2022年11月14日号

(2022年11月07日~2022年11月11日)

先週の為替相場

米消費者物価指数発表後、ドル売りが強まる

 先週(11月7-11日)は10月の米消費者物価指数(CPI・用語説明1)発表後にドル売りが急激に強まった。

 11月4日発表された10月の米雇用統計で、失業率が市場予想を超えて悪化したことなどを受けて、週前半からドル売りが若干優勢となった。先々週後半の1ドル=148円台半ば近くから先週半ばには145円台前半を付けた。今後の米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げペースの決定に影響するとの思惑から、10日発表の米CPIに注目が集まる中、発表前にドル売りポジションの調整が入り、146円台を回復して発表を迎えた。

 10月の米CPIは前年比+7.7%と、9月の+8.2%から上昇率が急速に縮小し、市場予想の+7.9%も下回った。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアCPIの前年比は+6.3%と、こちらも9月の+6.6%、市場予想の+6.5%を下回った。

 この結果を受けてドルが急落し、ドル円は同日NY市場夕方に140円台前半を付けた。翌日の東京市場で、利益確定のドル買いなどからいったん142円台半ば近くまで上昇したものの、ドル安の流れは変わらず、11日の海外市場で138円台半ば割れを付けている。米消費者物価指数の発表から1日半ほどで約7円60銭のドル安円高となった。

 米短期金利先物が織り込む将来の政策金利水準を示すCME FedWatchを見ると、今月初めには12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ幅の見通しは0.5%と0.75%が拮抗していた。米失業率の上昇などを受けて0.5%利上げ見通しが若干優勢となったが、米CPIの発表直前で0.5%利上げが約57%、0.75%利上げが約43%と見方が分かれていた。米CPI発表後は0.5%利上げ見通しが約85%と急増し、ドル売りにつながった。

 米CPI発表後の米長期債利回りの急低下もドル売りの材料となった。長期債利回りの指標となる10年債利回りは、米CPI発表前の4.1%前後から同日NY市場午後に3.81%台を付けている。12日はベテランズデー(用語説明2)の祝日で米債券市場は休場だった。

 対円以外でもドル安が優勢となった。先々週の米雇用統計後のドル安から、1ユーロ=0.97ドル台から0.99ドル台にユーロが上昇して、先週の取引をスタート。先週前半もドル安が進む中で週の半ばには1.01ドルに迫った。その後利益確定のユーロ売りドル買いなどに押され、0.99ドル台前半で米CPIの発表を迎えると、発表後に1.01ドル台までユーロが急上昇した。その後もユーロ高ドル安の流れが継続し、週末には1.03ドル台後半を付けている。米CPI発表前の1ポンド=1.13ドル台後半から1.18ドル台半ば超えを付けるなど、欧州通貨高ドル安となった。

 もっとも、対円でのドル安の勢いが強かったこともあり、米CPI後のユーロやポンドは対円では下落した。1ユーロ=146円台後半から142円台後半までユーロが売られ、1ポンド=167円台前半から163円00銭近くを付けるポンド安となった。

今週の見通し

 今週は先週の米CPIほどの注目を集める経済指標の発表予定はなく、米CPI後のドル安がどこまで続くのかを見極める週になるだろう。

 10日の海外市場で米CPI発表前に付けた146円50銭台から、11日の米国市場夕方に付けた138円40銭台まで、短期間で8円強という大幅なドル安円高となった。その直後だけに、さすがにやりすぎ感が出ている。先週末11日は米国が「ベテランズデー」で銀行休業日となっており、取引参加者が通常の週末に比べてかなり少なかったことも、米国勢の本格復帰後の調整ムードを期待する動きにつながっている。

 ただ、中期的にはドル売りの流れが継続中とみられる。今回の米CPIの低調を受けて、12月FOMCでの利上げ幅縮小見通しが強まるだけでなく、ターミナルレート(米国の一連の利上げの終着点となる水準)について、CPI発表前の5.00-5.25%から4.75-5.00%に見通しが下方修正されている。また、短期金利市場では来年9月には利下げに転じるとの見通しが大勢となるなど、今後のFRBの姿勢について慎重な見通しが強まっている。

 こうした金利面での見通しの変化は中長期的な相場の流れに影響してくる。行き過ぎた動きに対する調整が短期的に入ったとしても、中期的にはドル安の流れが継続する可能性が高い。目先のターゲットは136円台半ば。年末から来年初めにかけては130円に向けた動きが見込まれる。

用語の解説

米消費者物価指数 米労働省労働統計局(BLS)が、都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を調査して指数化したもの。米国のインフレ目標の対象は米商務省が発表する個人消費支出(PCE)デフレータであり、日本を含め多くの国でインフレ目標の対象とされているCPIではない。しかし、発表時期が対象月の翌月15日前後とPCEデフレータに比べて約2週間早く、変化の傾向が似ているため、速報性を重視する市場の注目度はCPIの方が高くなることが多い。
ベテランズデー ベテランズデー(Veterans Day:退役軍人の日)は、退役軍人に敬意を表する祝日。第1次世界大戦においてドイツが休戦協定に調印した11月11日を祝う形で祝日となり、第2次世界大戦後の1954年にベテランズデーに名称が変わった。政府機関、銀行、公立の学校などは休日だが、民間企業は休業とならないところがあり、NY証券取引所やNY商業取引所などが開いているため債券市場は休場だが、株式や商品の取引は行われる。

今週の注目指標

英消費者物価指数(10月)
11月16日16:00
☆☆☆
 3日に英イングランド銀行(中央銀行)は政策金利を市場予想通り0.75%引き上げた。今後は米FRB同様に利上げ幅縮小が見込まれている。11日発表された英第3四半期GDP速報値は前期比-0.2%とマイナス圏に沈んだ。しかし、市場予想の-0.5%に比べると悪化は限定的だった。英GDPと同時刻に発表された9月の英鉱工業生産も予想外にプラス圏に浮上するなど、ここにきて英経済指標が比較的好調となっている。半年ぶりの公共料金の改定で、10月から電気・ガス料金などが引き上げられたため、10月の英消費者物価指数は前年比+10.7%と9月の+10.1%から大きく上昇する見込みとなっている。予想を超えて11%前後の強い伸びを示すようだと、好調な経済指標から英経済は大幅利上げに耐えられるとの見方もあり、利上げ幅縮小観測が後退し、ポンド高となる可能性がある。1ポンド=1.20ドル超えが意識される。
米小売売上高(10月)
11月16日22:30
☆☆☆
 4日発表された10月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を上回る伸びとなる一方、失業率が予想外に悪化した。これまで堅調だった米雇用市場に対する警戒感が広がる中で、雇用情勢と密接に関係する個人消費の動向が注目される。10月の米小売売上高の市場予想は前月比+0.9%と9月の横ばいから上昇し、6月以来の高い伸び率になると予想されている。サプライチェーンの混乱緩和を受け、10月の米新車販売台数が前年比+12.1%(JDパワー調査)と伸びていることなどが好結果予想につながっている。予想通りかそれ以上の大幅な伸びを示すと、1ドル=140円台回復といったドル高につながる可能性がある。
米住宅着工件数(10月)
11月17日22:30
☆☆
 人件費高騰やインフレを受けた資材の値上がりなどから米国の住宅価格は上昇傾向にある。米長期金利上昇を受けて、米国で最も一般的な30年固定の住宅ローン金利(Freddie Mac:連邦住宅金融公庫)は2002年以来の7%台を付けている。一方、家賃の上昇が集合住宅の建設を後押ししているほか、堅調な雇用情勢が住宅購入意欲につながっている。米国の住宅着工件数は4月分が180.5万件(年率換算)まで増加した後、7月分が137.7万件まで減少。その後少し回復し前回9月分は143.9万件となっている。10月の市場予想は141.2万件と、減少傾向にあるとみられる。市場予想を割り込み、7月並みかそれ以下の低調な結果を示すと、利上げ幅縮小見通しが一段と強まる形でドルが売られ、1ユーロ=1.04ドル台に向けた動きが予想される。

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