2024年11月05日号
先週の為替相場
ドル高円安続く
先週(10月28日-11月1日)のドル円は、政治情勢などをにらみやや神経質な動きとなった。
先週初め28日の市場は、27日投開票の衆議院選挙において与党自民・公明が過半数を割り込んだことを受け、政治的な混乱を嫌気した円売りが優勢となり、先週末終値からドル安円高が進行してスタートした。1ドル=153円88銭と7月31日以来のドル高円安となった。
もっとも野党連合での政権交代は難しいとの見方が広がったこともあり、海外市場にかけてドル売り円買いとなり、25日終値152円30銭台に近い152円41銭まで下げた。
下げ一服後は再びドル買い円売りとなった。5日の米大統領選でトランプ共和党大統領候補が優勢との思惑がドル買いを誘った。同氏は減税と高関税などの方針を示しており、同氏勝利で物価高からのドル高が進むとの見方が広がった。29日の市場で28日高値に迫る153円87銭を付けたものの、高値超えはならず、その後はいったん153円00銭を挟んでの推移となって30日、31日の日銀金融政策決定会合待ちとなった。
日銀会合後は円買いがやや優勢となった。政策金利は市場予想通り据え置き。経済・物価情勢の展望(日銀展望レポート)では2025年の物価見通しが引き下げられたが、こちらも想定内であった。植田日銀総裁会見では、市場が注目していた 「時間的余裕」(用語説明1)発言について、夏場以降顕在化した米国経済の下振れ、それに伴う円高、株安などの金融市場の不安定化のリスクに対応したもので、10月の米雇用上振れを受けて表現をやめたと発言。市場はややタカ派との印象を受け、円買いが優勢となった。
5日の米大統領選をにらみ、ポジション調整のドル売りなども上値を抑えた。トランプ氏優勢との報道でドル買いが入っていたが、直前世論調査ではハリス氏の巻き返しも見られる。激戦州7州は、サンベルトの4州(アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナ)でトランプ氏リードも、ラストベルト3州のうち、ウィスコンシンとミシガンでハリス氏がリード、ペンシルベニアはトランプ氏リードもわずか0.4%という状況。ラストベルト3州をいずれもハリス氏がとると、ハリス氏が勝利となるため、トランプ氏楽観ムードも危険との思惑が広がり、ドル売りとなった。
1日の米雇用統計は非農業部門雇用者数が前月比+10.0万人予想に対して、+1.2万人に留まった。2020年12月以来の低い伸びとなった。9月の数字も+25.4万人から+22.3万人に下方修正されている。発表直後はドル売りとなり、ドル円が152円70銭台から151円80銭近くに落としたが、すぐに戻して逆に上昇して153円台を付けた。弱い結果については、9月末から10月にかけて米国南東部を襲ったハリケーン「へリーン」と「ミルトン」の影響が大きいとみられ、雇用市場自体はそこまで弱いものではないとの思惑などがドルの買い戻しを誘った。
ユーロドルはドル高の流れ受けて29日に1ユーロ=1.0769ドルを付けたが、23日の1.0761ドルに届かず反発。米雇用統計後には1.0900ドルを超える場面が見られた。その後のドル買いに1.0830ドル前後まで下げて先週の取引を終えた。
ユーロ円は1ユーロ=165円台を中心とした推移から、ドル円の堅調さを受けて166円台を一時付ける動き。もっとも上値での買いには慎重で、165円台に値を落として先週の取引を終えた。
今週の見通し
米大統領選次第の面が強い。一時はトランプ前大統領(共和党大統領候補)がハリス副大統領(民主党大統領候補)を支持率で上回り、勝敗のカギを握るといわれる7つの激戦州(ペンシルベニア州、ノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ネバダ州)でもすべての州でトランプ氏の支持率がハリス氏を上回るなど、トランプ氏優勢な状況が見られた。その後ハリス氏がミシガン州とウィスコンシン州の支持率で逆転。ノースカロライナ州、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州をトランプ氏が抑え、ウィスコンシン州、ミシガン州をハリス氏がとった場合、ペンシルベニア州をとったほうの候補が勝利となる。同州の支持率の差は複数世論調査の平均でわずか0.4%となっており、勝敗はどちらに転んでもおかしくない状況。もちろん、アイオワ州、ニューハンプシャー州など、激戦州以外でも勝敗がまだわからない州もあり、ふたを開けてみないとわからない状況となっている。
基本的にトランプ氏勝利の場合ドル高が見込まれている。同氏は米国の輸出に有利なドル安を望んでいるとされているが、高関税、減税志向の同氏の公約が実施されると、米国の物価高が進み、今後の利下げが進まないとの見方からドル高が進むとみられている。ハリス氏の公約も財政出動拡大による物価高となる可能性があるが、トランプ氏ほどではないとの見方から最初の動きはドル安となりそう。
結果の判明は早くて6日の日本時間午前、長引くと数日かかる可能性がある。
大勢判明までは動きにくい展開で、ドル円をはじめ主要通貨は神経質ながら値幅が抑えられそう。
大勢判明後は結果に沿った動き。その後木曜日(日本時間金曜日早朝)の米FOMCを迎えるが、0.25%の利下げがほぼ確実視されていることもあり、大統領選に比べると注目度が低い。
ユーロドルは直近しっかり感がやや強いが、この流れも大統領選次第で一気に変化する。ユーロ円は166円台での買いに少し慎重姿勢が見られるが、こちらも大統領選次第。
用語の解説
時間的余裕 | 米国で開催された主要20か国財務相・中央銀行総裁会議(G20)に出席した植田日銀総裁が、会議閉会後に行った記者会見での発言。金融政策を判断するうえで重視するとかねてから示していた米経済について、最新の雇用がそこそこいいとしながらもう少し続くのか分析を深めないといけない、時間的余裕はあると思っていると、利上げを急がない姿勢を改めて示した。 |
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サンベルト | 米国南部・南西部、カリフォルニア州からノースカロライナ週に至る北緯37度線以南の温暖な地域。かつては温暖な気候を受けた農業が盛んであったが、1970年代以降は自動車、電子、軍事などの分野での工業化が進み、移民の多さもあって人口が増加している地域。 |
今週の注目指標
米大統領選 11月5日 ☆☆☆ | 米国の大統領選は、4年に一度米国の選挙の日(11月の第1月曜日の次の火曜日)に行われる。各州(及びワシントンDC)ごとに選挙人の数(基本的のその州の連邦議員の数と同じ、連邦議員のいないワシントンDCは3名)が決まっており、ネブラスカ州とメーン州を除く48州およびワシントンDCでは、選挙に勝ったほうがその州の選挙人すべてを獲得する方式を採用している。 州によって民主党色、共和党色が強い州があり、例えばカリフォルニア州などでは民主党が圧倒的に優位。そのため、多くの州では選挙前からその州の勝敗を予想可能で、選挙ごとに勝利者が入れ替わる激戦州と呼ばれる州の勝敗動向で勝敗が決定される。今回激戦州とされる7州について、10月前半にはトランプ氏が7州すべてで支持率がハリス氏を上回る状況となっていたが、その後ミシガン州とウィスコンシン州ではハリス氏がリードを取り戻した。勝敗のカギはペンシルベニア州が握っている可能性が強まっている。なお直前支持率の差はわずか0.4%となっている。統計誤差の範囲内であり、どちらが勝ってもおかしくない状況となっている。 トランプ氏が勝利すると、減税と高関税というトランプ氏の公約を受けてドル買いが見込まれ、ハリス氏の場合、トランプトレードでのドル買いの調整という面でドル売りが見込まれている。どちらに決まっても簡単に数円動くとみられる。 |
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米上院・下院選挙 11月5日 ☆☆☆ | 大統領選と同時に上院議員の1/3、下院議員全員の選挙が行われる(その他、複数の州知事、州議会選挙なども実施される) 。上院は100議席中34議席が改選となる。現状は民主党(民主系無所属含)51名、共和党49名となっているが、民主党現職議員引退に伴う新人同士の争いとなっているウェストバージニア州で共和党候補が圧倒的にリードしていることや、モンタナ州で民主党現職のテスター氏が共和党候補に支持率で劣勢となっていること、オハイオ州で民主党現職と共和党現職の支持率がほぼ同じとなっていることから、共和党が過半数を抑える可能性が高い。下院は435議席中、民主党優勢が210議席、共和党優勢が207議席となっており、残り18議席が支持率拮抗。多数派は218議席。ほぼ横一線となっている。大統領、上院、下院をすべて共和党がとった場合、トランプ氏の施策が通りやすくなり、ドル高が進む可能性がある。 |
米連邦公開市場委員会 11月8日04:00 ☆☆☆ | 6日、7日と米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。日本時間8日午前4時に結果が発表される。9月のFOMCで0.5%の利下げを実施した米FRB。1名0.25%利下げ主張があったとはいえ、残り11名が0.50%利下げに投票したこと、米物価鈍化傾向がはっきりしていたことなどから、前回の会合直後は今回も0.5%を見込む動きが、0.25%にとどめるとの見方と拮抗する展開が見られた。しかし、その後の米指標の好調さ、特にかなりサプライズな強さを見せた10月4日発表の9月米雇用統計の好結果を受けて大幅利下げ期待が後退。FOMC議事要旨で0.25%利下げ支持が複数名いたことが判明したことなどもあって、0.25%か据え置きかという選択に変化した。9月30日の全米企業エコノミスト協会(NABE)総会で講演したパウエル議長が利下げを急がない姿勢を示したことも、一部の据え置き期待につながった。 もっとも、米国の物価鈍化傾向が継続するなか、0.25%の利下げは実施するとの見方が大勢。米第3四半期GDPが予想を下回る伸びにとどまったことや10月の米雇用統計が弱めに出たことなども利下げ期待につながっている。 利下げ自体に波乱要素は少ないとみられる。注目は声明やパウエル議長会見での今後の姿勢。12月について金利先物市場では約80%が0.25%の利下げ継続を見込んでいるが、短期金利市場の織り込みは60%台となっている。FOMCでは今後についてデータ次第との姿勢を崩すことはないとみられるが、何らかのキーワードで市場の金利見通しに変化が生じると動きが期待される。12月の利下げ見送り期待が広がるようだとドル買いとなる。米大統領選の動向次第であるが、発表前から1円程度は簡単に動く可能性がある点に注意。 |
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