2025年06月02日号

(2025年05月26日~2025年05月30日)

先週の為替相場

トランプ関税など巡り上下

 先週(5月26日-5月30日)のドル円は、トランプ関税などをめぐって上下に大きな動きを見せた。火曜日朝の1ドル=142円10銭台から木曜日朝に146円20銭台までと5円以上のドル高円安となり、その後143円台前半まで下げている。

 週明け26日は、朝方トランプ大統領がEU対する50%関税の発動を7月まで延期と報じられ、リスク警戒後退から143円台まで一時ドル高となった。しかしトランプ関税への警戒が続く中、米財政赤字警戒なども広がり、27日朝にかけてドル売りが強まり142円12銭を付けている。しかし通信社ロイターや日経新聞が財務省が25年度国債発行計画の年限構成を近く再検討、来月20日の大手証券会社、銀行など国債市場特別参加者(PD/用語説明1)会合などにより判断と報道したことで一転して円売りとなった。6月のPD会合は定例の開催であるが、同会合に先立って同会合参加メンバーに加え、国債投資家懇談会のメンバーや、その他一部機関投資家を対象に国債発行額などについてのアンケート調査を実施していることが判明し、超長期国債の発行減額に向けた動きが強まるとの思惑が広がった。ドル円は144円台まで上昇している。

 28日朝に植田日銀総裁が上昇が目立つ超長期国債利回りについて、注意してみていきたいと発言。より具体的な発言を期待していた海外勢などのドル売り円買いを誘い、144円30銭台から143円80銭台へ急落。直後にニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁がインフレが中銀目標から乖離し始めた場合「比較的強力」に対応する必要があると発言したことで一転してドル買いとなり、144円台後半を付けた。注目された同日の日本40年国債の入札は落札利回りが過去最高となるなど、需要の弱さが見られる不調なものとなり、144円00銭前後を付けるなどドル安円高となった。

 その後米債利回りの上昇などを背景に145円00銭前後まで上昇。少しもみ合った後、米国際貿易裁判所がトランプ大統領の解放の日関税について違法判断を下し、差し止めを命じたことでドル買いが強まり146円28銭を付けた。

 上昇一服後は上値の重い展開となった。トランプ政権が貿易裁判所の判断について上訴すると報じられたことで上値が抑えられると、米新規失業保険申請件数の弱い数字や、米第1四半期GDP改定値で個人消費が下方修正されたことなどを嫌気したドル売りが強まった。米連邦控訴裁判所が差し止めを命じた国際貿易裁判所の決定について、関税の当面の維持を認めたことや、トランプ政権が今回差し止めとなった国際緊急経済権限法(IEEPA)(用語説明2)基づいた関税に代わるプランBを検討との報道も、ドル売りにつながり、ドル円は143円台前半を付けている。

 ユーロドルも一時ドル高に押され、1ユーロ=1.1419ドルから1.1210ドルまでユーロ安ドル高となった。対EUの50%関税発動延期などがドル買いを誘った。解放の日関税の差し止めを受けたドル高などに下値を付けた後は、一転してユーロ買いドル売りとなり1.1390ドル前後までと下げ分のほとんどを戻す展開となった。

 ドル主導の展開でユーロ円はやや不安定な動き。日本の財務省による超長期債発行減額観測などを受けた円売りに1ユーロ=164円20銭台を付けたが、その後は162円80銭台まで下げている。

 

今週の見通し

 トランプ関税をにらみつつの展開が続く。警戒感からのドル安円高が継続も、警戒が弱まる局面で一気に上昇する局面が見られるだけに、下押しにも慎重。上値が重いものの、動きは比較的落ち着いている。

 今週は週末の米雇用統計をはじめ、ISM製造業、非製造業、ADP雇用者数、JOLTS求人件数など米国の重要指標の発表予定が並んでいることも、不安定な要因となっている。トランプ関税を受けたインフレ警戒が出る一方、先週の米第1四半期GDP改定値での個人消費の下方修正に見られる、ここにきての個人消費の減退傾向が景気鈍化の警戒感につながっている。米雇用統計が弱めに出た場合、ドル売りが加速する可能性があるが、直近、米PMI速報値やコンファレンスボード消費者信頼感指数などがかなり強く出ており、景況感の底堅さが見られるだけに、予想よりも強く出る可能性が十分にある。

 ドル円は上下にリスク。トランプ関税を受けての反応や米指標動向などをにらみながら、方向性を探る展開。下方向は先週安値を支えた142円00銭手前の買いがポイント。しっかり割り込むと、ドル売り円買いが強まるとみられる。

 戻りは144円台半ばがやや重い印象。しっかり抜けると円高警戒後退もありそう。

 ユーロドルは1.13台を中心とした推移が見込まれる。

 ユーロ円はドル主導で不安定な動きの中、一方向の動きにはなりにくい展開か。162円台から164円台にかけてのレンジ取引が見込まれる。

用語の解説

国債市場特別参加者 国債の安定消化促進、国債市場の流動性維持・向上などを図る仕組みとして、欧米のプライマリーディーラー制度を参考に、平成16年10月に導入された制度。同参加者はすべての国債入札で責任割合に応じた応札を行う責任や入札する責任、流動性を維持する責任などを有する一方、国債市場特別参加者会合に参加することで財務省と意見交換する資格や買入消却入札への参加資格、分離適格振替国債(ストリップス債)の分離・統合申請資格などを有する。現在大手銀行や証券会社など19社が該当する。
国際緊急経済権限法(IEEPA)国際緊急経済権限法(IEEPA/INTERNATIONAL EMERGENCY ECONOMIC POWERS ACT)は1977年10月に施行された米国の法律。国家安全保障や外交、経済に対する重大な脅威に対し、非常事態宣言し、金融制裁を行うもの。該当する海外の組織もしくは人の資産没収、外国為替取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止などがある。テロ組織やその支援者、国際紛争の支援者・団体などが対象となるほか、著しい犯罪組織などが対象となっており、日本の指定暴力団とその幹部なども対象となっている。イラン、シリア、ベラルーシ、ロシアなどは国がその対象となっている。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数(5月)
6月2日23:00
☆☆☆
 前回4月分は市場予想を上回ったものの、3月から鈍化し48.7となった。5カ月ぶりの低水準となっている。3月に弱く出た新規受注と雇用が改善したものの、生産が3月の48.3から44.0まで大きく低下し全体を押し下げた。今回は前回から小幅改善の49.2が見込まれている。好悪判断の境となる50には届かない見込み。同系統の指標であるPMI速報値がかなり強く出ており、ISM製造業も予想を超えて50超えまで改善するとドル買いにつながる。ドル円は145円台トライがありそう。もっとも、トランプ関税を受けた不透明感もあり、前回を下回る可能性も十分にありそう。前回は46.5と3月の44.7から改善を見せた雇用部門の数字と合わせて注意したい。
ECB政策金利
6月5日21:15
☆☆☆
 5日にECB理事会の結果が発表される。政策金利は0.25%の利下げで見通しが一致している。市場金利に近い預金ファシリティ金利は2.25%から2.00%になる見込み。インフレ警戒もあって米国の追加利下げ期待が後退、英国も前回の会合で据え置き主張者が出たこともあって追加利下げ期待が後退する中、利下げを続けるECBの今後の姿勢がポイントとなる。声明やラガルド総裁の会見が注目される。前回よりも利下げに消極的な姿勢を示すとユーロ買いドル売りとなりそう。ユーロドルは1.1450ドルに向けた動きが期待される。
米雇用統計(5月)
6月6日21:30
☆☆☆
 前回4月の米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+17.7万人と、市場予想の+13.8万人を大きく上回った。3月が速報時点で+22.8万人と高く出た反動もあってやや弱めの数字が見込まれていたが、米雇用市場の底堅さを示す結果となった。失業率は市場予想及び3月分と同じ4.2%となった。前回のNFPの内訳をみると、政府部門は+1.0万人と2カ月連続でプラス圏となった。トランプ大統領が連邦政府職員の整理を進めており、雇用の減少が警戒されていたが、連邦政府雇用は-0.9万人に留まり、地方政府の増加分が上回るという結果になった。連邦政府職員の解雇では、退職金を分割で受け取る形となっていることが多く、米雇用統計の定義上、受け取っている間は雇用者となるため、影響が抑えられている。民間部門のうち財部門は+1.1万人と3カ月連続の増加。製造業は-0.1万人と3カ月ぶりにマイナスも小幅なものに留まった。建設業の+1.1万人などにより、財部門はプラス圏を維持した。民間サービス部門は+15.6万人と3月の+16.1万人に続いて好調さを維持した。前回は+2.2万人と強かった小売業が-0.2万人と小幅なマイナスとなったが、運輸・倉庫部門が+2.9万人となっており、商業・運輸・倉庫部門全体では+3.2万人としっかりした数字となった。介護部門などを抱え基本的に雇用増が続く教育・医療サービス部門は+7.0万人と3月の+7.4万人に続いて好結果。同部門は2022年2月以降ずっとプラス圏、平均のプラス幅は23年が9.6万人、24年が8.3万人と全体を支える部門となっている。1月、2月とマイナス圏となったものの、3月は3月が+3.8万人と回復を見せた娯楽・接客業は+2.4万人とプラス圏を維持した。その内飲食部門が+1.7万人と3月の+3.1万人に続いてプラス圏維持となっている。ただ、同部門は単体で1235万人の雇用者を抱える雇用統計の中で雇用者が最も多い部門だけに、割合を考えるとそれほど強いという印象にはなっていない。飲食業や今回小幅マイナスとなった小売業などは、雇用の流動性が高く、景気に敏感な項目だけに、市場の警戒感を少し誘った。
 今回5月分の雇用統計の市場予想はNFPが+13.0万人と前回から伸びが鈍化する見込み。失業率は前回と同じ4.2%が見込まれている。雇用の伸びに関しては、前回よりは弱いものの、1月の+7.9万人、2月の+10.2万人よりは強く、予想前後であれば動きは落ち着いたものになりそう。ただ、企業・家計共に先行き不透明感を強める中で予想よりも雇用の伸びが弱かった場合には注意したい。ドル売りが一気に強まる可能性がある。ドル円は142円台に向けた動きが見込まれる。

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