2025年03月10日号
先週の為替相場
一時146円95銭を付ける
先週(3月3日-7日)はドル安円高が優勢となった。ドル円は3日の1ドル=151円30銭から7日に一時146円95銭を付けている。ユーロドルでのドル安はドル円以上にドル安が優勢で3日の1ユーロ=1.0370ドル台から7日に1.0889ドルを付けた。
3日のドル円は東京市場で先週の高値となる151円30銭を付けるなど、やや円安が優勢。2月28日に行われたトランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会談が、口論となるなど物別れに終わったことを受けて、欧州首脳がウクライナの安全保障への枠組み欧州プラス(用語説明1)を結成する方針を示したことなどが、リスク警戒の後退を誘った。もっとも同日海外市場ではドル安円高が優勢となった。2月の米ISM製造業景気指数は市場予想よりもやや弱かったものの、好悪判断の境となる50を上回った。しかし、内訳のうち、今後の先行指標として重要視される新規受注、雇用統計の先行指標として注目される雇用の両部門が弱く、ともに50を割り込む結果となったことで、リスク警戒の動きが広がった。さらに米国市場午後に入ってトランプ米大統領が中国と日本を名指しで通貨安をけん制したことで円高となった。さらに4日発動のカナダ・メキシコへの関税賦課、中国への関税率引き上げの実施を再度言及したこともあってリスク警戒の動きが広がった。
4日にメキシコ・カナダへの25%の関税、中国への2月4日発動の10%追加関税にさらに10%の上乗せが発動。3日に再度の言及があったことで、発動自体は織り込み済みで前後はやや不安定な動きも、結局ドル売り円買いが強まり、一時148円10銭台を付けた。その後反発を見せると、5日東京市場で150円10銭台までドル高となった。同日の内田日銀副総裁による静岡県金融懇談会での挨拶は、タカ派表現が見られるものの、サプライズはなく相場への影響は限定的となった。同日東京午前11時(現地米国東部時間4日午後9時)より始まったトランプ大統領の所信表明演説では4月2日からの相互関税発動に言及。ウクライナとの交渉についても、ゼレンスキー大統領から書簡をもらったと発言し、前に向かっていることをアピールしていた。もっとも市場の予想を大きく超えるものはなく、相場への影響は抑えられた。
その後2月の米ADP雇用者数の伸びが予想を大きく下回り148円40銭前後までドル売りとなった。同日の米ISM非製造業は予想を超える好結果となり、一時ドル買いとなったが、上値では売りが出た。
6日に連合が25年春闘の賃上げ要求は平均6.09%と昨年の5.85%を超える見通しを発表。平均6%超は32年ぶりとなる。この結果を受けて日銀の早期利上げ期待広がり、円買いとなった。ドル円は147円30銭台を一時付けた。その後米政府がメキシコとカナダへの25%関税について、USMCA(米国カナダメキシコ協定)に準拠した商品については4月2日まで課税を猶予する方針を示し、148円台を回復も、あくまで暫定措置としてドル買いが続かず。7日に発表された2月の米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが1月を上回ったものの、市場予想に届かず。失業率が予想外に悪化したこともあり、ドル売り円買いが強まり、一時146円95銭を付けた。
ユーロドルは大きくユーロ高ドル安となった。EU首脳によるウクライナ安全保障への動きが好感され、週明け3日の市場でユーロ高が進行。ドイツ・ラインメタル(用語説明2)、英BAEシステムズなど欧州の軍需関連株の上昇がけん引し、欧州株が好調な推移を見せたこともユーロ高につながった。これまで1.05ドル台前半では売りが出る展開が続いていたが、4日に1.06台を付けると、その後もユーロ高が継続。
独与党勢力が国防費増などのために従来の厳格な財政ルールを緩和することで合意したことなどもユーロ高につながったほか、米政府によるメキシコとカナダへの関税についてUSMCAに準拠した商品への発動延期措置を受けたドル売りなどもユーロドルを支えた。
6日のECB理事会は市場予想通り0.25%の利下げを決定。利下げ自体は完全に織り込まれており、市場は声明などに注目していた。声明では、金利水準は景気抑制の度合いが有意に低下しつつあると政策金利が中立水準に近づき、利下げ打ち止めが近いことを示唆。ユーロ高となった。7日にはECB理事会メンバーであるミュラー・エストニア中銀総裁が今後の利下げには一層慎重になる必要と発言しており、週末までユーロ高が続き1.0889ドルを付けている。
ユーロ円は円高とユーロ高が交錯。4日に1ユーロ=155円60銭前後を付けたが、その後は対ドルでのユーロ高が優勢となり、6日には161円20銭を付けた。その後は円高とユーロ高が交錯し、159円00銭から160円50銭前後をコアとしたレンジ取引となった。
今週の見通し
米FRBの追加利下げ期待と日銀の早期利上げ期待の両面から日米金利差の縮小期待が出ており、ドル円は上値が重い展開。トランプ大統領による円安けん制の動きも警戒されており、ドル円は戻りで売りが出る展開となっている。週明けの市場で日本国債利回りの上昇が見られるなど、日銀の早期利上げ期待を受けた動きの勢いが見られ、円買いが入りやすい地合いとなっている。
昨年12月に付けた148円60銭台を下回ってきているが、昨年9月に付けた139円台はさすがにまだ遠く、次のターゲットが難しい。149円台でのドル売り円買いが強まると、145円台に向けた動きを見込んでいる。
12日に発表される2月の米消費者物価指数(CPI)は5カ月ぶりに伸びが鈍化する見込みとなっている。ガソリン小売価格が前年比ベースでマイナスとなっているもようで、全体を押し下げるとみられる。またCPI全体を100としたとき、36.2%を占めている最大の項目である住居費の前年比鈍化傾向が継続している可能性があることも、伸び鈍化につながるとみられている。予想通りもしくはそれ以上に鈍化を見せるようだと、ドル売りに拍車がかかる可能性。ドル円は145円割れも視野に入ってくる。ユーロドルでもドル売りが進み1.1000ドルトライが見えてくる。
用語の解説
欧州プラス | 2月28日のトランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領の会談が不調に終わったことを受けて、2日にロンドンで英、ドイツ、フランス、イタリアなどの欧州主要国の首脳が緊急会合を実施。カナダやトルコなどからも代表が参加し、欧州に米国や場合によってはカナダなども加えたウクライナの平和に向けた有志国連合(欧州プラス)の構想が示されている。 |
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ラインメタル | ドイツ・デュッセルドルフに本社を置くエンジニアリング企業。軍需関連と自動車部品の二つが主力製品となっている。西側を代表する汎用機関銃であるMG3などの製造で知られている。 |
今週の注目指標
米雇用動態調査(JOLTS)求人件数(1月) 3月11日23:00 ☆☆☆ | 前回12月の同指標は市場予想の800万件を下回り、3カ月ぶりの低水準となる760万件。米雇用市場の鈍化を意識させた。失業者一人当たりの求人件数は1.1件と6カ月連続で横ばい。2022年には一時2倍まで上昇していたが、その後低下し、やや冷え込んだ状況が続いている。今回の予想は766.5万件と前回とほぼ同水準。ただ予想からのブレがある指標だけに注意が必要。前回同様に予想を下回る弱さを見せると、米追加利上げへの期待につながりドル売りが見込まれる。ドル円は146円00銭に向けた動きが期待される。 |
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米消費者物価指数(CPI)(2月) 3月12日21:30 ☆☆☆ | 前回1月のCPIは前年比+3.0%、変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年比+3.3%と共に12月を上回る伸びとなった。総合は4カ月連続での伸び加速。内訳を確認すると、エネルギーが前年比+1.0%と6カ月ぶりにプラス圏となった。ガソリン価格は-0.2%となり、8カ月連続でマイナス圏も、下落率が12月の-3.4%から一気に鈍化。9月に-15.3%をつけてから、-12.2%、-8.1%、-3.4%、-0.2%と下落率の鈍化が進んでいる。食品は+1.9%、外食が+3.4%と12月の+3.6%から伸び鈍化も、家庭用食品が+1.9%となり、3カ月連続で伸びが加速している。トランプ大統領の就任演説でも言及のあった卵の価格は前年比+53.0%、前月比でも+15.2%(前月比は季節調整後)となっており、家庭用食品の伸びにつながっている。 コア項目は財部門が前年比-0.1%となり、13カ月連続でマイナス圏となった。もっとも下落率は12月の-0.5%から縮小した。中古車・トラックが前年比+1.0%と2022年10月以来、実に27カ月ぶりにプラス圏に浮上し全体を支えている。新車は-0.3%と11カ月連続のマイナス圏となったが下落率は12月から小幅ながら縮小している。コアサービスは前年比+4.3%と3カ月連続の伸び鈍化となった。CPIの中で最大の項目(CPI全体を100としたとき36.2%を占める)である住居費が+4.3%と12月から小幅鈍化したことが全体を抑えた。輸送関連が前年比+8.0%と強さを継続。中でも自動車保険は+11.8%と12月の+11.3%を超える伸びとなり、2022年9月以来の二けたの伸びが継続。 今回2月の米消費者物価指数は総合CPI前年比+2.9%、コアCPI前年比+3.2%といずれも1月よりも伸び鈍化が見込まれている。予想通りとなった場合、総合は昨年9月以来、コアは昨年12月以来の伸び鈍化となる。住居費の伸び鈍化が継続するとみられることに加え、ガソリン価格の低下が見込まれている。2月のガソリン小売価格がEIA(米エネルギー庁エネルギー情報局)調査ベースで1ガロン当たり3.247ドル(全米全種平均値)と1月の3.196ドルから小幅上昇した。ただ、比較元である2024年が1月の3.197ドルから2月は3.328ドルまで上昇したことで前年比ベースでは-0.03%から-2.4%に下落率拡大となっている。CPIベース(都市部のみのデータ)でも同様の傾向で全体を押し下げるとみられている。 ただ、前回の中古車・トラックのプラス転換に見られる需要拡大を伴う物価上昇傾向もあり、物価鈍化が予想通り進んでいない可能性がある。2月21日に発表された2月のミシガン大学消費者信頼感指数(確報値)では、1年先の期待インフレ率が+4.3%と2023年11月以来の高水準になるなど、米国内でインフレ見通しが強まる傾向にあることと合わせ、予想を超える伸びに注意が必要。予想を超える伸びとなった場合、ドル高が強まる可能性がある、ドル円は149円00銭に向けた動きが見込まれる。 |
カナダ中銀政策金利 3月12日22:45 ☆☆☆ | カナダ銀行(中央銀行)の政策金利が発表される。昨年6月に利下げを開始したカナダ銀行は、前回1月の会合まで6会合連続で利下げを実施している。特に10月、12月の会合では2会合連続で0.5%の大幅利下げを実施した。前回は0.25%の利下げ幅が縮小され、今回も同様に0.25%の利下げが見込まれている。前回の声明ではこれまでの利下げで経済活動が活発化、消費の拡大が見られる一方、広範なインフレ圧力の兆候が見られなくなったとしており、今後の緩和政策の調整が示唆されている。そのため、一部で今回の会合で据え置きの予想が見られる。金利先物市場では92%が利下げを見込んでおり、利下げ見通しが本線であるが、エコノミストなどのアンケートでは約四分の一が据え置きを予想している。実際に据え置きとなった場合、サプライズのカナダ買いが見込まれる。ドルカナダは年初来のドル安カナダ高である1ドル=1.4151カナダトライの可能性がある。 |
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