2025年05月26日号
先週の為替相場
ドル安円高進行
先週(5月19日-5月23日)のドル円は、米財政赤字警戒などによるドル安が優勢な展開となった。16日NY市場夕方に格付け会社ムーディーズ・レーティングスが米国の格付けをそれまでのAaa(AAAに相当)からAa1(AA+に相当)へ引き下げたことを受けて、週明けからドル安円高となった。16日終値1ドル=145円70銭前後よりややドル安水準の145円50銭台で始まったドル円は、すぐにドル売りが強まり、東京市場夕方には144円60銭台を付けた。米30年債利回りが節目の5%を超えるなど、格下げの要因ともなった米財政赤字警戒からの債券安(利回り上昇)が、ドル売りを誘った。
その後少しドル買いが入ると、五十日(ごとおび)(用語説明1)ということもあり20日東京午前の仲値にかけて実需のドル買い円売りが入り、145円51銭を付けた。しかし仲値後はすぐにドル売りに転じた。加藤財務相がG7財務相・中央銀行総裁会議の場を利用して実施する日米財務相会合において、為替など諸課題を議論と発言したことがドル売り円買いにつながったほか、午後に財務省が実施した日本国債20年物の入札が歴史的な不調(用語説明2)となったことが円買いを誘った。日米の財政赤字警戒が広がる中、144円10銭前後を付けた。その後145円00銭近くまでドル買いが入る場面が見られたが、ドル安の流れは止まらず、翌21日には143円20銭台を付けた。
米債券安(利回り上昇)、米株安、ドル安のトリプル安が進行。イスラエルがイラン核施設攻撃を計画との報道もドル売り円買いを誘った。
注目された日米財務相会合で具体的な為替水準については協議しなかったと示され、為替相場は市場が決定する原則を再確認したことで、日本時間22日朝にいったんドル高円安となり、144円40銭前後へ急騰。しかし、上昇一服後は米トリプル安警戒でドル売りが強まると、直近の安値水準を割りこみ、142円80銭台を付けた。その後米購買担当者景気指数(PMI)の好結果もあり、ドルの買い戻しが入ると144円30銭台を付けるなど、不安定な動き。
週末にかけては再びドル安円高。米トリプル安警戒で上値が重くなると、トランプ大統領が米国産でないiPhoneに少なくとも25%の関税をかける方針を示したことでドル売りが加速。さらにEU製品へ50%の関税をかける方針を示したことがリスク警戒のドル売り円買いとなり、一時142円20銭台を付けた。
ユーロドルでもユーロ高ドル安が進んだ。16日に1ユーロ=1.1120ドル台を付けたあと、米格下げを受けたユーロ買いドル売りに19日に1.1280ドル前後まで上昇。少しもみ合うも上昇が続き、23日は1.1370前後を付けた後、米国の対EU50%関税を受けていったん1.1300ドル割れを付けた。しかしユーロ高ドル安の流れは根強く、すぐに反発し1.1375ドルと先週の高値を更新し、ほぼ高値圏で引けた。
ユーロ円はドル主導でやや不安定な動き。1ユーロ=163円00銭を挟んでの上下となった後、日米財務相会合を受けた円売りに163円40銭台を付けるも、すぐに反落。162円50銭を割り込むと、ストップロス注文を巻き込んで161円80銭前後を付けた。その後はいったん円買い一服となったが、トランプ大統領によるiPhoneへの関税発言を受けたリスク警戒の円買いと、対EU50%関税方針を受けたユーロ売りに161円10銭前後まで急落。その後162円00銭台を付けた。
今週の見通し
米財政赤字警戒や、トランプ関税警戒の動きが続いており、ドルは上値が重くなっている。先週末は米国産でないiPhoneへの少なくとも25%の関税賦課を示し、その他スマートフォン機器も同程度の関税をかけることが示された。また、7月に発動が延期され、その間の貿易交渉次第とはいえ、EU製品に50%の関税賦課の方針も、かなり厳しいものとして受け止められている。
こうした動きが米債券利回りの上昇(債券価格の下落)、米株安、ドル安のトリプル安につながっている。この流れは当面続く可能性がある。日本の国債利回りも先週の20年債入札の不調もあって超長期を中心に大きく上昇。日本の財政赤字懸念はリスク警戒の円買いとなっており、日米長期金利上昇がドル安円高につながっている。
ドル円は4月22日に付けた直近安値139円89銭を意識する展開。141円50銭から142円にかけてはドル買い注文も入っているとみられるが、ドル全面安の流れだけに、戻りでドル売りが出る展開が続いており、ゆっくりとドル安円高をトライする展開が見込まれる。
水曜日に予定されている日本の40年債入札が先週の20年債同様に相当な不調となった場合、警戒感から円買いが一気に入る可能性がある点にも注意したいところ。
ユーロドルはドル全面安に加え、ドルの代替通貨としてのユーロの立場もあってしっかりの展開。落ち着いた動きの中1.1500超えを視野に入れた展開となっている。
ドル主導の展開でユーロ円などクロス円は不安定な動きが見込まれる。ドル円がストップロス注文を巻き込む形で急落する局面などではユーロ円も売りが強まる可能性がある点に注意。
用語の解説
五十日(ごとおび) | 5日、10日、15日など、5と10の付く日のこと。給与の支払い日、カードの決算日などに当たり、銀行窓口の繫忙日となっている。赤山明神の祭日である5日に由来するといわれる古くからあるビジネス用語で、いまでも日本の企業の納金などは五十日に行われることが多い。為替市場でも仲値を利用した実需の取引が多くなるといわれている。仲値を利用した取引は輸入企業が多いことから、ドル買い円売りが入りやすくなる。 |
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20年債入札の歴史的不調 | 財務省が20日に実施した20年利付国債(第192回)の入札は募入決定額7509億円に対して応募額が1兆8778億円となり、応札倍率は2.5倍と2012年以来の低水準となった。需要の強弱を示すとされるテール(平均落札価格と最低落札価格の差)は1円14銭となり1987年以来の水準となった。テールは大きいほど需要が弱いとされており、前回4月の20年債入札では34銭、応札倍率の高かった1月は4銭となっていた。 |
今週の注目指標
米コンファレンスボード消費者信頼感指数(5月) 5月27日23:00 ☆☆ | 民間調査会社コンファレンスボードによるアンケート方式での景況感調査を基にした同指標。同系統の指標であるミシガン大学消費者信頼感指数などに比べて調査サンプル数が多く(コンファレンスボードは5000サンプル、ミシガン大学は速報が420、確報が800超)、より精度の高い指標として注目されている。 前回4月は86.0と3月の92.9から一気に低下し、新型コロナによるパンデミックの最中であった2020年5月以来の低水準となった。5カ月連続での前月からの低下となっており、市場予想の87.5も下回った。中でも所得や雇用などの短期見通しを示す期待指数が54.4と3月の66.9から大きく低下。景気後退入りを示唆するといわれる80を3カ月連続で大きく下回っている。同調査での記入方式での回答をみると、家計として最も関心の高い問題として関税が挙げられており、関税問題が家計の景況感悪化に大きく寄与していることが示された。 今回は87.0と小幅ながら改善が見込まれている。米英や米中の貿易合意が支えとなっていると期待されている。ただ、先行き不透明感が継続していることもあって、予想を下回り、前回から悪化する可能性が十分にある。その場合ドル売りにつながるとみられ、ドル円は141円台トライが見込まれる。 |
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NZ中銀政策金利 5月28日11:00 ☆☆ | NZ準備銀行(RBNZ/中央銀行)金融政策会合の結果が28日に発表される。NZ中銀は昨年8月の利下げ開始から前回4月の会合まで5会合連続で利下げを実施、うち3回は0.5%の利下げとなっており、トータルの利下げ幅は2%に達している。先週20日にピークから2回目となる利下げを行った豪中銀の政策金利は3.85%。NZ中銀は現状で3.5%とすでに豪州よりも低くなっているが、まだ利下げが継続する見込みとなっている(アフターコロナでのピークは豪州が4.35%、NZが5.5%とNZのほうがかなり高い)。注目は声明などで追加利下げの示唆があるか。前回4月の利下げ時は、トランプ関税を受けて、「関税政策の範囲と効果が明らかになるにつれて、必要に応じて政策金利をさらに引き下げる余地がある」と追加利下げを示唆していた。今回も同様の慎重姿勢が見られると、現状で75%程度織り込んでいる次回7月会合での利下げ期待が強まり、NZドル売りとなる可能性がある。NZドル円は1NZドル=84円50銭を目指す可能性がある。 |
米第1四半期GDP改定値 5月29日21:30 ☆☆ | 4月30日に発表された米第1四半期GDP速報値は前期比年率-0.3%となり、2022年第1四半期以来のマイナス成長となった。市場予想は+0.3%と、前期の+2.4%から大きく鈍化もプラス圏維持の見通しであったが、予想以上の悪化を見せた。速報値時点での内訳をみると、GDP全体の約70%を占める個人消費が前期の+4.0%から+1.8%へ鈍化している。ただこれは、活況となった年末商戦の反動や、歴史的な寒波の影響が大きいとみられ、事前予想は+1.2%とより弱い数字を見込んでいた。また、投資部門は前期からかなりの伸びとなった。設備投資は+9.8%となり、前期の-3.0%から一気に上昇。関税対応でコンピューター関連の輸入急増が見られたことに併せて、情報関連を中心とした機器の拡大が見られた。関税前の駆け込み輸入の関係で在庫投資も大きく拡大。在庫だけでGDPを2.3%ポイント押し上げた、 こうした状況を打ち消して、マイナス成長まで全体を押し下げたのは輸入の拡大。輸入は前期比年率で+41.3%という大幅な伸びとなった。輸出も+1.8%と伸びているが、輸出から輸入を引いた純輸出GDPを4.8%ポイント押し下げている。 今回の改定値でこうした状況がどこまで変化するかが注目される。今月6日に発表された3月の米貿易収支は1405億ドルの赤字と、2月の1232億ドルから赤字が拡大。市場予想の1372億ドルを超える赤字となった。3月の製造業受注の予想外の減少、企業在庫の鈍化など、4月のGDP速報値発表後に示された米指標の厳しい結果もあり、速報からマイナス幅が広がっている可能性がある。その場合ドル円は140円台トライとなる可能性がありそう。 |
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