2022年10月17日号

(2022年10月10日~2022年10月14日)

先週の為替相場

ドル円は高値トライ

 先週(10月10-14日)はドル高円安が加速し、週末に1ドル=148円台後半と、ドルが約32年ぶりの高値を付けた。12日発表された9月の米生産者物価指数(PPI)と13日発表された米消費者物価指数(CPI)の伸び率がともに市場予想を上回ったことを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な利上げを継続すると見方が強まり、ドルが買われた。

 米短期金利先物が織り込む将来の政策金利を示すCME FedWatchによると、次回11月1、2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.75%利上げ確率は約98%とほぼ織り込み済み。前回FOMC(9月20、21日)後に公表されたFOMC参加メンバーによる年末時点での政策金利予想の分布を示すドットプロットで、11月の0.75%利上げが示唆されたこともあり、これまでも大勢は0.75%だったが、0.75%利上げが3回連続しており、米経済への悪影響が懸念されることから、0.5%利上げ予想が一定程度残っていた。9月28日に米10年物国債の利回りが4%台から3.6%台へ急低下した際、0.5%利上げが46.8%、0.75%利上げが53.2%と予想がほぼ拮抗した。しかし、先週の米PPIとCPI発表後、ほぼ100%が0.75%利上げ予想となった(ごくわずかに1.0%利上げ予想もある)。12月13、14日のFOMCでは、ドットプロットで0.5%利上げが示唆されていたため10月初めには0.75%利上げ予想は見られなかった。米雇用統計の好結果などを受けて大幅利上げ観測が強まったとはいえ、先週初め時点でも23%程度と少数派にとどまっていた。しかし、先週の米PPIとCPIを受けて0.75%利上げ予想が約65%となっており、こうした政策金利見通しの変化が強力なドル買いにつながった。

 先週前半は9月22日に政府・日銀がドル売り円買い介入を実施した145円90銭前後を意識し、ドル買い円売りに慎重な姿勢もあった。ただ、145円台前半ではドル買いが入るなど堅調な地合いを維持。米PPIとCPIの好結果を受けてドル買いが強まり、9月の高値を超えてドル高円安が進んだ。147円00銭前後でも売り注文が出て、12日の海外市場ではいったん上値を抑えられたが、翌13日の海外市場で147円台後半までドルが買い進まれた。1998年8月の高値147円63銭超えの後、1円を超える大幅などドル安となる場面もあったが、すぐにドル買い優勢に転じるなど堅調な地合いが週末まで続いた。14日の海外市場では、ドル買いがさらに広がって148円台後半を付けた。

 9月に発足したトラス英新政権による減税案などを巡り、ポンドは不安定な動きを続けている。財政赤字拡大への懸念などから先週前半に1ポンド=1.1000ドル前後までポンドが下げた後、英イングランド銀行(中央銀行)が長期債購入の増額やインフレ連動債の購入対象への追加を決めたことを好感し、1.1180ドル前後まで上昇。しかし、イングランド銀のベイリー総裁が長期債購入を当初予定通り14日で終了すると確認したことで1.09ドル台前半までポンドが売られた。

 その後はポンド高に転じた。英中銀は担保差し入れ条件を緩めた資金供給オペを11月10日まで延長すると発表。保有する長期債価格の下落でLDI(債務主導投資)が大きな打撃を受けている年金基金からのマージンコール(追加担保の拠出要求)に伴う現金需要に対応する姿勢を示したことで、英金融市場の流動性危機が後退したとの見方がポンド高につながり、1ポンド=1.13台後半まで買い戻された。週末にかけて減税策を主導したクワーテング英財務相が更迭されたことなどがポンド買い材料とされたが、1.11ドル台後半まで調整が入った。

今週の見通し

 ドル高円安基調継続へ。

 政府・日銀によるドル売り・円買いの市場介入への警戒感がドルの上値を抑えながらも、ドル高円安の流れは継続している。

 ドルは対円で32年ぶりの高値圏にあり、ドル売り円買い介入も予想される。市場介入は急激なレート変動をならす「スムージングオペ」が基本であり、じりじりとドル高円安が進む流れで介入するのは難しそうだ。

 心理的な節目の150円を超えるとドル買い円売りがさらに加速する可能性もある。

 今週は目立った米指標発表予定がなく、これまでの流れを確認しながらの展開が予想される。先週強まった米FRBの積極的な利上げ観測が今週も続けば、ドル買いがさらに強まり、1ドル=150円超えを目指す展開が予想される。

 ポンドは対ドル、対円ともに不安定な動きが続きそうだ。英30年物国債(Gilt・用語説明1)の利回りは先週半ば、5%を超えた。週末にかけて4.3%近くまで低下したが、英イングランド銀による長期債購入は先週末で終了しており、再度の利回り上昇が警戒されている。積極的な減税策を主導したクワーテング財務相が14日に更迭され、後任にハント元外相(用語説明2)が就いたことや、トラス首相が公約としてきた法人税率引き上げの廃止を断念したことから、財政赤字拡大への懸念が後退し、ポンドの買い材料となっている。しかし、トラス首相への辞任要求が強まっており、ポンド相場の先行き不透明感がかなり強い。

 物価押し上げ効果のある減税方針の撤廃を受けて、11月3日の英イングランド銀金融政策委員会(MPC)での大幅利上げの必要性は後退したとの見方があり、1ポンド=1.10ドルを意識する展開が予想される。ポンドの対円レートは円安次第の面があり、ポンド売りよりも円売りの勢いが勝る可能性がある。1ポンド=160円台を中心に上下どちらにも大きく動くリスクがありそうだ。

用語の解説

英国債(Gilt) Giltとはもともと金箔や金色の、という意味。英国債の券面が金色で縁取りされていたことから英国債のことをGiltと呼ぶ。日本でギルトもしくはギルト債などと呼ばれることもある。最も発行量の多い利付国債は5、10、30、50、55年満期のものが発行されている。
ハント財務大臣 ジェレミー・ハント(Jeremy Hunt)財務大臣。オックスフォード大学モードリンカレッジを卒業後、教育関連事業のホットコース(現IDPコネクト)の共同創業者などを経て、2005年に下院(庶民院)に初当選。2010年総選挙で保守党が勝利し、キャメロン政権が誕生すると、文化・オリンピック・メディア・スポーツ担当相に就任。保健相などを経て、2018年7月からメイ政権下で外務相となった。2019年の保守党党首選ではジョンソン氏に決選投票で敗北。ジョンソン首相辞任を受けて2022年党首選にも出馬したが、1回目投票で最下位となり敗北した。その後はスナク元財務相を支持する姿勢を示していた。クワーテング財務相が10月14日に更迭されたことを受けてトラス首相から新財務相に指名され就任。大学卒業後、議員になるまでの間に約2年間、英語教師として日本に滞在している。

今週の注目指標

英消費者物価指数(9月)
10月19日15:00
☆☆
 トラス新政権による減税策を受けた財政赤字拡大への懸念や、英長期債価格の急落を受けて危機が報じられた英年金基金救済などを目的とした英イングランド銀による長期債購入などの一連の事態を受けて、ポンドはこのところ値動きが荒い。今週は19日に英物価統計が発表される。インフレ目標の対象である消費者物価指数は前回と同じ前年同月比+9.9%が予想されている。7月に10.1%と2けたに乗せてから、高水準で推移している。今回発表分までは、電気・ガス料金が4月改定時の水準で据え置かれているが、10月1日からの料金改定を受けて物価が一段と上昇すると予想される。9月分の上昇率が市場予想を超えると、インフレ加速への警戒感が強まり、1ポンド=1.08ドル台に向けたポンド売りとなる可能性がある。
米住宅着工件数(9月)
10月19日21:30
☆☆
 米FRBの積極的な利上げ姿勢などを受けて米長期金利が上昇。先週後半に米10年債利回りは9月28日以来となる4%台に乗せた。米国の住宅ローンで最も一般的な30年固定金利(フレディ・マック:米連邦住宅抵当貸付公社)は最新10月6-12日の週平均で6.92%と7%に迫った。米連邦住宅金融庁(FHFA)による全米平均の住宅価格は建設費高騰もあって、最新の7月分で前年比13.9%上昇し、消費者物価指数の伸びを大幅に上回っている。
 家賃の上昇や雇用の堅調から根強い住宅購入意欲が見込まれるが、価格と金利の両面から厳しい状況にある。同指標は今春の180万件目前から7月に140.4万件に減少。前回8月は157.5万件に回復したが、今回の148万件前後と再び低下が予想される。経済全体への波及効果が大きい住宅市場の顕著な冷え込みが米景気停滞への懸念につながる可能性がある。住宅着工件数が市場予想をさらに下回ればドル売りが広がり、1ユーロ=0.98ドル台を回復するなどの動きも予想される。
トルコ中銀政策金利
10月20日20:00
☆☆☆
 トルコ中央銀行は今月の金融政策会合で政策金利を12%から11%に引き下げ、8、9月に続く連続金融緩和が予想される。トルコは9月の消費者物価指数が前年比+83.45%、同生産者物価指数が前年比+151.5%と、驚異的な物価上昇率となっている。一般に物価高騰下では大幅利上げが見込まれるが、利下げ志向の強いエルドアン大統領の影響を受け、今回も利下げを実施するという見方が大勢だ。ただ、これにより物価高がさらに加速する可能性がある。利下げはある程度は織り込み済みだが、市場の警戒感が高まれば1リラ=7円50銭に向けたリラ売りの可能性もある。

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