2023年08月28日号
先週の為替相場
ドル円は一時年初来高値を更新するドル高円安
先週(8月21日-25日)のドル円相場は、上下の動きを経て25日金曜日に年初来高値を更新する1ドル=146円63銭を付けた。
週前半に1ドル=146円40銭前後までドル高円安となったが、17日に付けた昨年11月10日以来となるドルの高値146円56銭の手前でドル売り注文が入っており、いったん上値を抑えられた。24日から26日の日程で開催される米カンザスシティ連銀(用語説明1)主催経済シンポジウム(通称:ジャクソンホール会議)を前に、利益確定のドル売りが入り、23日に発表されたユーロ圏、英、米の購買担当者景気指数(PMI)が軒並み弱く出たことを受けたリスク警戒の円買いもあって、144円84銭を付けた。
23日米国株式市場引け後に発表された米半導体大手エヌビディア(用語説明2)の4-6月期決算が好結果となったことを受けて、24日アジア市場でアジア株、米株先物時間外取引などで株高が進み、ドル円でもドル高円安となった。ジャクソンホール会議でもっとも注目を集めるパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が日本時間25日23時5分から始まるという中で、22日、23日の市場でドル売りに回った参加者のドルの買い戻しなどが入ったと見られ、146円台を回復して議長講演を迎えた。
注目のパウエル議長講演では、必要であれば追加的な引き締めの準備があると、追加利上げの可能性に言及し、講演前の146円10銭台から146円30銭前後まで急騰。一方で今後についてはデータを踏まえ慎重に進むという姿勢を示したことで、一転して145円70銭台に下落した。もっとも総じてインフレを抑えることに積極的姿勢が見られた内容を受け、その後は再びドル高が優勢となった。短期金利市場動向を確認する限り、市場は議長講演を受けて追加利上げの期待を強めたとは言い難いが、早期の利下げについては慎重な見方を示していると見られ、ドル高円安となった。
ユーロ円でのユーロ買い円売りなどに支えられて22日に1ユーロ=1.0929ドルを付けたユーロドル。同日米国市場での米債利回りの上昇などをきっかけにドル高が優勢となり1.0830ドル台を付けた。23日発表のユーロ圏及びドイツのPMIが弱めに出るのではとの警戒感もユーロ売りにつながった。ドイツPMIはサービス業が市場予想を大きく下回り、好悪判断の境となる50を割りこむ47.3という相当弱い結果となった。ドイツPMIの30分後に発表されたユーロ圏PMIもサービス業が市場予想を下回り50も割り込む48.3となった。これらの結果を受けてユーロ売りがもう一段進み、1.0803を付けている。同日に発表された米PMIが弱く出たことでドル売りが強まると、ユーロドルは下げ分を解消。1.0870台を付けた。もっとも週末にかけてはドル高が優勢となり、1.0760ドル台を付けている。
今週の見通し
ジャクソンホール会議では植田日銀総裁が26日にパネルディスカッションに参加し、日銀の緩和政策維持見通しを改めて示した。パウエル議長発言を受けて米国では現状の高い金利水準が当面続くと見られており、日米の金利差を意識したドル高円安が続く見込み。
昨年9月に約25年ぶりとなるドル売り円買い介入の第1回目が実施された水準を超えてきており、介入警戒感などから上値追いに少し慎重姿勢が見られる。しかし、下がるとすぐにドル買いが出る流れとなっており、ドル高円安の地合いとなっている。
1日の米雇用統計がやや弱めに出ると見込まれていることや、心理的に大きな節目となる150円の手前にはドル売り注文が入っていると見られることから、ゆっくりとした動きが見込まれるものの、少しずつドル高を試す展開か。
米雇用統計までに148円-149円前後までの動きは十分に見込まれる。米雇用統計次第では節目の150円超えも視野に入ってくる。
ユーロドルは対ドルでのユーロ売りと対円でのユーロ買いが交錯し、方向性をつかみにくい。1.08ドル台後半から1.09ドル台では売りが出てくると見られ、やや上値が重い展開を見込んでいる。
用語の解説
カンザスシティ連銀 | 米国の連邦準備制度の下で、12ある連邦準備銀行のうちの一つ。本部はミズーリ州カンザスシティ。コロラド州、カンザス州、ネブラスカ州、オクラホマ州、ワイオミング州、ニューメキシコ州及びミズーリ州の一部が担当地区となっている。今月21日にFDICなど金融監督機関で長いキャリアを持つジェフリー・シュミッド氏が新総裁に就任した。 |
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エヌビディア | 1993年に創業された米国の半導体メーカー。カリフォルニア州サンタクララに本社がある。画像処理用のプロセッサであるGPUの最大手。2023会計年度の売上高は269.7億ドル。 |
今週の注目指標
米PCEデフレータ(7月) 8月31日21:30 ☆☆☆ | 10日に発表された7月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+3.2%と6月の+3.0%から上昇したものの、市場予想の+3.3%に届かない伸びとなり、市場の7月FOMCでの利上げ打ち止め期待につながった。米国のインフレターゲットの対象であるPCEデフレータの市場予想は前年比+3.3%、コアデフレータが+4.2%と、6月の+3.0%、+4.1%を上回る伸びが見込まれている。CPI同様に全体の伸びが市場予想に届かなかった場合や、コアの伸びが6月と同水準に留まった場合は、先週の講演でパウエル議長が可能性に言及した追加利上げの期待が後退し、ドル売りとなる可能性。ドル円は145円台を試す可能性がある。 |
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米雇用統計(8月) 9月1日21:30 ☆☆☆ | 前回7月の米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+18.7万人と市場予想の+20.0万人を下回る伸びに留まった。また6月のNFPが速報時の+20.9万人から+18.5万人に下方修正された。一方、失業率は3.5%となり、6月の3.6%から改善した。 7月のNFPの内訳を確認すると、民間部門は+17.2万人と、6月の+12.8万人から大きく増加した。6月は数字自体が弱かったことに加え、景気動向と直結しない政府部門が+5.7万人と大きくなっており、全体の数字以上に弱いという印象を与えた。7月の政府部門は+1.5万人と落ち着いた水準になっており、民間部門の雇用回復が見られた。民間雇用の内、財部門は+1.8万人となった。6月は小幅ながらプラス圏推移となった製造業が-0.2万人と小幅ながら減少に転じている。サービス業では6月に雇用減となった小売業が+0.9万人と小幅ながらプラス圏を回復した。景気の変化に敏感な業種だけに、市場の警戒感が少し後退した。また、金融業が+1.9万人と6月の+0.9万人から伸びが強まった。このところ好調な雇用増を示している教育・医療部門は、医療・社会扶助サービスの+8.71万人に支えられて+10万人と雇用市場全体を支えた。一方、このところ弱さが目立つ情報業は-1.2万人と3カ月連続での雇用減となっている。雇用全体の先行指標とされるテンポラリーヘルプサービスは-2.21万人と2カ月連続で2万人を超える減少となった。また、同部門を含む対事業所サービスは6月の+2.3万人から-0.8万人となっている。アフターコロナで雇用の大きな回復を示し、昨年から今年第1四半期にかけての雇用の大幅増を支えてきた娯楽・接客業は+1.7万人と6月の+1.9万人とほぼ同水準の伸びとなった。 今回の市場予想はNFPが前月比+16.8万人、失業率が3.5%となっている。NFPは弱めに出た6月、7月をさらに下回る伸びに留まると見られている。新型コロナでの雇用の大きな減少からの回復期が終了し、コロナ前の状況に戻ったとすると、弱いというほどの水準ではないが、コロナ前10年(2010年-2019年)の月平均である前月比+18.3万人を下回っており、やや弱めの数字という印象。予想前後もしくは予想を下回る弱さを見せるようだと、データ次第というFRBの姿勢もあって、追加利上げの期待が後退し、ドル売りになる可能性がある。ドル円は145円台前半に向けた動きが期待される。 |
ISM製造業景気指数(8月) 9月1日23:00 ☆☆☆ | 前回7月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数は46.4と、6月の46.0から小幅に改善したものの、市場予想の46.8に届かなかった。拡大・縮小判断の分岐点となる50を9カ月連続で下回った。リーマンショック前後のいわゆるグレートリセッション期以来の長期に渡る縮小圏での推移となっている。先行指標とされる新規受注が47.3と6月の45.6から改善したものの、雇用が44.4と6月の48.1から大きく悪化し、全体を押し下げた。 今回は47.0と前回から小幅な改善が見込まれている。ただ依然として50を下回る水準での推移が見込まれている。ISM製造業の1時間半前に発表される米雇用統計が弱めに出て、ISM製造業が予想を下回ってくると、ドル売りが加速する可能性がある。ドル円は144円台をトライする動きが視野に入ってくる。 |
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