2023年09月04日号

(2023年08月28日~2023年09月01日)

先週の為替相場

ドル円は29日に147円37銭を付ける

 先週(8月28日-9月1日)のドル円相場は、29日にこれまでの年初来高値を更新し、昨年11月以来のドル高となる1ドル=147円37銭を付けた後、1日の米雇用統計などの雇用関連指標の弱さもあって144円45銭まで低下。その後146円20銭台までドル高となって週の取引を終えるなど、上下の動きが見られた。

 25日のジャクソンホール会議でのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長講演において、追加利上げの可能性に言及したことなどを受けて、先週初めからドルがしっかり。26日に植田日銀総裁が同会議でのパネルディスカッションで緩和維持の姿勢を改めて示したこともドル円を支え、28日からの週は146円台での推移で始まった。

 米債利回りの上昇を受けたドル買いや、29日発表のドイツGfK消費者信頼感指数(用語説明1)の予想を超える悪化によるユーロ売りドル買いに、ドル円は心理的な節目である147円を超えて上昇。昨年11月以来約9カ月半ぶりのドル高円安となる147円37銭を付けた。

 29日に発表された7月の米雇用動態調査(JOLTS)は、最も注目される求人件数が882.7万人と市場予想の950万人を大きく下回り、約2年ぶりの低水準となった。採用率、離職率などの数字も軒並み低下しており、米雇用市場の厳しい状況が示された。この結果を受けてドル円は高値圏から一気にドル売りが入り、28日からもみ合っていた146円台半ば前後の水準も割り込んで、145円67銭を付けた。

 ドル売り一服後は、ドル高基調に復し146円50銭台を付けたが、30日発表の米ADP雇用者数と、米4-6月期GDP改定値が共に市場予想を下回る弱い結果となり、再びドル安となった。9月1日発表の米雇用統計に対する警戒感や、米景気の鈍化懸念を受けた米債利回りの低下などを受けて、29日の安値を割り込む145円56銭を付けている。

 その後の高値は146円30銭前後までに抑えられ、1日発表の米雇用統計までややドル売りが優勢となった。31日発表の7月米PCEデフレータは市場予想とほぼ一致したこともあり、大きな材料とはならなかった。

 1日発表の8月米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が市場予想の前月比+16.5万人に対して+18.7万人と上回ったものの、7月の前回値が+18.7万人から+15.7万人に下方修正、6月の前々回値が速報時点での+20.9万人、前回示された改定時点での+18.5万人から+10.5万に大きく下方修正されたことで、厳しい数字との認識が広がった。また、失業率が7月の3.5%から予想を超える3.8%まで一気に悪化したこともあり、厳しい結果という認識が広がった。この結果を受けてドル円は144円45銭まで大きくドル安となった。しかし、その後一転してドル買いが入った。米雇用統計を受けて低下した米長期債利回りが反発したことや、23時に発表された8月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数画市場予想の47.0を上回る47.6となったことなどがドル買いにつながった。ドル円は146円29銭まで大きく上昇し、ほぼ高値圏で週の取引を終えた。

 ユーロドルは先週初めの1ユーロ=1.08ドル台前半を中心とした推移から、29日のドイツGfK消費者信頼感指数の弱さをきっかけにしたユーロ売りに1.0782ドルまでユーロ安となった。同日の米雇用動態調査(JOLTS)の弱さを受けたドル売りに一気に反転し1.0892ドルを付けると、翌29日の米ADP雇用者数と米4-6月期GDP改定値の弱さを受けたドル売りに1.0945ドルまでユーロ高となった。

 高値を付けた後も1.09ドル台前半を中心としたユーロ高基調となったが、31日にシュナーベルECB理事が「ユーロ圏の経済活動は明確に鈍化、成長見通しは6月の予測より弱い」と発言をしたことをきっかけにユーロ売りとなり、1.0830ドル前後を付けた。同日に発表された8月のユーロ圏消費者物価指数速報値が市場予想を上回ったが、それ以上に景気先行き不透明感からのユーロ売りの勢いが勝った。

 米雇用統計発表直後のドル売りに1.0880ドル台までユーロ高となったが、その後ドル買いが強まると、一転して1.0770ドル台までユーロ安となって、ほぼ安値圏で週の取引を終えた。

今週の見通し

 ドル高の流れが続いている。ただ、先週の米雇用動態調査(JOLTS)と米雇用統計という2つの指標により、米雇用市場の鈍化が確認されたことで、年内の追加利上げ期待が後退している。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ期待はもともと低いものであったが、11月もしくは12月のFOMCで利上げを行うという見通しは、複数のFRBメンバーによる追加利上げの可能性言及などもあって、米雇用統計前まで40%を超える程度の織り込みが見られた。米雇用統計後は30%台前半まで落ちてきている。日銀による緩和政策長期化見通しもあって、ドル円は上方向の意識が続くが、上値を積極的に追いかける動きにはならない可能性がある。

 もっとも、流れ的にはまだ上方向と見られ、下がるとドル買いが出る展開か。先週の米雇用統計後に付けた144円台が意識されるところで、145円台前半からドル買い注文が並ぶと見込まれる。上方向は直近高値147円37銭を超える動きとなるかどうか。超えた場合でも148円から150円にかけてはドル売り注文が入ると見られる。9月13日に発表される8月の米消費者物価指数や、9月19、20日に開催される米FOMCを確認したいという意識もあり、ドル円は下値しっかりの展開も、ゆっくりとした上値トライを見込んでいる。

用語の解説

GfK消費者信頼感指数 ドイツの市場調査会社GfK(Growth from Knowledge)による消費者に対するマインド調査を基にした指数。約2000人に対して、経済見通し、所得見通し、購買意欲などの調査を実施し、その結果を基に指数化する。
シュナーベルECB理事 イザベル・シュナーベル(Isabel Schnabel)ECB理事。ドイツ銀行での勤務を経て、ドイツ・マンハイム大学で経済学の博士号を取得。同大学助教授などを経て、2007年から2015年までドイツ・マインツ大学教授(金融経済学)、2015年からドイツ・ボン大学教授(金融経済学)、現在同大学教授は休職中。2014年から2019年までドイツ政府による経済専門家評議会メンバー。2020年からECB理事。

今週の注目指標

豪中銀政策金利
9月5日13:30
☆☆☆
 オーストラリア準備銀行(中央銀行)金融政策決定会合の結果が5日に発表される。政策金利であるOCR(オフィシャルキャッシュレート)は現行の4.1%で据え置き見込み。豪中銀はパンデミックを受けてOCRを同国にとって史上最低金利となる0.1%まで引き下げた後、2022年5月の会合から利上げサイクルを開始。今年3月の会合まで10会合連続で利上げを実施し3.6%とした後、4月の会合で一度利上げを停止した。5月、6月と2会合連続で市場の据え置き見通しに反して利上げを実施し、現行水準である4.1%まで金利を引き上げた後、7月、8月と2会合連続で金利を据え置いている。
 豪中銀は昨年末以降のインフレ鈍化を受けて4月に利上げを休止したものの、都市部の不動産価格の上昇や、豪ドル安による交易条件の悪化、賃金上昇による物価高の懸念などから5月、6月に再利上げに動いた。7月、8月と据え置きに回ったものの8月の会合声明で「さらに幾分引き締める必要があるかもしれない」と、追加利上げの可能性に言及している。そのため、一時は今回の会合での利上げ期待が強まっていた。
 しかし8月30日に発表された7月の豪消費者物価指数(CPI)が前年比+4.9%と昨年2月以来約1年半ぶりに5%の大台を割り込む鈍化を見せたことで、利上げ期待が後退した。同国のインフレターゲットは四半期ベースでの水準であり、4-6月期は前年比+6%とターゲット水準の2-3%までまだかなり遠い。ただ、月次ベースでの鈍化を受けて、利上げ再開に慎重な見方が広がっている。専門家予想、短期金利市場動向はともに据え置きをほぼ完全に織り込んでいる。
 注目は声明や会見内容。追加利上げの可能性についての言及は残ると見られるが、今後についてより慎重な姿勢が示されると、利上げ打ち止め期待が強まり、豪ドル売りが見込まれる。豪ドル円は1豪ドル=92円台への動きが期待される。
カナダ中銀政策金利
9月6日23:00
☆☆☆
 カナダ銀行(中央銀行)は2022年3月の会合から利上げサイクルを開始。今年3月、4月と金利を据え置いたが、前々回6月、前回7月の会合で0.25%の利上げを実施した。特に6月の会合は市場予想が据え置きとなる中でのサプライズな利上げとなった。今回は3会合ぶりの据え置きが見込まれている。
 1日に発表されたカナダ第2四半期GDPは前期比年率-0.2%と2四半期ぶりにマイナス成長となった。住宅投資の落ち込みなどが目立っており、金利高の影響が出ていると見られる中、今回は据え置き見通しでほぼ一致している。年内の追加利上げについては見方が分かれており、声明などに注目が集まる。原油高などの影響で今後のカナダ経済への期待が広がってきており、比較的前向きな声明となる可能性がある。この場合、ドルカナダは1ドル=1.34カナダ台に向けた動きが期待される。
米ISM非製造業景気指数(8月)
9月6日23:00
☆☆☆
 1日に発表された8月の米供給管理協会(ISM)製造業景気指数は47.6と7月の46.4から上昇。市場予想の47.0も上回った。ただ、内訳のうち今後の先行指標となる新規受注が46.8と7月の47.3から低下するなど懸念材料も見られた。
 前回7月の米ISM非製造業景気指数は52.7と6月の53.9から鈍化。市場予想の53.1も下回った。雇用が2.4ポイントの低下となったほか、新規受注やビジネス活動(製造業の生産に相当)なども低下しており、内訳も厳しいものとなった。今回の市場予想は52.5とさらなる鈍化見込みとなっている。1日に発表された8月の米雇用統計は全体の数字が前月比+18.7万人と、7月の同+15.7万人から伸びが強まったが、非製造業に限ると+14.3万人と7月の+14.1万人とほぼ同水準となっており、厳しい状況が続いていると見込まれる。製造業とは違い、予想を下回る弱さを見せた場合ドル売りが期待される。ドル円は144円台に向けた動きが期待される。

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