2023年08月21日号

(2023年08月14日~2023年08月18日)

先週の為替相場

ドル高基調続く

 先週(8月14日-18日)のドル円相場は、ドル高円安が続き、17日に昨年11月10日以来のドル高となる1ドル=146円56銭を付けた。昨年秋に実施された約24年ぶりの円売り介入は、第一回目が145円90銭台で入ったと見られており、介入実施水準を超えてのドル高となった。

 中国不動産大手碧桂園(カントリーガーデン)(用語説明1)の債券利払い停止をきっかけに、中国不動産市場への警戒感から中国売りとなった。さらに2021年に債務不履行に陥った同国不動産大手恒大集団(エバーグランデ)が米ニューヨークの裁判所に連邦破産法第15条(日本での民事再生法に相当)の適用を申請したことも、中国売りにつながった。こうした動きがリスク警戒のドル買いと、ドル円以外での円買いを誘った。

 14日の東京市場で、6月30日に付けたそれまでの年初来高値を超える145円22銭を付けた。介入警戒感からのドル売り円買いや、カントリーガーデンの利払い停止を受けたリスク警戒の円買いなどに、すぐに144円66銭までドル安円高となったが、そこが先週の安値となった。

 同日のNY市場で、米債利回りの上昇を受けたドル買いから145円50銭超えのドル高円安となった。13日に行われたアルゼンチン全党同時開放型義務的予備選挙(PASO)の中の大統領予備選挙において、第3勢力とされた右派ミレイ氏が勝利。同氏は中央銀行の廃止や経済のドル化など大きな変化を公約に掲げており、政治的な混乱を警戒した動きがドル買いアルゼンチンペソ売りからのドル買い新興国通貨売りを誘ったことも、ドル高につながった。

 15日発表の7月米小売売上高が予想を超える伸びとなったこともドル高となった。145円80銭台を付けた後、いったん利益確定の売りなどに145円10銭前後までドル売りとなったが、145円の大台を維持するしっかりとした動きとなった。

 16日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月25日-26日開催分) では、インフレに著しい上振れリスクがあり、一段の引き締めが必要になりうると認識が示された。市場は7月のFOMCでの利上げ打ち止めを織り込んでいるだけに、追加利上げの可能性が示されたことがドル買いとなった。17日日本時間朝方に、直近の最高値である146円56銭を付けている。

 その後はドル高の調整が目立った。17日の市場で中国当局が国有銀行を通じての為替介入強化を指示と報じられ、ドル売り人民元買いをきっかけにドル全体の売りが強まった。中国恒大集団の連邦破産法15条適用申請の報道もリスク警戒の円買いを誘った。18日の市場では週末を前にしたポジション調整のドル売りなども見られ、144円90銭台を一時付けている。

 ユーロドルでもドル高となった。ポンドの上昇などに支えられ、安値から買われる場面が何度か見られたが、14日の1ユーロ=1.0960ドル台から18日に1.0845ドルを付けるなど、じりじりとユーロ安が進んだ。

 ユーロ円は、ドル円の円安と対ドルでのユーロ安が交錯した。当初は円安が優勢となり、14日の1ユーロ=158円20銭前後から15日に159円30銭台まで上昇。その後は17日まで158円60銭台から159円30銭台の高値圏での推移となった。週の後半にかけて中国情勢を警戒してのリスク回避の円買いが優勢となり、18日に157円60銭台までユーロ安となった。

 ポンドは15日に発表された英雇用統計で、週平均賃金の伸びがボーナスを除くベースで+7.8%と2001年の統計開始以来の最高を記録した。市場は物価高の長期化懸念を強め、ポンド買いとなった。16日に発表された7月の英消費者物価指数は前年比+6.8%と6月の+7.9%から伸びが鈍化も、市場予想の+6.7%を超える伸びとなり、ポンド高となった。ポンドドルは14日の1ポンド=1.2610ドル台から17日に1.2780ドル台を付け、ポンド円は14日の1ポンド=183円40銭台から17日に186円40銭台を付けている。

今週の見通し

 中国情勢を受けたリスク警戒感や、日銀による円買い介入への警戒感などが上値を抑えているものの、流れはまだドル高と見られる。

 FOMC議事要旨で追加利上げの可能性が示されたものの、市場は7月のFOMCでの利上げ打ち止め見通しを崩していない。しかし、利上げ打ち止めを織り込んだうえでドル高が進む力強い展開となっている。

 米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締め姿勢が長期化するとの見通しから長期金利が上昇傾向にあり、ドル高につながっている。日銀による緩和政策長期化見通しもあり、日米の金利差を受けたドル高円安が続くと見られる。

 ただ、今週は24日-26日にジャクソンホール会議(用語説明2)が予定されており、それまでは動きが抑えられる可能性がある。パウエル議長は25日現地時間朝(日本時間23時5分)に講演を行う予定となっている。その他のプログラムは現地時間24日朝の発表となっており、米国以外の中銀総裁による発言があるかどうかは不明であるが、例年通りであれば中銀総裁によるパネルディスカッションなどが実施されると見られ、こちらも注目を集めるところとなっている。

 各国中銀の今後に向けた姿勢の差が強調されると、大きな流れにつながる可能性がある。パウエル議長は市場の期待する今後の利下げについて慎重な姿勢を示す可能性が高い。長期金利の上昇などにつながるとドル高が強まると見られる。ドル円は直近高値を超えて146円台後半を試す可能性がある。

用語の解説

碧桂園(カントリーガーデン) 1992年創業の中国不動産開発会社。2007年に香港株式市場に上昇した。地方都市での開発に強みを持ち、三線都市、四線都市からの収入が2022年の収入全体の62%を占めている。2020年には5707億元(約782億ドル)の売上を誇ったが、2022年には3575億元まで減少した。
ジャクソンホール会議 毎年8月後半に行われるカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム。1978年にスタートし、1982年から今回の開催地でもあるワイオミング州にある米有数の避暑地ジャクソンホールで開催されている(新型コロナの関係で2020年、2021年はオンライン開催)。米、ユーロ圏、英、カナダ、日本など先進国を中心とした中銀総裁、著名な経済学者などが招待され、金融政策、世界経済についての議論を行う。公開プログラムを除いては、マスコミ、通訳なども入れない招待客のみの交流の場が提供されており、中銀関係者にとって貴重な機会として利用されている。また、2010年に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和第2弾(QE2)の実施方針を同会議で示すなど、中銀トップによる今後の金融政策方針を市場に伝える機会として利用されている。

今週の注目指標

ユーロ圏PMI(8月)
8月23日17:00
☆☆☆
 23日に8月のユーロ圏及び加盟主要国であるフランスとドイツの購買担当者景気指数(PMI)が発表される。フランスは製造業、サービス業ともに7月からの改善が期待されているが、ドイツとユーロ圏はともに7月からの悪化が見込まれている。ドイツは前回の製造業PMIが市場予想を大きく下回り、パンデミック後の混乱下にあった2020年5月以来の40割れとなる38.8を付けた。今回は38.5とさらに悪化見込みとなっている。ユーロ圏の景況感悪化は追加利上げ期待を後退させる形でユーロ売りにつながる。もっとも前回がかなり厳しい数字であったことや、フランスでの景況感改善もあり、市場予想に反して前回から改善されるとの見方もある。強めに出た場合は、物価高が継続する中で、当初見通し通り追加利上げが実施されるとの思惑に繋がり、ユーロ高となりそう。1ユーロ=1.0950ドル超えが期待される。
英PMI(8月)
8月23日17:30
☆☆☆
 前回7月の英購買担当者景気指数(PMI)は製造業、サービス業ともに市場予想を下回る大きな低下となった。今回の市場予想は製造業、サービス業ともにさらなる低下を見込んでいる。もっとも英国は直近の賃金の伸びが過去最高を記録しており、予想ほどの落ち込みを見せない可能性が十分にある。市場予想に反して景況感の改善となった場合、追加利上げ期待を押し上げてポンド買いが見込まれる。1ポンド=1.2800ドル超えへの上昇が期待される。
パウエル議長講演
8月25日23:05
☆☆☆
 24日から26日まで開催されるジャクソンホール会議。初日は歓迎レセプションなどが中心となり、本格的な公開プログラムは25日朝のパウエル議長による基調講演からとなる。今回のジャクソンホール会議のテーマは「世界経済の構造変化」。世界的に物価高がピークを超え、利上げサイクルの終了と、一部資源国などで利下げサイクルのスタートなどが見られる中で、パウエル議長が現状をどのようにとらえ、米国の今後の姿勢をどのように示すかが注目されている。FRBが早期の利下げに否定的な姿勢を示しているにもかかわらず、短期金利市場では来年上半期での利下げを50%以上織り込む動きを見せている。議長が利下げに否定的な姿勢を改めて示した場合、市場の利下げ見通し先送りからのドル買いとなる可能性がある。1ユーロ=1.0800ドルを割り込む動きが期待される。

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