2022年10月03日号

(2022年09月26日~2022年09月30日)

先週の為替相場

ポンド相場が大荒れ

 先週(9月26-30日)初めからポンドの値動きが荒くなり、その他通貨も不安定だった。

 英国のトラス新政権が9月23日、大型減税を柱とする経済支援策を発表すると、市場では財政赤字拡大に対する懸念が広がった。英国債の価格が急落(債券利回りは急騰)する中でポンドは急落。23日朝のロンドン市場の1ポンド=1.12ドル台半ばから、節目とされた1.10ドルを割り込んでも下げ止まらず、NY市場で1.08ドル台まで下げて先々週末を迎えた。週明けも1.08ドル台から売りが続き、26日午前の東京市場で1.0350ドル前後と対ドルで史上最安値を付けた。クワーテング財務相が英BBCとのインタビューで、「市場の混乱に動じず、積極的な支援を行う」「減税について、まだ追加がある」などと発言したことも週明けのポンド売りを誘った。1.07割れから1.0350前後までごく短時間で急落し、フラッシュクラッシュ(用語説明1)との見方が出ていた。

 その後は1.09ドル台までポンドが値を戻したが、財政赤字への強い懸念を背景とする国債価格下落(利回り上昇)基調にあって上値は重かった。1.06ドル台で迎えた9月28日に英イングランド銀行(中央銀行)が長期債の買い入れを発表すると、1.06ドル台から1.08ドル台へポンドが急騰。いったん1.05ドル台前半へ急落した後に1.09ドル台まで急反発するなどポンド相場は乱高下した。その後はポンド買いが優勢となり、週後半には1.12ドル台までポンド高ドル安が進んでいる。

 イングランド銀行が積極的な利上げを進め、保有債券売却の開始が10月3日に迫る(10月31日に開始を先送り)中で長期債購入の決定は従来の姿勢と矛盾するため、市場が混乱したとみられる。

 イングランド銀行による長期債購入については、英年金基金の危機回避が目的だったと報じられている。英年金基金によるLDI(用語説明2)で担保となる長期債が直近の積極的な利上げによって急落し、追加の担保請求が生じる可能性が広がっていた。こうした事態を受けて英年金基金の規制・監督当局が緊急会合を開き、今回の長期債購入につながったものとみられる。こうした報道が広がるにつれて、危機回避を好感する形で週後半に向けてポンド買いが広がった。

 一方、日本政府・日銀による22日の市場介入を受けたドル安円高の流れが反転。介入警戒感が残る中でもドル買い円売りが進み、1ドル=144円台後半を回復。節目の145円手前では買いに慎重な姿勢が見られたが、ドルは底堅く推移した。

 米10年物国債の利回りが一時4%を超えるなど金利上昇が先週前半のドル買い材料となった。

 イングランド銀行による買い入れを受けて英債券利回りが急低下(債券価格が上昇)。28日は英国債利回りの低下に連れる形で米10年物国債の利回りが4%台から3.7%割れまで大幅に低下したことがドルの売り材料となり、一時143円台を付けた。

 米債利回り低下が止まった後はドルの買い戻し基調が続き、144円台後半で先週の取引を終えた。

今週の見通し

 ドルは対円で堅調を維持か。

 介入警戒感がドルの上値を抑えているが、神田真人財務官は22日の市場介入後に鈴木財務大臣との共同記者会見で、145円を防衛ラインとする見方をはっきりと否定したため、水準だけでは再度の介入実施は難しいとみられる。

 ドル高円安が緩やかに進行する場合、再度の市場介入の予想に反して政府・日銀は動かず、ドルはじりじりと上昇する可能性が高そうだ。

 中長期的には150円が意識され、介入警戒感が残る中で145円台をどこまで買い上がれるかが今後のポイントになる。9月22日に届かなかった146円台乗せを契機に、ドル買い円売りの流れが加速する可能性もある。

 ポンドは不安定な動きが続きそうだ。世論調査などでの支持率急落を受けて、トラス新政権は方針転換を余儀なくされている。しかし、減税とエネルギー対策を公約として首相になった経緯があるため減税政策の完全撤廃は難しく、ポンドをどこまで買い上がれるか不透明だ。半面、先週初めのポンド下落は行き過ぎの感が強く、ポンド売りに慎重な姿勢も見られる。このため、ポンドは不安定な動きが当面続きそうだ。

用語の解説

フラッシュクラッシュ 株式や外国為替など金融市場で、ごく短時間のうちに価格が急変すること。取引量の乏しい時間帯や、取引が閑散な商品で起こりやすい。日頃から市場で取引されている量を超える売買注文が集中することで大幅な価格変動が生じる。
LDI LDI(Liability Driven Investment :ライアビリティ・ドリブン・インベストメント)。債務主導投資、年金負債対応投資ともいう。年金債務(年金給付)のキャッシュフロー(将来的な年金の支払い)に資産のキャッシュフローを近づけることを目的とした投資手法。長期国債の保有などで資金の出入りを将来的な年金債務の支払いに一致させる最小リスクポートフォリオが基本となるが、年金債務に一致する超長期の国債がなく、国債や社債などの保有による運用だけでは収益が低くなることなどから、保有債券を担保として積極的にリスクを取るアクティブ運用を交えることが多い。急落した英国債の担保価値の目減りが追加の担保請求を招き、年金基金の保有する債券や金融商品の投げ売りに進展する恐れがあった。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数(9月)
10月03日23:00
☆☆☆
 前回8月の米ISM製造業景気指数は52.8と7月から横ばい。51.9に鈍化するとの市場予想だったが、底堅さを見せた。内訳は生産が2020年5月以来の低水準だった一方、7月分では好悪判断の境となる50を下回っていた新規受注と雇用が大きく伸びて全体を支えた。今回は52.5と前回から若干の鈍化する見込み。前回大きく改善した新規受注と雇用がやや減速する見通し。予想に反して前回以上の好結果であれば、連続大幅利上げに抗する米国の景況感の力強さを好感してドル買いにつながる可能性がある。1ユーロ=0.96ドル台へのユーロ売りドル買いなどが予想される。
豪準備銀行(中央銀行)政策金利
10月04日12:30
☆☆☆
 豪準備銀行は9月6日の理事会で市場予想通り0.5%の利上げを決定した。利上げは5月の理事会から5会合連続、0.5%幅での利上げは4会合連続。前回理事会の声明で追加利上げを示唆したこと、第2四半期の消費者物価指数が前年比+6.1%と21年ぶりの高水準だったこと、第3または第4四半期に7%超えまでインフレが進むと予想されることなどが大幅利上げ続行観測につながっている。一方、前々回までの理事会声明にあった「正常化」の文言は削除されており、金利が中立に近付きつつあることが示唆されている。今回の声明などで今後の利上げ幅縮小に向けた動きが見込まれる場合、豪ドル売りが強まり、1豪ドル=0.63ドル台に向けた展開が予想される。
米雇用統計(9月)
10月07日21:30
☆☆☆
 前回8月分の米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+31.5万人、失業率が3.7%だった。NFPは7月の+52.6万人を下回ったが、市場予想の30.0万人を上回った。直近のトレンドでみても7月分の+52.6万人はやや強すぎる感がある。上振れした7月実績比30万人超えは、米雇用市場の底堅さを印象付けた。失業率は7月の3.5%から悪化したが、こちらは7月と比べて労働力人口が一気に78.6万人も増え、労働参加率が7月分の62.1%から62.4%まで上昇したことが要因。雇用市場が堅調に推移することで、これまで求職活動していなかった層(年配層や主婦、さらには職探し自体をあきらめていた層)が求職を始めて労働力人口として新しくカウントされるものの、仕事に就くまでにはタイムラグがあるため、一時的に失業率が悪化する現象で、どちらかというと雇用市場の堅調さを示すものとなっている。
 内訳をみると、サプライチェーン問題を抱える自動車及び同部品部門などで小幅な雇用減はあるが、その他は幅広く雇用が増加している。
 今回も好調が予想され、市場予想は非農業部門雇用者数が+25.0万人と前回から伸びが小さくなるが、水準的にはまずまず。失業率は前回と同じ3.7%。予想前後か予想より強めの結果が出ると、11月1、2日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)での0.75%利上げ観測を支え、1ドル=145円超えに向けたドル高となりそうだ。

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