2025年08月25日号
先週の為替相場
パウエル議長発言を受けて一気にドル安
先週(8月18日-8月22日)のドル円は、21日の米購買担当者景気指数(PMI)の強さもあって、一時ドル高が優勢となったが、先週最大の注目材料であった22日のパウエル米FRB議長によるジャクソンホール会議での講演において、利下げ再開の可能性が示唆されたことで、一気にドル安となった。
21日から23日にかけて開催されたカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」。最大の注目プログラムであるパウエル議長による講演が現地時間22日午前8時(日本時間同23時)に行われるとあって、週前半は様子見ムードが広がった。
14日に発表された米生産者物価指数(PPI)が予想を大きく超える伸びとなり、1日の米雇用統計、12日の米消費者物価指数(CPI)を受けて広がった米国の積極的な利下げへの期待が少し後退したこともあり、ドル高がやや優勢。18日に1ドル=147円99銭を付ける場面が見られた。もっとも148円超えのドル買いに慎重姿勢が見られると、その後はやや上値が重くなった。
米IT/ハイテク株の売りなどを受けたリスク警戒の円買いもあって、一時146円台を付けるも、ドル売りも続かず。21日に発表された8月の米製造業購買担当者景気指数(PMI)(用語説明1)は7月の49.8とほぼ同水準が見込まれていたところに対し、53.3と一気の上昇。好悪判断の境となる50を大きく上回る好結果にドル高が強まった。翌22日にかけてもドル高傾向が続き、パウエル議長講演前に一時148円78銭を付けている。
ユーロドルなどその他通貨でもパウエル議長講演まではドル高が優勢となった。米PPI後の利下げ期待一服などがドル買いに繋がった。18日に1ユーロ=1.1710ドル台を付けていたユーロドルは、米PMIを受けたドル高もあり、1.1583ドルを付けた。
注目された議長講演では、物価の上振れリスクへの警戒も見られたが、雇用の下振れリスクへの警戒もあり、政策金利を調整する必要がある可能性を示した。利下げに向けたメッセージととらえた市場は、一気にドル売りで反応。ドル円は146円58銭までと講演前から約2円のドル安円高となった。
ユーロ円などで円高となった分、ドル円に比べてユーロドルやポンドドルの反応が抑えられたが、それでもユーロドルが1.1740ドル台まで上昇。22日ロンドン市場朝に1ポンド=1.3390ドル前後を付けていたポンドドルは1.3540ドル台まで上昇している。
ドル主導で不安定な動きとなったクロス円は、パウエル議長講演後いったん円買いも続かず。ユーロ円は1ユーロ=172円60銭台から171円80円台を付けた後、172円50銭台まで反発している。
今週の見通し
今週は先週ほど注目を集める材料がなく、パウエル議長の講演を受けて強まった米利下げ期待に対する市場の反応を確認しながらの展開が見込まれる。
米PPIや米製造業PMIを受けて後退した米利下げ期待であるが、パウエル議長の講演を受けて9月の利下げ実施は、よほどのことがない限り行われるという見方が強い。もっとも、米CPI後などに見られた0.5%の大幅利下げ期待や年3回の利下げ実施見通しは後退しており、ドル売りの勢いは限定的なものに留まると期待される。
行き過ぎた動きへの警戒感もあり、ドル円は議長講演後の安値から少し戻した147円台を中心とした推移が見込まれる。
金曜日の米個人消費支出(PCE)価格指数次第では、ドル買いが強まる可能性。PPIのうちPCE価格指数の算出に利用されるポートフォリオ管理費や航空旅客サービス関連の数字が強く出たことなどが警戒感につながる。もっともPPIに比べて伸びが抑えれていたCPI同様に、PCE価格指数も伸びが抑えられている可能性が十分にある。CPIと違い(用語説明2)代替品の消費などを加味した統計であるPCEは一部の商品の価格変化への反応が小さく出る可能性があるだけに要注意。
ドル円は147円台を中心とした推移から、PCE価格指数の上振れ期待などで148円台を回復するようだと、ドル安一服となり高値更新を期待。利下げ期待の高まりから146円台半ばを付けるようだと、145円台前半程度までの下げ加速を期待と、レンジをどちらか抜けた方へ動きが加速する可能性がありそう。
ユーロドルは基本的にしっかりも、上値トライには少し慎重。下がると買いが出る流れを期待。
ユーロ円はドル主導で不安定な動きか。171円台から173円にかけてのレンジを中心に方向性を探る展開と見ている。
用語の解説
| 米製造業PMI | 米S&Pグローバル社が米製造業の購買担当者に対するアンケート調査を行い、その結果を基にした米製造業の景況感を示す指標。生産・新規受注・雇用・価格などの項目についてアンケートを実施する。50が基準となり、50を超えると好況、50を下回ると不況と判断される。速報性が高いことから、市場で注目されている。 |
|---|---|
| CPIとPCEの違い | 米CPIとPCEはともに一般消費者が購入する財・サービスの価格変化を調査した指標。主な違いとしてはCPIが都市部のみのデータであることに対して、PCEは米国全体が対象となっていること、医療費についてCPIが自己負担分のみであるのに対して、PCEは保険などで企業が政府が負担した分も合わせた数字であること、調査対象のウェイト(指標全体に占める割合)について、CPIは基準年(現在は2021年)のウェイトで固定されているのに対して、PCEは基準年のウェイトと直近のウェイトを幾何平均したものとなっていることなどがある。一部製品の価格上昇で、より安い代替品に消費が移った場合、CPIはその変化を反映できないが、PCEはある程度反映するため、PCEの方がCPIよりも低くなることが多い。 |
今週の注目指標
| ウォラーFRB理事講演 8月29日07:00 ☆☆ | ウォラーFRB理事が28日(日本時間29日朝)にマイアミのエコノミッククラブで金融政策と物価についての講演を行う。次期FRB議長候補の一人として名前の挙がる同氏。前回のFOMCでは同じく次期FRB議長候補であるボウマンFRB副議長と共に利下げに投票している。9月の利下げ自体はほぼ織り込まれているが、より積極的な利下げに向けた姿勢が示されるようだと、ドル売りとなる可能性がある。大幅利下げの可能性などを示唆してくるようだと、ドル円は146円00銭を目指す動きとなる可能性がある。 |
|---|---|
| 東京消費者物価指数(8月) 8月29日08:30 ☆☆ | 22日に発表された日本の7月全国消費者物価指数(CPI)は、インフレターゲットの対象である生鮮除くコア前年比が+3.1%と6月の+3.3%から鈍化も市場予想の+3.0%を上回る強さを見せた。生鮮とエネルギーを除いたコアコアの前年比は+3.4%と6月及び市場予想と一致した。やや強めの伸びに海外勢を中心に日本銀行による利上げへの期待が広がってきている。そうした中、全国消費者物価指数の先行指標となる8月の東京都区部消費者物価指数(東京CPI)が発表される。市場予想は生鮮除くコアが+2.5%と7月の+2.9%から鈍化。コアコアは+3.0%、総合は+2.6%とこれらもともに7月の+3.1%、+2.9%から鈍化見込み。予想通りの鈍化を見せなかった場合は、海外勢からの利上げ期待がもう一段強まる。ジャクソンホール会議で植田日銀総裁が賃金上昇の継続見込みに言及しており、利上げ期待が高まりやすい地合いになっているだけに要注意。利上げ期待が強まるとドル円は145円台に向けた動きとなる可能性がある。 |
| 米個人消費支出(PCE)価格指数(7月) 8月29日21:30 ☆☆☆ | 注目された昨日22日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長によるジャクソンホール会議での講演は、今後の利下げを示唆する内容となり、米利下げ期待が強まっている。9月の利下げ自体はほぼ織り込まれているが、年内の利下げについては2回と3回で見方が分かれている状況。その為今後の利下げ見通しに影響を与える物価統計に注目が集まる中、29日に米個人消費支出(PCE)価格指数が発表される。 同じく消費者ベースの物価統計である米消費者物価指数(CPI)の方が発表が早く、水準は少し違うものの、変化傾向は似ているため、市場は米CPIの方をより注目する傾向がある。ただ、米国のインフレターゲットの対象はこちらのPCE価格指数。金融政策に与える影響という意味ではかなり重要な指標となっている。 12日発表の7月米CPIはエネルギーの鈍化もあって総合の前年比が予想を下回るも、コアは予想を超える伸びとなった。前月比は総合、コア共に予想通りも、コアの+0.3%は1月以来の高水準と、強さも見られた。ただ、コア財の伸びは抑えられており、コアサービスの伸びが全体を支えたこともあり、関税の影響は限定的との印象を与えた。その後14日発表の米PPIが総合、コア共に大きく伸びて関税の影響がしっかりと出ていたことで、利下げ期待がやや後退した。PPIのうちPCE価格指数の算出に用いられる項目は、入院費、介護ケアなどのヘルスケア関連が弱めに出たものの、航空旅客サービスとポートフォリオ管理費が急騰しており、総じてやや強めという印象を与えた。 こうした状況を受けた今回のPCI価格指数は前年比が+2.6%と6月と同水準、コア前年比が+2.9%と6月の+2.8%からやや伸びるという見込みになっている。前月比は+0.2%と6月の+0.3%から伸びが鈍化、コア前月比が+0.3%と6月と同水準という見込みになっている。上記のようにPPIのうち、PCE価格指数の算出に利用される項目の一部がかなり強かったこともあり、予想を超える伸びを示してくる可能性がある。その場合、利下げ期待が一服しドル高となる可能性がある。ドル円は149円台に向けた動きが見込まれる。 |
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