2023年11月06日号

(2023年10月30日~2023年11月03日)

先週の為替相場

ドル円は一時150円78銭を付ける

 先週(10月30日-11月3日)のドル円相場は、日米の金融政策会合を受けて大きな動きを見せた。

 30日の市場は1ドル=149円台後半でスタートした後、海外市場で148円81銭までドル安円高となった。30日、31日開催の日銀金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)再修正を議論するとの報道が円買いの材料となった。

 149円00銭前後での推移を経て、日銀会合前に149円50銭前後までドル高円安となった。会合では長期金利(日本国債10年物利回り)について、これまで指値オペによる上限とされていた1%を「めど」とすると変更。指値オペについては市場動向などを見て決定と、ある程度1%超えを容認する形でYCCの再柔軟化を決定した。

 市場はこの決定に対して円売りで反応した。前日の報道でいったん円買いを試したことに加え、一部でマイナス金利解除などのしっかりした方針変更が期待されていたと見られる。一気に150円台を回復。海外市場でもドル高円安となり一時151円72銭を付けた。

 神田財務官は円安進行を受けて「過度な変更にあらゆる手段で対応する」と発言。為替介入について「スタンバイ」の状態であると、円安けん制姿勢を強めた。この発言を付けてドル円は高値から若干下げると、米ISM製造業景気指数が弱く出たこと、米財務省が公表した四半期定例入札規模が予想ほど大きくならなかったことなどを受けて150円台までドル安となった。

 米連邦公開市場委員会(FOMC)は市場予想通り政策金利を据え置いた。声明も目立った変化はなかった。FOMC後のパウエル議長会見では、追加利上げの可能性を残したものの、「これまでの進展を考慮し、FOMCは慎重に進めるべき」など、慎重姿勢が目立ったこともあって、ドル売りが強まった。

 FOMCを受けた米債利回りの低下などを受けて、FOMC翌日もドル安が続き、149円80銭台を付けた。その後は150円50銭前後までいったんドル高となったが、3日発表の10月米雇用統計が弱く出たことでドル売りとなった。米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回った上に、前回値が下方修正、失業率が予想外に悪化と、厳しい結果となり、149円21銭まで下げている。

 ユーロドルはドル円の上昇を受けたユーロ円の上昇にも支えられ、31日に1ユーロ=1.0675ドルまで上昇。その後合一転してユーロ安となり1.0510ドル台を付けている。

 FOMC後のドル安もあり、その後は反転。米雇用統計を受けてドル安が強まり、1.0740ドル台まで上昇した。

 ユーロ円は30日に1ユーロ=157円70銭前後を付けた後、日銀金融政策決定会合を受けた円売りに160円80銭台まで大きく上昇。その後159円10銭前後までユーロ安となったが、ダウ平均が5営業日続伸となるなど、株高を受けたリスク警戒後退での円売りに、週末にかけて160円台を回復する展開となった。

 2日のイングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)(用語説明1)は事前見通し通り金利据え置きとなった。投票は6対3と、前回の5対4から据え置き派が一名増えた。前回利上げに投票したカンリフ副総裁が10月末で退任し、新たに副総裁となったブリーデン副総裁(用語説明2)が据え置きに投票した。

 6対3という投票結果も含め、市場予想通りの結果となった。同時に発表された四半期報告では成長見通しの下方修正が見られ、利上げサイクル打ち止めとの期待が広がり、1ポンド=1.2220ドル前後から1.2150ドル台へポンド安となったが、ベイリー総裁が利上げいつ手考えるのはあまりにも時期尚早と、利下げ期待を強くけん制したこともあり、限定的な動きに留まった。その後米雇用統計を受けたドル売りに1.2390ドル前後まで急騰した。

今週の見通し

 米FRBの利上げ打ち止め期待が広がり、米長期債利回りの上昇が一服していることもあり、これまでのドル高に調整が入っている。151円70銭台まで一時上昇したが、昨年秋に付けた151円95銭を前に上値トライが収まったことで、152円手前の上値抵抗水準への意識が強まり、いったん到達感が出ている。

 もっとも、日米の金利差を狙った取引がまだ続くと見られることから、下がるとドル買いが出る流れが見込まれる。今週は目立った材料がないだけに、149円台を中心とした推移から次の方向性を探る展開となりそう。

 株高を受けたリスク選好の円売りから、ドル円が150円台を回復してくるようだと、ドル高円安の流れに復する可能性がある。一方、10月30日に付けた148円81銭を割り込むと、ドル売りが強まる可能性がある。材料不足の中、落ち着いた動きが予想されるが、こうした状況で大口の売り買いや要人発言などをきっかけに大きな動きが生じるケースがあるだけに、注意が必要。

用語の解説

イングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC) 英国の金融政策を決定する会合、日本の日銀金融政策決定会合、米国の連邦公開市場委員会(FOMC)に相当する。総裁、副総裁を含む英中銀内部委員5名と、外部委員4名の9名による多数決で政策を決定する。日銀会合、FOMC、ECB理事会などは議長・総裁提案が否決されたことがこれまで一度もないが、英MPCは総裁が少数派に回るケースがこれまで複数回見られている。年8回行われる会合の内、2月、5月、8月、11月の会合では、通常の結果及び議事要旨の公表に加え、四半期報告が公表され、総裁の会見が行われる。
ブリーデン副総裁 サラ・ブリーデン(Sarah Breeden) 副総裁。10月末で退任したカンリフ副総裁の後任として11月1日に副総裁に就任した。金融安定担当。ケンブリッジ大学で経済学修士号、ロンドンビジネススクールで金融の修士号を取得。1991年にイングランド銀行に入行し、副総裁就任前は金融安定化及びリスク担当エグゼクティブディレクター。

今週の注目指標

豪準備銀行金融政策会合
10月31日昼前後
☆☆☆
 豪準備銀行(RBA/中央銀行)は6月の会合で政策金利(OCR:オフィシャル・キャッシュ・レート)を現行の4.1%に引き上げた後、7月の会合以降4会合連続で据え置きを続けてきた。今回は5会合振りとなる利上げが期待されており、OCRは4.35%になる見込みとなっている。
 据え置きとなった7月以降の会合では、声明や議事要旨において、「委員会は利上げと据え置きを検討した」などの表現で、追加利上げの可能性を示してきた。もっとも、全般に慎重な姿勢が目立っており、市場では6月の利上げで政策金利がピークを迎えたという見方が広がっていた。
 9月に就任したミシェル・ブロック総裁にとって、総裁として初の会合(副総裁としては2022年から参加)となった前回10月3日の会合では、声明で利上げが想定以上に景気を減速させる可能性があるなどの指摘があり、ロウ前総裁からの慎重な姿勢が維持された。
 こうした状況から、前回会合直後は今回の会合も据え置きとの見通しが広がり、短期金利市場動向からみた利上げ確率は15%程度と、据え置き派が優勢となっていた。その後利上げ見通しは1.3%まで低下し、98.7%が据え置きと、短期金利市場は据え置きをほぼ完全に織り込む動きが見られた。17日に公表された10月3日の会合の議事要旨で、インフレが目標を大幅に上回る状況が長く続く可能性が指摘されたことで、追加利上げ期待が少し盛り返したものの、利上げ確率は20%から30%の間での推移が続いていた。10月19日発表の9月豪雇用統計の弱さもあり、利上げは厳しいという見方が広がっていた。
 10月25日に発表された第3四半期消費者物価指数(CPI)が力強い伸びを示したことがきっかけとなり、利上げ期待が一気に強まった。豪CPIは前期比+1.2%、前年比+5.4%と市場予想の+1.1%、+5.3%を上回る伸びとなった。中銀が重視しているとされるトリム平均も前期比+1.2%、前年比+5.2%と予想の+1.1%、+5.0%を上回る伸びとなった。同時に発表された9月の月次CPIは前年比+5.6%と8月の+5.2%を上回る伸びとなった。この豪CPIが発表されたその日うちに、豪州四大銀行の内の2行のアナリストが、従来の据え置き見通しを撤回し、利上げ見通しを示した。その後ほとんどの専門家が据え置きから利上げに見通しを変更。直前の専門家予想は利上げでほぼ一致している。
 短期金利市場では据え置き見通しが残っているものの、それでも利上げ確率は60%を超えており、据え置き見通しを上回っている。
 予想通り豪中銀が利上げを実施した場合、専門家予想が利上げとなっていても、短期金利市場での織り込みが50%超に留まっていることもあり、豪ドル高ドル安の反応が見込まれる。1豪ドル=0.66ドル台に向けた動きが期待される。
パウエル米FRB議長講演
11月10日04:00
☆☆
 米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長がIMF年次研究会議において「世界経済における金融政策の課題」がテーマのパネルディスカッションに参加する。質疑応答もあり、今後の金融政策見通しのヒントがあるのではとの期待がある。先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で議長は追加利上げの可能性を残したものの、全体に慎重な姿勢が見られ、市場は利上げ打ち止め見通しを強めている。こうした見通しがさらに強まるようだと、ドル高一服感につながり、ドル円は148円台前半に向けた動きが見込まれる。
ミシガン大学消費者信頼感指数(11月)速報値
11月11日00:00
☆☆
 10月のミシガン大学消費者信頼感指数は9月確報値の67.9から、速報時点で63.0まで低下。確報値で63.8まで上方修正されたが、9月と比べるとかなりの鈍化となっている。1年後のインフレ期待が4.2%と9月の3.2%から大きく上昇しており、消費者マインドの悪化につながっていたと見られる。
 今回は63.5と10月確報値から若干の低下が期待されている。予想通りもしくは予想を下回った場合、ドル売り材料となる。ユーロドルは1.08ドル台を超える動きが期待される。

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