2023年06月26日号

(2023年06月19日~2023年06月23日)

先週の為替相場

円がほぼ全面安

 先週(6月19-23日)のドル高円安が進み、23日に2022年11月10日以来のドル高となる1ドル=143円80銭台を付けた。

 6月にオーストラリアとカナダの中央銀行が市場予想に反して大幅利上げを実施。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が今後の積極的な引き締め姿勢を示すなど、世界的に金融引き締めの動きが強まる中、22日のイングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会(MPC)は大方の予想を超える0.5%利上げを決めた。世界的な金融引き締めの流れが強まる中、緩和姿勢の維持を示す日本円の売りが広がった。

 ドル円は週明け19日からしっかりとした展開が続いた。1ドル=142円台で鈴木財務相や西村経産相による円安けん制発言が出て、141円台までドル安円高となったが、その後142円台を回復するなど底堅かった。

 21日に米下院金融サービス委員会で行われたパウエルFRB議長の議会証言(用語説明1)では、事前に用意された原稿で「金利は年末までに幾分高くなると当局者はみている。インフレを2%に戻すにはまだ長い道のり」とされたことで、直近高値を超える142円35銭前後を付けた。しかし、同証言での質疑応答での「もっと緩やかなペースで金利を上げるのが理にかなっている」などの発言から141円台後半までドルが売られるなど、一方向の動きにはならなかった。

 22日の英国の大幅利上げを受けたポンド買い円売りや、同日発表されたノルウェーでの市場予想を超える0.5%利上げで欧州通貨買い円売りが強まったこともあり、ドルは対円で21日の高値を超えて上昇した。野口日銀審議委員が「イールドカーブコントロール(YCC)政策は当面調整が必要とは考えていない」と発言したことによる円売りも出た。さらに、22日に米上院銀行委員会の議会証言でパウエルFRB議長が「FOMC参加者の多くがあと2回の利上げを見込んでいる」との発言したこともドル買いを誘った。

 23日に発表されたフランスとドイツの購買担当者景気指数(PMI)が市場予想を下回ったことでユーロ安となり、ユーロ安円高もあってドル円も高値から少し下げた。しかし、その後は下落分を解消し、143円80銭台まで上昇するなど、円安基調が先週末まで続いた。

 ユーロなどクロス円でも円売りが優勢だった。19日に1ユーロ=155円30銭台を付けた後、日本の当局者による円安けん制発言や対ドルでのユーロ売りなどから20日に154円00銭台までユーロ安円高となった。

 その後は再び円安が優勢となり、直近高値を超えて23日に156円90銭台と、2008年9月以来の高値を付けた。同日のフランスとドイツのPMIが弱く出たことで、いったん155円00銭台まで大幅なユーロ安となったが、その後156円60銭台までユーロ買いが入って先週の取引を終えるなどユーロ高円安の流れが続いた。

 ポンド円は19日に1ポンド=182円30銭台を付けた後、21日の英物価統計(5月)、22日の英中銀金融政策会合を前にいったん利益確定のポンド売りが出て180円割れ。英物価統計は、インフレ目標の対象である消費者物価指数(CPI)前年比が+8.7%と市場予想に反して4月と同水準となった。CPIコア指数は前年比+7.1%と4月を超える伸びとなり、物価上昇の減速が一服した。

 この結果を受けていったんポンド高となり181円60銭台を付けたが、22日の英中銀金融政策委員会を前にいったん上昇分を解消する動きとなった。

 英中銀金融政策委員会は物価高継続を受けて、市場予想を超える0.5%利上げを決定した。これまで2回の会合では、0.25%利上げ7人に対して2人が据え置きという投票結果だった。今回は直近0.25%利上げを主張していたメンバー全員が0.5%利上げを主張していた。市場予想を超える引き締め姿勢の強さに週末にかけて182円90銭台までポンドが上昇している。

今週の見通し

 世界的に金融引き締め姿勢が強まる中で、緩和維持の姿勢を示す日本や、6月に入って金利を引き下げた中国に通貨安圧力が強まっている。

 金利差を狙った取引などもあり、円はほとんどの通貨に対して売りが出ている。こうした動きは当面続くとみられ、1ドル=145円に向けたドル高円安が予想される。

 ただ、昨年9月に約24年ぶりの円買い介入が実施された145円90銭前後の水準が近づいてきており、市場では介入が警戒されている。鈴木財務相、神田財務官ら通貨当局者の発言に神経質な動きとなる可能性がある。

 ドル円は介入警戒感からの円買いや利益確定の円買いなどが入りながらも、中期的には円売りが優勢の展開となり、145円台に向けた動きが強まるとみられる。

 ユーロ円やポンド円がドル円同様に上昇していくかどうかは、対ドルでのユーロやポンドの動きを見極めたい。26日から28日にかけて行われるECBフォーラム(用語説明2)では、最終日の目玉イベントとしてラガルドECB総裁、ベイリー・イングランド銀行(中央銀行)総裁、パウエルFRB議長、植田日銀総裁をパネラーとした金融政策に関するパネルディスカッションが行われる。各国の今後の金融政策に対する姿勢が直接対比出来る形で示される可能性がある。

 米国より物価上昇率の減少ペースが鈍い欧州経済の状況を受けて、ラガルド総裁やベイリー総裁がパウエル議長に比べてより積極的な引き締め姿勢を示すと、ユーロやポンドは対円での上昇だけでなく、対ドルでの上昇を伴って大きく買われる可能性がある。ユーロ円は157円台に向けた動きが見込まれる。

用語の解説

パウエル議長議会証言 1978年に制定された完全雇用均衡成長法(通称ハンフリー・ホーキンス法)の規定に基づき、FRB議長が米連邦議会両院に対して金融政策報告書を年2回提出するのに合わせて議会証言を行うもの。ハンフリー・ホーキンス法自体はすでに失効しているが、慣習として報告書の提出と議会証言は継続している。
ECBフォーラム ECBが主催して、ポルトガルの首都リスボン近郊にある観光都市シントラで毎年開催されている年次フォーラム(新型コロナの影響で2020、21年はオンライン開催)。ECB関係者や各国中銀、国際機関の関係者などを招いて実施される。

今週の注目指標

ECB年次フォーラム
6月26-28日 ☆☆☆
 26~28日開催されるECBフォーラムで、最も注目されているのが28日22時半開始のパネルディスカッション。ラガルドECB総裁、ベイリー・イングランド銀行(中央銀行)総裁、パウエルFRB議長、植田日銀総裁がフォーラムのテーマ「不安定なインフレ環境におけるマクロ経済の安定化」に沿って、金融政策に関するパネルディスカッションを行う。米、ユーロ圏、英の金融引き締め姿勢強化の動きに対して、日本の金融緩和長期維持の姿勢が強調されると、外貨買い円売りの流れがさらに強まり、1ドル=145円に向けた動きとなる可能性がある。
ユーロ圏消費者物価指数(6月)
6月29日18:00
☆☆☆
 世界的に物価高再燃に対する警戒感が広がる中、28日にドイツ、29日にフランスとユーロ圏全体の消費者物価指数が発表される。ドイツの消費者物価指数(CPI)前年比は5月の+6.1%から+6.3に、EU基準調和消費者物価指数(HICP)前年比は5月の+6.3%から+6.7%に上昇率が拡大する見込み。フランスはCPI前年比が5月の+5.1%から+4.6%、HICP前年比が+6.0%から+5.4%へ鈍化が見込まれる。ユーロ圏HICPは5月の+6.1%から+5.6%に鈍化する見込み。独物価の伸びに押される形でユーロ圏の物価鈍化が抑えられると、今後の積極的な利上げ予想につながり、1ユーロ=1.10ドル台へのユーロ高となりそうだ。ドイツの物価統計は国全体の前に主要州の数値が発表される。中でも14時半に発表される欧州有数の経済圏であるルール経済地域を含むノルトライン・ヴェストファーレン州の物価動向はドイツ全体の先行指標として注目されている。
米PCEデフレータ(5月)
6月30日21:30
☆☆☆
 6月13、14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では市場予想通り政策金利が据え置かれた。もっともFOMCメンバーによる年末時点での政策金利見通し(ドットプロット)で年内複数回の利上げが示唆され、市場の金融引き締め観測が強まった。
 13日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+4.0%と、4月の同+4.9%から急減速した。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+5.3%と、4月の同+5.5%からこちらも減速している。ともに市場予想とは一致している。ガソリン価格が前年比-19.7%と大幅に下落し、物価全体の伸びを押し下げた。食料品は前年比+6.7%と、依然高水準だが、4月の同+7.7%から減速。9カ月連続で上昇率が低下した。その他の項目では、これまでプラスを続けてきた医療サービスが-0.1%と小幅のマイナスだった。
米PCEデフレータの市場予想は前年比+3.8%と4月の同+4.4%から大きく鈍化する見込み。コア指数は前年比+4.7%と4月と同水準が見込まれる。米PCEデフレータは米CPIと比べ、医療サービスが指数全体に占める割合がかなり大きい。その影響もあってコアデフレータが予想を下回る伸びにとどまれば、ドル売りになる可能性がある。ドル円は143円前半に向けた動きが予想される。

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