2025年08月12日号
先週の為替相場
ドル安警戒続くも値幅は限定的
先週(8月4日-8月8日)のドル円は、1日の米雇用統計を受けて一気に進んだドル安の流れを意識する展開となった。米雇用統計前の1ドル=150円台後半から147円台へ下げて先々週の取引を終えると、週明けもう一段のドル安となり、5日東京朝に146円62銭を付けた。その後は行き過ぎた動きにも警戒感が出て下げ止まったものの、148円前後のドル売りが上値を抑える形となり、7日、8日にも146円台を付ける場面が見られるなど、ドル安警戒が継続した。
4日のドル円は1日のNY市場終値147円40銭前後でスタートした後、いったんドル売りが強まり147円00銭台を付けた。もっとも大台を維持したこともあって、その後反発。一時148円台を付けるなど、やや荒っぽい展開で始まった。行き過ぎた動きへの警戒感が広がった。もっとも米雇用統計を受けた米利下げ期待の拡大が重石となり、148円台を維持できず再び売りが強まると、5日東京朝に146円62銭と7月24日以来のドル安圏を付けた。デイリー・サンフランシスコ連銀総裁が利下げに言及したことなどもドル安に寄与した。
146円台を維持できず反発を見せると、5日NY市場朝に147円80銭台まで上昇。米ISM非製造業景気指数の弱い結果にいったん147円30銭台までドル安となったが、すぐに反発するなど、積極的なドル売りにも慎重姿勢が見られた。
6日に入ると、自民党の河野議員が外国特派員協会での会見において、円高対策としての利上げの必要性に言及したことで円買いとなる場面が見られたが、すぐに反発を見せるなど、ドル安円高トライにも慎重。もっとも148円00銭前後の重さも意識されており、上下ともに動きにくい展開となった。
6日にクック米連邦準備制度理事会(FRB)理事が今回の米雇用統計の下方修正について、経済の転換点の兆しと発言したことなどもドル売りとなった。7日もドル安が継続で146円89銭を付けた。
その後いったんドル買いが入ったが、トランプ大統領が8月8日付で退任するクーグラーFRB理事の後任として大統領経済諮問委員会(CEA)ミラン委員長(用語説明1)を、クーグラー理事の残りの任期となる来年1月までの暫定理事とする人事案を示したことでドル売りとなった。ミラン氏はその立場から任期中のFOMCで利下げを主張してくるとみられている。
ユーロドルは1日の米雇用統計を受けて1ユーロ=1.1390ドル台から1.1590ドル台まで上昇。週明けは1.15ドル台での推移を週の半ばまで続けた後、6日の海外市場で1.1600ドルを超えると、ストップロス注文などを巻き込んだユーロ買いとなり、7日に1.1699ドルを付けた。1.1700ドルを付けきれずにやや調整が入ったが、1.16台を維持して推移し、8日にも1.1670台を付けるなど堅調地合いを維持している。
ユーロ円はドル主導の中でやや不安定な動き。先週前半はドル円の下げもあってユーロ安円高が優勢となり、5日に169円82銭を付けた。その後は対ドルでのユーロ買いなどを支えとして上昇。8日に172円34銭を付けている。
ポンドドルは1日の米雇用統計を受けて1ポンド=1.3140ドル台から1.3310ドル台へ上昇。その後1.3300ドルを挟んでの推移を経て、ユーロドルの上昇などに連れて7日のイングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)前に1.3370ドル台まで上昇。MPCは市場予想通り0.25%の利下げを決定も、投票は5対4と利下げ5名、据え置き4名の僅差となった。市場は0.5%利下げ2名、0.25%利下げ5名、据え置き2名を見込んでいただけに、利下げに慎重な姿勢という印象を与え、ポンド高となった。8日に入っても流れが続き、1.3459ドルを付けている。
ポンド円はドル円の下げを受けて4日と5日に195円04銭を付けたが、2度とも195円00銭手前のポンド買いが下値を支えると、その後上昇。英MPC後のポンド高もあり、8日に198円83銭を付けた。
今週の見通し
今週は日本がお盆、海外勢もサマーバケーションシーズンに入っており、取引がやや低調になると見込まれる。ただ、米消費者物価指数、米小売売上高などの材料があり、結果によっては動きが出る可能性がある。
無難にこなした場合、主要通貨はレンジ取引が見込まれる。1日の米雇用統計のインパクトが大きく、これまでの利下げに慎重な見方が吹き飛ばされる形となっていることで、流れ的にはドル安も、値幅は限定的と見られる。
ドル円は今月21日-23日に予定されているジャクソンホール会議(用語説明2)まで146円台半ばから148円台前半を中心としたレンジ取引が続く可能性が高いとみている。
ユーロドルはドル安の流れを受けて下がると買いが出る展開。1.1500-1.1600ドルがしっかりとなりそう。ただ、1.1700-1.1800ドルの上値抵抗水準を超えて上昇するだけの勢いが出るかは微妙とみている。
ユーロ円はドル主導の展開でやや不安定な動きが見込まれる。171円から172円台にかけてのレンジ取引が中心となりそう。
ポンドは対ドル、対円ともにややしっかりか。英中銀会合で据え置きが4名も出たインパクトが大きい。9月の会合での据え置きを経て、11月の会合での追加利下げをほぼ織り込んでいたところから、11月の見通しが据え置きと利下げで拮抗。年内という期間で見ても75%程度の利下げ見通しという状況となっており、ポンド買いが入りやすくなっている。
用語の解説
| ミラン委員長 | スティーブン・ミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長。ハーバード大学で経済学博士号を取得後、投資会社などに勤務、ハドソンベイキャピタルのシニアストラテジストであった2024年11月にトランプ関税の理論的な支柱となる「グローバル貿易システム再構築のためのユーザー指針」(A User's Guide to Restructuring the Global Trading System)という論文を発表した。 |
|---|---|
| ジャクソンホール会議 | 米ワイオミング州ジャクソンホールで毎年8月後半に開催されるカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム。世界各国の中銀関係者や経済学者が参加する。今年は8月21日から23日にかけて実施される。今回のテーマは「移行期の労働市場:人口動態、生産性、マクロ経済政策」。昨年の同会議での講演でパウエルFRB議長は「金融政策を調整するべき時が来た」と発言。同年9月から始まった米FRBの利下げを示唆した。 |
今週の注目指標
| 豪中銀政策金利 8月12日13:30 ☆☆☆ | オーストラリア準備銀行(RBA/中央銀行)は7月8日の金融政策会合で、市場予想に反して政策金利であるOCRを3.85%に据え置くことを決定した。もっとも9名中3名が0.25%利下げを主張するなど、意見は分かれていた。前回の会合後となる7月17日に発表された6月の豪雇用統計は雇用者数の伸びが予想を大きく下回り、失業率が予想外に悪化と、厳しい結果になった。雇用の伸び鈍化の要因は大きく減少した正規雇用者で、非正規の増加で何とかプラス圏と、内訳も厳しいものがあった。7月30日に発表された6月の月次消費者物価指数と、第2四半期消費者物価指数はともに市場予想を下回る伸びとなった。これらの状況から今回の会合では3.60%への利下げ見通しが広がっている。利下げを実施した場合、2月、5月に続いて、今年3回目となる。 市場の注目は声明などでの今後の姿勢。市場は今回の利下げに加え、9月30日の会合での連続利下げを35%程度織り込んでいる。声明で緩和姿勢が強調され、9月の連続利下げ期待が過半数を超えるような状況になると豪ドル売りが進む可能性がある。豪ドルドルは0.6300をターゲットとして売りが出る可能性がある。 |
|---|---|
| 米消費者物価指数(CPI)(7月) 8月12日21:30 ☆☆☆ | 1日に発表された7月の米雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回ったことに加え、5月、6月の数字が合わせて26万人近く下方修正される厳しいものとなった。雇用の堅調さは米FOMCでの追加利下げ見送りの根拠となっていただけに、雇用が実は弱かったとの結果はかなりのインパクトがあった。発表前まで短期金利先物市場での9月のFOMCの見通しは据え置きが60%を超えていたが、この弱い雇用統計を受けて利下げ期待が一気に90%を超える展開となった。年内の金融政策見通しも、1回か2回の利下げで意見がほぼ五分に分かれるという状況から、年内少なくとも2回を織り込み、2回と3回で見通しが拮抗という状況になっている。 米国の利下げ期待が一気に広がる中、雇用と並んで金融政策決定の重要なファクターである物価に対しても注目が集まっている。トランプ大統領からの厳しい利下げ圧力を受けても、パウエル議長が据え置きを続けてきた理由として、雇用の堅調さと、関税が物価に与える影響の不透明性がある。雇用の堅調さに関するデータが崩れる中、物価上昇圧力が見通しほど強まらないようだと、利下げに向けた動きが広がる可能性がある。 市場予想は前年比+2.8%と6月の2.7%から小幅ながら伸びが加速。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年比+3.0%とこちらも6月の+2.8%から伸びが強まる見込みとなっている。 6月から7月にかけて米国ではガソリン価格が低下(EIA全米全種平均で1ガロン=3.276ドルから3.250ドル)した。また昨年6月から7月にかけては逆に上昇していたため、2024年の数字と比較する前年比ではマイナスが大きくなると見込まれている。このガソリンに代表されるエネルギー価格の低下見込みが、コアよりも総合のほうが前回からの伸びが小さいという予想につながっている。もっとも注目度がより高いコアCPIに関しては3%の大台回復が見込まれるなど伸びが強まる見込みとなっている。 前回6月のCPIをみると、コンピュータ、玩具、衣料、家電といった項目で前月比の伸びが目立っており、関税の影響が出てきているという見方が強い。今回も同様の傾向が示されるとみられ、前年比でもしっかりした伸びが見込まれる。ある程度の影響は織り込み済みと見られるが、予想を超えて伸びが強まるようだと、米雇用統計を受けて強まった年内3回の利下げは厳しいという見通しに繋がり、ドル買いとなる可能性がある。ドル円は148円台トライが見込まれる。 |
| 米小売売上高(7月) 8月15日21:30 ☆☆☆ | 非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回ったことに加え、5月分、6月分が大きな下方修正となり、米雇用市場の厳しい状況が示されたことで、雇用との結びつきが強い米個人消費動向にも注目が集まっている。 前回6月分は前月比+0.6%と市場予想の+0.1%を大きく超える伸びとなった。5月分は-0.9%、4月は-0.1%となっており、3カ月ぶりの前月比プラス圏。内訳をみると自動車及び同部品が+1.2%となり全体を0.23%押し上げた。もっとも自動車を除くコアも前月比+0.5%と市場予想の+0.3%を超える伸びとなっている。自動車に続いてプラスの寄与度が高かったのが小売売上高の中で唯一のサービス項目であるフードサービスで+0.6%(寄与度0.08)。人件費や原材料費上昇の影響が出ていると見られた。関税が関連する項目は衣料が強かったものの、家具・家電などは軟調。小売売上高はインフレ調整をかけないため、価格上昇でも必需品としてある程度の売り上げが出る項目がプラスに、販売自体が低迷した項目がマイナスになっていた可能性がある。 こうした状況を考えると、前回の数字は強めではあるものの、厳しさも見られた。今回雇用が弱く出たことで、変化が気になるところとなっている。市場予想は前月比+0.5%、自動車を除く前月比+0.3%とまずまず。前月比である以上、前回が強ければその反動が出ることを考えると、それなりに堅調という印象もある。予想を下回った場合はドル売りが出る可能性が高い。 |
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