2024年03月11日号

(2024年03月04日~2024年03月08日)

先週の為替相場

ドル円は売り買い交錯

 先週(3月4日-8日)のドル円相場はドル安円高となった。日本銀行の早期マイナス金利解除観測が高まったことが円買いにつながった。

 1日の米ISM製造業景気指数の弱い結果を受けて1ドル=150円50銭前後から150円00銭台に低下した流れを受け、4日の市場はドル安でスタート。149円84銭を付けたが、日経平均が寄り付きから節目の4万円を超え、一時40314円を付けたこともあり、リスク選好の円売りから150円台をしっかり回復。150円57銭を付けた。

 5日もドル高圏での推移となっていたが、同日発表の2月米ISM非製造業景気指数が予想を下回ったことで、米債利回りが低下。ドル安が強まり149円70銭前後を付けた。その後は150円台前半が重くなった。

 6日に「日銀の3月会合で一部出席者がマイナス金利の解除が妥当と意見表明」との報道が出たことをきっかけに円買いが進んだ。同日のパウエル米FRB議長による下院金融サービス委員会での議会証言の事前原稿が報じられ「年内いずれかの時点での利下げ開始が適切」と示されていたこともドル売りを誘い、ドル円は149円10銭前後を付けた。

 7日には日本政府の一部関係者が日銀による3月か4月のマイナス金利解除に容認姿勢との報道が円買いを誘い、149円を割り込んでドル安円高となった。さらに中川日銀審議委員(用語説明1)が2%の物価安定目標実現に向けて「着実に歩を進めている」と発言。さらに植田日銀総裁が「物価安定目標実現の確度は引き続き少しずつ高まっている」「物価目標実現が見通せれば大規模緩和の修正を検討」と発言し、円買いが加速した。

 同日のECB理事会は市場予想通り政策金利の据え置きを決定。理事会後の記者会見でラガルド総裁は「景気抑制的な政策はしばらく続く」「今回の会合で利下げは議論しなかった」と発言。ユーロ買いドル売りが強まり、ドル全面安につながって、ドル円は147円59銭を付けている。

 8日の東京市場朝に、前日の安値を割り込む147円53銭を付けた後、いったん148円台を回復。しかし、「日銀が国債買い入れ規模示す新たな量的金融政策枠組みを検討」と報じられたことをきっかけに再び円買いとなり、146円80銭台台を付けた。同日の米雇用統計発表を前に、いったんポジション調整のドル買いとなり147円台を回復も、米雇用統計で失業率が予想外に悪化したことなどを受けてドル売りとなり、146円49銭を付けた。その後147円台を回復して週の取引を終えた。

 ユーロドルは2月26日-3月1日の週に1ユーロ=1.07ドル台を何度か付けたが、安値圏でのユーロ売りに慎重姿勢が見られたこともあり、4日からの週はユーロ買いが目立った。6日パウエル米FRB議長の議会証言を受けたドル売りに、上値を抑えていた1.0900ドル前後の売りをこなして上昇。

 7日ECB理事会では、4半期に一度発表されるECBスタッフ見通しでインフレ見通しが下方修正されたことを受けて、いったんユーロ売りとなり1.0868ドルを付けた。会合後のラガルド総裁による記者会見後はユーロ買いが強まり、1.0950ドル付近まで上昇。8日の米雇用統計を受けたドル売りに1.0981ドルまで上値を伸ばしている。

 ユーロは円高と対ドルでのユーロ高の間で神経質な動き。4日に1ユーロ=163円50銭台と2月27日以来の高値を付けた後、いったんユーロ安円高となり、日銀の早期マイナス金利解除期待による円買いに6日に162円22銭を付けた。その後163円手前が重くなると、7日にドル円が149円台から147円50銭台まで値を落とすなど円高が進んだことを受けて160円50銭台を付けている。しかし、同日のECB理事会でのラガルド総裁会見後のユーロ買いに急反発し、同日米国市場で162円台を回復した。

 8日の日銀が新たな量的金融政策枠組み検討報道を受けた円買いに、160円60銭台まで急落し、7日ラガルド総裁発言後の上昇分のほとんどを解消する展開となった。

今週の見通し

 日銀の早期マイナス金利解除期待が強まり、円買いとなっている。2月13日に付けた150円89銭を高値に、3月にかけて150円台後半で上値が抑え込まれたことで、ドル高円安に一服感が出たことも、ポジション調整によるドル売り円買いを誘った。

 これまで強さを見せていた米雇用市場も、落ち着きを見せてきており、米国の年内利下げ開始に向けた流れが強まっていることもドル円の重石となっている。

 12日に発表される米消費者物価指数などによってはもう一段のドル安となる可能性がある。

 また、今週は植田日銀総裁がマイナス金利解除などの判断材料として一つの大きなポイントとしてきた春闘での賃上げ状況について、日本労働組合総連合会(連合)(用語説明2)が第1回の回答集計結果を公表する。大きな賃上げに向けた動きが示されると、マイナス金利早期解除期待が強まり、円買いにつながると見込まれる。

 ドル円は2月1日に付けた145円90銭を目先のターゲットとして意識する展開が予想される。

 ユーロドルは1.1000ドル手前のユーロ売りが意識されており、ユーロ高圏での買いに慎重姿勢が見られる。ただ、流れはユーロ高ドル安方向と見られ、ドル円に比べてゆっくりであるがドル安が進行している。今週も流れが継続すると見られ、1.1000ドル超えを意識する展開となっている。

 ドル主導の展開で不安定なところがあるが、クロス円はいったん売りが入りやすい地合いとなっている。ユーロ円は159円台トライとなる可能性が高そう。

用語の解説

中川審議委員 日本銀行金融政策委員会審議委員。神戸大学卒業後野村證券に入社。野村ホールディングス執行役員、野村アセットマネジメントCEO兼代表取締役社長、同社取締役会長を経て、令和3年6月30日より現職。
日本労働組合総連合会(連合) 日本の労働組合の全国組織。1987年11月に全日本民間労働組合連合会として発足。全国産業別労働組合連合(新産別)、日本労働組合総評議会(総評)が加わり、1989年11月に日本労働組合総連合会(連合)となった。加盟組合員は約700万人。現在の会長はJUKI労働組合委員長などを務めていた芳野友子氏。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI)(2月)
3月12日21:30
☆☆☆
 前回1月のCPIは前年比+3.1%と、2023年12月の+3.4%から鈍化したものの、市場予想の+2.9%を上回った、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+3.9%と12月と同水準の伸びとなり、こちらも市場予想の+3.7%を上回る伸びとなった。前月比は+0.3%、コア前月比は+0.4%で、ともに市場予想を上回っている。
 前年比の内訳を確認すると、価格低下が目立ったのがエネルギーで前年比-4.6%となった。2023年7月以来の低下率となる-6.4%となったガソリン価格などの影響で、11カ月連続で前年比マイナスとなった。またマイナス幅も12月の-2.0%から広がっている。食料品は前年比+2.6%と12月の+2.7%から小幅な鈍化。小幅とはいえ着実に鈍化が進んでおり、2022年8月の11.4%をピークに17カ月連続での鈍化となった。
 変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア部分では、半導体不足による供給制約が落ち着きつつある自動車の価格低下もあり、財部門が前年比-0.3%とマイナス圏となった。同部門のマイナス圏は2020年5月以来となる。
 一方強かったのがコアのサービス部分で、前年比+5.4%と12月の+5.3%から小幅ながら伸びが強まった。CPI全体を100としたとき、36.2%と相当な部分を占める住居費が期待ほど鈍化しなかったことが全体を支えた。
 
 今回の市場予想は前年比+3.1%と1月と同水準の伸びが見込まれている。コアは+3.7%と1月から伸びが鈍化見込みとなっている。前月比は+0.4%と1月の+0.3%から伸びが強まる見込み。コア前月比は+0.3%と1月から伸びが鈍化する見込み。
 ガソリンの小売価格が2月は1ガロン当たり3.328ドル(全米全種平均・米エネルギー情報局調査)となり、1月の3.197ドルから上昇。CPIは都市部のみのデータで全米のデータであるEIA調査とイコールではないが、変化傾向は一致するため、エネルギー価格が全体を支えると見られる。一方、自動車価格の低下傾向継続が見込まれること、住居費の鈍化が見込まれていることなどから、コア前年比は1月から伸び鈍化が見込まれている。
 CPIの場合、予想からの乖離が小幅であっても相場に影響することが多い。米国の利下げ開始に向けた市場の注目が集まっているだけに、予想からブレた場合は注意が必要。住居費の鈍化などから予想以上に物価の伸びが抑えられるようだと、ドル円は145円台に向けた動きが見込まれる。
米小売売上高(2月)
3月14日21:30
☆☆☆
 前回1月の米小売売上高は前月比-0.8%と市場予想の-0.2%を超える大きなマイナスとなった。2023年3月以来の減少幅となっている。12月分が+0.6%から+0.4%、11月分が+0.3%から0.0%にそれぞれ下方修正されている。好調な雇用情勢に支えられ、物価高の中で底堅さを見せていた個人消費に一服感が出ていた。
 内訳をみると全13業種中9業種が前月比マイナスと幅広く売り上げの低下が見られた。自動車及び同部品が-1.7%となり、全体を押し下げた。変動の激しい同部門を除いたコアは前月比-0.6%となった立ったのは、建材・園芸用品の-4.1%、ガソリンスタンドの-1.7%など、年末商戦で好調が報じられた無店舗小売も、反動が出て-0.8%となった。
 今回の市場予想は前月比+0.8%と改善が見込まれている。1月から2月にかけてガソリン小売価格が上昇したことでガソリンスタンド売上が上がっていると見られることなどが全体を支えると見られる。ただ、個人消費と相関する雇用の情勢が悪化しており、予想以上に小売売上高が伸び悩んでいると、ドル売りが見込まれる。ユーロドルは、1.10ドル台を超える動きも期待される。
春闘第1回回答集計結果
3月15日16:15
☆☆☆
 日本労働組合総連合会(連合)による2024年春季生活闘争(春闘)の第1回集計結果が15日に公表される。連合は16時15分から記者会見を予定している。3月7日に公表された賃上げ要求状況によると、平均で5.85%の上昇と、30年ぶりに5%を超える要求となった。日銀は緩和姿勢後退について、春闘の状況を確認するとの姿勢を示していたことから、今回の状況に対する注目度が高まっている。大きめの賃上げ回答結果が確認されると3月の日銀金融政策決定会合でのマイナス金利解除期待が強まると見られる。ドル円は145円台に向けた円買いが期待される。

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