2023年01月16日号

(2023年01月09日~2023年01月13日)

先週の為替相場

ドル安、円高両面からドル円は下げる

 先週(1月9-13日)はドル安と円高がともに進んだ。12日発表された昨年12月の米消費者物価指数(CPI)が弱めに出るとの見通しが広がり、ドルが売られた。CPI上昇率は市場予想とほぼ同じ前年同月比6.5%と1年1カ月ぶりに7%を割り込み、ドルはさらに下落した。日銀が17、18日の日銀金融政策決定会合で大規模金融緩和の副作用を点検するとの読売新聞報道を受けて、円買いも強まった。日銀は昨年12月19、20日の会合で、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)下での10年物国債利回りの許容変動幅を0.25%から0.5%へ拡大したが、利回り曲線の歪みは解消していない。今回会合での変動幅拡大やYCC撤廃の見通しが広がり、円高となっている。

 先々週末からの流れを受けて、先週はドル安円高が進み、成人の日の祝日で東京勢の参加が少ない9日、アジア市場で1ドル=131円31銭前後を付けた。6日発表された昨年12月の米雇用統計(12月)で平均時給が予想予想を下回り、米国のインフレ圧力が後退するとの観測が広がったことや、同日発表された昨年12月の米供給管理協会(ISM)非製造業景気指数の下振れなどがドル売りの材料となった。

 6日の米雇用統計前の134円台後半からの大幅なドル安ということもあり、その後は利益確定のドル買いなどで132円台を回復。12日の米CPI発表を意識しながら、週後半まで131円台から132円台後半のレンジ取引となった。

 12日朝、ドルが対円で急落した。日銀が17、18日の金融政策決定会合でこれまでの大規模緩和の副作用を点検するとの報道が円買いにつながった。米CPI発表を前にドルは9日の安値を割り込み、130円台後半を付けた。1ユーロ=140円、1ポンド=159円台前半を付けるなど、ドル以外の通貨に対しても軒並み円高となった。一方、1ユーロ=1.07ドル台、1ポンド=1.21ドル台での取引が続き、米CPI発表を前に、対円を除けば対ドルの値動きは限定的だった。

 米CPIはほぼ市場予想通り。市場予想を下回るとの見方が一部にあったため発表直後はドル高となったが、値幅は限られた。元々の予想がかなり低水準だったことに加え、CPI発表後に次回(1月31日-2月1日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅が0.25%に縮小されるとの見方が広がり、すぐにドル安に転じた。1ドル=130円の大台を割り込むとドル売りがさらに強まり、12日の海外市場で一時128円台を付けた。

 13日もドル安円高の流れが続いた。日銀会合で大規模緩和の副作用を点検と12日に報道されてから金融機関の調査部門などがYCC再修正や撤廃の見通しを相次いで示し、円買いにつながった。米CPI発表後のドル売りの流れも続き、ドル売りと円買い両方の影響を受けてドル安円高が大幅に進み、一時127円台半ばを割り込んだ。

 6日発表された米雇用統計・ISM非製造業景気指数を受けたドル売りが継続し、9日の海外市場で1ユーロ=1.07ドル台後半までユーロが上昇。その後は12日の米CPI発表まで1.07ドル台で推移した。米CPI後はドル売りが強まり、1.08ドル台後半までユーロが上昇。その後は対円でのユーロ売りに1.08ドルを一時割り込んだが、すぐに1.08ドル台を回復して先週の取引を終えた。

 一方、週後半の円高進行から1ユーロ=142円台後半から138円00銭前後のユーロ安円高に動き、1ポンド=161円台から155円台後半を付けるなど、円は全面高となっている。

今週の見通し

 17、18日の日銀金融政策決定会合をにらむ展開。前回の会合でイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)下での10年物国債利回りの許容変動幅を0.25%から0.5%へ拡大したが、利回り曲線は残存期間8年、9年の国債利回りが10年国債利回りより高く、10年のところでくぼみが出来て、残存10年超で大きく上昇するという歪んだ形が続いている。

 先週は10年物日本国債の利回りが許容上限である0.5%で張り付いた後、13日には0.5%を一時超えた。日銀が0.5%で無制限の指値オペ(用語説明1)を実施しているにも関わらず、0.54%など0.5%を超えでの債券売り(利回り上昇→債券価格下落、0.5%の方が債券価格は高い)が発生する珍しい事態となっている。指値オペの対象とならない日銀の国債補完供給(用語説明2)によって借り受けた国債の市中売却が進んでいるとみられる。事実上の空売りとなるこうした売りは、今週の会合でYCCの再修正か撤廃によって10年国債利回りが急騰(債券価格が急落)すれば、より安く買い戻せる。債券市場でYCCの再修正か撤廃を予想する動きが広がっていることが示されている。

 日銀がYCCの再修正を見送った場合、市場の歪みを放置する形となり、修正を催促する形で国債の売り圧力が高まるだろう。YCCを再修正する場合、長期金利の許容変動幅を0.75%か1.00%に再拡大することとなる。ただ、0.75%の拡大にとどめた場合は、市場の実勢水準よりも金利は低いままで、利回りはすぐに0.75%に張り付き、さらなる修正を催促する相場展開となる可能性が高い。1.00%への変動幅拡大やYCC撤廃は事実上の利上げとなり、日銀によるこうした決定は円買いの材料となり、節目の125円を割り込んでドル安円高が進む可能性がある。

用語の解説

無制限の指値オペ 通常の国債買入オペレーション(買いオペ)で日本銀行は買入金額を指定する(1月16日実施の国債買入であれば残存期間1年超3年以下1000億円、3年超5年以下5000億円など)。指値オペでは、買入利回りを残存10年0.5%に指定し、金額に制限を設けない。これにより0.5%より高い利回り(低い債券価格)では国債が売られず、0.5%が利回りの上限(価格では下限)となる。ただし、国債補完供給によって提供された国債は買入の対象外となる。
国債補完供給 国債市場での流動性を保つため、日本銀行が保有する国債を一時的かつ補完的に供給するもの。形式は国債の買い戻し条件付き売却。事実上の貸借取引であり、債券市場では国債の購入ではなく借り受けると表現することが多い。

今週の注目指標

日銀金融政策決定会合
1月17、18日
☆☆☆
 前回の日銀金融政策決定会合で、大方の無風予想に対して、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)下での10年国債利回りの許容変動幅をプラスマイナス0.25%から同0.5%へ拡大した。マイナスに振れることは現状では想定しにくいため、10年国債の利回りを0.5%まで上昇することを容認した事実上の利上げであると市場は捉え、円高が急速に進んだ。もっとも、黒田東彦日銀総裁は同対応を利上げではないと説明している。短期債から長期債に向かって国債利回りが高くなる中、満期まで8年や9年より10年の利回りが指値オペで低くなり、10年超で再び大幅に上昇する歪んだ形となっていた。
昨年12月の利回り許容幅拡大はこうした市場の歪みを解消するための対応とされたが、歪みは解消されていない。10年国債利回りは1月に入って0.5%で張り付く場面が目立ち、13日には0.5%を超える場面があった。債券市場は今回の日銀会合でYCCの再修正や撤廃がある可能性をみている。
ただ、日銀は再修正に消極的な姿勢を示している。金融機関などから0.75%への再拡大、1%への大幅な再拡大、撤廃などの見通しが示される一方、据え置きとの見通しも根強い。利回り許容変動幅が据え置かれた場合、円売りがいったん強まりそうだが、市場の歪みを放置する形となり、今後への警戒感が強まる可能性がある。0.75%への拡大でも歪みの解消にはならず、再修正を促す相場となる可能性があり、こちらも警戒感が強まりそう。1%への大幅な再拡大や撤廃の場合、歪み自体は解消されるが、事実上の大幅利上げとなるため、国内景気への影響が懸念される。どの結果でも基本的に円買いの圧力が強まるとみられ、1ドル=125円に向けた動きが強まると予想する。
米小売売上高(12月)
1月18日22:30
☆☆☆
 前回11月の小売売上高は市場予想を下回る前月比-0.6%となった。自動車及び同部品が前月比-2.3%となり、全体を押し下げた。建材、無店舗小売など幅広い業種で売り上げが減少し、全13業種中9業種でマイナス圏となっている。今回も厳しい状況は変わらないとみられ、市場予想は前月比-0.9%となっている。変動の激しい自動車を除いたコア部分も-0.5%と11月の-0.2%から減少幅が拡大する見込み。前回の小売売上高の発表を受けて、全米小売業協会(NRF)はインフレと金利上昇が家計を圧迫しているとの見方を示した。物価上昇率は抑えられてきているが、依然として高水準であり、今回の売上高減少に寄与すると見られる。また、11月から12月にかけてガソリンの小売価格が大きく下落したため、ガソリンスタンド売上高の大幅な減少も小売売上高全体を押し下げてくると予想される。市場予想を超えて小売売上高の減少幅が拡大すると、今後の米景気への警戒感につながり、1ユーロ=1.09ドル台に向けたドル安の動きが強まると予想される。
豪雇用統計(12月)
1月19日09:30
☆☆
 昨年11月の豪雇用統計は雇用者数が前月比+6.4万人と、市場予想の+1.9万人、10月の+4.31万人(+3.22万人から上方修正)を超える力強い伸びとなった。失業率は約50年ぶりの低水準だった10月の3.4%を維持した。正規雇用、非正規雇用がともにしっかりと伸びており、好印象を与えている。労働参加率は過去最高水準となる66.8%に達した。今回の市場予想は2.5万人の雇用者増。前回が強すぎたため、増加幅は縮小するが、かなりの高水準だ。主要輸出先である中国の景気回復期待から豪ドルが買われやすい地合いとなっているところに、雇用統計の好結果が重なれば、豪ドル買いが加速し、昨年8月以来の1豪ドル=0.71ドル台を試す可能性がある。

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