2023年12月11日号

(2023年12月04日~2023年12月08日)

先週の為替相場

ドル円は一時8月以来の141円台

 先週(12月4日-8日)のドル円相場は、7日の植田日本銀行総裁発言をきっかけに一気に円買いが進む展開となった。1日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長による「政策金利は抑制的な水準に深く入った」発言などを受けたドル売りに1ドル=146円台を付けた流れを受け、4日の朝に146円23銭まで付けた後、ドル買い円売りが入り147円台回復。その後は146円50銭から147円50銭のレンジを中心とした取引が7日まで続いた。

 植田日銀総裁が7日、参議院財政金融委員会で「通貨及び金融の調節に関する報告書」(半期報告)(用語説明1)の概要説明を行い、その後の答弁で今後の政策運営への抱負について質問を受け、「チャレンジングな状況が続いているが、年末から来年にかけ一段とチャレンジングになるというようにも思っている」と発言。この発言をきっかけに日銀金融政策決定会合でのマイナス金利解除が早期に実施されるとの市場の期待が高まり、円買いが一気に広がった。

 米国の早期利下げ開始期待と合わせ、日米の金利差が一気に縮小傾向になるとの思惑が円買いを誘い、機関投資家(用語説明2)と見られる大口のドル売り円買いも加わって7日海外市場で141円71銭を付けた。同日東京朝の高値から5円61銭の大きなドル安円高となった。

 行き過ぎ感もあって安値から反発を見せると144円台を回復。翌8日東京市場で142円50銭までドル安円高となったが、同日に発表される米雇用統計を前に行き過ぎた円買いへの警戒感が広がり、144円台を回復して指標発表を迎えた。

 米雇用統計は非農業部門雇用者数が市場予想を超える伸びとなるなど好結果となり、145円21銭まで上昇。その後いったん143円台までドル売り円買いとなる場面が見られたが、NY午後は円売りが優勢となり145円台を回復して週の取引を終えている。

 ユーロ円は1ユーロ=158円50銭-159円50銭を中心としたレンジ取引から7日の円高局面で153円23銭まで下落。155円70銭台までユーロ買いが入った後、ドル円同様に8日東京市場で円買いが入り、153円87銭を付けた。その後156円台まで上昇して週の取引を終えている。

 クロス円は全般に同様の動き。ポンド円は6日までの1ポンド=185円台を中心とした動きから178円67銭まで下落。その後182円台まで上昇。豪ドル円は6日に1豪ドル=97円10銭台を付けた後、7日に93円70銭台まで下落。その後95円台を付けている。

 ユーロドルは11月30日発表のユーロ圏消費者物価指数(11月)が弱い伸びとなったことを受けたユーロ安が進み、4日朝の1ユーロ=1.0890ドル台から下落。8日に1.0724ドルを付けている。

今週の見通し

 植田日銀総裁発言をきっかけとした円高進行が一服。今週は12日に11月の米消費者物価指数(CPI)、12日、13日に米連邦公開市場委員会(FOMC)、14日にイングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)、欧州中央銀行(ECB)理事会など、重要イベントが目白押しの週となっており、これらの結果次第という面がある。

 早ければ3月にも実施と期待が広がる米国の利下げ観測と、マイナス金利解除を含む日銀の金融政策正常化に向けた期待感から、流れはドル安円高方向。ややしっかりした伸びが期待されている米CPIが弱く出た場合などは先週の安値を割り込む可能性もありそう。ただ、FOMCでパウエル議長はインフレ期待が強まるリスクを意識して追加利上げの可能性を残してくると見られ、市場の期待ほど下がらない可能性も十分ある。

 7日のドル安円高進行が急激なものとなったことで、売り遅れた参加者がいることから、戻りは重くなると見ているが、ドル安が一気に進むかどうかは微妙なところと見ている。

 米CPIや米FOMCなどの重要指標を無難にこなすと143円台から145円台にかけての落ち着いた動きに終始する可能性がある。

用語の解説

通貨及び金融の調節に関する報告書 日本銀行は日本銀行法第54条の定めに従って国会に対して年に2回「通貨及び金融に関する報告書」(通称、半期報告)を提出する。経済及び金融の情勢、金融政策運営及び金融政策手段、金融政策決定会合における決定の内容がその内容となる。
機関投資家 生損保、信託銀行、年金基金、投資顧問会社、投資信託会社など、顧客が供出した資金を運用・管理する法人投資家のこと。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI/11月)
12月12日22:30
☆☆☆
 米国の早期利下げ開始期待が強まる中、政策変更のカギを握る大きなポイントとして物価動向への注目が続いている。米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータ前年比であるが、同系統の指標で発表が早い米消費者物価指数(CPI)に市場の注目が集まる傾向がある。12日に発表される11月の米CPIの市場予想は前月比が前回に続いての横ばい、前年比は前回の+3.2%から+3.1%に鈍化見込みとなっている。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前月比が前回の+0.2%から+0.3%に上昇、前年比は前回と同水準の+4.0%が見込まれている。
 前回10月の米CPIは、ガソリン価格を中心としたエネルギー価格の下落を受けて9月の前年比+3.7%から+3.2%へ伸びが大きく鈍化した。10月から11月にかけても米国でガソリン価格が低下しており、EIA調査による全米全種平均のガソリン価格は9月から10月の-5.45%に対して、10月から11月は-8.00%となっている。ただ、昨年の10月から11月にかけてガソリン価格が低下しており、ベース効果(比較対象元の水準の変化による見かけ上の変化、10月時点に比べて低い水準からの比較になることで、前年比では下がっていないように見える)によって影響が抑えられると見込まれる。また、エネルギー価格以外でも昨年10月から11月にかけては物価の伸びの鈍化が目立っていたため、今回のCPI前年比を押し上げる効果がある。
 また、9月から10月にかけての全米自動車労組のストライキを受けた供給不足懸念からの自動車関連価格の持ち直しなどもCPIを押し上げると期待される。
 もっとも、住居費を中心とした物価全体の伸び鈍化傾向は続いていると見られ、前月比横ばい、コア前月比小幅プラスという予想につながっていると見られる。
 予想前後であれば今後の米金融政策の見通しの変化が抑えられると見られるが、予想からのわずかなブレにも相場が反応しやすい指標だけに注意が必要。予想を下回る伸びに留まると、ドル円は143円台に向けた動きが期待される。
米連邦公開市場委員会(FOMC)
12月14日04:00
☆☆☆
 12日、13日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。政策金利は3会合連続での据え置きが見込まれている。
 このところFRB関係者の発言は今後について比較的慎重な姿勢が見られる。FRBの中でも利上げに積極的なタカ派の筆頭格として見られているウォラーFRB理事は、11月28日に「インフレ率を(目標の)2%に戻すための政策が現在好位置にあるとの確信を強めている」「数カ月ディスインフレが続き、インフレ率が本当に低下方向に向かっていると確信が持てれば、政策金利を引き下げ始めることが出来る」と、追加利上げに消極的な姿勢を示したうえで、利下げ開始の可能性に言及した。タカ派の同氏が利下げの可能性に言及するという状況に、市場では早期の利下げ期待が広がる展開となった。パウエル米FRB議長は12月1日の講演で、利下げ転換時期の議論は時期尚早と市場の期待にくぎを刺しつつ、政策金利は景気抑制的な領域に深く入ったと発言した。政策金利の現状について抑制的との印象を強める発言として、こちらもこれまでより慎重という見方が広がった。
 こうした状況から声明やFOMC後の議長会見で、これまでとの姿勢の変化が見られるかが注目される。
 前回の会合での声明では、9月会合で見られた「FOMCは今後入ってくる情報と、金融政策への影響を注視し続ける」との文言が踏襲された。前回の議長会見では「金融引き締めの効果はまだ十分にあらわれていない」、インフレ率を持続的に2%まで低下させるには「まだ長い道のり」との発言があった。長期金利の上昇が金融環境に与える影響について「ここ数カ月で大幅に引き締まった」との表現があったものの、今後のデータを総合的に判断する姿勢を改めて示した。
 こうした表現に変化が見られると、市場の早期利下げ期待が強まる可能性がある。ただ、議長は1日の講演で追加利上げの可能性に言及するなど、表現の変更には慎重な姿勢が見られる。大きな変化が見られない可能性が高い。
 そうした中、注目されるのが3,6,9,12月のFOMCで示される参加メンバーによる経済見通し(SEP:Summary of Economic Projections)となる。前回9月発表のSEPで示された各メンバーの年末時点での政策金利水準見通しを示すドットプロットは、2023年末時点での政策金利について、現水準より0.25%が高い5.50-5.75%が12名、現水準が7名となっていた。2024年末時点については4.25-4.50%から6.00-6.25%まで幅広く見方が分かれ、中央値は5.00-5.25%となっていた。今回2023年末については現水準に統一されると見られる。注目は2024年末の中央値。現状の5.00-5.25%は市場がほぼ織り込みつつある来年上半期での利下げ開始を考えると高すぎる。どこまで下方修正されるかがポイントとなる。大きな下方修正が見られると、早期利下げ期待が強まり、ドル売りが広がる可能性がある。ドル円は143円台に向けた動きが見込まれる。
ECB理事会
12月14日22:15
☆☆☆
 政策金利は前回に続いて据え置きの見込み。先月末まで来年第1四半期の追加利上げを期待する動きが見られたが、11月30日に発表された11月のユーロ圏消費者物価指数が予想を大きく下回る弱い伸びに留まったことなどから、9月の理事会で実施された利上げでの利上げサイクル終了期待が広がっている。
 ここにきてビルロワドガロー・フランス銀行(中央銀行)総裁やシュナーベルECB理事が追加利上げに否定的な発言を行っており、市場の利上げ打ち止め期待を支えている。なお、ビルロワドガロー総裁は現時点で利下げを検討する用意はないが、来年のある時点で検証することになると、今後の利下げ見通しを示した。こうしたECB内の姿勢の変化が、声明やラガルドECB総裁会見にどこまで影響してくるのかが注目される。
 早期の追加利下げ期待が強まると、ユーロドルは1.06ドル台をトライする可能性がある。

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