2025年02月10日号
先週の為替相場
円高優勢 リスク警戒のドル高から、追加利上げ期待の円高へ
先週(2月3日ー7日)は円高が優勢となった。トランプ米大統領は2月1日に4日発動でメキシコとカナダへ25%、中国へ10%の追加関税を賦課する大統領令に署名。週明けは貿易戦争への警戒感からリスク警戒のドル高となった。メキシコとカナダに関してはトランプ大統領とシェインバウム・メキシコ大統領及びトルドー・カナダ首相(用語説明1)との協議によって、国境警備の強化などの合意により1カ月の発動延期となって、警戒感が後退。しかし、残る中国に関してはデッドラインが過ぎて発効される展開となった。もっとも中国と米国との協議難航はある程度想定されており、一時の混乱は落ち着いた。週半ばからは日本の利上げ期待が円高につながった。5日に赤沢再生相(用語説明2)が「足元はインフレの状態という認識」と発言したことや、6日に田村日銀審議委員が「2025年度後半までには少なくとも1%程度まで利上げが必要」と発言したことなどが円高につながった。
週明け3日は1日にトランプ大統領がメキシコとカナダからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を4日米国東部時間午前0時発動で実施する大統領令に署名したことを受けて、リスク警戒が一気に広がって始まった。週明け早朝のドル円は1月31日終値の1ドル=155円10銭台から154円60銭台まで一時円高となったが、すぐにドル全面高に押されて日本時間午前に155円89銭を付けた。トランプ大統領は欧州連合(EU)に対しても関税を「間違いなく実施」と発言しており、ユーロドルは早朝に1ユーロ=1.0141ドルと2022年11月以来のユーロ安ドル高圏を付けた。カナダドルとメキシコペソも大きく売られ、ドルカナダは31日終値の1ドル=1.4520カナダ台から1.4700カナダ超えでスタートし、その後2003年以来22年ぶりのドル高カナダ安となる1.4793カナダを付けた。ドルメキシコペソは31日終値の1ドル=20.60ペソ台から21.29ペソと2022年3月以来のドル高ペソ安を付けた。
ドル高が一巡すると、リスク回避の円高が進む展開となった。ドル円は154円02銭まで急落。クロス円でも円高となり、ユーロ円は31日終値の1ユーロ=160円80銭台から早朝に158円台へ急落してスタートした後、ドル主導の展開に不安定な動きを見せていたが、ドル円の下げに併せて157円97銭まで下げた。
しかし、トランプ大統領と電話協議を行っていたメキシコのシェインバウム大統領が、関税発動が1カ月延期となったと発言したことで、ドル円、クロス円は反発。ドル円は155円01銭を付けた。その後カナダのトルドー首相との協議でも1カ月の発動延期が決まった。しかし、残る中国の関税発動が迫る中でドルが全面高となり、ドル円は4日に155円52銭まで上昇した。しかし、同日発表の12月米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が11月の815.6万件、市場予想の800万件前後を大きく下回る760万件にとどまったことで、一転してドル安となった。
日本の利上げ期待拡大による円高も見られた。5日に赤沢再生相が「足元はインフレの状態という認識、植田日銀総裁と齟齬ない」と発言。経済関係の閣僚からのインフレの発言に円買いとなった。また同日8時半に発表された日本の賃金統計が強く出たことも円買いを誘った。現金給与総額と実質賃金がともに予想を大きく超える好結果となった。名目賃金に至っては28年ぶりの高水準となった。この結果を受けて日銀が今年上半期に利上げを実施するとの期待が広がった。
同日海外市場に入って米債利回りが低下し、ドル安が広がると、米ISM非製造業が予想を下回る伸びとなったことでさらにドル売りとなった。
6日に入ると田村日銀審議委員が「2025年度後半には少なくとも1%程水度まで利上げが必要」と発言し、円高がさらに強まった。7日の米雇用統計を前にしたドル買いポジションの持ち高調整売りや、日米首脳会談で円安けん制があるのではとの警戒感が重石となった。
7日東京市場午前には昨年12月以来となる150円90銭台を付けたが、円高のきっかけとなった赤沢再生相がデフレは脱却していないとトーンダウンした発言を行ったこともあり、円高が一服。米雇用統計前の調整もあって、152円台まで一時ドル高円安となった。
雇用統計は非農業部門雇用者数が予想を下回る伸びとなったものの、前回値が上方修正されていたことや、失業率が予想外に低下したこと、平均時給の伸びが強かったことなどから、売り買いが交錯。151円30銭台から152円42銭の上下を経て、いったんは発表前水準に戻した。しかし、同日のミシガン大学消費者信頼感指数の弱さもあって、その後は円買いが優勢となり、東京朝の水準を割り込み150円93銭を付ける場面が見られた。150円台ではすぐに買いが出て151円台前半で週の取引を終えた。
注目された日米首脳会談は無難な結果という認識で相場への影響は限定的となった。
3日朝に大きく下げて始まったユーロドルは、3日東京午前を安値に反発。5日に1.0440ドル台を付けた。その後はやや上値が重くなり、7日に1.0300ドル台まで下げている。ユーロ円はドル円、ユーロ円共に売られたことで、7日に155円87銭を付けた。
6日の英中銀金融政策会合は市場予想通り0.25%の利下げを決定。ただ、投票結果が7対2で2名が0.50%の大幅利下げとなった。予想は8対1で1名が現状維持と見られていたため、複数名の0.50%利下げへの投票はサプライズとなった。3日朝のドル高に1ポンド=1.2250ドル前後を付けた後、5日に1.2550ドル前後まで上昇していたポンドドルは、発表前から持ち高調整の売りとなり、発表を受けて一段安となって1.2361ドルを付けた。
今週の見通し
今週もトランプ大統領の動向に注目が集まる。トランプ大統領は9日に鉄鋼とアルミニウムに対する25%関税をすべての国を対象にかけると表明。日米首脳会談の席でも話題となった相互関税についても、水曜日までには発表することを示した、また、先週は見送られた米中首脳の電話協議も今週どこかのタイミングで行われるとみられる。関税関連を中心に米国の動向に相場が左右される展開が続く。
ドル円は日銀の早期利上げ期待が広がっており、ドル安円高になりやすい地合い。米製造業のためにドル安を志向するトランプ大統領の姿勢とも合っており、流れが強まりやすい。ただ、行き過ぎた動きには調整が入る展開。リスク警戒のドル買いが強まる場面が意識され、大きなドル売りにはなりにくい面がある。
経済指標では12日の米消費者物価指数と14日の米小売売上高が注目される。先週金曜日の米雇用統計は非農業部門雇用者数が予想を下回る伸びとなったものの、失業率が予想外に低下、平均時給が予想を超えて上昇しており、利下げを急がない米連邦準備制度理事会(FRB)の姿勢を支えるものとなった。消費者物価指数が落ち着き、小売りも堅調な数字を示すと、利下げ先送りの期待が継続し、ドル買いとなる可能性がある。
ドル円は150円から154円にかけてのレンジを中心とした推移か。円高期待もあり、やや下方向にリスクといったところと見ている。
ユーロ円などクロス円はリスク警戒の動きに警戒。円買い、ドル買いとなってクロス円はドル円以上に反応が大きくなるケースが目立っている。155円トライの流れか。
用語の解説
トルドー首相 | ジャスティン・トルドー(Justin Trudeau)は第29代カナダ首相。第20及び22代カナダ首相のピエール・トルドー氏の長男。大学卒業後、一時教職を務めたのちにカナダのメディアでパーソナリティとなった。2008年のカナダ連邦選挙に自由党から出馬し当選。2013年には2011年の選挙で第3党まで党勢が落ちていた自由党の党首に就任。党首として迎えた最初の選挙である2015年の連邦選挙で圧勝し、首相に就任した。その後スキャンダルなどで支持率が低下。2025年1月に首相辞任を発表。次期総選挙に出馬せず、政界を引退することを表明した。 |
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赤沢再生相 | 赤沢亮正経済生成担当大臣。1984年東京大学法学部卒、運輸省に入省。米コーネル大学大学院に留学し、MBAを取得。2005年に運輸省を退官し、同年の衆院選で初当選。菅内閣で内閣府副大臣、岸田内閣で財務副大臣を務め、石破内閣で経済再生担当大臣として初入閣。 |
今週の注目指標
パウエル議長議会証言 2月12日 00:00 ☆☆☆ | 米FRBが半期に一度の金融政策報告書(通称ハンフリー・ホーキンス報告書)を提出し、パウエル米FRB議長が報告書に基づいた議会証言を11日に上院銀行委員会、12日に下院金融サービス委員会で実施する。報告書は同一のため、先に行われる上院での証言に注目が集まる。米共和党はトランプ氏の姿勢もあり、利下げ志向がやや強いとみられる。1月のFOMCで政策金利を4会合ぶりに据え置き、今後も利下げを急がない姿勢を示しているパウエル議長の答弁に注目が集まる。利下げ先送り姿勢が強調されるとドル買いとなりそう。ドル円は153円台に向けた動きが期待される。 |
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米消費者物価指数(CPI)(1月) 2月12日22:30 ☆☆☆ | 前回12月の米消費者物価指数(CPI)は前年比+2.9%と11月の+2.7%から伸びが加速。一方、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は+3.2%と11月の+3.3%から伸びが鈍化した。コア指数の伸び鈍化は5カ月ぶりとなった。 前回の内訳をみると、エネルギーが10カ月連続での前月比マイナス圏となったが、下落率が11月のー5.4%からー2.0%に縮小した。ガソリン価格が11月の前年比ー8.9%からー1.9%まで減少幅が縮まったことが背景にある。コア指数は財部門がー0.5%と11月のー0.6%から小幅ながらマイナス幅鈍化となった。衣料部門が+1.2%と11月の+1.1%から少し伸び、自動車価格が新車がー0.4%、中古車がー3.3%とマイナス圏ながらともに11月からマイナス幅縮小となったことで、財部門全体でもマイナス幅が縮小した。ただ、財部門は12カ月連続での前年比マイナスで、2024年は一度もプラス圏とならなかった。サービス部門は+4.4%と2カ月連続での伸び縮小となった。消費者物価指数全体の36.2%、コア指数の45.3%、コアサービスの59.3%を占める大きな項目である住居費が11月の4.7%から4.6%に鈍化。医療サービスが3.7%から3.4%に鈍化。2022年9月から28カ月連続で前年比二桁の伸びが続く自動車保険は+11.3%と依然高い水準ながら11月の+12.7%から伸びが縮まり、サービス全体の伸び鈍化につながった。 今回の予想は前年比+2.9%と12月と同水準の伸びが見込まれている。コア指数は+3.2%とこちらも12月と同水準見込み。 1月の米ガソリン価格は全米全種平均で1ガロン当たり3.196ドルと12月の3.139ドルから1.8%ほど高くなっている。この上昇自体は予想値に含まれているが、物流コスト上昇の影響から予想以上に全体に物価上昇圧力が強まっているようだと、予想よりも上振れする形でドル買いにつながる可能性がある。ドル円は154円を試す可能性がある。 |
米小売売上高(1月) 2月14日22:30 ☆☆☆ | 前回12月の米小売売上高は前月比+0.4%、自動車を除くコアも前月比+0.4%としっかりした伸びを見せた。特に強かったのが自動車で、トランプ大統領がEV税額控除の廃止などを行う前の駆け込み需要などと分析されていた。その他ではガソリンスタンド売り上げなどが好調となった。弱かった部門で気になったのが、小売売上高で唯一のサービス支出であるフードサービスのー0.3%。この部門の弱さについて市場では年末商戦での消費のため、外食など裁量支出を抑えた可能性があることが指摘されていた。 今回の予想は総合が前月比変わらず、自動車を除いたコアが+0.3%となっている。1月は寒さもあって自動車販売が落ち込みやすい時期となっているが、今年に関しては米調査会社が推計値で前年比+3.7%を示すなど好調を維持している。ただ、12月の自動車販売が相当強かったため、前月比ではやや落ち込むと予想されている。その他項目はガソリン価格の上昇などもあって、全体にしっかりした数字を維持するとみられる。12日のCPIが強く出た後に、小売売上高の好調さが後押しするとドル高の加速となりそう。ドル円は155円をトライする可能性がある。 |
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