2023年06月19日号
先週の為替相場
円安強まる、金融政策姿勢の差などが材料
先週(6月12-16日)のドル円は、ドル高円安が進み、16日に2022年11月22日以来のドル高となる141円90銭を付けた。
米連邦公開市場委員会(FOMC)、ECB理事会、日銀金融政策決定会合と、主要中銀の金融政策会合が実施され、金融政策の方向性の違いが外貨買い円売りにつながった。
13日の米消費者物価指数(CPI・5月)、13-14日の米FOMCを控え、先週のドル円は1ドル=139円台での推移と、やや様子見ムードでスタートした。
米CPIはほぼ予想通りも4月からの物価上昇の鈍化を示し、FOMCでの政策金利据え置き期待を支えた。発表直後はややドル安となり、ドル円は139円00銭台をつけたが、大台を維持したことで利益確定のドル買いを誘い、その後反発。140円台を回復した。
14日の米生産者物価指数(PPI・5月)が予想を下回ったことで、FOMC直前に再びドル安となり139円20銭台を付けた。
米FOMCは事前予想通り政策金利を据え置いた。もともと据え置き期待が大勢となっていたところに、米CPIとPPIの冴えない結果を受けて、据え置き期待をほぼ完全に織り込む形となっていた。声明やパウエルFRB議長会見も想定内の内容となったが、サプライズとなったのは3カ月に一度発表されるFOMC参加メンバーによる経済見通し(SEP)の中の、各メンバーによる年末時点での政策金利見通しをドットで示したドットプロット。中央値が5.50-5.75%と、年内あと2回の利上げが示唆された。市場はあと1回の利上げを見込んでいただけに、予想以上にタカ派という印象を与える結果となった。ドル円は5月末から6月初めにかけてドル円の上値を抑えた141円ちょうど手前の水準を超えて、141円台半ばまでドル高となった。
15日のECB理事会は市場予想通り0.25%の利上げを実施。ラガルドECB総裁は理事会後の会見で7月の追加利上げ見通しを明言。利上げ休止や停止について議論していないと、積極的な引き締め姿勢を示したことで、ユーロ買いドル売りとなった。ドルはいったん全面安となり、ドル円は139円80銭台を付けた。
16日の日銀金融政策決定会合は市場予想通り現状維持となった。植田日銀総裁は会見で緩和継続の必要性を改めて示した。先々週の豪州、カナダの予想外の利上げや今週の米国、ユーロ圏の積極的な引き締め姿勢と、日銀の緩和姿勢の対比が鮮明となり、円売りが強まった。ドル円は15日の高値を超えて141円90銭台までドル高となった。
ユーロドルは米CPI、米PPIの弱めの伸びを受けたドル売りに、12日の1ユーロ=1.0730ドル台から、1.0860ドル台までユーロ高ドル安となった。米FOMC後のドル高にも1.08ドルの大台を維持すると、15日のECB理事会を受けたユーロ買いに1.0950ドル前後まで上昇。その後は1.09ドル台での推移となった。
ユーロ円は世界的な株高を受けたリスク選好での円売りなどを受けて、12日の1ユーロ=149円60銭台からじりじりと上昇。7月4日に退任するイングランド銀行(中央銀行)のテンレイロ政策会合委員の後任として任命されているグリーン氏(用語説明1)が、テンレイロ委員よりもタカ派であるとの報道が出たことで、ポンド円が買われたことを受け、ユーロ円が連れ高となった面も見られた。
米FOMC後のドル円の上昇、ECB理事会後のユーロ買いなどにも支えられ、ユーロ円は上昇を続け、155円20銭台までと、1週間で5円半強のユーロ高円安となった。
今週の見通し
米FRBなど主要国中銀が金融引き締めの姿勢を強める中、日銀による金融緩和の長期維持姿勢が鮮明となっており、外貨高円安につながっている。今週予定されているスイスや英国の金融政策会合でも利上げが見込まれており、円独歩安の流れが強まる可能性がある。
市場の一部では為替介入への期待が見られる。ただ、約24年ぶりの円買い介入を実施した2022年9月22日の高値145円90銭まで、まだ少し離れていることや、その後2022年10月に入った2回の介入はいずれも150円超えであったことなどから、現水準近くでの介入実施の可能性は相当に低いという見方が大勢。
ドル円だけでなく、ユーロ円などクロス円でも円安が大きく進んだことで、勢いが強すぎるとの警戒感がある。短期的には利益確定などによるポジション調整の局面が見られる可能性が高いが、中期的な流れはまだ円安と見ている。ドル円は145円を意識する展開が見込まれる。なお、19日月曜日は米国がジューンティーンスの祝日となっており、取引参加者が少ないことから、通常若干調整が入りやすくなっている点には注意が必要。
英国やスイスを始め、フィリピン、インドネシア、ノルウェー、トルコ、メキシコなどの金融政策会合が並ぶ木曜日はやや神経質な動きになる可能性があるため要注意。
スイスは0.25%利上げと0.50%利上げで市場の見通しが分かれている。トルコは現行の8.5%から20%(一部で40%という見方もある)への大幅な利上げが見込まれている。0.25%利上げがほぼ確実視される英国も、追加利上げに向けた声明や投票結果の状況が注目されている。こうした各中銀の動向を受けた不安定な相場動向に注意したいところ。
用語の解説
グリーン次期委員 | ミーガン・グリーン(Megan Greene)はリスク管理会社クロールのグローバル首席エコノミスト。7月4日で退任するテンレイロ英中銀金融政策委員会(MPC)委員の後任として7月5日よりMPC委員に就任する。米プリンストン大学を卒業後、英オックスフォード大学で修士号を取得。米JPモルガンなどを経て、ジョン・ハンコック・アセットマネジメントでグローバル首席エコノミストなどを務めた。 テンレイロ委員が直近の会合で金利据え置きを主張しているのに対し、グリーン氏は新委員指名を受けた議会での公聴会で「5月の利上げは適切」と発言するなど、テンレイロ委員よりもタカ派姿勢と見られている。 |
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ジューンティーンス | 奴隷制の実質的な終焉を記念する米国の祝日。2021年6月17日に米国の連邦の祝日として制定された現時点において米国で最も新しい祝日。1865年6月19日にテキサス州ガルヴェストンにおいて、北部合衆国軍(北軍)のグレンジャー将軍が、奴隷制度が続いていた同州の奴隷が自由であるとの連邦政府からの命令書を読み上げた日を、事実上の奴隷制度終焉の日として祝うもの。ジューンティーンスは6月のジューンと19日のナインティーンスが合わさってできた造語。 |
今週の注目指標
スイス中銀政策金利 6月22日16:30 ☆☆☆ | スイス国立銀行(中央銀行)金融政策会合では利上げが確実視されている。6月5日に発表されたスイス消費者物価指数は前年比+2.2%と比較的落ち着いた水準であるが、同国のインフレターゲットである0.0-2.0%を15カ月連続で上回っている。6月15日に発表されたスイス政府による最新のインフレ予測は2023年が+2.3%となっており、こちらもターゲットを上回っている。利上げ幅については0.25%という見方が約60%と過半数を超えているが、0.5%という見方が約40%あり、見方が分かれている。どちらに決まった場合でも相場への影響が見込まれる。0.25%の利上げとなった場合はスイス売りが見込まれるが、声明などで追加利上げを強く示唆してくると、影響は抑えられると見ている。ドルスイスは1ドル=0.90スイス台へのドル高スイス安が見込まれる。 |
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トルコ中銀政策金利 6月22日20:00 ☆☆☆ | トルコのエルドアン大統領はこれまで高インフレ下で低金利政策を進めるという姿勢を続けてきた。5月の大統領選に勝利した同大統領は、財務相にかつて財務相や副首相を務めたシムシェキ氏を抜擢した。同氏は米メリルリンチでストラテジストを務めた経験がある。さらに中央銀行総裁として5月に破綻した米ファーストリパブリックバンクで共同CEOを務めていたエルカン氏を指名した。同氏はファーストリパブリックバンクの前に、米ゴールドマンサックスに約10年務めていた。 市場に精通した両氏の下で、トルコの金融政策は大きな転換が見込まれている。市場では今回の会合で大幅な利上げが実施されるという見方を強めている。現行の8.5%からどこまでの利上げになるのかは見方が分かれており、20%という見方が最も多いが、14%から30%まで見通しが分かれている。大幅利上げはリラ高の材料と成るが、これまでの介入などによる強引なリラ安阻止の姿勢も後退すると見られることから、売り買いが交錯し、状況を見極めたいという動きが広がっている。1リラ=6円台へのリラ高が見込まれているが、相当不安定な動きが予想される。 |
英中銀金融政策会合(MPC) 6月22日20:00 ☆☆☆ | イングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)では13会合連続での利上げが見込まれている。利上げ幅は0.25%でほぼ一致している。英国の消費者物価指数(CPI)は4月分が前年比+8.7%とかなり高い水準となっている。21日に発表される最新5月分の予想は+8.5%とわずかに鈍化するものの高い伸びを維持している。物価高対応での追加利上げが期待されており、注目は声明や議事要旨での追加利上げへの姿勢となりそう。なお、投票結果は7対2(2名は据え置き)が見込まれている。7月4日で任期が満了となり、今回が最後の会合となるテンレイロ委員は据え置き主張を維持すると見込まれるが、テンレイロ委員とともに直近4会合で据え置きを主張しているディングラ委員が利上げ支持に回るようだと、グリーン次期委員のタカ派姿勢と合わせ、英中銀の利上げ姿勢強化が印象付けられ、ポンド高となる可能性がある。ポンドドルは1ポンド=1.30ドル超えが意識される。 |
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