2025年02月03日号
先週の為替相場
リスク警戒、不安定な動き
先週(1月27-31日)は「トランプ関税」や中国の新興AI報道などを受けて不安定な動きを見せた。ドル円は週明け27日から上下に激しく動いた。トランプ米大統領は不法移民の強制送還の受け入れを拒んだコロンビアへの25%の関税賦課を決定。世界的な貿易摩擦への懸念もあり、リスク警戒の円買いで1ドル=155円29銭を付けた。しかし、コロンビア政府がトランプ政権による移民受け入れなどの要請を受け入れると円安に転じ、東京市場27日朝の円高分を埋めて156円20銭台へドルが上昇した。
その後は再びドル安円高に転じた。中国新興企業ディープシーク社(用語説明1)が20日にリリースした生成AI「ディープシーク-R1」が、米アップルストアでダウンロード1位を獲得したとの報道などをきっかけに米ハイテク企業の先行き不安が広がった。12月13日以来のドル安円高となる153円72銭を付けた。
その後少し動きが落ち着いて154円台を回復すると、27日の米上院で財務長官就任が承認されたベッセント氏が、一律に2.5%の関税を賦課する姿勢を示したことや、トランプ氏が同方針に賛同し、さらに高い税率を目指すと発言したことなどがドル買い材料となり、155円98銭を付けた。米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にしたポジション調整も見られた。
米FOMCは市場予想通り、政策金利を4会合ぶりに据え置いた。声明では物価がインフレ目標に向かっているとの文言が削除されており、利下げ先送り観測が広がったことでドル買いとなった。その後のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が記者会見で「政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と発言し、ドルが買われた。もっとも155円台半ばからのドル買いに慎重な姿勢がみられたことや、30日の氷見野日銀副総裁による講演を前にポジション調整のドル売りが広がったことからドル売り円買いとなった。さらに欧州中央銀行(ECB)理事会での緩和姿勢継続姿勢を受けたユーロ円での円買いもあって、ドル円は153円72銭を付けている。
31日に植田日銀総裁が衆議院予算委員会に出席。「基調的物価はまだ2%を下回っている」「基調的物価が2%に向けて徐々に高まるように緩和環境を維持」などと発言し、円売りとなった。海外市場ではトランプ政権がメキシコとカナダへの関税発動を先送りするとの一部報道を受けてドル売りの場面がみられたが、その後レビット報道官(用語説明2)が先送りを否定し、2月1日発動に言及したことでドル買いとなり、155円20銭前後で先週の取引を終えた。
ユーロドルは27日のディープシークショックによるドル売りで1ユーロ=1.0450ドル台から1.0532ドルを付けた。少し調整が入り1.0500前後で推移していたところに、ベッセント氏による関税報道を受けたドル買いに1.0420ドル台まで急落。その後1.0400-1.0450ドルレンジを中心としたもみ合いから、2月ドイツGfK消費者信頼感指数の悪化などを嫌気したドル売りに1.0380ドル台を付けた。1.0400を挟んでのもみ合いとなった後、トランプ関税がらみの警戒感から1.0350ドル台まで下げて週の取引を終えた。
ドル主導の展開の中、ユーロ円はリスク警戒の円買いが重石となり、じりじりと下げている。27日の1ユーロ=163円40銭台からディープシークショックで161円50銭台まで下落。その後161円台を中心としたもみ合いを経て、30日のドル円の下げに160円台を付けると、その後159円90銭台まで売りが出る場面が見られた。
今週の見通し
トランプ政権の関税に絡んだ動きが注目されている。週末にトランプ大統領はメキシコとカナダに対する25%関税と中国に対する10%の追加関税の大統領令に署名。トランプ氏は2日、米国政府の南アフリカへの資金援助をすべて停止すると発表した。カナダは報復関税を発表。メキシコは週明け3日に対抗措置を発表。中国もWTOへの提訴に加え、対抗措置を発動する姿勢を示している。週明けの為替市場は大荒れのスタートとなった。
これらの状況を受けて、週明けからリスク警戒のドル買い円買い、カナダドル、メキシコペソ、南アランドの売り、対中輸出の大きい豪ドルやNZドルの売り、さらに今後関税を賦課する方針を示されたユーロの売りなどが優勢となっている。
こうした状況を受けて当面はかなり不安定な動きが見込まれる。メキシコ、カナダ、中国に対する対応は貿易不均衡だけでなく、合成麻薬フェンタニルの米国流入に対する報復という位置付けが大きい。メキシコ政府などが取り締まり強化の姿勢を示しているが、解決に時間がかかる問題だけに、先行き不透明感が強い。
当面はドル高円高を意識する展開か。ドル円に関してはドル買いと円買いが交錯する中、どちらの勢いが勝るとかという展開。ポジションの傾き、材料の出る時間帯などの要素も含め、動きがやや不安定になりそう。
ユーロ円などクロス円は基本的に売りが強いとみられる。動きが荒っぽく、調整の動きが大きく入る局面もありそうだが、戻りでは売りが出る展開か。
ユーロドル、ポンドドルなどは基本的に下方向を意識。英国は関税に関する言及がないが(そもそも英国は対米貿易赤字)主要輸出先であるユーロ圏景気への警戒感もあり、ユーロ同様に売りが優勢となりそう。
対中輸出の大きい豪ドル、NZドルなどの売り意欲も強い。またこれらの国は世界的なリスク警戒局面で売りが出やすい通貨でもある。
ただ、いずれも状況の変化で一気に動きが反転するリスクがある点には注意したい。
用語の解説
ディープシーク社 | 中国浙江省の杭州に拠点を置く人口知能(AI)のスタートアップ企業。AIを活用するヘッジファンド「ハイフライヤー」の元責任者である梁文峰氏らによって2023年5月に設立。大規模言語モデル(LLM)の開発を行っており、1月20日にリリースしたディープシーク-R1は米オープンAI社のチャットGPT-01に対抗可能で、かなり低コストなモデルとされている。 |
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レビット報道官 | キャロライン・レビット氏は第2次トランプ政権におけるホワイトハウス報道官。セント・アンセム大学卒。2022年の下院選挙に出馬も落選(ニューハンプシャー州)。2024年の大統領選ではトランプ陣営の全国広報官に就任。第1子出産のため一時休養も、産後すぐに復帰し、トランプ氏の当選を受けて11月15日に報道官に指名されている。 |
今週の注目指標
ISM製造業景気指数(1月) 2月4日00:00 ☆☆☆ | 前回12月のISM製造業景気指数は市場予想の48.2に対して49.3(その後49.2に修正)と強い結果となった。昨年3月以来の高水準となる。内訳のうち先行指標として注目される新規受注が52.5と、11月の50.4から伸びていたことも好感された。ただ、雇用部門に関しては11月の48.1から45.3に低下。総合指数を構成する5項目(新規受注、生産、在庫、入庫遅延、雇用)の中で、唯一11月から低下する項目となった。 今回は49.9とさらに改善見込み。予想を超えて好悪判断の境となる50を超えてくるようだと、雇用部門の数字にもよるが、ドル買いにつながる可能性がある。ドル円は156円台に向けた動きが期待される。 |
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英中銀政策金利 2月6日21:00 ☆☆☆ | イングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)の結果が6日に公表される。今回は四半期に一度の金融政策報告が発表され、ベイリー総裁が記者会見するスーパーサーズデーでもある。政策金利は0.25%の引き下げがほぼ確実視されている。この後、3月のMPCはいったん金利が据え置かれ、5月のMPCで追加利下げとの見方が広がっている。金融政策報告での物価や経済成長見通しが追加利下げ観測を増幅すると1ポンド=1.2100ドルに向けたポンド安となる可能性がある。 |
米雇用統計(1月) 2月7日22:30 ☆☆☆ | 7日に1月の米雇用統計が発表される。1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は4会合ぶりに政策金利を据え置いた。FOMC声明文で雇用市場について「失業率はここ数カ月間、低水準で安定しており、労働市場の状況は引き続き堅調」とするなど、米雇用市場の底堅さが目立っており、利下げから金利据え置きに転じた理由の一つとなった。 前回12月の雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が+25.6万人と、市場予想の+16.4万人を大きく超え、2024年3月以来の強い伸びとなった。失業率は4.1%と市場予想や11月の4.2%から低下し、こちらも強い数字となっている。非農業部門雇用者数の内訳を確認すると、財部門は製造業が-1.3万人となった。8月、9月、10月と3カ月連続で雇用が減少した後、11月に+2.5万人となり、いったん持ち直したものの、12月は再びマイナス圏となっている。サービス部門は前回-2.9万人と弱かった小売業が+4.3万人と持ち直した。直近冴えない数字が目立つ運輸・倉庫も+1.0万人とまずまずの数字となっている。ともに景気動向に敏感で雇用の流動性も高い部門だけに好印象となっている。その他、このところ常に強いヘルスケアを中心とした教育・医療部門が+8.0万人、レストランなど接客・娯楽業が+4.3万人と好調さを維持した。 関連指標をみると、週間ベースの新規失業保険申請件数は、雇用統計の計測週である基準日12日を含んだ週の数字で、12月が22.0万件、1月が22.3万件とほぼ同水準となった。1月28日に発表された1月の米コンファレンスボード消費者信頼感指数は、全体が市場予想の105.7に対して104.1とやや弱い数字。また、内訳の中で雇用部門は、雇用が十分にあるとの回答から、職を見つけることが困難であるという回答を差し引いた数字が、11月の22.2に対して、12月は16.2と一気に悪化している。 今週発表される関連指標のうち、4日の12月米雇用動態調査(JOLTS)は前回11月分が770万人程度の予想に対して809.8万人の好結果となった。今回は少し減少も800万件前後と高水準が見込まれている。5日のADP雇用者は前月比+15.0万人と、11月の+12.2万人から伸びが強まる見込み。同日のISM非製造業景気指数は54.3と前回の54.1とほぼ同水準が見込まれている。 こうした状況を受けて今回の雇用統計は、非農業部門雇用者数が+16.5万人と一気に鈍化する見込みとなっている。失業率は4.1%で維持される見込み。前回が強かった分の反動が大きく、今回を含めた3回の平均値は予想通りであれば+21.6万人と高水準を維持することから、予想前後であればドルを支える材料となりそう。 ただ、今回に関しては非農業部門雇用者数の年次改定が入る。そのため毎年1月分は予想からかなりの乖離を見せている。昨年2024年1月分は予想の+18.5万人に対して+35.3万人、2023年は予想の+18.9万人に対して+51.7万人となった。今回も予想から大きく乖離して伸びているようだとドルが騰勢を強め、ドル円は157円台を試す可能性がある。 |
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