2025年03月17日号
先週の為替相場
昨年10月以来の146円54銭付けるも、その後反発
先週(3月10日-14日)のドル円は上下に動きを見せた。米関税強化政策に対する警戒感や、米主要指標の弱さ、とくに7日の米雇用統計の失業率悪化などの弱さを受けたドル売りの流れから、先週前半もドル安円高をトライする展開。9日に米FOXニュースが報じたトランプ米大統領のインタビューにおいて、今年の米経済がマイナス成長となり、景気後退に陥る可能性が否定されなかったこともドル売りにつながり、11日東京午前に昨年10月4日以来のドル安水準となる1ドル=146円54銭を付けた。
その後安値から少し戻すと、その後トランプ関税に翻弄される展開となった。11日米国市場午前にトランプ大統領がカナダからの鉄鋼・アルミニウムに対する関税を従来の25%ではなく50%にすると発言。カナダ・オンタリオ州(用語説明1)のフォード首相が同州から米国への輸出電力に25%の輸出税を課すとしたことへの対抗措置。これを受けて一時ドル高が強まったが、フォード首相とラトニック米商務長官との会談を経て、輸出税の一時停止を決めたことで、トランプ大統領も50%への引き上げを撤回。ドル売りとなった。
12日に米国の鉄鋼・アルミニウム関税が予定通り発動。予定されていた通りとあって、発動前後の相場の動きは限定的となったが、物価高警戒もあってじりじりとドル高が優勢となっていた。ウクライナ情勢の進展期待や、トランプ大統領が週末報道の景気後退について明確に否定したことを受けたドル買いなども見られた。
同日の米消費者物価指数(CPI)が予想を下回る伸びとなり、インフレの落ち着きを示したことで、ドル円は148円60銭台から148円10銭台へ急落も、すぐに切り返して逆に上昇。149円19銭と先週の高値を付けた。その後はドル売りが強まりCPI発表直後の安値を下回るなど、上下に荒っぽい動きを見せた。
13日には植田日銀総裁が参議院財政金融委員会に出席し、「今後、実質賃金や消費は良い姿が見込まれる」などと発言したことで、日銀の早期利上げ期待が強まり、円高となった。ドル円は147円50銭台まで下落。その後148円30銭台までドル買いが入ったが、米株式市場の軟調な動きなどを受けて147円40銭台までドル売りとなった。その後同日NY市場午後に入って米上院のシューマー民主党院内総務(用語説明2)が、14日に迫った予算期限切れでの政府機関一部閉鎖を避けるため、つなぎ予算に合意する意向を示したことでドル高となった。
14日に入ってもドル高円安が継続、一時149円00銭台を付けた。ミシガン大学消費者信頼感指数の弱い結果もあって高値からはドル売りが入り148円20銭台を付けていた。
ユーロドルは11日にドイツ緑の党ブラントナー共同代表が、次期政権を担うドイツキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が提出し、同党と連立を組む社会民主党(SPD)が賛成する防衛費拡大のための特別基金について、交渉する用意があると発言したことでユーロ高となった。同基金はドイツの憲法条項である債務ブレーキに抵触するため、成立には憲法改正が必要。憲法改正に必要な議会の三分の二の票を得るため、緑の党の賛成が必要となっていた。同日1ユーロ=1.0940ドル台と昨年10月以来のユーロ高を付けている。
ウクライナ情勢改善への期待もユーロを支えていたが、CDU/CSUと緑の党との交渉が難航したことや、ラガルドECB総裁が今後に慎重な姿勢を見せたことによる追加利下げ期待などから1.0820ドル台までユーロ売りとなる場面が見られた。
14日に入ってドイツの特別基金について緑の党が合意し、ユーロ高となった。1.0910ドル台まで一時上昇も、週末を前に利益確定売りが入り、1.0860ドル台で先週の取引を終えた。
ユーロ円は先週前半の円高局面で1ユーロ=158円90銭前後を付けた。その後は対ドルでのユーロ買いとドル円の安値からの買いなどを支えに12日に162円30銭台まで上昇。その後160円00銭台まで下げるも、162円30銭台まで上昇と振幅を見せた。
今週の見通し
18日、19日に日米の金融政策会合を控えている。ともに政策金利は据え置き見込みとなっている。ただ、日本の追加利上げ、米国の追加利下げについての期待が広がる中、今後の金融政策見通しのヒントとなる声明や会見の内容、米FOMCに関しては今回公表回にあたっているFOMCメンバーによる経済見通し(SEP)に注目が集まっており、その内容次第では大きな動きにつながる可能性がある。
両会合を除いても不安定な状況が続く。日米金利差縮小を意識したドル売り円買いの流れは継続も、ウクライナ情勢の改善期待によるリスク選好の動きや、ドイツの歳出拡大を受けた景気刺激に対する期待感などが円売りにつながっている。
トランプ米大統領の動向に右往左往する状況も変わらず、上下ともに不安定な動きが見込まれる。
ドル円は短期的には150円台回復もありそうだが、中期的な流れはまだ下方向か。戻りでの売り意欲もありそう。リスク警戒後退による円売りがどこまで出るかがポイントとなりそう。
クロス円もドル円同様に不安定な動き。ユーロ円は対ドルでのユーロ買いもあり、163円台回復が十分にありそうだが、昨年末上値を抑えた165円手前の売りを崩すだけの勢いが出るかどうか。163円台から164円台にかけてはユーロ売り円買いが強まりそう。
ユーロドルはウクライナ情勢の改善期待と、ドイツの歳出拡大の動きが支えとなる。ドイツの債務ブレーキ修正に関しては今月25日に発足する新政権の下では実現が難しく、タイムリミットが迫っていただけに、実現に向けた動きが強まった状況がユーロの支えとなる。1.1000ドル手前には売り注文が入っているとみられるが、大台に迫る動きは十分にありそう。
用語の解説
オンタリオ州 | カナダの州のひとつ。南側は米五大湖に接している。州都及び最大の都市はトロント。カナダの首都オタワ市もオンタリオ州に属している。カナダの人口の40%弱を同州が占めており、政治・経済の中心となっている。 |
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院内総務 | 米国の議会における共和党、民主党それぞれの会派のリーダー。ただし連邦議会下院の場合、多数派政党のトップが下院議長となるため、院内総務は事実上のNo.2となる。日本語では上院民主党院内総務などと表記されるが、英名はSenate Minority Leader(上院少数党院内総務)となる。その時の勢力によってMajorityとMinority(多数党と少数党)がどちらの党を指すかは変わる。 |
今週の注目指標
米小売売上高(2月) 3月17日21:30 ☆☆☆ | 前回1月の同指標は前月比-0.9%と、約2年ぶりの低水準となった。年末商戦の反動が出たことや、1月にロサンゼルスなどを襲った山火事、米国の一部で見られた厳しい寒波の影響から実店舗を中心に売り上げ減となったことなどが、弱い数字の背景にあったとみられる。今回はここにきて需要の回復が見られる自動車売り上げなどを支えにしっかりした回復が予想されている。市場予想は前月比+0.7%、自動車を除くコア前月比+0.3%。 予想通りもしくはそれ以上の回復を見せると、リスク警戒後退の流れが強まる可能性がある。ドル円は149円台後半に向けた動きが見込まれる。 |
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日銀金融政策決定会合 3月19日昼前後 ☆☆☆ | 日本銀行は昨年3月に2016年1月に導入したマイナス金利を解除、7月の利上げを経て、前回1月も追加利上げを実施し、現在政策金利は0.5%となっている。前回利上げを実施したばかりということもあり、今回は据え置きで見通しが一致している。市場は次の利上げ時期と利上げのペース、ターミナルレート(最終到達水準)を関心材料としている、これらの予想に影響を与える声明と会合後の植田総裁会見が注目されている。 現時点では5月までの利上げを20%程度、6月までの利上げを50%程度見込んでおり、6月時点で利上げと据え置きが拮抗する。声明や会見ではこれまで通り、展望レポートに沿った経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくというという方針を維持するとみられている。 ただ、先週発表された2025年春闘で連合の第一回回答集計結果での賃上げ率が前年超えの5.46%となるなど、賃上げを伴う物価上昇が進む中で、利上げに向けた姿勢をよりはっきりと示してくる可能性がある。その場合、円買いが見込まれる。ドル円は147円台に向けた動きが期待される。 |
米連邦公開市場委員会(FOMC) 3月20日03:00 ☆☆☆ | 政策金利は前回に続いて現状維持見込みとなっている。前回会合での声明では、米国の物価動向についての表現を、12月までの、「インフレ率は2%の物価目標に向けて進展しているが、依然としていくぶん高止まりしている」から、「インフレ率は依然としてやや高めである」に変更。ややタカ派な印象を与えた。ただ市場の行き過ぎた反応を警戒してパウエル議長は前回会合後の会見の冒頭で、インフレ率は依然としてやや高止まりも、2%という長期的な目標にかなり近づいていると発言している。一方で、政策スタンスが以前よりも大幅に緩和され、経済も依然として堅調となっており、政策を急いで調整する必要がないと、1月に据え置きとなった理由を説明した。 今月発表された2月の米消費者物価指数前年比は総合、コア共に市場予想値及び前回値を下回る伸びにとどまった。こちらは利下げのハードルを下げる材料となった。ただ、トランプ大統領による関税強化政策の影響が今後本格化するとみられ、警戒感が広がる中で、今回は前回同様に据え置きになると見込まれている。 注目は声明での表現や議長会見とFOMCメンバーによる経済見通し(SEP:Summary of Economic Projections)。3月、6月、9月、12月のFOMCで結果と同時に公表されるSEP。前回12月はSEP内にある年末時点での政策金利見通しを示すドットプロットでの中央値が3.75-4.00%となり、2025年中2回の利下げ見通しが示された。9月のSEPでは3.25-3.50%が中央値となっており、0.5%の引き上げとなった。 現在米金利先物市場では2025年12月末時点での政策金利を3.50-3.75%と予想しておりドットプロットよりもややハト派となっている。こうした市場の見通しに沿った変化があるかどうかがポイントとなる。見通しが下方修正されると、6月までの利下げ開始期待が強まり、ドル売りにつながる可能性がある。ドル円はその前の日銀会合結果にもよるが、直近安値146円50銭台を意識する展開となる可能性がある。 |
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