2023年02月13日号
先週の為替相場
ドル買い優勢の後、落ち着く
先週(2月6-10日)は6日の海外市場で1ドル=132円90銭を付けるなど序盤にドル買いが優勢となったが、その後ドル高は落ち着いた。
3日に発表された1月の米雇用統計が新規就業者数が市場予想を大幅に上回り、雇用統計前の128円台前半から131円台までドルが急伸して先々週の取引を終えた。日本経済新聞が週明け6日午前2時、政府・与党が雨宮正佳日銀副総裁に次期総裁就任を打診したと報じたことを受けて、円売りが進んで先週の取引が始まった。雨宮氏は黒田東彦総裁の下で企画担当理事として異次元緩和や金利操作(YCC)などの政策をまとめた実績があり、「雨宮総裁」下ではYCCの継続などが見込まれるとの思惑が円売りを誘った。早朝のオセアニア市場で132円台半ばを超え、3日海外市場の1ユーロ=141円60銭台から143円手前までユーロ買い円売りが進むなど円は一時全面安となった。同人事について鈴木俊一財務相が6日朝に何も聞いていないと発言し、同日午前の記者会見で磯崎仁彦官房副長官がそのような事実はないと日経報道を否定すると円売りは一服した。
1ドル=131円50銭台までドル高の調整が入ったものの、6日海外市場で再びドル買い円売りが強まり、ドルはオセアニア市場の高値を超えて132円90銭前後を付けた。この動きはドル高が主導しており、1ユーロ=1.08ドル近くから1.0710ドル前後のユーロ安ドル高に動いた。3日発表された米雇用統計の好結果を受けて、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ打ち止め観測は後退。2023年中の利下げ開始見通しは後退しており、ドル高が進みやすい地合いとなっている。7日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のインタビューを控えて一時ドル高がさらに進んだが、パウエル議長の発言に米雇用統計の上振れを受けたタカ派な姿勢はうかがえず、1ドル=130円台半ば割れのドル安円高となり、1ユーロ=1.06ドル台後半から1.0760ドル台へ、ユーロは対ドルで上昇した。
9日の東京市場午後に円高が一時的に進んだ。日銀次期総裁人事について、YCCなどに批判的とされる山口広秀元副総裁では党内がまとまらないと自民党議員が発言したと一部で報じられ、円が買われた。山口氏では自民党内がまとまらないという否定的な報道だったが、山口元副総裁というワードを受けて自動売買による円買いが入ったとの観測が市場で流れていた。同日の高値から1円以上ドル安円高の1ドル=130円80銭前後を付けたが、すぐに131円台後半に戻す激しい値動きとなった。同日海外市場ではドル売りが再び優勢となり、1ドル=130円台前半を付けた。イングランド銀行(中央銀行)のベイリー総裁やピル政策委員会委員兼チーフエコノミストらが英国議会で証言し、インフレが予想以上に持続するリスクに警戒感を示したことなどがポンド買いドル売りにつながり、ドル全面安のきっかけとなった。もっともこのドル売りは続かず、同日の米国市場でドル円が131円台後半を付けるなど、ドルの買い戻しが見られた。
10日東京市場午後からロンドン市場にかけて131円台後半から129円台までドル安円高となった。次期日銀総裁に経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏(用語説明1)を起用する人事案を政府が固めたとの報道が円買いのきっかけとなった。氷見野良三前金融庁長官(用語説明2)と内田真一日銀理事の副総裁起用も併せて報じられた。黒田路線の継承者と目されていた雨宮日銀副総裁ではなかったことが円買いにつながったようだ。その後ドルは131円台後半まで買い戻された。植田氏は日銀審議委員時代、当時の速水優総裁によるゼロ金利政策導入を理論的に支えたとされ、中立もしくはハト派であっても、タカ派ではないとの認識が広がったことが円買いの調整につながったと推測される。14日発表の米消費者物価指数(CPI)を受けて、市場のターミナルレート(利上げの最終到達水準)に関する見通しが上方修正されるのではとの思惑もドルを押し上げた。
今週の見通し
3日の米雇用統計の力強い結果を受けたドル高の流れが意識されている。パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見で数回の追加利上げを示唆したにもかかわらず、市場は次回FOMC(3月9、10日)での利上げ打ち止める予想を強めていた。しかし、米雇用統計発表後は5月以降の利上げ継続予想が大勢となり、ドル高の材料となっている。雇用統計発表を受けて利下げ開始が2023年以降になるとの見方が増えつつある。
金融政策に関する市場に見通しが変化している局面では、物価関連指標や中央銀行要人発言に市場が大きく反応しやすい。今週は14日発表の米消費者物価指数(CPI)に市場関係者が強い関心を寄せている。
米CPIは6月に直近のピークとなる前年比+9.1%を付けた後、前回12月の前年比+6.5%まで6カ月連続で伸び率が低下。今回も+6.2%と物価上昇ペースの減速が見込まれる。ただ、エネルギー価格の下落傾向が一服し、ガソリン小売価格は12月から1月にかけて小幅上昇(全米・全種平均/米エネルギー情報局調査)している。予想ほど物価上昇ペースが落ちなければ、ドル買いが急速に強まる可能性がある点に注意したい。
米CPIの市場予想を超える急減速などがなければドル高基調が継続し、先週のドルの上値を抑えた133円超えを意識する展開と予想する。
対ユーロや対ポンドでもドル高方向が意識され、1月に付けた1ユーロ=1.05割れが短期的な目標となっている。
ドル主導の展開でユーロやポンドなど他通貨に対して円は方向性が定まりにくそうだ。1ユーロ=143円がユーロの上値目途として意識されている。
用語の解説
植田和男 | 日本の経済学者。東京大学理学部を卒業後、同大学経済学部に学士入学。同大学大学院を経てマサチューセッツ工科大学大学院に進み、同大学で博士号を取得。カナダのブリティッシュコロンビア大学や大阪大学を経て、東京大学で教鞭をとった。東京大学教授時代の1998年から2005年まで日銀審議委員となっている。2017年に東京大学を退官し現在は共立女子大学教授。 1990年代前半、当時の岩田規久男上智大学教授(後の日銀副総裁)と翁邦雄日銀調査統計局企画調査課長との間のマネーサプライ論争(岩田-翁論争)を裁定したことでも知られる。 |
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氷見野良三 | 東京大学法学部を卒業後、大蔵省入り。大蔵官僚時代にハーバードビジネススクールでMBA取得。金融国際審議官を経て、2020年7月から2021年7月まで金融庁長官を務めた。2022年1月よりニッセイ基礎研究所エクゼグティブフェロー。外務省ジュネーブ国際機関代表部一等書記官やバーゼル銀行監督委員会事務局長など国際関係のキャリアも豊富。 |
今週の注目指標
米消費者物価指数(CPI/1月) 2月14日22:30 ☆☆☆ | 前回12月の米消費者物価指数(CPI)は市場予想と同じ前年比+6.5%と、11月の同+7.1%から上昇率が縮小した。変動の大きいエネルギーと食品を除いたコア指数も市場予想通りの+5.7%で、11月の+6.0%から上昇ペースが落ちた。CPI前年比はピークだった2022年6月の+9.1%から6カ月連続で上昇率が縮小した。ピーク時に前年比+41.6%だったエネルギー価格が+7.3%に鈍化。ガソリンが前年比+59.9%から11月は-1.5%とマイナスに転じ、全体を押し下げた。今回も市場予想(前年比)は+6.2%、コア指数が+5.4%と物価上昇の減速が見込まれる。ただ、住居費の高騰が続いていることやエネルギー価格の下げ止まり傾向から市場予想ほど全体の伸びが鈍化していない可能性がある。この場合、米雇用統計の強さを受けた直近のドル高が加速し、1ドル=134円台に向けた動きが予想される。 |
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英消費者物価指数(CPI/1月) 2月15日16:00 ☆☆ | 英CPIは昨年10月に前年比+11.1%と約41年ぶりの高い伸びを記録した後、2カ月連続で上昇率が縮小した。しかし、前回12月は+10.5%と水準は依然として高いままだ。食品・非アルコール飲料が前年比+16.8%と1977年9月以来の大幅な値上がりとなって全体を押し上げた。今回も伸び率縮小が続く見通しだが、市場予想は前年比+10.3%と高水準。イングランド銀行(中央銀行)は2日の金融政策委員会(MPC)でインフレ警戒についての記述を前回委員会(昨年12月15日)よりトーンダウンしたが、その後ベイリー総裁らは議会証言で、インフレが予想以上に持続するリスクを警戒する姿勢を示している。物価上昇率が市場予想通りかそれ以上となり、物価高傾向の継続が目立つと、利上げ継続観測から1ポンド=1.22ドル台に向けたポンド高が予想される。 |
米小売売上高(1月) 2月15日22:30 ☆☆☆ | 12月の米小売売上高は前月比-1.1%と2カ月連続で減少した。減少幅は市場予想の-0.9%を超え、11月分は前月比-0.6%から-1.0%に下方修正された。ガソリン小売価格の低下を受けて、ガソリンスタンド売上高が前月比-4.6%となり、全体を押し下げた。自動車及び同部品の前月比-1.2%、無店舗小売りの-1.1%など全13業種中10業種で売り上げが減った。 今回は個人消費に大きな影響を与える雇用の力強い伸びが見られたことで、小売売上高も改善が見込まれている。市場予想(前月比+1.9%)通りの力強い結果だとドル買いを支える材料となりそうだ。14日発表の米CPIが強く出てドル買いが広がっていた場合、小売売上高も強く出るとドル高が加速する可能性が高く、1ドル=135円超えが視野に入ってくる。 |
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