2025年06月30日号
先週の為替相場
中東情勢受けたドル高が反転、ドル安優勢な展開
先週(6月23日-6月27日)のドル円は、中東情勢を受けた有事のドル買いに週明け23日に1ドル=148円03銭と、5月13日以来のドル高円安水準を付けた。その後、トランプ米大統領がイランとイスラエルの停戦合意に言及、その後24時間の期限を経て、両国間の攻撃が収まったことで市場は警戒感後退によるドル売りが広がり、26日に143円75銭を付けている。
週明け23日は21日夜に米軍がイランの核施設を空爆したとの報道を受けて有事のドル買いが強まった。米空軍が20機しか保有していないB2爆撃機7機による14発の超大型地中貫通爆弾(バンカーバスター)の攻撃や、米潜水艦からのトマホークミサイルでの攻撃が行われたとの報道に、中東情勢緊迫化への懸念が一気に強まり、有事のドル買いとなった。20日金曜日に一時1ユーロ=1.1540ドル台を付けていたユーロドルが1.1450台、同じく20日に1ポンド=1.3510ドル台まで一時上昇していたポンドドルが1.3370ドル台を付けるなど、ドルは全面高となっていた。中東に対する石油依存度が高い日本への警戒感もあり、ドル円でのドル買い円売りが最も目立ち、ユーロ円やポンド円などクロス円は上昇。ユーロ円は1ユーロ=169円71銭と昨年7月以来のユーロ高円安を付けた。
行き過ぎたドル高への警戒感もあり、ドル円は23日のうちに前週末終値を割り込む水準までドル売り円買いが出た。イランからカタールの米軍基地への報復攻撃が行われたが、迎撃に成功したことや、事前にイランからカタールに通告があったとの報道が出たことで、戦争の拡大が避けられるとの期待が広がった。ドルは全面的に売りとなっており、ユーロドルは1.1580台までユーロ高ドル安となった。ユーロ円はドル円が下げた分、高値から売りが出たが、対ドルでのユーロ買いもあって朝の水準からはかなりユーロ高円安の168円70銭台までの下げにとどまっている。
日本時間24日朝にはトランプ米大統領が自身のSNSでイランとイスラエルの停戦合意を発表し、ドル売りが強まった。さらに同日の日本の財務省による20年国債入札の応札倍率が3.11倍と、ここ1年の平均より低い低調なものとなったことを受けた円買いと、日本銀行の基調的なインフレ率を捕捉するための指標において刈込平均が前年比+2.5%まで上昇したことを受けた円買いが入った。さらに同日の6月コンファレンスボード消費者信頼感指数が5月から改善見込みに反して悪化したことや、下院金融サービス委員会行われたパウエル米FRB議長の議会証言で、議長は基本的に慎重な姿勢を強調も、「インフレ低下と雇用が低迷なら早期の利下げの可能性がある」と早期利下げの可能性に言及したことでドル売りが強まった。ドル円は144円50銭台を付けている。ユーロドルは高値警戒感から上値追いに少し慎重も1.1640ドル台までとユーロ高ドル安圏推移。ユーロ円はドル円の下げの勢いが勝り167円92銭を付けた。
25日に田村日銀審議委員(用語説明1)が福島県での経済懇談会において、午前中は「物価上振れリスクが高まれば不確実性高くても果断な対応あり得る」「物価目標の実現時期は前倒しの可能性十分にある」などのタカ派発言も、午後の記者会見で米国との関税交渉中の利上げ実施について消極的な姿勢を見せたことから円売りとなった。イランとイスラエルの停戦合意が24時間の期限後に実行されていることもリスク警戒後退の円売りとなり、145円90銭台を付けた。もっとも146円を付けきれずに同日中に反落。さらに日本時間で26日朝(現地時間25日)にトランプ大統領が次期FRB議長の早期指名を検討と報じられ、ドル売りが強まった。利下げを実施しないパウエル議長に対するトランプ大統領の不満が広がっているとの観測から、混乱を警戒したドル売りとなり、143円75銭を付けた。ユーロドルはドル安に支えられて1.1740ドル台までと、直近高値を更新。ユーロ円はドル円の下げとユーロドルの上昇に挟まれ169円00銭を中心とした推移。
週末にかけては少し落ち着いた動き。中東情勢などをにらみ、週末越しのポジション維持に慎重で、積極的な売り買いが控えられた。ドル円は144円台を中心とした推移。ユーロドルは高値圏もみ合いの中1.1753まで上値を伸ばした。2021年9月以来のユーロ高ドル安圏での推移。ユーロ円は対ドルでのユーロ買いを支えに23日の高値をわずかに更新する169円81銭を付けている。
今週の見通し
7月9日に迫った相互関税の延長期限を前に、トランプ米大統領は日本の自動車に対する25%関税に言及。日米の関税交渉は続いているが、先週7回目の訪米となった赤沢再生相はベッセント財務長官とアポイントが取れず帰国するなど協議が難航しており、警戒感が広がっている。
関税への警戒感もあってドル円、クロス円は円高警戒がやや強い。ドル円は先週初めに148円台までいったん上昇したことで、高値トライに一服感も出ており、やや下がりやすい地合いでもある。
もっとも今週は1日に米ISM製造業景気指数、米雇用動態調査(JOLTS)求人件数、3日に米雇用統計、米ISM非製造業景気指数など、重要な経済指標の発表予定が並んでいる。これらの結果次第で流れが変わる可能性があるだけに注意が必要か。
特に雇用統計は弱さが目立った場合、7月のFOMCでの利下げ期待につながる形でドル安円買いとなる可能性があるだけに注意が必要。142円00銭前後がサポートとなっており、同水準を割り込むとドル安円高が加速する可能性がある。
ユーロドルはドル安基調もあり上値トライの意識が強い、今週はECBフォーラム(用語説明2)が6月30日から7月2日にかけて行われ、ECB要人の発言予定が並んでいる。利下げ打ち止め感が広がるとユーロ高が強まる可能性。1.1850ドルがターゲットとなりそう。
ユーロ円はドル主導の展開でやややりにくさがあるが、目先は関税を警戒した円高が上値を抑える展開か。167円台に向けた動きが見込まれる。
用語の解説
田村日銀審議委員 | 田村直樹日銀審議委員。京都大学卒、三井住友フィナンシャルグループ専務などを務めたのち、令和4年7月から現職。6月の日銀会合で長期国債の買い入れについて、2026年4-6月期からそれまでの毎四半期4000億円程度ずつから2000億円程度へペースを緩める決定に際して、唯一反対票を投じ、長期金利の形成は市場と市場参加者にゆだねるべきとして従来通り4000億円程度の減額を主張するなど、日銀の審議委員の中でもっともタカ派なメンバーとして知られている。 |
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ECBフォーラム | ECBが主催し、毎年ポルトガルのシントラで開催している金融フォーラム。ECBを中心に各国の中銀関係者、学者、金融関係者などが参加している。今年は6月30日から7月2日まで開催される。テーマは「変化への適応:マクロ経済の転換と政策対応」。もっとも注目を集めている二日目午後のパネルディスカッションは、ラガルドECB総裁、パウエル米FRB議長、ベイリー英中銀総裁、植田日銀総裁、李韓国中銀総裁が出席する。 |
今週の注目指標
米ISM製造業景気指数(6月) 7月1日23:00 ☆☆☆ | 前回5月のISM製造業景気指数は4月の48.8から49.3に改善するとの市場予想に反して48.5と小幅ながら悪化した。新規受注や雇用は小幅ながら改善、納入が2022年以来の高さを示すなど、強い部分もあったが、在庫が4.1ポイントの悪化となった。今回は48.7と小幅改善見込みも、4カ月連続で好悪判断の境となる50には届かない見込み。予想を下回る鈍い数字になると、ドル売りが強まる可能性がある。内訳のうち注目度の高い新規受注及び雇用の数字にも注意。また同時に発表される米雇用動態調査(JOLTS)求人件数も弱く出た場合ドル売りが加速し、142円台トライの可能性がありそう。 |
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米雇用動態調査(JOLTS)求人件数(5月) 7月1日23:00 ☆☆☆ | ISM製造業景気指数と同時刻に米労働省による5月の雇用動態調査(JOLTS)の結果が発表される。注目度の高い求人件数は3月分が速報時点で719.2万件(その後720万件に上方修正)と2月及び市場予想の748万件を大きく下回り、昨年9月以来の低水準となった。前回4月分はさらに低下して710万件になるとの予想に反して、739.1万件と少し持ち直した。もっとも解雇数が178.6万件と3月から19.6万件の増加となり、解雇率も1.1%と3月の1.0%から悪化するなど、厳しい部分も見られた。 今回5月分の予想は730万件と前回並みの水準が見込まれている。予想からのブレがある程度ある指標だけに、予想から下方向に乖離した場合が警戒されている。同時に発表されるISM製造業景気指数とJOLTS求人件数がともに弱かった場合はドル売りが強まる可能性がる。ユーロドルは1.18台に向けた動きが見込まれる。 |
米雇用統計(6月) 7月3日21:30 ☆☆☆ | 3日木曜日に6月の米雇用統計が発表される。4日金曜日が独立記念日で米国の祝日となる関係で木曜日の発表となっている点に注意。 前回5月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+13.9万人と、市場予想の+12.6万人を上回る堅調な伸びとなった。もっとも4月が速報値の+17.7万人から+14.7万人に下方修正、3月が速報値の+22.8万人、改定値の+18.5万人から+12.0万人に下方修正となっており、3カ月平均でみるとやや厳しい数字との印象を与えた。失業率は4.2%で市場予想及び4月と同水準となったが、労働参加率が0.2%ポイント低下しており、こちらも強いとはいいがたい(労働参加率が低下すると、一般的に失業率は低下する)。 前回の内訳をみると、政府部門が-0.1万人と小幅低下。連邦政府が-2.2万人と低下しており、トランプ政権による連邦政府縮小の影響が意識された。民間部門は+14.0万人。その内、財部門は-0.5万人と小幅減となった。製造業が小幅とはいえ4カ月ぶりのマイナス圏となる-0.8万人となっている。サービス部門は+14.5万人。ヘルスケア部門が好調で、教育・医療部門が+8.7万人と、4月の+10.0万人には届かないものの高水準の伸びを維持。娯楽接客業も+4.8万人と高い伸びを示した。前回も好調となった飲食部門の+3.02万人に加え、アート・カジノ・アミューズメント部門が+1.66万人と好調さを示した。飲食も合わせ、比較的家計に余裕がある状況で雇用が伸びる傾向のある部門の好調さは好印象となっている。 今回の予想は非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+11.3万人と5月から伸びが鈍化、失業率が4.3%へ悪化となっている。6月のFOMCで示された参加メンバーによる経済見通し(SEP)では2025年末時点での失業率を4.5%と予想。3月時点での4.4%見通しから悪化した。雇用部門の鈍化が7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での早期利下げ期待につながるようだと、ドル売りが強まる可能性がある。ドル円は101円台に向けた動きが見込まれる。 |
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