2023年06月12日号
先週の為替相場
米CPIやFOMCを前に神経質な動き
先週(6月5-9日)のドル円は方向感のあまりはっきりとしない展開となった。6月13日発表の米消費者物価指数(CPI・5月)、6月13-14日に開催され日本時間15日午前3時に結果が発表される米連邦公開市場委員会(FOMC)などの重要イベントを前に、積極的な取引を手控える姿勢が見られた。
5日の市場は、2日に発表された米雇用統計において、非農業部門雇用者数の伸びが予想を大きく上回ったことを好感してドルが買われた流れが継続して始まった。1ドル=140円45銭までと、先々週の高値を更新する動きを見せた。
同日発表された米サプライマネジメント協会(ISM)非製造業景気指数(5月・用語説明1)は、前回の51.9から上昇するとの市場予想に反して、50.3と低下。好悪判断の境となる50に迫る弱さとなった。内訳をみると、市場が重視する新規受注が3.2ポイントの大きな低下。雇用も1.6ポイント落ちて好悪判断の50を割り込んでおり、全体の数字だけでなく、内訳の面でも市場の警戒感を誘った。ドル円は発表後に139円20銭台まで下落。その後少し調整が入ったが、6日のオーストラリア準備銀行(中央銀行)金融政策会合で予想外の利上げとなったことを受けた豪ドル買いドル売りもあり、139円10銭前後を付けた。
139円の大台を維持したこともあって、その後は一転してドル買いが入った。ECBの政策金利のピークが従来予想ほど高くならないとの思惑が広がったことによるユーロ売りドル買いなどがドル全般の支えとなり139円99銭まで上昇。しかし、140円を付けきれなかったことで、利益確定のドル売りが出て139円03銭を付けるなど、一方向の動きにならなかった。
7日のカナダ銀行(中央銀行)金融政策会合(用語説明2)は、前日の豪中銀同様に大方の据え置き予想に反して0.25%の利上げを決定した。この結果を受けてカナダだけでなく、米国でも長期債利回りの上昇などが見られ、ドル高となった。13-14日の米FOMCでの金利据え置き見通しが継続しているが、こちらも大方の予想に反して利上げに踏み切るのではとの思惑が一部で出ていた。ドル円は140円20銭台まで上昇した。
8日の米新規失業保険申請件数(5月28日-6月3日)は、市場予想を大きく超える26.1万件と約1年半ぶりの高水準となった。前週からの増加幅は約2年ぶりの大きさ。米景気減速懸念などに繋がり、ドル円は138円80銭近くまでドルが下落した。もっとも今回の数字は調査期間中にメモリアルデーの祝日を含んでいる。祝日前後に申請件数が不安定になる傾向があることから、ドル売り一服後は139円台後半を付けるなど、調整の動きが入った。
ユーロドルは1ユーロ=1.0700ドルを挟んでの推移から、8日の米新規失業保険申請件数の結果を受けたドル安に1.0780ドル台を付けた。
ドル主導の展開でユーロ円などクロス円は方向感のはっきりしない展開。ドル円の下げもあって7日に148円60銭台を付けた後、9日には150円40銭台を付けた。
豪ドルは6日のサプライズ利上げで1豪ドル=0.6610ドル台から0.6680ドル前後へ急騰。その後も豪ドル高傾向が続き、7日に0.6710ドル台を付けた。その後、米債利回りの上昇を受けたドル全般の上昇に0.6640ドル前後まで豪ドル安ドル高となったが、週末にかけて再び豪ドル高となり0.6750ドル台を付けている。対円でも豪ドル高が優勢となり、利上げ前の1豪ドル=92円30銭台から9日に94円台を付けている。
今週の見通し
6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での金利据え置き見通しが広がっている。30日物金利先物価格データを基にした政策金利見通しを示すCMEFedWatchツールでは、据え置き見通しが73.6%となっている。もっとも先週の豪中銀金融施策会合は同程度の据え置き見通しに反して利上げを実施。さらにカナダ中銀金融政策会合は80%以上の据え置き見通しに反して利上げを実施した。
これらの中銀の決定が米FOMCに直接の影響を与えるものではない。ただ、物価の鈍化傾向が直近の指標で一服し、物価上昇が見られるという状況を受けて利上げに踏み切った豪州、カナダの状況は、5月26日発表の4月米PCEデフレータの伸びが3月を上回った米国と似ており、市場の警戒感を誘っている。
13日に発表される5月の米消費者物価指数は、4月と比べて伸びが大きく鈍化する見込みとなっており、据え置き見通しを支えてくると見られるが、予想ほど鈍化を見せなかった場合は、利上げ見通しが再燃してドル高となる可能性がある。
FOMCでサプライズな利上げが実施された場合も大きなドル高となる可能性が高い。大方の市場予想通り据え置きとなった場合は、声明やパウエル議長の会見が注目される。今回据え置きに回った場合でも7月には利上げに向かうという見通しは上記のCMEFedWatchツールで68%に達している。声明などで追加利上げを示唆してくると、こちらもドル買いの材料と成る。
米CPIが市場予想通りもしくはそれ以上の物価上昇の鈍化を示し、米FOMCでも慎重な姿勢が見られるようだとドル売りが進み、ドル円は137円台トライとなる可能性も。サプライズ利上げとなった場合はドル急騰が見込まれる。この後の利上げに含みを見せた場合は、比較的落ち着いた動きが期待されるが、地合いは堅調で、140円台回復に向けた期待が強まると見ている。
用語の解説
ISM非製造業景気指数 | 米国の非営利組織である供給管理協会(ISM:Institute of Supply Management)による米国の非製造業約400社に対するアンケート調査を基にした景況感を示す指数。アンケート項目は受注、在庫、雇用、価格など10項目。同製造業景気指数が毎月第1営業日に発表され、非製造業景気指数が第3営業日に発表される。内訳の中でも、新規受注、雇用、事業活動(製造業での生産に相当)の3項目が特に注目される。50が好悪判断の境となる。 |
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カナダ銀行金融政策会合 | カナダの中央銀行であるカナダ銀行(Bank of Canada)による金融政策を決定する会合。マックレム総裁、ロジャース上級副総裁と後4名の副総裁(7月よりもう1名追加)がメンバー。会合は年8回開催される。今年3月の会合で利上げを継続していた他の先進国に先駆けて9会合ぶりに政策金利の据え置きを決定したが、4月の会合での据え置き継続を経て、6月7日の会合で市場の予想に反して利上げを再開した。 |
今週の注目指標
米消費者物価指数(CPI・5月) 6月13日21:30 ☆☆☆ | 前回4月のCPIは前年比+4.9%と市場予想及び3月時の+5.0%を下回る伸びに留まった。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+5.5%と市場予想と一致したものの3月時の+5.6%からは鈍化した。内訳をみると、食料品価格が前年比+7.7%と3月時の+8.5%から伸びが鈍化。8カ月連続での伸び鈍化となった。住居費は前年比+8.1%と3月の+8.2%から小幅ながら鈍化。住居費の鈍化は2021年2月以来約2年2カ月ぶりとなった。 今回の予想は前年比+4.1%と大幅な伸び鈍化が見込まれている。コア指数も前年比+5.2%と鈍化見込み。4月から5月にかけてはガソリン価格が低下(米EIA調査による全米全種平均で1.3%低下)しており、全体を押し下げてくると見込まれる。また、昨年4月から5月にかけて物価の上昇が目立っており、季節調整前の数字で前月比+1.1%、コア指数が前月比+0.6%となった。前年比の比較対象元である2022年の物価水準が上昇していることで、今回分が先月からそれほど変わっていなくても、見かけ上では伸びが鈍化するという負のベースメント効果が生じると見られている。 予想通りもしくはそれ以下の物価上昇に留まると、FOMCでの金利据え置き見通しが支えられ、据え置きをほぼ織り込む動きになると見られる。FOMC直前だけにどこまで市場が反応してくるのかは不透明ながら、ドル売りの材料と成る。ドル円は138円台へのドル安円高が見込まれる。 |
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米連邦公開市場委員会(FOMC) 6月15日03:00 ☆☆☆ | 前回5月のFOMCにおける声明では、これまでの会合で見られた「幾分の追加的な金融引き締めが適切になる可能性」との表現が削除され、利上げ打ち止めの可能性が示唆された。これを受けて今回のFOMCでの金利据え置き見通しが優勢となった。また先月発表された4月の米消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)の伸びが予想を下回り、追加利上げ期待が後退したことで、市場は据え置きをほぼ完全に織り込む場面が見られた。その後、ミシガン大学消費者態度調査(速報値)において、長期のインフレ見通しが約12年ぶりの高水準となったことや、4月の米PCEデフレータでの物価の伸びが3月を上回ったことなどから追加利上げ期待が再燃。タカ派で知られるウォラーFRB理事が「インフレが収まることが明らかになるまで利上げをやめない」などと発言したことなどもあって、逆に利上げ期待が据え置き見通しを上回る状況が見られた。しかし5月31日にジェファーソンFRB理事やハーカー・フィラデルフィア連銀総裁が6月のFOMCでの金利据え置き見通しを強く示したことで据え置き見通しが再び強まった。12日時点でも据え置き見通しが追加利上げ見通しを大きく上回っている。 大方の予想通り据え置きとなった場合は、次回7月での追加利上げの可能性を意識して、声明やパウエル議長の会見が注目される。次回の利上げ期待が高まるようだとドル高となり、ドル円は140円台を付ける動きが期待される。 |
ECB理事会 6月15日21:15 ☆☆☆ | ECB理事会では0.25%利上げがほぼ完全に織り込まれている。アナリストなどの予想も利上げでほぼ一致している。注目は今後についての姿勢。短期金利市場では7月の追加利上げを78%程度織り込んでいる。また、7月に加えて9月も利上げするとの見通しを40%程度織り込んでいる。声明や理事会後のラガルド総裁会見で今後の追加利上げに関する見通しが変化するようだと、相場にも影響が出てくる。物価高が続く中、利上げ継続姿勢を強調してくる可能性が高いと見られ、今後の追加利上げへの期待が高まるようだとユーロ高となりそう。ユーロドルは1.09ドル台に向けた動きが意識される。 |
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