2025年06月09日号
先週の為替相場
先週後半にかけて円安進む
先週(6月2日-6月6日)のドル円は、週前半はドル安が優勢、週後半にかけて円安が優勢となる展開が見られた。トランプ関税や米指標動向に神経質な反応を見せるなど、やや不安定さも見られた。
週明け2日はドル安が優勢となった。トランプ大統領が鉄鋼・アルミニウム関税を従来の25%から50%に引き上げ、4日に発動させると報じられたことや、台湾をめぐって米中対立再燃警戒が強まったことなどが、米国売りに繋がった。米株先物時間外取引で株安が進み、米債券利回りが上昇(債券価格が下落)する中、ドル円は先々週金曜日、30日の市場で二度下値を支えた1ドル=143円40銭台を割り込んで売りが強まった。ウォラーFRB理事がトランプ関税による米国の物価上昇の影響は一時的と発言したことなどもドル売りに繋がった。さらに同日の5月米ISM製造業景気指数が4月から改善見通しに反して悪化したこともドル売りとなり、3日東京朝にかけて142円38銭までドル安円高となった。ユーロドルが先週末の1ユーロ=1.1350ドル前後から1.1450ドル台までユーロ高ドル安となるなど、ドルはほぼ全面安となった。ドル主導の展開でユーロ円は1ユーロ=163円00銭を挟んでの推移が続いた。
ドル円は3日朝の安値を付けた後、反発。植田日銀総裁が将来の利下げ余地を確保するためだけに利上げを急ぐことはないと発言したことなどが円売りのきっかけとなった。ドル円は143円台を回復。ユーロ円が163円70銭台を付けるなどの動きが見られた。同日のOECD世界経済見通し(用語説明1)で2025年、2026年の経済成長見通し引き下げを受けてリスク警戒の円高となる場面も、円高一服後に反発。4月の米雇用動態調査(JOLTS)求人件数の好結果もあってドル高が強まり、ドル円は144円台を付けた。ユーロドルが1.1360ドル台までユーロ安ドル高となるなど、ドル全般に買いが出た。
ドル円はドル高圏もみ合いの中、4日午前に144円38銭を付けたが、144円台半ばからの売りを意識し、上値追いには慎重。その後5月米ADP雇用者数と5月ISM非製造業景気指数の弱さを受けてドル売りが一気に強まり、142円50銭台を付けている。特にISM非製造業景気指数は4月から強まる見込みに反して悪化しただけでなく、好悪判断の境となる50を割り込む弱さを見せたことで、ドル売りが広がった。
ユーロドルも米指標の弱さを受けて安値圏から少し戻してもみ合いとなったあと、5日のECB理事会を受けてユーロ高が強まった。市場予想通り0.25%の利下げとなったECB理事会後の会見でラガルド総裁は、金融政策のサイクルとしては終わりに近づいていると、利下げの打ち止めが近いことを示唆。市場は利下げ姿勢が継続する可能性を警戒していたためユーロ買いとなった。1.1495ドルまで上値を伸ばした後、少し調整が入ってもみ合い。ユーロ円も164円60銭台を付けた。
ドル円は6日の米雇用統計を受けて一段高となった。非農業部門雇用者数は前月比+13.9万人と、市場予想の+13.0万人を小幅に上回っただけであったが、ISM製造業・非製造業の弱さもあって、直前に市場予想よりもかなり弱く出るのではとの警戒感が見られたことや、同時に出た平均時給の伸びがしっかりしていたことなどがドル買いを誘った。ドル円は先週の高値を更新し、一時145円09銭まで上昇。ユーロドルが1.1372ドルを付けるなど、ドル全面高となった。
今週の見通し
米国の年内利下げ回数については、短期金利市場、金利先物市場共に2回がコンセンサスという状況は変わらず。ただ、1回以下を見込む動きが徐々に強まっており、ドル高につながっている。
直近の米指標はまちまち。米景気には底堅さが見られるものの、利下げを否定するほどの強さもなく、今後のデータ次第といったところ。今週の米消費者物価指数(CPI)(用語説明2)をはじめとする重要指標動向や、トランプ関税の動向などをにらみつつの展開が続くとみられる。
米雇用統計を無難にこなしたこともあり、ドル円は下値しっかり感が意識される。日本の早期利上げへの期待感がやや鈍化していることも、円売りにつながっている。積極的にドル買い円売りを進めるだけの勢いには欠けるが、下がるとドル買いが出る展開か。
143円から145円台にかけての水準を中心に、もう一段のドル高円安を試す機会をうかがう展開と見ている。
ユーロドルは先週のECB理事会での利下げの打ち止め示唆の影響がまだ残りそう。米、英に比べて利下げ継続期待が強かっただけに、ユーロ高が期待される。ただドルの堅調地合いもあり、1.1500ドルを超えて積極的にユーロ買いドル売りを進めるだけの材料に欠けるという印象。1.1350-1.1550を中心とした推移が見込まれる。
ユーロ円はドル円の堅調地合いもあってしっかりの動きを期待。こちらも上値を積極的に追うというよりも下がると買いが出る展開か。
用語の解説
OECD世界経済見通し | 経済協力開発機構(OECD)は6月3日に最新の世界経済見通しを発表した。2025年の経済成長率見通しは+2.9%と昨年の実績値3.3%から低下。3月に公表した前回の見通し+3.1%からも下方修正している。トランプ関税の影響を受けた貿易摩擦の激化が影響を与えると指摘している。米国の今年の経済成長見通しは+1.6%と昨年の+2.8%から大きく鈍化見込み。3月の+2.2%からも大きな下方修正となっている。 |
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米消費者物価指数(CPI) | 米労働省労働統計局(BLS)が都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を調査して指数化した指標。米国のインフレターゲットの対象は個人消費支出(PCE)価格指数であって、CPIではない。ただ、発表がPCEよりもかなり早い(5月のPCE価格指数の発表は6月27日)こと、構成要素や計算方法の違いで水準は異なるものの変化傾向は似通ることなどから、市場はCPIを注目する傾向がある。 |
今週の注目指標
米中貿易協議 6月9日 ☆☆☆ | 5日にトランプ米大統領と習中国国家主席が電話会談を行い、両国が5月に同意した互いの追加関税引き下げ方針などに基づいて代表による協議を行うことで一致。これを受けて中国外務省は何副首相が8日から13日にかけて英国を訪問し、米国との貿易協議に出席すると発表した。米国側も9日に英国で中国と協議を行うことを発表。米国側の出席者はベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリアUSTR代表としている。同協議に先駆けて中国商務省は焦点となっているレアアース輸出について、申請の一部を許可したと発表。前向きな動きが進んでいるとして期待が広がった。協議がどこまで進むかがポイントとなる。米中関係の改善期待が広がるようだとドル高が期待される。ドル円は146円に向けた動きが見込まれる。 |
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米消費者物価指数(CPI)(5月) 6月11日21:30 ☆☆☆ | 前回4月分は前年比+2.3%と市場予想及び3月分の+2.4%を下回る伸びとなった。変動の激しい食品とエネルギーを除くコア指数は前年比+2.8%と市場予想及び3月分の+2.8%と一致。前月比は+0.2%、コア前月比は+0.2%。ともに市場予想は+0.3%となっていた。前年比の内訳をみると、食料品は+2.8%と3月の+3.0%から鈍化。高騰を続けてきた卵価格が落ち着いてきた影響が出ていた。エネルギーはガソリン価格が-11.8%と大きく鈍化した影響で-3.7%と3月の-3.3%から鈍化している。食品とエネルギーを除いたコア部分をみると、財部門は+0.1%と3月の-0.1%から反発。衣料品が-0.7%と3月の+0.3%から鈍化したものの、新車が+0.3%、中古車が+1.5%となりともに3月から伸びが強まったことなどが財部門全体を支えた。サービス部門は+3.6%と3月の+3.7%から小幅鈍化。3月に-5.2%と大きく鈍化した航空運賃が-7.9%とさらに低下した。衣料品など、輸入依存度の高い部門の状況が警戒されていたが、対中関税本格発動前の駆け込み需要での在庫がまだ残っていることや、輸入業者や小売業者の一部が追加コストを価格転嫁せずに吸収していることなどから物価上昇が抑えられた。 今回は前年比+2.5%、コア前年比+2.9%と共に4月から伸びが強まる見込みとなっている。直近のベージュブック(米地区連銀経済報告)などでも指摘が見られたが、関税を受けたコスト上昇の価格転嫁が進みつつあり、全体を押し上げると警戒されている。予想を超え物価の上昇が見られるようだと、米追加利下げ期待の後退がもう一段進む形でドル高になると予想される。ドル円は146円に向けた動きが見込まれる。 |
米30年債入札 6月13日02:00 ☆☆☆ | 米財務省は現地時間(米国東部時間)10日に3年債、11日に10年債、12日に30年債の入札を予定している。特に注目度が高いのが12日の30年債(220億ドル)。5月に行われた日本の20年債入札の歴史的不調をはじめ、ここにきて世界的に超長期債入札が冴えない状況となっている。5月21日に行われた米20年債入札も応札倍率が低下するなど冴えない結果となり、その影響で30年債利回りも一時5.15%と約20年ぶりの高水準(債券価格の低下)を付けた。先週4.82%台まで低下するなど、一時の債券安が一服も、週明け4.98%台を付けるなどやや高め(債券価格の低下)水準での推移となっている。20年債以上に需要への警戒感が強い30年債入札が不調に終わり、利回りが急騰するようなことが起きると、米国売りの動きからドル売りが広がる可能性がある。ドル円は142円台への急落も考えられる。 |
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