円割れも視野に入りそうだ。
米小売売上高(8月)
9月15日21:30
☆☆☆
 前回7月の米小売売上高は前月比横ばいと、市場予想の+0.1%を下回った。6月分も速報時点の+1.0%から+0.8%へ下方修正された。前回は無店舗小売りの伸びが+2.7%と大きく全体を押し上げた。一方、自動車・同部品は-1.6%とさえない数字だった。全米小売業協会のシェイ会長は、前回の結果を受けて、消費者は食品・新学期用品などの必需品の購入を優先することで物価高に対応していると発言している。今回の予想は+0.1%とプラス圏浮上が期待されるが、伸びは小さい。市場予想を超える伸びが見られると、米国の大幅利上げの悪影響に対する懸念が後退してドル買いが強まり、1ドル=145円を試す動きも予想される。
 

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