2022年09月26日号
先週の為替相場
約24年ぶり円買いドル売り介入
先週(9月19-23日)は、各国中央銀行の金融政策会合が相次いで開催される中、為替相場は大荒れだった。
米連邦準備制度理事会(FRB)は20、21日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で3会合連続となる0.75%の利上げを決定した。13日に発表された8月の米消費者物価指数が強めに出たことを受けて、市場の一部で1.00%ポイントの利上げも予想されたが、大勢は0.75%ポイント利上げを見込んでいたため、利上げへの市場の反応は限定的だった。同時に発表されたFOMCメンバーによる経済見通し(SEP)では、各メンバーが予想する政策金利は2022年末時点で4.25-4.50%と、前回(3.25-3.50%)から大幅に上方修正された。2023年末の予想金利も前回の3.75-4.00%から4.50-4.75%へ引き上げられた。
今年末の政策金利を4.25-4.50%とするためには、次回11月1、2日のFOMCでも0.75%の利上げを行い、12月13、14日の年内最終FOMCでも0.50%の追加利上げが必要となる。FOMCメンバーによる市場予想を超える積極的な利上げ姿勢を受けてドル高が進んだ。
FOMCの結果発表直後、1ドル=144円70銭前後までドルが上昇。結果発表30分後に始めた記者会見でパウエルFRB議長が「いつか利上げペースを落とすのが適切となる」「労働市場は幾分軟化する可能性が非常に高い」など、これまでのタカ派姿勢をやや弱める発言をしたことで、いったんはドル売りが優勢となり、143円台を付けた。
その後144円50銭を超えてドルが値を戻し、22日の日銀金融政策決定会合の結果発表を迎えた。日銀は金融緩和政策を継続する姿勢を堅持。急速な円安から海外勢の一部に緩和姿勢後退観測があったため、発表後は円売りが強まり、145円30銭前後までドル高円安が進行した。その後に大口の売りが出て143円50銭台へ急落する場面もあった。日銀が取引水準を照会することで相場急変をけん制する「レートチェック」の噂も流れたが、はっきりとしないまま145円台を回復。13時半に神田真人財務官が介入はいつでも実行できる旨の発言をしたが、相場への影響は限られた。
黒田東彦日銀総裁が金融緩和の継続を再度強調したこともあり、ドルは145円90銭台まで上昇したところで、強烈な売りが出て急速に下落した。143円割れ前後で神田財務官が市場介入の実施を明らかにするとドルはさらに下落し、140円70銭前後を付けた。
その後はドルが再びじりじりと上昇した。市場介入への警戒感は残るが、米国の積極的な利上げ姿勢などから、流れはまだドル高方向との雰囲気が強かった。
週末にかけてポンドが値を崩した。イングランド銀行(中央銀行)は22日の金融政策委員会で市場予想通り0.5%の利上げを決定した。採決は5人が0.5%、3人が0.75%のほか、1人が0.25%を主張し、意外感をもって受け止められた。インフレのピークアウト観測もあってポンド売りが強まり、1ポンド=1.13ドル台回復から再び1.12ドル台に下落した。
23日に入ってクワーテング英財務相(用語説明1)が大幅減税を含むトラス新政権の経済対策を発表。市場では財政赤字拡大とインフレ進行への懸念が強まりポンドは節目とされた1.10ドルを割り込むと、ストップロスを巻き込んで1.08台まで下落した。
ポンド売りドル買い主導でドルが全面高となる中、1ユーロ=0.96ドル台を付けた。
今週の見通し
今週はそれほど目立った材料がなく、ドル全面高基調の行方が注視される。
22日に約24年ぶりとなるドル売り円買いの市場介入が実行され、ドルの上値試しに警戒感が強まっている。鈴木俊一財務相が「必要に応じて対応を取る考えに今のところ変更はない」として今後の介入実施を示唆したため、ドル買いに慎重になっている。
ただ、対ポンドでのドル買いの勢いが強く、ドル全面高の勢いが止まらない。英トラス新政権が打ち出した大幅減税を含む景気対策が財政赤字とインフレ懸念を増幅し、ポンドは下落方向が根強く意識されている。
先週末のポンド安や英国債価格の急落について、クワーテング英財務相は「市場の値動きにはコメントしない」と発言。まだ追加の措置があるとして積極財政を続ける考えを示している。市場は英中央銀行によるポンド買いの市場介入や緊急利上げを警戒しながらも、ポンド安を意識しており、かなり不安定な値動きが見込まれる。
ユーロも対ドルでの売りが意識されている。(1)ポンドへの連れ安(2)ロシアによる核攻撃の可能性も含めたウクライナ情勢への警戒感(3)先週末のイタリア総選挙を極右「イタリアの同胞(FDI)」(用語説明2)が制し、主要7カ国(G7)初の極右政党の首相が就任する公算が高まったことなどから、ユーロ安ドル高への警戒感が強い。
ドル全高の流れが強まると、日銀によるドル売り円買い介入の効果は薄くなる。前回の介入水準を超えてドルが上昇すれば、ドル高円安が一段と進み、1ドル=150円が意識されそうだ。ただ、欧州通貨売りドル買いの動きはかなり不安定なため、ドルの対円相場も神経質な展開となりそうだ。
用語の解説
クワーテング財務相 | クワジ・クワーテング(Kwasi Kwarteng)財務相。ケンブリッジ大学で経済史の博士号を取得。米欧金融機関やヘッジファンドの金融アナリスト、英紙デイリー・テレグラフでのコラムニストを経て、2010年より英下院議員。メイ政権下で2018年から2019年にかけて欧州連合(EU)離脱担当政務次官、ジョンソン政権下で2019年から2021年1月まで民間企業・エネルギー・環境ビジネス担当の閣外大臣、2021年1月に民間企業・エネルギー・産業戦略相に就き、今年9月6日、トラス新首相が財務相に任命した。 |
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イタリアの同胞(FDI) | イタリアの同胞(Fratelli d‘Italia :FDI)は、ローマに本部を構えるイタリアの極右政党。ベルルスコーニ首相が党首を務める自由国民党を離党したルッサ国防相(当時)やメローニ議員らが2012年12月に結党した。現党首はジャルジャ・メローニ。イタリアの同胞、同盟、フォルツァ・イタリアなどからなる右派連合は、9月25日の総選挙で上下両院とも過半数を獲得。イタリアの同胞の得票率は約26%で第1党となった。 |
今週の注目指標
米耐久財受注(8月) 9月27日21:30 ☆☆ | 米国内総生産(GDP)の重要項目である設備投資の先行指標とされる。7月は-0.1%と小幅のマイナスだった。航空機を除く非国防資本財(コア資本財)受注は+0.3%と6月の+0.9%から伸びが鈍化、コア資本財の出荷は6月の+0.8%から+0.5%に減速した。今回は-0.3%と2カ月連続のマイナスが予想されている。金利上昇が大きく影響する部門だけに、直近の米FRBによる連続大幅利上げの打撃が懸念される。市場予想をさらに下回れば、先行きの米景気悪化が懸念されドルの売り材料となり、145円超えのドル高進行を抑止する可能性がある。 |
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米新築住宅販売件数(8月) 9月27日23:00 ☆☆ | 上記の米耐久財受注と同様に、新築住宅販売件数にも金利上昇が大きく影響する。米国の住宅ローンで最も代表的な30年固定金利(米連邦住宅金融抵当公庫:フレディマック)は6%を超え、住宅販売への悪影響が懸念されている。今年2月に83.5万件あった新築住宅販売件数は、前回51.1万件に減少。今回の市場予想は微減の50.8万件。21日発表された中古住宅販売件数は市場予想を上回る好結果だったが、新築住宅は資材価格高騰から建設コストが大幅に上昇して厳しい状況となっているため、弱めの数字が出てくると警戒されている。市場予想に届かず、50万件を下回るようだとドルは上値を抑えられ1ユーロ=0.95台でユーロを下支えする材料となりそうだ。 |
米PCEデフレータ(8月) 9月30日21:30 ☆☆ | 米国の個人消費支出の物価による影響を示す指標で、FRBはインフレ目標の対象としている。9月20、21日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)参加メンバーによる経済見通し(SEP)では、年末の予想が前年比+5.4%、食品とエネルギーを除いたコアデフレータが+4.5%と、6月15日に発表された前回SEP予想よりそれぞれ0.2%ポイント上昇した。7月の同指標は+6.3%、同コア+4.6%と、ともに年末の予想水準を上回っている。FRBの積極的な利上げ継続とエネルギー価格の落ち着きなどを受けて、年末に向けて物価高がやや落ち着くという見込みを表している。 今回の市場予想は前年比+6.0%、コア前年比+4.8%。全体の伸び率は前回から低下も、コアの伸び率は前回を拡大する見込み。13日に発表された8月の米消費者物価指数(CPI)は+8.3%と7月の+8.5%から伸びがやや減速したが、市場予想の8.1%を上回った。コアCPIは+6.3%と7月の+5.9%から伸び率がアップし、市場予想の6.1%も超える強めの結果となった。CPIと同系統の指標であるPCEデフレータでも同様の強さが示されると、米国の大幅利上げ観測がさらに強まり、ドルが買われそうだ。次回FOMCでの0.75%利上げ継続観測が強まれば、1ドル=150円に向けてドルが上昇していく可能性がある。 |
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