2023年08月07日号

(2023年07月31日~2023年08月04日)

先週の為替相場

YCC柔軟化を受けたドル高円安が優勢も、週末にかけドル安進行

 先週(7月31日-8月4日)のドル円相場は、7月27-28日の日銀金融政策決定会合で決定したYCC(イールドカーブコントロール)柔軟化を受けた円安が継続した。日銀会合直後に乱高下を見せる中で1ドル=138円00銭台を付けたドル円は、その後141円台まで上昇。141円00銭前後で先週の取引が始まった。その後、円債利回りの上昇を受けた円買いなどに140円70銭前後を付けたが、押し目はそこまでとなり、ドル高円安基調に復した。日本銀行が実施した臨時オペが円売りのきっかけとなった。日本10年国債利回りが0.60%前後を付けたところで決定した臨時オペに、日銀による緩和継続が印象付けられた。

 米経済のソフトランディング期待を受けたドル買いもあり、143円台半ば超えまで上昇した後、2日日本時間朝に格付け会社フィッチ・レーティングスが米国の長期外貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)(用語説明1)について、最上級のAAAからAA+に一段階引き下げたことを受けて、ドル売りが入った。ドル円は142円70銭台まで急落。その後いったんドルの買い戻しが入ったが、株安が進む中でリスク警戒の円買いも加わり、同日の海外市場で142円20銭台までドル安円高となった。

 その後米ADP全米雇用レポートの好結果を受けてドル高となり、ドル円は143円台を回復。3日にも日銀が臨時オペを実施したこともあり、約一月ぶりのドル高圏となる143円89銭前後までドル高円安となった。

 その後は米雇用統計を前にしたポジション調整の動きに加え、米国の格下げをきっかけとした世界的な株安からのリスク警戒の円買いが広がり、一時142円00銭台を付けた。

 少し戻して142円60銭前後で、注目の米雇用統計を迎えた。非農業部門雇用者数が市場予想を下回る伸びに留まった一方、失業率が市場予想に反して前回を下回る好結果となり、平均時給が予想よりも上昇と、まちまちな結果となった。市場は米雇用市場が過熱気味な状況からソフトランディングに向かっているという見方を強めた。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ打ち止め期待が広がる形でドル売りとなり、ドル円は141円50銭台を付けている。

 ユーロドルは先週初めの1ユーロ=1.1040ドル台から、ドル高の流れもあって3日に1.0910ドル台を付けた。少し調整が入って1.0940ドル前後で米雇用統計を迎え、雇用統計後のドル売りに1.1040ドル台までユーロ高となった。

 ユーロ円はドル円の上昇などを受けて1ユーロ=157円50銭前後を付けた後、ユーロ高圏での推移となったが、フィッチによる米国格下げの影響でリスク警戒の円買いが入り、155円50銭台まで下落。その後はドル主導の展開となり、156円00銭を挟んでの推移となった。

 イングランド銀行(中央銀行)は3日の金融政策会合(MPC)で大方の予想通り0.25%の利上げを決定した。元々は0.25%利上げと0.50%利上げで見通しが分かれていたが、6月の英消費者物価指数が予想を超える鈍化となったことや、直近の英製造業、非製造業購買担当者景気指数(PMI)が弱い結果となったことなどから、大幅利上げ期待が後退した。直前になって0.25%利上げ期待が強まる中、MPC前からポンド売りが優勢となり、ポンドドルは31日の1ポンド=1.2870ドル台から会合結果発表前に1.2650ドル割れまで下落。発表後は1.2620割れまでポンド安となったが、イベントクリアによる利益確定の買い戻しなどもあって1.27ドル台を回復。米雇用統計後のドル売りに1.2790ドル台まで上昇した。

 オーストラリア準備銀行(中央銀行)は1日の金融政策会合で政策金利を据え置いた。据え置きは2会合連続。元々0.25%利上げが見込まれていたが、豪第2四半期消費者物価指数の伸びが予想を超える鈍化となったことで、短期金利市場では据え置き見通しが増えていた。もっとも専門家による見通しは据え置きと0.25%利上げ見通しで二分されていたこともあり、発表後は豪ドル売りとなった。

 31日に1豪ドル=0.6740ドル台を付けた後、少し豪ドル売りが入って0.6690ドル前後で結果発表を迎えると、ドル高の動きもあって3日に0.6510ドル台まで豪ドル安ドル高となった。米雇用統計後のドル安もあり、その後0.66ドル台を一時回復した。

今週の見通し

 米国の利上げ打ち止め見通しが広がっているが、米経済はうまくソフトランディングするとの期待が広がっており、ドル売りの影響は限定的なものとなりそう。日銀によるYCC柔軟化を受けて、日本の緩和政策長期化見通しが広がったことによる円売りもあり、ドル円はやや動きにくい展開となりそう。

 日米の金利差もあり、じりじりとした円安進行を見込んでいるが、勢いに欠けることもあり、ポジション調整のドル売りをところどころ交えての動きとなりそう。

 8月に入って世界的にバケーションシーズンで取引が低調になりがちなことも、落ち着いた相場展開につながる。

 注目は10日に発表される7月の米消費者物価指数(CPI)。ここ二回続けて大きな伸び鈍化となった米CPIは、今回は6月よりも伸びが強まる見込みとなっている。ある程度は織り込みが済んでいるが、前回並みの伸びが見込まれている変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数の前年比が予想外に強い伸びを示すと、追加利上げへの期待に繋がりドル買いが強まる可能性がある。6月30日に付けた145円台が大きなターゲット。

 CPIの伸びが予想を大きく下回った場合、米国の利上げ打ち止め期待がもう一段高まると見られる。今月24-26日に開催されるアトランタ連銀主催経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でパウエル議長が打ち止めに向けた姿勢を示すとの期待にもつながるだけに、ドル売りが強まる可能性がある。前回に比べると、ガソリン価格の上昇が見込まれるなど、ある程度強めの数字が出てくる可能性が高いものの、ブレのある指標だけに注意が必要。140円割れを付けるようだと、中期的な流れが変わる可能性がある。

 その他通貨も目立った材料がないだけに、落ち着いた動きが見込まれる。ユーロドルは上値の重さが印象的となっており、ドル全般の上昇傾向が強まるようだと1.08ドルを割り込むような動きになる可能性がある。

用語の解説

発行体デフォルト格付け(IDR) 発行体デフォルト格付け(IDR : Issuer Default Rating)は、金融債務の履行に関する発行体の相対的な脆弱性を格付け会社が評価したもの。国や政府関係機関などのソブリン発行体、地方公共団体、事業法人、金融機関などに対して付与されている。
ソフトランディング 本来は飛行機や宇宙船などがゆっくりと地面に降りる軟着陸のこと。転じて、過熱気味の景気を不況などの大きなショックを招かないように、穏やかに景気を落ち着かせ、安定に導くこと。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI)(7月)
8月10日21:30
☆☆☆
 前回6月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+3.0%と5月の+4.0%から伸びが大きく鈍化した。市場予想の+3.1%も下回った。変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数も前年比+4.8%と5月の+5.3%を下回る伸びに留まり、市場予想の+5.0%を下回った。前月比は総合・コアともに+0.2%と、市場予想の+0.3%を下回った。
 前年比の内訳を見ると、エネルギー価格が-16.7%と大きく低下し、全体を押し下げている。特にガソリン価格は-26.5%の大きな低下となった。エネルギー価格は4カ月連続、ガソリン価格は5カ月連続でのマイナス圏。共に下落率は直近で最も大きなものとなった。食品価格は+5.7%と全体よりも伸びているものの、伸び率は10カ月連続で鈍化している。
 食品とエネルギーを除いたコア部分で目立ったのが8カ月連続でマイナスとなった中古車の-5.2%。5月の-4.2%から下落率が大きくなった。新車は+4.1%とプラス圏ながら5月の+4.7%から伸び率が鈍化している。
 CPI全体を100としたとき34.7%を占める住居費は+7.8%と全体よりも伸びているものの、3カ月連続で伸びが鈍化している。住居費、家賃が基本的に更新時のみの価格改定となる関係で全体の変化に対して遅行する傾向があり、CPI全体が昨年6月をピークに伸び鈍化となる中でも、伸びが見られたが、今年3月をピークに低下に転じたと見られる。
 変化が特に大きかったのが輸送サービスの中の航空運賃で-18.9%。昨年9月、10月と+42.9%という上昇を見せた同部門は3カ月連続でマイナス圏となっている。衣料品や医療サービスといったその他の主要項目も伸び鈍化が見られるなど、前回は総じてインフレ鈍化を印象付ける結果となっていた。
 市場予想通り0.25%の利上げを決めた7月25、26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、「引き続きデータに依存した手法をとる」「入手するデータの全体像と、それらが経済活動とインフレ見通し及びリスクバランスに与える影響に基づき、会合毎に決定する」という従来姿勢を改めて示した。直近の物価の鈍化傾向もあり、市場は7月のFOMCでの利上げ打ち止め期待を強めている。4日に発表された米雇用統計において非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回ったこともあり、物価鈍化傾向が続くと、打ち止め期待がもう一段強まる状況となっている。
 米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータであり、CPIではないが、CPIはPCEデフレータより2週間以上発表が早く、両者の変化傾向が似ていることから、市場は物価統計の中でCPIを最も重要視する傾向がある。特に今回の場合は、FRBの姿勢の変化や、将来的な利下げの目途を示す場になるのではないかと市場が期待しているジャクソンホール会議が8月24-26日に開かれることから、市場の注目度が高まっている。
 今回のCPIの市場予想は前年比+3.3%と前回から伸びが強まる見込みとなっている。コア前年比は+4.8%と前回と同水準が見込まれている。エネルギー価格、特にガソリン価格の上昇見込みが全体を押し上げる材料と見られる。今年の6月から7月にかけて米国のガソリン価格はEIA(米エネルギー情報局)調査による全米全種平均で前月比+0.8%と小幅ながら上昇。CPIの算出は都市部のみのデータとなるため、そのままの伸びとはならないが、小幅な上昇が見込まれる。さらに比較対象元の2022年の数字が大きく違っている。昨年6月から7月にかけてガソリン価格は前月比-7.7%の大幅な低下となった。5月から6月にかけてが+9.9%となったことと対照的。前回と比べて低くなった価格からの比較で前年比を計算するため、数字の上では大きな伸びになる可能性が高い。その他の項目は6月と大きな違いがないとの思惑から、コアは6月と同水準の伸びが見込まれている。
 物価反発の理由がはっきりとしているため、予想前後であれば相場への影響は限定的と見られる。予想に反してコア指数でも前回より強い伸びが示された場合はドル高が見込まれる。ドル円は143円台への上昇が期待される。
英第2四半期GDP速報値
8月11日15:00
☆☆
 英国の第2四半期GDP速報値が発表される。元々英国は第2四半期でのマイナス成長が見込まれていた。しかし5月の月次GDPが市場予想の前月比-0.3%に対して-0.1%に留まったことで、第2四半期GDPの市場予想は前期比変わらずと、マイナス成長の回避が期待されている。同時に発表される6月の月次GDPの予想は前月比+0.1%とプラス圏回復が見込まれており、英国経済の底堅さが示される見込み。英中銀による追加利上げ期待が高まると、ポンドドルは1.29ドルに向けた動きが期待される。
米ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)(8月)
8月11日23:00
☆☆
 前回7月ミシガン大学消費者信頼感指数は速報時点で72.6と2021年9月以来の高水準となった。その後71.6まで下方修正されたが、5月の59.2、6月の64.4から着実に上昇しており、景況感改善が示されている。今回は71.5と前回とほぼ同水準が見込まれている。予想を超えて前回よりも強めの数字が出てくると、ドル買いが強まる可能性がある。ブレが比較的大きな指標だけに大きな乖離には注意したいところ。

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