2023年05月08日号

(2023年05月01日~2023年05月05日)

先週の為替相場

上下に大きな動き

 ドルの対円レートは先週(5月1-5日)、上下に大きく動いた。前半はドル高円安が優勢だった。日銀金融政策決定会合の結果発表(4月28日)以降のドル高円安の勢いが続いた。5月1日発表された米ISM製造業景気指数(4月)が市場予想を上回ったこともドル高の材料となった。ISM製造業景気指数のうち雇用指数が好悪判断の境となる50を超え、5日に発表を控える4月の米雇用統計への上振れ観測につながったこともドルを押し上げた。

 豪準備銀行(中央銀行)が2日の金融政策委員会で大方の予想を覆して利上げを決めたことを受けた豪ドル買い円売りもあり、同日の東京市場で1ドル=137円77銭と3月8日以来のドル高円安となった。その後はドル高圏で推移したが、5日発表の米雇用動態調査(JOLTS・3月末時点)求人数が市場予想を下回る959万件にとどまり、2カ月連続の1000万件割れとなったことでドル安に転じた。

 2、3日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)は大方の予想通り0.25%の利上げを決定した。声明では前回3月FOMCの声明にあった「いくらかの追加引き締めが適切となる可能性を見込む」との文言が削除された。FOMCを終えたパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は記者会見し 与信のタイト化が経済の重石になる可能性に言及。これを受けて次回FOMC(6月13、14日)での追加利上げ観測が急速に後退し、ドルが売られた。

 米国の地方銀行の経営状態が不安視されたこともドル売りにつながった。4日はパックウェスト・バンコープ(用語説明1)株が50%超の急落に見舞われるなど複数の地銀株が10%を超える大幅安となり、市場の警戒感を誘った。4日の海外市場で1ドル=133円台半ばと、2日に付けたドルの高値から4円以上のドル安円高となった。

 その後ドルがやや値を戻して5日の米雇用統計発表を迎えた。雇用統計では非農業部門雇用者数が市場予想を上回ったほか、失業率が予想外に低下し、平均時給も予想を上回ったる。市場は米雇用市場の力強さが確認されたと受け止め、一時135円台までドルが上昇し、134円台後半で先週の取引を終えた。

 ユーロの対ドルレートは、先週前半のドル高局面で1ユーロ=1.0940ドル台に下落した後、米地方銀行の経営不安を受けたドル売りに1.1090ドル台まで反発した。もっとも1.11ドル手前の売りを崩せず、米雇用統計を受けたドル買いに1.0960ドル台まで軟化するなど一方向の動きにならなかった。

 欧州中央銀行(ECB)理事会は4日の定例理事会で大方の予想通り0.25%の利上げを全会一致で決定した。市場の反応は限定的だった。

 ユーロの対円レートはドル高円安が進んだ先週前半に1ユーロ=151円50銭を超え、約14年半ぶりのユーロ高円安となった。その後米地銀の経営不安を背景とするリスク警戒の円買いで147円10銭台まで下落し、高値から4円を超えるユーロ安円高となった。

 豪中銀は2日に開いた金融政策委員会で0.25%の利上げ決めた。市場予想の大勢は前回委員会(4月4日)に続く金利据え置きだったため利上げ再開はサプライズとなり、1豪ドル=0.6630ドル前後から先週後半に0.6750ドルを超えるなど豪ドル高基調が続いている。

今週の見通し

 3日の米FOMC終了後、米FRBの利上げ打ち止め観測が強まっている。30日物FF(フェデラル・ファンド)金利先物が織り込む利上げ確率を示すCME FedWatchツールによると、6月の利上げ確率はFOMC前まで25%を超えていたが、FOMC後は10%を下回った。多くの米地銀株が経営状態への懸念から急落するなど市場の警戒感は根強く、ドル高圧力の後退を招いた。

 ドルの対円レートは3月8日に付けた今年の最高値を前にいったん反落した。しかし、133円50銭付近まで下落した後、先週末に135円台を一時回復するなど底堅く推移している。

 10日発表される4月の米消費者物価指数(CPI)(用語説明2)次第ではあるが、流れはまだ円安とみられる。植田和男総裁下の日銀による金融緩和政策の長期化観測が円売りの材料となっている。

 米CPIはコア指数(変動の激しい食品とエネルギーを除いた指数)の上昇率縮小が予想される。6月の利上げ観測はすでに後退しているため、市場予想通り物価上昇ペースが減速しても利上げ観測に与える影響は小さそうだ。しかし、早期利下げ開始観測が強まり、ドルが売られる可能性もある。

 ただ、好調な雇用などに支えられ、米国の経済活動は活発な印象が強い。3、4月のガソリン価格上昇もあり、市場予想ほど物価上昇ペースが減速していなければ6月FOMCでの追加利上げ観測が再燃し、ドルは対円で直近の高値を試す可能性が意識される。

用語の解説

パックウェスト・バンコープ カリフォルニア州ビバリーヒルズに本社を置く銀行持ち株会社。完全子会社パシフィック・ウェスタン・バンクを通じて、南カリフォルニアを中心に商業銀行業務や中小企業向け財務管理サービスを提供している。ナショナル・レンディング・グループ(旧キャピタルスクウェア)やベンチャー・バンキング・グループ(旧スクウェア1バンク)ブランドで中小・新興企業向け融資などを全米規模で展開している。
米消費者物価指数(CPI) 都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を米労働省労働統計局が調査し、指数化したもの。変動の激しい食品とエネルギー価格を除いたコア部分の指数も同時に発表される。米国のインフレ目標の対象は米商務省が公表する個人消費支出(PCE)デフレータであり、日本を含め多くの国がインフレ目標の対象とするCPIではない。しかし、発表が対象月の翌月10-15日頃と、対象月の翌月末から翌々月の初めとなるPCEデフレータより約2週間早く、変化の傾向が似ているため、物価関連指標で市場参加者の関心が最も高い。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI・4月)
5月10日
21:30
☆☆☆
 市場予想は3月と同じ前年同月比+5.0%、食品とエネルギーを除くコア指数は+5.5%(3月は+5.6%)。予想前後かそれ以下の上昇率にとどまった場合、1ドル=133円台に向けてドル売りが強まりそうだ。これまでの急速な政策金利引き上げや金融不安による景気停滞懸念によるインフレ予想の後退からコア指数の伸びは鈍化が見込まれている。
英中銀金融政策委員会(MPC)
5月11日20:00
☆☆☆
 短期金利市場は0.25%利上げを90%以上織り込んでいる。6月22日または8月3日のMPCでの追加利上げも織り込みつつあるが、利上げ時期については見方が分かれている。2回目の追加利上げについては見方が完全に割れている。声明文や同時に発表される議事要旨、利上げ決定時の採決結果(前回は0.25%利上げ7人、金利据え置き2人)を踏まえ、追加利上げに慎重だとの見方が強まれば、1ポンド=1.25ドル割れに向けたポンド安ドル高が予想される。半面、現行金利維持を支持する委員が増えれば、政策金利の据え置き観測が強まってくるだろう。
トルコ大統領選挙
5月14日
☆☆☆
 14日投票のトルコ大統領選挙では、首相時代も含め20年にわたって政権を運営してきたエルドアン大統領と、最大野党共和人民党(CHP)党首で野党6党統一候補のクルチダオール氏による事実上の一騎打ちとなっている。エルドアン大統領はこれまで比較的高い支持率を誇ってきたが、このところの物価高や今年2月に発生した地震で耐震基準を満たさない建物による被害が深刻となったことなどから批判の声が上がっており、世論調査ではほぼ互角の選挙戦となっている。
 エルドアン氏は政策金利の抑制を主張し続けてきたため、政権交代なら利上げが進みリラ高となる可能性がある。一方、エルドアン氏続投ならリラ売りが進み、心理的な節目である1ドル=20リラを超えのリラ安となる可能性がある。

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