2024年11月11日号
先週の為替相場
大統領選を受けて一時ドル高円安も調整入る
先週(11月4日-11月8日)のドル円は、米大統領選を受けて一時ドル高円安が強まったが、その後、利益確定売りなどが入った。
5日に行われた米大統領選。9月終盤ごろから共和党候補のドナルド・トランプ前大統領が、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領に対して優勢との見方が広がり、ドル高の材料の一つとされていた。しかし、選挙戦終盤になってハリス氏が盛り返しを見せ、直前の支持率はほぼ横一線となった。勝敗のカギを握る7つの激戦州でも世論調査でハリス氏の支持率がトランプ氏を上回る州が見られるなど、かなり接戦の様相を呈していた。トランプ氏優勢の思惑で進んだドル高に対する調整が入り、ドル円は10月29日の1ドル=153円80銭台を高値にドル売りが入り、4日の週明け後は152円00銭を挟んだ安値圏でいったん推移。さらに開票直前には151円30銭台を付ける動きを見せた。
日本時間6日午前8時にケンタッキーなど一部の州で開票がスタート。序盤はハリス氏優勢の州も見られ、151円30銭と開票前の安値を割り込む動きを見せた。しかし、開票が始まった地区の分析など、より詳細な分析からトランプ氏が優勢との見方がすぐに広がり、米大手賭けサイトなどでトランプ氏優勢な状況が一気に強まると、ドル高が広がった。
激戦州の中では開票が早いジョージアでトランプ氏が世論調査動向以上の優勢な状況を見せたことなどから、6日昼頃には154円00銭前後までドル高円安が進んだ。同時に行われている上下両院選挙のうち、上院で共和党の過半数確保見通しがすぐに広がったことなどもドル高につながった。
午後にはほぼ大勢が判明し、トランプ氏の勝利となった。結局激戦州7つ全てでトランプ氏が勝利。538人の選挙人のうち312人を確保した。また、2016年の選挙でトランプ氏が勝利したときは全米全体での得票率では2%以上ヒラリー・クリントン民主党候補が上回っていたが、今回はトランプ氏が得票率でもハリス氏を上回ることが確実となっており、予想以上の差を付けての勝利となった。上院は共和党が52人を確保、民主党は46人を確保、接戦となった2州でまだ開票作業が継続中となっているが、共和党が過半数確保を決定。下院は接戦の選挙区が多くまだどちらにも確定していない。
こうした中、6日の海外市場で154円70銭前後まで上昇。もっともその後はじりじりとドル安となり152円10銭台を付けた。6日、7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は市場予想通り0.25%の利下げを決定。声明ではそれまで見られた「インフレが持続的に2%に向かっているというより大きな確信」という表現が削除され、FRBの積極的な利下げ姿勢が後退との思惑で152円80銭台から153円40銭台を付けた。パウエル議長はFOMC後の会見で、利下げを受けても政策金利がまだ中立金利より高く抑制的であるとの認識を示した。また、トランプ次期大統領からの要請があっても任期中に辞任しないことを改めて示した。この会見を受けてドル高に調整売りが入り、FOMC結果発表前よりも低いところまで売られたが、その後ドル買いが入るなど一方向の動きにならなかった。
その後加藤財務相の円安について「極めて高い緊張感をもって注視」とのけん制発言もあり、円買いが強まり、152円10銭台まで下げた。その後安値から少しドル買いが入り152円60銭台で週の取引を終えた。
ユーロドルも米大統領選開票前までしっかり。1ユーロ=1.07台後半から1.09ドル台を付けた。1.0900ドルを超えるとユーロ売りが出る展開が見られたが、開票前にドル売りが強まった局面で1.0930ドル台まで上昇した。開票後のドル買いに1.0680ドル台まで落ちている。その後は利益確定の動きなどもあって1.0820ドル台を付けたが、再びユーロ売りが強まり1.0680ドル台を付け、6日の安値に迫った。
ユーロ円は米大統領選、米FOMCと米国の材料が注目される中、ドル主導の展開となり、やや不安定な動き。1ユーロ=165円台を中心とした推移を経て、週末にかけての対ドルでのドル買いと、ドル円の下げなどに163円20銭台を付けた。
今週の見通し
米大統領選を受けたドル買いが一服。もっともトランプ次期大統領の公約が実現すると、ドル買い圧力が高まる可能性が高いだけに、下値もしっかりという展開。トランプ次期大統領による閣僚人事案次第ではドル買いが強まる可能性がある。
今のところ大統領首席補佐官人事のみ発表されている。注目は財務長官と通商代表部(USTR)(用語説明1)代表人事。USTR代表は前トランプ政権時に同職を務めたライトハイザー氏(用語説明2)に復帰を打診していると一部で報じられている。ただ、同氏は財務長官に関心があるとの報道もある。対外強硬派で知られる同氏だけに、USTR復帰や財務長官就任などが見られると、通商問題への警戒感が強まる可能性が高い。その他財務長官候補としては、キースクウェアマネジメント創業者のスコット・ベッセント氏、ポールソンアンドカンパニー創業者で著名ヘッジファンドマネージャーのジョン・ポールソン氏などの名前が挙がっている。今週人事案がどこまで報じられるかはわからないが、報道が出た場合は注意が必要。
先週、米大統領選、米FOMCと重要イベントをこなした後だけに、やや材料不足感がある。米消費者物価指数の発表が予定されているが、雇用の最大化と物価の安定という米FRBの2大命題は、利上げ局面で物価、利下げ局面で雇用が重視される傾向があり、消費者物価指数は予想から大きな乖離を見せない限り相場への影響は限定的となりそう。
ドル円は152円から154円にかけてのレンジを中心に、やや上方向にリスクという印象。トランプ新政権への警戒感から下がると買いが出る展開が続くとみている。
ドル全般の上昇が意識される中、ユーロドルは上値が重い展開。ゆっくりとした動きながら1.0600を目指す動きか。
クロス円はやや不安定な動き。ドル円の堅調地合いもあり、下がると買いが出る流れも、163円から166円にかけてのやや広めのレンジを中心に次の方向性を探る展開。
用語の解説
米通商代表部 | 米通商代表部(USTR:United States Trade Representative)は多国間貿易交渉や海外直接投資など、米国の通商政策全体を担当する大統領行政府の機関。そのトップであるUSTR代表は閣僚級ポスト。 |
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ライトハイザー | ロバート・ライトハイザー。ジョージタウン大学ロースクール卒、弁護士。1983年から1985年にかけて米通商代表(USTR)次席代表を務め、当時問題となっていた日米貿易摩擦に絡んで、日本に鉄鋼輸出の自主規制を受け入れさせている。2017年からのトランプ政権で大統領よりUSTR代表に指名され、同年5月に就任。第1次トランプ政権での対中強硬路線における重要人物の一人。 |
今週の注目指標
米消費者物価指数 11月13日22:30 ☆☆☆ | 先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では市場予想通り0.25%の利下げを決定。声明ではインフレが目標に向かっている大きな確信の文言が削除され、当局が物価高を依然警戒している姿勢が示された。もっとも今後についてはデータ次第という姿勢を崩しておらず、リスクは均衡しているとしている。こうした中、12月のFOMCについて利下げと据え置きで見通しが拮抗している。1日の雇用統計はかなり厳しい数字となったが、こちらはハリケーンの影響が大きいとみられている。物価については予想からの大きな乖離がなければ金融政策の決定に対する影響は限定的と見られている。 前回のCPIは前年比が+2.4%と8月の+2.5%から小幅鈍化、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+3.4%とこちらは8月の+3.3%から小幅反発となった。前月比は+0.2%、コア前月比は+0.3%となった。いずれも市場予想の前年比+2.3%、コア前年比+3.3%、前月比+0.1%、コア前月比+0.2%を上回る伸びとなった。総合の前年比での伸び鈍化についてはエネルギー価格下落の影響が大きい。コア部門では衣料品がしっかり。これまで大きな鈍化を見せていた中古車の鈍化が少し落ち着いたこともあり、コア全体の伸びにつながった。 今回の予想は前年比+2.6%と反発。コアは前年比+3.3%と横ばい見込み。前月比は+0.2%、コア前月比+0.3%とこちらも横ばいが見込まれている。9月から10月にかけて米ガソリン価格は低下したが、比較対象元である2023年の9月から10月にかけての落ち込みが大きかった分、前年比で見ると上昇する見込みとなっている。もっともコアが横ばい見込みということで、相場への影響は限定的と見られる。予想前後であればドル円は153円台を中心としたレンジ取引が見込まれる。 |
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豪雇用統計 11月14日09:30 ☆☆☆ | 10月の豪雇用統計が発表される。前回9月は雇用者数が前月比+6.41万人と、市場予想の+2.5万人を上回る力強さを見せた。豪州の雇用者数の伸びが予想を上回るのは6カ月連続。この結果を受けて年内の豪利下げ期待が後退。先週の豪準備銀行(中央銀行)金融政策理事会で制約的な政策の継続が必要であるとの姿勢が示されたこともあり、年内据え置きの見通しが広がっている。 今回は+2.5万人と前回から伸びが鈍化する見込みとなっている。これまで同様に予想を上回る伸びを示すと、現状短期金利市場の織り込みで12%程度残る年内利下げ期待が払しょくされ、豪ドル買いにつながる可能性がある。豪ドルは1豪ドル=0.6700ドルを目指す展開が見込まれる。 |
米小売売上高(10月) 11月15日22:30 ☆☆☆ | 前回9月の米小売売上高は、前月比+0.4%と市場予想の+0.3%を超える力強い伸びとなった。フードサービスと無店舗小売りが全体を押し上げる一方、ガソリン価格の低下を受けてガソリンスタンド売り上げが減少した。 今回の予想は+0.3%と力強い伸びの継続が見込まれている。ガソリン価格がもう一段下がったことで、ガソリンスタンド売り上げの減少が見込まれるが、その他項目での力強い伸びが期待されている。ただ、9月末から10月にかけて米南東部を中心に甚大な被害をもたらしたハリケーン「へリーン」「ミルトン」の影響で数字にぶれが生じる可能性がある。予想から大きな乖離を見せることで一時的に動きが出る可能性。もっともハリケーン関連でのブレであれば、影響は限定的にとどまると見込まれる。ドル円は153円台を中心としたレンジ取引の継続が見込まれる。 |
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