2025年05月12日号
先週の為替相場
ドル円は週の後半にしっかり
先週(5月5日-5月9日)のドル円は、週前半はドル安円高が優勢も、その後ドル高円安となった。米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエル議長会見で追加利下げに慎重な姿勢が改めて示されたことや、米英通商協議の合意などがドル高につながった。
東京市場が休場となった週明け5日の市場はややドル安円高となった。台湾の輸出企業がドルから台湾ドルに資金を移動する動きが広がり、ドル安台湾ドル高が進んだことが、東京休場の中、アジア市場でのドル全般の売りにつながった。翌6日もドル安が優勢となり、ドル円は一時1ドル=142円台を付けた。トランプ関税を受けての先行き不透明感や、6日と7日に開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にしたドルの持ち高調整、さらにドイツ議会でメルツCDU(キリスト教民主同盟)党首(用語説明1・2)が首相指名選挙での第一回目の投票で否決されたことがリスク警戒の円買いにつながった。メルツ党首はCDU/CSU(キリスト教社会同盟)とSPD(社会民主党)との連立で指名に必要な過半数を優に超す議席を確保していたが、第一回投票では造反者多数によって過半数を確保できなかった。この結果を受けてドイツの政局不安からのリスク警戒がユーロ円主導での円買いとなり、ドル円の重石となった。
その後米中協議開始が報じられたことでドル高となった。さらにパウエル議長がFOMC後の会見で追加利下げに慎重な姿勢が改めて示したことでもう一段のドル高となった。会見を受けて短期金利市場などで6月のFOMCでの金利据え置きを織り込む動きが広がっている。
8日(現地米国東部時間7日夜)にトランプ大統領が、米英の貿易協議について現地時間8日に会見を行うことを発表し、同協議の合意期待からポンド高となった。いったんはポンド高ドル安が優勢となり、ドル全般に売りが優勢となる場面が見られたが、すぐにリスク警戒後退でのドル高となった。週末に行われる米中協議への期待にもつながる形でドル円はしっかりした動きとなって146円10銭台を付けた。9日朝に146円19銭を付けるなど、ドル高円安が継続も、その後はいったんドル売りとなった。米中協議が行われる週末越しでのポジション維持に慎重な姿勢が見られ、持ち高調整のドル売りが広がった。
ユーロドルは先週半ばまで1ユーロ=1.13台を中心とした推移。メルツCDU党首が第1回の首相指名選挙で過半数を確保できなかった際にユーロ売りが強まる場面などが見られたが、その後第2回の投票で首相に選出されたこともあり、混乱は続かなかった。週後半はドル高が優勢となり、9日朝に1.1190ドル台を付ける場面が見られた。米英の貿易協議合意や週末の米中協議への期待感などがドル高につながった。週末にかけてはドル円同様にドル買いポジションの調整が入り、1.1290台まで一時上昇した。
ユーロ円は先週前半のドル円の下げが重石となった。6日の独首相指名選挙を受けたユーロ売りもあって、同日ロンドン市場で1ユーロ=161円60銭と4月23日以来の安値を付ける場面が見られた。その後はドル円の上昇などを支えに反発。米英の貿易協議合意や米中協議への期待感がリスク警戒後退の円売りを誘い、163円90銭台を付けた。
ポンドドルは6日のドル安局面で1ポンド=1.3400ドル台を付けた後、一転してポンド安ドル高となった。米英の貿易協議についてトランプ大統領が会見を行うと報じられた8日東京朝に1.3280ドル台から1.3350ドル台までポンド高となるなど、局面によってはポンド高の場面も、ドル高の流れは変われず。8日のイングランド銀行(中央銀行)金融政策会合は市場予想通り0.25%の利下げとなったが、投票の内訳が5名0.25%利下げ、2名据え置き、2名0.5%利下げとなっており、据え置き主張が予想外に2名出たことを受けてポンド買いが入る場面が見られたが、こちらも続かず、9日東京朝に1.3210ドル台を付けている。
今週の見通し
米中協議合意への期待感がドル高円安につながっている。10日、11日の二日間にかけて行われた両国の協議。中国側からは何副首相、米国側からはベッセント財務長官やグリアUSTR代表などが出席して行われた。何副首相は重要な一歩を踏み出したと発言、ベッセント財務長官は前向きで実質的な進展があったと発言している。両国は12日に共同声明を発表する事を表明している。
先週の米英の貿易合意、今回の米中協議の進展などを受けて、トランプ関税を受けての警戒感が後退しつつある。ドル円はドル高の流れに加え、リスク警戒後退の円安も入っており、しっかりの展開となっている。もっとも、米中間での具体的な関税率引き下げなどの合意にはまだ時間がかかる可能性があり、先行き不透明感が残っている。展開次第では再びドル安円高が進む可能性も意識する必要がある。
ドル円は145円台を中心にややドル高方向を意識。150円に向けての動きまでは期待しにくいところであるが、147円トライの動きなどは十分にあり得そう。
ユーロ円などクロス円もしっかりの展開が期待されるが、対ドルでのユーロ売りなどが見込まれる分、ドル円の様な上昇は難しいか。165円前後が重くなる可能性がありそう。ポンド円に関しては、米英の貿易合意などを受けたポンド単体の買いもあり、ユーロ円に比べると買いが出やすいという印象。1ポンド=195円超えを期待。
ユーロドルは対ドルでのユーロ売りドル買いを意識。1.10台に向けた動きとなる可能性がありそう。
用語の解説
CDU | CDU(キリスト教民主同盟)はドイツの中道右派政党。メルケル元首相をはじめ多くの歴代首相を輩出している。バイエルン州では活動をしておらず、同州の地域政党CSU(キリスト教社会同盟)と統一会派を組んでおり、CDU/CSU(キリスト教民主・社会同盟)と表記されることも多い。CDU/CSUとSPD(社会民主党)で2大政党となる時代が長かったが、今年の総選挙で右派政党AfD(ドイツのための選択肢)がSPDを上回る議席数を確保して第2党となっている。 |
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メルツCDU党首 | フリードリヒ・メルツ(ヨアヒム-フリードリヒ・マルティン・ヨーゼフ・メルツ/Joachim-Friedrich Martin Josef Merz)はドイツの政治家。第10代ドイツ連邦首相。第10代CDU党首。ノルトライン=ヴェストファーレン州のブリーロン市出身。ボン大学卒、裁判所判事、弁護士などを経て1989年に欧州議会議員選挙に当選。1994年まで欧州議会議員を務めた後、同年のドイツ連邦議会選挙に当選。2000年にCDU議員団団長に就任。2002年にメルケル氏に団長を譲り副団長となり、2004年に副団長も辞すると、メルケル氏率いる当時の執行部との対立から2009年の選挙に出馬せず、政治活動を休止した。2018年にメルケル氏が党首選不出馬を表明すると、同年及び2021年1月の党首選に立候補も落選。2021年9月の総選挙で連邦議会議員に復帰、同年12月の党首選で勝利した。2025年2月の総選挙でCDU/CSUが第1党に復帰し、同年5月6日の首相指名選挙では第1回投票で過半数を確保できなかったものの、同日行われた第2回投票で首相に選出された。 |
今週の注目指標
米消費者物価指数(CPI)(4月) 5月13日21:30 ☆☆☆ | 先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でパウエル米FRB議長は追加利下げに慎重な姿勢を改めて示した。ただ、米景気減速懸念が広がる中、市場は年内3回の利下げを依然として織り込んでいる。追加利下げの時期を探るためにも、物価動向には注目が集まる。 前回3月のCPIは前年比+2.4%と2月の+2.8%から大きく鈍化。市場予想の+2.5%も下回った。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア前年比も+2.8%と2月の+3.1%から鈍化し、市場予想の+3.0%を下回っている。前回の内訳をみるとエネルギー価格が前年比-3.3%と大きく低下し全体を押し下げている。ガソリン価格が前年比-9.8%という落ち込みを見せていた。一方、食品は前年比+3.0%と2月の同+2.6%から伸びが強まった。鳥インフルエンザの関連で鶏卵が前年比+60.4%となっており全体を押し上げた。また外食も前年比+3.8%と力強い伸びとなっている。食品とエネルギーを除いたコア項目では、財部門は2月と同じ前年比-0.1%となった。中古車や衣料などの伸び鈍化が見られた。一方サービスは前年比+3.7%と2月の同+4.1%から伸びが鈍化した。CPI全体を100としたとき、36.2%を占める最大の項目である住居費が前年比+4.0%と2月の同+4.2%から鈍化し、全体を押し下げた。その他鈍化が目立っていたのが航空運賃で前年比-5.2%となった。航空運賃は12月の前年比+7.9%、1月の同+7.1%という高い伸びから2月が同-0.7%とマイナス圏に落ち込み、3月の大幅な低下につながった。CPI全体の伸び鈍化について、前回の発表後トランプ大統領が自身のSNSで歓迎する意向を示していたが、航空運賃などのマイナスが個人の旅行意欲低下によるものとみられるなど、家計の消費意欲低下が進んでいるのではとの警戒感が出ていた。 今回4月のCPIの市場予想は前年比+2.4%、コア前年比+2.8%と3月と全く同水準となっている。住居費の停会継続が見込まれるほか、エネルギー価格についてはマイナス幅の拡大が見込まれているが、トランプ関税の影響を受けた消費財などの上昇警戒もあり、全体として3月並みという予想になっている。ただ、関税の影響についてはブレが大きいとみられている。予想外に大きな鈍化がみられるようだと、ドル売りが強まる可能性がある。ドル円は144円台トライが見込まれる。 |
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米小売売上高(4月) 5月15日21:30 ☆☆☆ | 2日に発表された米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが予想を上回るなど強い結果となった。この好調な雇用動向を受けて米個人消費の拡大が見られるかがポイントとなる。前回3月の米小売売上高は、前月比+1.4%(その後+1.5%に修正)と2023年1月以来2年超ぶりの高い伸びを示した。ただこの伸びはトランプ関税の発動を前にした駆け込み需要の影響が大きい可能性が指摘されている。前回の内訳をみると、自動車関税の発動を前に自動車及び同部品が前月比+5.3%の大幅な伸びとなり、全体を1.0%分押し上げた。また中国産が多いおもちゃやスポーツ用品の値上がりを意識して、スポーツ・娯楽・書籍の項目が+2.4%とこちらも高い伸びとなっていた。 今回はそうした駆け込み需要が落ち着くことで、前月比+0.1%と動きが落ち着く期待が強まっている。反動もあって予想を超えてマイナス圏まで落ち込むとドル売りが見込まれる。米小売売上高発表のすぐ後にパウエル議長の講演が予定されており、よほどの数字でなければ動きは期待しにくいが、弱めに出た後にパウエル議長の講演が無難に終わった場合は、ドル売りとなる可能性がありそう。 |
パウエル米FRB議長講演 5月15日21:40 ☆☆ | 5月15日、16日に第二回トーマス・ローバッハ・リサーチカンファレンスが予定されている。FRBが主催し、多くのFRBエコノミスト、大学教授、中銀関係者が出席する同カンファレンス。15日午前の基調講演をパウエル米FRB議長が行う。なお同カンファレンスではバーナンキ元FRB議長が出席するパネルディスカッションや、レーンECB専務理事/ロンバルデッリ英中銀副総裁/セイム・リクスバンク(スウェーデン中央銀行)副総裁の参加するパネルディスカッションなどが予定されている。金融政策などを専門とするFRBのエコノミストであった故ローバッハ氏の名を冠した同カンファレンスは、金融政策の戦略、手段、コミュニケーションなどがテーマとなっており、その基調講演ということで、パウエル議長から今後の金融政策見通しについての発言が出てくると期待されている。米FOMC後の会見と同内容と見込まれているが、追加利下げに慎重な姿勢が少しでも修正されるとドル売りになる可能性がある。ドル円は143円00銭に向けた動きが期待される。 |
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