2023年05月22日号

(2023年05月15日~2023年05月19日)

先週の為替相場

ドル円は一時昨年11月以来のドル高円安圏

 先週(5月15-19日)のドル円は、ドルが年初来高値を更新し、一時1ドル=138円74銭を付けた。世界的な株高を受けたリスク選好での円売りや、力強い米経済指標結果を受けた追加利上げ期待の再燃によるドル買いに加え、リスク要因である米債務上限問題について、一時楽観的な見方が広がったことによるドル買いなどがドル円相場を押し上げる材料となった。

 10日の米消費者物価指数(CPI)、11日の米生産者物価指数(PPI)での物価上昇の弱い伸びを受けたドル売りに133円70銭台を付けた後、ドル円は上昇基調に転じた。12日の米ミシガン大学消費者調査において、長期インフレ期待が12年ぶりの高水準に達したことを受けて、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での追加利上げ期待が再燃。週明け15日も流れが継続する形で136円台を付けた。

 15日のニューヨーク連銀製造業景気指数が市場予想を大きく下回る弱い結果となり、135円台へドル売りとなるなど上値トライの勢いがいったん収まったが、その後再びドル高が進行。16日の米小売売上高において、変動の激しい自動車とガソリンを除いた指数が予想を超える伸びとなり、個人消費の堅調さから米景気の力強さが再認識された。

 米債務上限問題について、G7サミットでの訪日を前にしたバイデン大統領と、共和党、民主党の議会リーダーらが協議を行った。政府側は前向きな協議であったとの評価を示し、共和党のマッカーシー下院議長(用語説明1)は週末までに合意を得ることは可能と発言した。市場は債務上限問題の早期解決期待を強め、ドル高、株高で反応した。

 18日発表の米新規失業保険申請件数(5月7日-13日分)、フィラデルフィア連銀景況指数(5月)の好結果もあり、ドル円は2022年11月29日以来のドル高となる138円74銭を付けた。

 その後もドル高圏推移が続いたが、19日NY市場午前に米債務上限問題について政府と共和党の担当者レベルで行われていた非公式協議が決裂し、共和党担当者が突然退席したと報じられたことで、市場の警戒感が一気に広がり、138円台後半から137円台半ば割れを付けた。その後138円台を回復も、同問題についての警戒感が見られた。

 16日の英雇用統計で失業率の悪化や失業保険申請件数の増加などが見られた英国。1ポンド=1.2530ドル前後から1.2470ポンド割れまでポンド安となった後、下げ分をいったん解消する動きを見せたが、その後再びポンド安となった。ドル全面高基調もあり18日に4月25日以来のポンド安となる1.24ドル割れを付けた。米債務上限問題への警戒感からのドル売りに、週末には1.24台後半までポンド高ドル安となった。

 対円では円安の勢いが勝り、11日に付けた1ポンド=167円80銭台を底に、ポンド高円安が進み、172円50銭前後を付けている。 

 その他通貨では14日に大統領選が行われたトルコは、第1回投票での当選に必要な過半数を確保した候補が出ず、28日の決選投票が決まった。世論調査での劣勢が伝えられていた現職のエルドアン大統領(用語説明2)が、野党統一候補クルチダルオール氏を4%以上リードしたことで、エルドアン政権での低金利政策継続見通しが広がり、リラ売りが優勢となっている。もっとも現政権下でのリラ安防衛策の継続見込みもあり、値幅自体は抑えられている。

今週の見通し

 米債務上限問題についての警戒感が広がっている。6月1日にも米財務省の資金が枯渇すると報じられており、タイムリミットが迫っている。先週半ば時点では解決に向けた政府と議会共和党との合意が近いとの楽観的な見方が広がったが、その後担当者レベルでの協議は決裂している。

 共和党のマッカーシー下院議長は党内基盤がそれほど強くなく、強硬的な姿勢を示すトランプ派の議員への配慮が必要なことから、政府との安易な妥協案を取りにくいという面がある。

 デフォルトが起きた場合、市場及び米経済に大きな混乱が生じると見込まれることから、ぎりぎりのところでデフォルトは回避されるのではとの見方が根強いものの、万が一の可能性がドルの上値を抑えている。

 もっとも株高もあってドル円の下値もしっかり。債務上限問題についての警戒感が後退するような協議の進展が見られると、ドル円は節目の140円台に向けた動きが期待される。

用語の解説

マッカーシー下院議長 ケビン・マッカーシー(Kevin McCarthy)はカリフォルニア州を選挙区とする米国の下院議員。2006年の選挙で初当選。2014年に共和党下院院内総務(当時は共和党が下院で多数派だったため、議長に次ぐ下院No.2)に就任。2018年の選挙で共和党は少数派に転落。マッカーシー氏は院内総務選挙に再選し、下院共和党トップとなる。2022年の選挙で共和党は過半数を確保。下院議長選挙に出馬。トランプ派議員の反対などもあり再投票が繰り返され、15回目の投票で下院議長に就任した。
エルドアン大統領 レジェップ・エルドアン(Recep Erdoğan)はトルコの政治家。トルコ与党・公正発展党(AKP)の設立メンバーで初代及び第4代党首(現任)。イスタンブールにある国立のマルマラ大学在学中に新イスラム主義政党の国民救済党に入党。同党が非合法化された後、後継の福祉党に入党。同党候補として1994年イスタンブール市長に就任。市長であった1997年に国家治安法廷で実刑判決、被選挙権を喪失。福祉党が1998年に非合法化され、後継の美徳党に入党 美徳党が2001年に非合法化され、同党若手メンバーを中心に後継政党として公正発展党を設立、初代党首に就任。2002年に被選挙権回復、2003年補欠選挙で当選、首相就任(それまでの首相はAKP副党首)。首相を3期務めた後、選挙改革により直接選挙で大統領を選出することになった2014年の大統領選挙に勝利し、第12代大統領に就任した。2017年に憲法改正で大統領権限を大幅に拡大した。低金利志向が強い。

今週の注目指標

米PMI速報値(5月)
5月23日22:45
☆☆☆
 23日に5月のS&Pグローバルによる米購買担当者景気指数(PMI)速報値が発表される。前回4月は、製造業PMIが3月の49.2から49.0に鈍化するという見通しに対して50.4と予想外に改善。好悪判断の境となる50も上回った(改定値で50.0に下方修正)。サービス業PMIは52.6から51.4に鈍化するとの見通しに対して53.7とこちらも予想外に上昇した(改定値で53.6と下方修正)。4月はS&PグローバルのPMIに加え、米ISM(供給管理協会)景況感指数(PMI)も強く出たことが、米景気の力強さへの期待となり、ドル高につながった。
 5月に入って消費者マインドの調査であるミシガン大学消費者信頼感指数が予想を大きく下回り約半年ぶりの弱さを見せたほか、NY連銀製造業景気指数が予想をはるかに下回り、2020年4月以来の弱さを見せるなど、速報性の高い調査・景気動向系の指標の弱さが目立っている。
 5月の米PMIの市場予想は製造業が50.0,サービス業が52.5とともに前回から小幅鈍化見込みとなっている。ミシガン大学消費者信頼感指数、NY連銀製造業景気指数と同様に市場予想を超える鈍化を見せるようだと、ドル売りにつながる可能性がある。ユーロドルは1ユーロ=1.0850ドルを超えるユーロ高ドル安となる可能性がある。
米PCEデフレータ(4月)
5月26日21:30
☆☆☆
 米個人消費支出(デフレータ)は、米消費者物価指数(CPI)と同系統の指標で、発表が2週間ほど遅いということもあって、CPIに比べると市場の注目度が低い場合が一般的となっている。ただ、インフレターゲットの対象はPCEデフレータであり、金融政策への影響力が大きいと見られることから、金融政策の変化が見込まれる局面では注目度が高まる傾向がある。
 前回3月のPCEデフレータは前年比+4.2%と2月の+5.0%から大きく鈍化し、2021年5月以来の低水準となった。コアデフレータは前年比+4.6%と2022年12月以来の低水準となっている。
 4月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+4.9%、食品とエネルギーを除いたコア前年比は+5.5%と、ともに3月から0.1ポイントの鈍化となった。4月のPCEデフレータの予想は前年比+4.3%と3月の+4.2%から小幅ながら伸びが強まる見込み。コアデフレータの予想は前年比+4.6%と3月と同水準となっている。
 前回までの伸び鈍化傾向が継続し、CPI同様の伸び鈍化が今回も見られるようだと、6月の追加利上げ期待が後退し、ドル売りとなる可能性がある。ドル円は136円台への下落となる可能性がある。
トルコ大統領選 決選投票
5月28日
☆☆☆
 14日の大統領選挙では、当選に必要な有効得票数の過半数を超える票を獲得した候補者が出ず、28日に現職のエルドアン大統領と野党統一候補クルチダルオール氏との決選投票が実施される。
 14日の投票では、世論調査で劣勢が報じられていたエルドアン大統領がクルチダルオール氏を上回る票を獲得した。同時に行われた議会選挙ではエルドアン氏の公正発展党(AKP)と民族主義者行動党(MHP)からなる人民同盟が過半数を確保しており、第一回投票の結果通りエルドアン氏が勝利すると、現体制が継続する。
 高インフレ下での低金利政策の維持が見込まれることで、トルコリラにとっては売り材料となる。現政権下でのリラ安防衛策も継続が見込まれることから、動き自体は抑えられるものの、リラ円はゆっくりとしたリラ安の進行が予想される。

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