2023年03月06日号

(2023年02月27日~2023年03月03日)

先週の為替相場

一時137円台のドル安円高

 先週(2月27日-3月3日)は、2月3日から続くドル高円安の流れが続いたが、ドルが高値から一時1円50銭を超えて下落するなど神経質な上下動を見せた。

 2月24日に発表された1月の米個人消費支出(PCE)デフレータが市場予想を上回り、1ドル=136円台までドル高円安が進んで先々週の取引を終えた。先週初めもドル高が勢いを保ち、27日朝の東京市場で136円50銭を超えた。その後は調整も入ったが、136円割れではドル買いがすぐに入るなどドル高の地合いは変わらなかった。28日の海外市場で米国債利回りの上昇などを材料に136円93銭と、節目の137円に迫るドル高円安となった。

 ただ、2月2日の安値から8円80銭強の大幅なドル高となっており、行き過ぎ感もあって137円手前ではドル売りが出た。利益確定のドル売りに1日発表された1月のドイツ消費者物価指数の力強い伸びを受けたユーロ買いドル売りなども加わって135円20銭台まで押され、高値から1円67銭の大幅な調整につながった。

 調整一服後はすぐにドル買いが入った。1日発表の2月の米ISM製造業景気指数で新規受注が回復したことなどを好感し、長期金利の指標となる10年物米国債の利回りが昨年11月10日以来の4%台に上昇する中、ドル高の勢いが強まった。2日発表の米新規失業保険申請件数が前週比で予想外に減少したことなども好感され、1ドル=137円台を付けた。

 137円台回復後、一転してドル高の調整ムードが広がった。タカ派で知られるアトランタ連銀のボスティック総裁が、次回3月21、22日の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%利上げを支持する姿勢を示したことで、3月FOMCでの0.5%利上げ観測が後退。米国債利回りの上昇も一服し、135円台後半にドルが下落して先週の取引を終えた。

 一方、先々週末から先週前半にかけてのドル高から1ユーロ=1.0530ドル台までユーロ安に動いた後、ドル高の調整などからユーロは反発した。28日発表されたフランスとスペインの消費者物価指数の上昇率が市場予想を上回り、さらにレーン欧州中央銀行(ECB)チーフエコノミスト(用語説明1)が政策金利を当面高い水準で維持する必要があると発言したこともあって、1.0640ドル台のユーロ高ドル安となった。対円でも1ユーロ=145円50銭近くまでユーロ高となった。

 その後は利益確定のユーロ売りなどから、対ドルで1.0560ドル台、対円で144円割れまで調整が入ったが、1日のロンドン市場でユーロが再び上昇した。1日はドイツ全体の消費者物価指数の前に発表されたドイツ主要州の消費者物価指数のうち、特にノルトライン=ヴェストファーレン州(用語説明2)の消費者物価指数が強めに出たことをきっかけにユーロ高が始まった。ドイツ全体の消費者物価指数の強い伸びにもう一段のユーロ高となって、対ドルで1.0690ドルを付けた。対ポンドなどでもユーロ買いが入った。その後はドル全面高基調に押され、1.0570ドル台にユーロは軟化した。対円でユーロはドル買い円売りなどを支えとして、ユーロが対ドルが反落する中でも上昇基調を続け、145円50銭を超えた。

今週の見通し

 米国の積極的な金融引き締め姿勢などを見込んだドル高の流れが続いている。ターミナルレート(利上げの終着点となる水準)の市場予想は、先週のレポート時点で主流だった5.25-5.50%を上回り、5.50%超えの予想が広がっている。

 もっとも、タカ派の代表格の一人とされるアトランタ連銀のボスティック総裁が0.25%利上げを支持する姿勢を示したことで、一時かなり強まっていた次回FOMCでの0.5%利上げ予想は落ち着きを見せており、ドル高の調整につながっている。

 黒田東彦総裁下で最後の日銀金融政策決定会合を9、10日に控えていることも、ドルの対円での上値を抑えている。金融政策は現状維持が見込まれるが、次期総裁の円滑な金融政策運営のために、利回り曲線の歪みなどに対応する形で長短金利操作(YCC)の再修正に踏み切るとの見方が一部であり、円買いにつながっている。

 1月の米雇用統計は2月2日から3月2日にかけて9円超もドル高円安に動くきっかけとなった。最新2月分は10日に発表される。非農業部門雇用者数について市場は前月比に注目することが多い。今回はかなり強い数字だった前回1月分との比較になり、伸びが相対的に低く見えるため、ドル高の調整が入りやすいという思惑があるようだ。

 ただ、流れはまだドル高方向という見方が多い。週後半のイベントを無事クリアすると、ドル高の勢いが再び強まりそうだ。

用語の解説

レーンECBチーフエコノミスト フィリップ・レーン(Philip Lane)ECBチーフエコノミスト兼専務理事。アイルランドのトリニティ・カレッジを卒業後、米ハーバード大学で経済学の博士号を取得。米コロンビア大学などで教鞭をとった後、トリニティ・カレッジに戻り国際マクロ経済学の教授となった。2015年11月から2019年6月までアイルランド中央銀行総裁となり、その後現職。
ノルトライン=ヴェストファーレン州 ドイツ西部の州。州都はデュッセルドルフ。ルール工業地帯と呼ばれた重工業地域であったルール地方が州の西部にあり、炭鉱の閉鎖と重工業の撤退などの後もハイテク産業を中心としたルール地域連合としてロンドン、パリに次ぐ欧州有数の人口密集地域となっている。

今週の注目指標

カナダ中銀政策金利
3月9日0:00
☆☆☆
 カナダ銀行(中央銀行)は2022年3月から1月まで8会合連続で利上げを実施したが、今回は政策金利を4.5%で維持する見通し。前回の会合(1月5日)の声明文で、消費の伸び鈍化や住宅市場活動の低下など、金融引き締め政策の効果が見え始めているとして、効果を見極める間は現状の金利水準を維持すると表明した。2月21日発表された1月のカナダ消費者物価指数は前年比+5.9%と昨年6月のピーク+8.1%から順調に減速しており、金利据え置きに伴う混乱はほとんどないとみられる。ただ、経済的な結び付きが強い米国で利上げ継続の見通しが強まり、物価が再び上昇する傾向を示していることが警戒材料。声明などが利上げ再開の可能性を印象付けるとカナダ買いとなる可能性があり、1ドル=1.33台に向けたカナダ高が予想される。
日銀金融政策決定会合
3月9、10日
☆☆☆
 4月に退任する黒田東彦日銀総裁にとって最後の金融政策会合となる。海外勢を中心にごく一部でYCCを再修正し、次期総裁の金融政策運営の支障となるイールドカーブの歪みを修正してくるとの見方がある。ただ、年度末を前に債券価格の下落で地銀などの含み損拡大につながるYCCの修正は難しいとの見方もあり、現行政策の維持が大方の見方だ。現状維持が決まった場合、次期総裁のハト派姿勢への期待もあって若干の円売り材料となり、1ドル=137円台を再び試す可能性がある。
米雇用統計(2月)
3月10日22:30
☆☆☆
 前回1月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が+51.7万人と市場予想の前月比+18.7万人前後を大きく上回った。12月分が+22.3万人から+26.0万人へ上方修正された上での大幅な雇用者数増加はサプライズだった。失業率は12月の3.5%から3.6%に悪化するとの見通しを覆して3.4%に改善し、1969年5月以来、約53年半ぶりの低水準となった。
 NFPの内訳は娯楽・接客業が+12.8万人と大幅に増加。コロナ禍が一服する中で雇用者数の増加が目立つ分野だが、すでにパンデミック前の水準まで雇用が回復していることもあり、12月は+6.4万人と伸びが落ち着いていた。1月は再び大幅に増加した。雇用の流動性が高く、景気に敏感なレストランなどが含まれているだけに、この伸びは好印象を与えた。景気に敏感な項目としては、商業・運輸・公益分野の中の小売業と運輸・倉庫業も好結果だった。雇用の先行指標とされる対事業所サービスの中のテンポラリーヘルプサービス(派遣)業が11月、12月の前月比マイナスから+2.59万人としっかりした伸びに転じたことも、好調な雇用が継続するとの期待につながっている。
 全体も内訳も好印象だった前回の結果が、2月の力強いドル高のきっかけとなった。2月分の市場予想はNFPが+21.5万人、失業率が3.4%。NFPの伸びは前回の+51.7万人から大きく減少し、-26.8万人となった2020年12月以来の低調が見込まれている。ただ、コロナ前10年(2010-2019年)の月毎の平均が+18.3万人だったことを考えると、水準的にはそれほど弱い伸びではない。失業率が53年半ぶりの低水準を保つとの予想もあり、雇用者数が予想前後だと、米国雇用市場は堅調が続いているとの見方が米国の利上げ観測を支えそうだ。中期的に1ドル=140円を目指すドル高円安の流れが継続するとみられる。

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