2023年08月14日号
先週の為替相場
ドル高基調が継続、ドル円は一時145円台
先週(8月7日-11日)のドル円相場は、ドル高円安となり11日に6月30日以来の1ドル=145円00銭を付けた。7月27-28日の日銀金融政策決定会合で決定したYCC(イールドカーブコントロール)柔軟化により、日銀の緩和政策が長期化するとの見通しが広がっており、円売りにつながった。
4日米雇用統計発表後のドル売りの流れが続き、週明け東京市場午前に7月31日以来のドル安円高となる141円52銭を付けた。その後は一転してドル高円安となった。米債利回りの上昇がドルを支えたほか、欧州中央銀行(ECB)の追加利上げ期待後退を受けたユーロ売りドル買いからのドル全般の買いなどが支えとなった。
厚生労働省が8日に発表した6月の毎月勤労統計調査(用語説明1)において、実質賃金が15カ月連続で前年割れとなった。名目賃金に相当する現金給与総額は18カ月連続で増加したものの、市場予想を大きく下回る伸びに留まった。この結果を受けて日銀の緩和政策長期化見通しが強まり、円売りとなった。同日格付け会社ムーディーズ・インベストメントがBNYメロン(用語説明2)、ステートストリート、USバンコープなど複数の米大手行の格付け見通しを引き下げ、M&Tバンク等中小銀行10行の格下げを実施。リスク警戒感からのドル高が広がった。ドル円は142円40銭台から143円40銭台に上昇した。
10日の東京市場で株高を好感したリスク選好の円売りが強まり144円80銭前後までドル高となった。同日発表の7月米消費者物価指数(CPI)が前年比+3.2%と6月の伸びを上回ったものの、市場予想に届かない伸びに留まり、米国の利上げ打ち止め期待が広がる形で一時143円30銭前後までドル安となった。安値からすぐに反発を見せると、発表前の水準を超えて上昇。CPIの弱い結果でもドル安が限定的なものに留まったことで、ドル買いに安心感が広がった。11日の米生産者物価指数(PPI)が強い伸びとなったこともあり、ドル円は6月30日以来の145円00銭を付け、その後も144円台後半のドル高円安水準で週の取引を終えた。
ユーロドルは8日にムーディーズによる米金融機関の格下げ・格下げ方向での見通し変更などを受けたリスク警戒のドル買いに1ユーロ=1.0930ドル前後までユーロ安となった。同日報じられたイタリア政府による銀行の超過利益に対する課税案への警戒感から欧州株が売られたこともユーロ安となった。その後は利益確定の動きなどからユーロが買い戻され、さらに10日の米消費者物価指数を受けたドル売りに1.1065ドルを付けた。もっともすぐにユーロ売りが出るなど、ユーロの上値は重く1.0950ドル前後で週の取引を終えた。
ユーロ円はドル円同様に円安の勢いが強く、10日の円安局面でリーマンショックのあった2008年以来のユーロ高圏となる1ユーロ=159円台まで上昇。その後159円22銭を付けた。対ドルでのユーロ売りに高値から少し調整が入って158円70銭台で週の取引を終えた。
今週の見通し
ドル高が継続する見込み。米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げは7月のFOMCで打ち止めになる可能性が高いが、市場は打ち止め見通しを織り込んだうえでドル高となっている。
欧州の景況感悪化と追加利上げ期待の後退、不動産開発大手の資金難懸念からの中国経済への警戒感拡大、日銀の緩和政策長期化見通しなどを受けて、投資資金のドルへの流入が強まる展開。米経済は上手くソフトランディングに向かっているとの期待もドル買いにつながっている。
米雇用統計や消費者物価指数などの重要指標発表もこなし、次の注目材料は24-26日に開催される米ジャクソンホール会議となる。それまでは方向性の大きな変化がなく、ドル高が続く可能性がある。
ドル円は昨年秋に一度目の介入が入った145円台を付けてきており、介入警戒感が強まっている。ただ、直近の動きが介入警戒などからゆっくりとしたドル高円安となっており、一時的な過度な動きをけん制するという意味での介入が入りにくくなっている。ゆっくりとしたドル高円安が続く可能性が高い。146円台に向けた動きを期待するが、利益確定売りなどを交えて上下に動きながら水準を切り上げての上値トライとなりそう。
ユーロドルやポンドドルなどでもドル高が進行。ドル主導の展開でユーロ円などはやや動きが不安定になりそう。円安の勢いが勝る可能性が高いが、ドル円ほどの上昇にはつながらない可能性がある。
豪ドルやNZドルは、主要輸出先である中国経済への警戒感もあり、対円でも売りが強まる可能性。
用語の解説
毎月勤労統計調査 | 厚生労働省が、賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に毎月実施している調査。前身を含め大正12年から始まっている。 常用労働者5人以上の事業所を対象として毎月実施する全国調査及び都道府県別に実施する地方調査のほか、常用労働者1-4人の事業所を対象として年1回7月分について特別調査を実施している。 |
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BNYメロン | 2007年にバンクオブニューヨーク(BONY)とメロンフィナンシャルが合併して誕生した金融機関。ステートストリート、JPモルガンチェース、バンクオブアメリカと並んでカストディ(有価証券の管理業務)をグローバルに展開する金融機関として知られている。 |
今週の注目指標
米小売売上高(7月) 8月15日21:30 ☆☆☆ | 前回6月の米小売売上高(前月比)は市場予想の+0.5%を下回る+0.2%に留まった。ガソリン小売価格の低下を受けてガソリンスタンド売上が-1.4%と低下。建材・園芸用品が-1.2%とともに全体を押し下げた。一方、無店舗小売が+1.9%、家具が+1.1%と好調で3か月連続でプラス圏を維持。GDPの個人消費との相関があるとされるコア売上高(自動車、ガソリン、建材、外食を除いたもの)は+0.6%と5月の+0.3%(速報時の+0.2%から上方修正)から伸びており、米個人消費に底堅さを示した。この結果もあり、7月27日に発表された第2四半期GDPでは個人消費が市場予想の前期比年率+1.2%を超える+1.6%の伸びにつながり、GDP全体も第1四半期の前期比年率+2.0%からの伸び鈍化見込みに対して+2.4%と強い結果となった。 個人消費動向に大きな影響を与える雇用状況は、4日に発表された7月の米雇用統計において非農業部門雇用者数(前月比)が+18.7万人と市場予想を下回り、6月の数字も+20.9万人から+18.5万人に下方修正される厳しいものとなったが、失業率は6月の3.6%から予想外に3.5%へ低下。平均時給が前月比、前年比ともに市場予想を上回るなど、底堅さも示している。雇用に関しては一時の勢いは減退しているものの、堅調な状況を維持しているとみられており、個人消費にも好影響が期待される。 こうした状況を受けて、今回の予想は前月比+0.4%と前回の+0.2%を超える伸びが見込まれている。変動の激しい自動車及び同部品を除いた数字も前月比+0.4%と前回の+0.2%から伸びが強まる見込みとなっている。予想前後の好結果が出てくると、ドル高材料となり、ドル円は146円に向けた動きが期待される。 |
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米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨 8月17日03:00 ☆☆ | 市場予想通り0.25%の利上げを実施した7月25、26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が公表される。6月の会合で示されたFOMC参加メンバーによる政策金利見通しでは、年末までに後2回の利上げ見通しが示されており、7月の利上げプラスあと1回の利上げとなっていた。7月のFOMCではパウエル議長が「引き続きデータに依存するアプローチで臨む」「先行きの政策何も決定しておらず、9月の利上げを実施する可能性も、実施しない可能性もともにある」と発言した。従来姿勢から外れたものではないが、7月のFOMCで利上げが打ち止めになる可能性を市場は意識している。先週10日に発表された7月の米消費者物価指数(CPI)が、大方の市場予想に届かない伸びに留まったこともあり、今回の議事要旨で金利据え置きに向けた議論が出ているようだと、市場の利上げ打ち止め期待が強まり、ドル売りとなる可能性がある。もっとも、基本的には今後のデータ次第という議長発言通り、利上げ継続の可能性を排除しない印象を与えるものとなる可能性が高い。この場合ドル高傾向が続き、ユーロドルは1.08台前半をトライする可能性が高まる。 |
豪雇用統計(7月) 8月17日10:30 ☆☆ | 前回6月豪雇用統計で、雇用者数は前月比+3.26万人と市場予想の+1.5万人を大きく上回った。5月の雇用者数は前月比+7.66万人となっており、2カ月続けて大きな雇用増となった。失業率は5月、6月と3.5%となっており、約50年ぶりの低水準となった昨年10月の3.4%に迫る低さとなっている。前回の雇用増は正規雇用が+3.93万人、非正規雇用が-0.67万人と正規雇用が中心となっており、内訳含め豪雇用市場の力強さが示された。 今回の市場予想は雇用者数が前月比+1.5万人と伸びがやや鈍化、失業率が3.5%での横ばいとなっている。豪州の人口は約2600万人であり、前回、前々回の雇用増は人口比で考えると相当に高水準。今回は伸びが鈍化する見込みとはいえ、プラス圏をしっかり維持する見込みとなっており、失業率の低さと合わせ、予想前後の結果になると、豪雇用市場の力強さが印象付けられる。オーストラリア準備銀行(中央銀行)による追加利上げ期待につながり、豪ドル買いにつながる可能性がある。豪ドル円は1豪ドル=95円超えを意識する展開となりそう。 |
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