2025年08月04日号
先週の為替相場
ドル高円安の流れが米雇用統計で一変
先週(7月28日-8月1日)のドル円は、米雇用統計前までドル高円安が優勢となったが、米雇用統計を受けてドル高圏から一気にドル売りが出た。
先々週24日東京午前に付けた1ドル=145円86銭を底値にドル高円安の流れがゆっくりと継続。先週の週明け28日は147円70銭台でスタート後、147円50銭前後がしっかりとなって148円50銭超えを付けた。もっとも29日、30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)、30日、31日の日銀金融政策決定会合といった日米の金融政策会合や、30日の米第2四半期GDP速報値、1日の米雇用統計といった重要指標を前に、週前半は少し慎重な姿勢が見られ、動きはゆっくりとしたものとなった。
29日の米コンファレンスボード消費者信頼感指数が予想を上回る改善を見せたことなどを受けて148円81銭まで上値を伸ばしたが、30日朝に報じられたロシア・カムチャッカ半島沖でのM8.8規模の地震と、それに伴う津波への警戒感から、リスク回避の円買いが強まり、いったん147円81銭までドル安円高となった。
津波の被害が目立たなかったことなどを好感し、安値から少し戻すと、21時15分の7月米ADP雇用者数、21時半の米第2四半期GDP速報値がともに好結果となったことでドル買いが強まり、米FOMC前に一時149円10銭台を付けた。
米FOMCは市場予想通り政策金利を据え置いた。発表直後は148円50銭台を付ける場面も、FOMC後のパウエル議長会見で9月利下げに慎重な姿勢が示されたことでドル高となり、149円50銭台まで上昇した。その後日銀会合などを前にポジション整理の動きから少し売りが出ると、市場予想通り据え置きとなった日銀金融政策決定会合の展望レポートで2025年度物価見通しが大きく引き上げられたことなどを材料に円買いとなり、148円59銭を付けた。もっともその後の植田日銀総裁の会見で基調的な物価が2%にまだ届いていないことを改めて示したほか、今回の物価見通し引き上げがコメなど食料品の値上げによるもので、今後影響が減退していくことを示すなど、早期の追加利上げに慎重な姿勢が示されたことで円売りとなり、心理的な節目でもあった150円台を付ける動きとなった。
150円台に乗せてもドル買い円売りの勢いが継続。1日の東京午前には150円92銭まで上値を伸ばす展開となった。151円の大台を付けきれなかったこともあり、米雇用統計を前に少し調整が入るも、ドル高基調が継続で150円50銭台というドル高円安圏で米雇用統計の発表を迎えた。
米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回ったことに加え、前月、前々月の数字が合わせて26万人近く下方修正される厳しい結果となった。この結果を受けてドルが急落。ドル円は147円50銭台を付けた。トランプ米大統領が政治的に操作されたと主張して、労働省労働統計局(用語説明1)エリカ・マッケンターファー局長の解任を命じたと報じられたこともドル売りに寄与した。
ユーロドルもドル円同様に米雇用統計まではドル高が優勢となった。27日に米国とEUが関税交渉で大筋合意。週明けいったんユーロ高で始まったが、すぐに反転。中道派として知られるフランスのバイル首相(用語説明2)が「暗黒の日」であり、屈服に等しいと関税合意を強く批判、独産業連盟などからも批判が見られる中で、警戒感からのユーロ売りドル買いとなった。週明けの1ユーロ=1.1779ドルから30日に1.1400ドル近くまで大きく下げると、米雇用統計前まで安値圏もみ合いとなり、発表前に1.1392ドルまでユーロ売りとなった。発表後に1.1597ドルまで大きくユーロ買いが出ている。
ユーロ円は週半ばまで対ドルでのユーロ売りに押されて28日の1ユーロ=173円97銭から169円73銭まで売りが出た。その後はドル円の上昇を受けて172円台を付けたが、米雇用統計後の下げに170円台前半を付けている。
今週の見通し
米雇用統計を受けて、米FRBの金融政策に対する市場の見通しが大きく変化した。先週の米FOMC後のパウエル議長会見で追加利下げに慎重な姿勢が見られたことや、米第2四半期GDP速報値の好結果などを受けて、米雇用統計直前の米短期金利市場における9月FOMCの見通しは約60%が据え置き、約40%が0.25%利下げと据え置き見通しが過半数を超えていた。年内の利下げ見通しも約60%が1回以下、2回以上が約40%と1回以下との見通しが大勢となっていた。米雇用統計を受けて9月の利下げ期待は一時96.6%まで上昇。その後少し落ち着くも約84%が利下げを見込んでいる。年内の利下げ見通しも2回をほぼ織り込む動きとなっており、3回以上が35%となっている。
こうした米金融政策に関する見方の大きな変化は、ドルに対する中期的な売り圧力となる。ドル円はこの後も当面上値の重い展開が見込まれる。
ただ、今週は目立った米指標発表予定がない。来週は米消費者物価指数などの予定があるものの、日本はお盆シーズン、海外もサマーバケーションシーズンとなっており、取引量がかなり減る。いわゆる夏枯れといわれる時期に入るだけに動きは抑えられる可能性がある。ドル円は上値が重い展開が続くと見込まれるが、下押しも限定的となる可能性がある。
ユーロドルは一時の下げが一服。ただ、米国とEUとの関税合意を受けて、EU域内での政治的な不協和音が大きい。政治的な混乱は通貨安要因となるだけに、こちらもドル安が基本も、ユーロ買いに慎重で上値が限られる可能性がある。
ユーロ円などクロス円はドル主導の展開でかなり不安定な動きが見込まれる。基本的にはドル円の動きに沿った展開が見込まれるが、一時的な上下に注意したい。
用語の解説
| 労働省労働統計局 | 米労働省において労働統計を担当する機関。2026年の予算は約6.5億ドル(労働省全体の予算は約86億ドル)、1851名の職員が所属する。労働市場、労働条件、労働生産性、物価変動などに関する経済指標の計測、発表を担当しており、主な担当指標としては、雇用統計、雇用動態調査(JOLTS)、失業保険申請件数、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)などがある。 |
|---|---|
| バイル仏首相 | フランソワ・バイルはフランスの政治家。ボルドー・モンテーニュ大学卒、1986年にフランス国民議会(下院に相当)議員となり、欧州議会議員を挟み2012年まで国民議会議員。その間、1993年から1997年まで教育相、1998年に中道右派UDFの議長に就任。2002年、2007年、2012年と3回連続で大統領選に出馬。2007年の大統領選後、中道右派の新党「民主運動」を設立し、現在まで党首を務めている。2014年にフランス南部ポーの市長に就任。現在も兼任している。2024年の解散総選挙後にマクロン大統領が任命したバルニエ首相が3カ月で退陣したことを受けて同年12月に首相に就任した。 |
今週の注目指標
| 英中銀金融政策会合(MPC) 8月7日20:00 ☆☆☆ | 7日に英中銀金融政策会合(MPC)の結果が公表される。今回は会合結果、議事要旨に加え、四半期に一度の金融政策報告が公表され、総裁が会見を行うスーパーサーズデーにあたっている。 英中銀は世界的な物価上昇を受けて政策金利を5.25%まで引き上げた後、昨年8月1日に利下げを開始。据え置きを挟んで11月、据え置きを挟んで2月、据え置きを挟んで5月と、その後は2会合毎の利下げを実施してきた。英中銀は年8回の会合のうち、2、5、8、11月の会合がスーパーサーズデーにあたっており、これまで当該会合での利下げを実施するかたちとなっている。過去スーパーサーズデー以外の会合で政策金利を変更したこともあるが、総裁会見や金融政策報告で変更に至った状況を説明できるスーパーサーズデーのほうが変更がやりやすいと市場も認識している。 前回6月の据え置きの決定においては、9人中3人が利下げを主張した。うち2名は0.25%利下げとなった5月の会合で0.5%の大幅利下げを主張したディングラ委員とテイラー委員という超ハト派のメンバーであるが、それに加えて穏健なハト派として知られるラムズデン副総裁が利下げに回ったことで、英中銀の利下げに向けた姿勢が注目された。そのため、今回の会合での利下げ自体はほぼ確定的と見られている(利下げを実施した5月の会合のように0.25%利下げ5名、0.5%利下げ2名、据え置き2名に票が分かれる可能性が指摘されている)。市場の注目は金融政策報告などで示される今後の姿勢となる。 今回大方の予想通り0.25%の利下げを実施した場合、昨年の利下げ開始からトータルで1.25%の利下げとなる。金利水準的には4.00%と米国の4.25-4.50%より低いものの、経済的な結びつきの強いECBの2.00%に比べるとかなり高い水準に留まっており、英産業連盟(CBI)などからはさらなる利下げを期待する動きが見られる。ただ、英国のインフレターゲットの対象である消費者物価指数前年比は最新6月分が3.6%と、ターゲットを大きく超え、許容上限とされる3.0%も3カ月連続で上回っている状況。中銀が物価高警戒を強く示すと、追加利下げ期待が後退しポンド高となる可能性がある。ポンドドルは1ポンド=1.3400ドルに向けた動きが期待される。一方で金融政策報告などで経済成長見通しに弱さが見られ、景気刺激への期待が強まると、追加利下げの活発化期待からのポンド売りとなる可能性もある。金融政策報告の内容次第の面が大きいだけに注意が必要。 |
|---|---|
| 日本銀行主な意見 8月8日08:50 ☆☆☆ | 7月30日、31日に開催された日本銀行金融政策決定会合の主な意見が8日に公表される。日銀会合は議事要旨の公表が遅く、7月開催の議事要旨は9月25日の公表となる。その為、会合での参加者の意見を確認する機会として、会合の6営業日後を目途に公表される主な意見が注目される。 今回の会合で公表された展望レポートで物価見通しが大きく引き上げたが、会合後の植田日銀総裁の会見では追加利上げにかなり慎重な姿勢が示された。こうした慎重姿勢が会合参加者全体で一致したものなのか、利上げ志向を強めているメンバーがいるのかなどが注目される。 利上げへの姿勢が意見として示されると、年内追加利上げへの期待が広がり円買いとなる可能性がある。ドル円は145円台に向けた動きが期待される。 |
| 自民党両院議員総会 8月8日 ☆☆☆ | 7月の参議院選挙で自民党が大敗したことを受けて、8月8日に自民党の両院議員総会が開催される。7月28日に開催された自民党両院議員懇談会では首相の退陣を求める意見が噴出したと報じられた。議員総会でも退陣に向けた意見が出てくると見込まれている。ただ、自民党の党則では総会で任期途中の総裁をやめさせることが出来る規定はない。石破首相が続投を主張する中、総会の動きが注目されている。 石破首相が辞任した場合、次期有力候補の一人とされる高市氏が積極財政を主張しており、財政赤字拡大懸念が見られること、そもそも首相の退陣などの政治的な混乱は当該通貨の売り材料として意識されていることなどから、辞任が決定した場合円売りとなる可能性がある。ドル円は149円に向けた動きが見込まれる。 |
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