2025年09月01日号

(2025年08月25日~2025年08月29日)

先週の為替相場

方向感なく、やや様子見ムード

 先週(8月25日-8月29日)のドル円は、はっきりとした方向性が見られず、先々週の上下レンジ内での推移に終始した。

 週明け25日のドル円は22日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長によるジャクソンホール会議での講演で利下げの可能性が示されたことを受けたドル売り進行に対する反発が目立った。22日に1ドル=148円台後半から146円58銭まで一時下げたドル円。その後少し戻して146円90銭台で先々週の取引を終えると、週明け25日も同水準でスタート。同水準でもみ合った後、行き過ぎたドル安への警戒感もあって147円94銭までドル高となった。パウエル講演で急騰したユーロドルが1ユーロ=1.1730ドル台を付ける動きから1.1602ドルまでユーロ安ドル高となるなど、ドルは全面高。ユーロ円が1ユーロ=172円60銭台から171円58銭までユーロ安ドル高になるなど、対欧州通貨でのドル買いがより優勢となっていた。

 26日朝(米東部時間25日夜)にトランプ米大統領がクックFRB理事の解任を表明した。中央銀行の独立性への信頼の後退、クック氏に代わる理事によりハト派姿勢の強い人物が指名されるとの思惑などからドル売りとなり、146円99銭を付けた。トランプ大統領の半導体輸出規制や追加関税の可能性への言及も円高を後押しした。しかし、クック理事が解任を拒否する姿勢を示したことから、ドルは買い戻され、ドル円は下げ分を解消。さらに、日銀が発表した7月の基調的インフレ指標が前年比+2.0%と前月の+2.3%から鈍化し、追加利上げ期待が後退したことが円売りとなり、解任報道前の水準に戻した。クック理事は住宅ローンの不正受給疑惑で解任騒動となっているが、理事は辞任拒否とトランプ大統領を提訴する姿勢を示している。同問題を受けた混乱や、フランスで内閣信任投票実施の報道からのユーロ円の売りなどが重石となり、ドル円は上値がやや重くなった。

 その後目立った材料がない中でいったんドル高となった。ドル円は27日海外市場にかけて148円台を一時回復。先週の高値である148円18銭を付けた。上昇一服後は反落となった。148円台の重さが確認されたことで、ポジション整理のドル売りが出た。28日に利上げに慎重なハト派で知られる中川日銀審議委員(用語説明1)が、「利上げの環境という意味では4月よりも不確実性が下がった」と発言したことを受けた円買いも出ていた。同日海外市場で146円66銭と先週の安値を付けたが、先々週の安値146円58銭に届かず反発すると、その後は147円00銭を挟んでの上下となった。

 週明けのドル高を受けた下げに加え、フランスの政局混乱(用語説明2)懸念が重石となったユーロドルは27日に1.1574ドルを付けた。その後はドル円同様にドル売りが優勢となり、29日海外市場で1.1700ドル超えまで上昇している。

 ユーロ円は週明けのユーロ売りに171円58銭を付けた後、いったん172円台を回復の場面も、戻りが鈍く、28日に171円12銭を付けている。その後は対ドルでのユーロ買いなどを支えに反発し、29日海外市場で一時172円00銭前後まで上昇。

今週の見通し

 今週は目立った材料のなかった先週から打って変わり、米重要指標の発表が目白押しとなっている。2日に8月の米ISM製造業景気指数、3日に7月の米雇用動態調査(JOLTS)求人件数、4日に8月のADP雇用者数、同ISM非製造業景気指数、5日に8月の米雇用統計が発表される。

 中でも前回の発表を受けて大きな動きが見られた米雇用統計が注目されている。前回の雇用統計は7月の非農業部門雇用者数の伸びが予想を下回ったことに加え、5月と6月の数字が計25万人以上の下方修正となった。この結果を受けて、パウエル米FRB議長が今年に入って政策金利を据え置いていた理由の一つである米雇用市場の堅調さへの信用が崩れ、追加利下げ期待が一気に強まった。

 今回は前回並みの雇用者数の伸びが見込まれている。ただ、前回の予想からの大きな乖離もあり、6月、7月分の修正と合わせ、警戒感が広がっている。

 ISMなど関連指標の動向をにらみつつ、雇用統計の発表を待つ展開が見込まれる。9月の米利下げ自体はほぼ織り込み済みも、今回も弱い数字が出てくると、年内3回利下げの期待が広がる形でドル売り、前回の反動もあって強めの数字が出てくると、ほぼ織り込み済みの9月利下げの期待が後退する形でドル買いと、結果次第の面があり、それまでは動きにくさがある。

 ドル円は146円から148円にかけてのレンジ取引が中心となりそう。かなり神経質な展開であり、関連指標次第ではレンジを超えて一気に動きが出る可能性には注意したい。

 ユーロドルは1.1600ドルから1.1800ドルを中心とした推移が見込まれる。ECBの追加利下げ後退もあって、下がると買いが出る展開も、フランスの政局混乱懸念などもあって、上値追いにも慎重。

 ユーロ円はドル円次第の面が大きいが、下がると買いが出る展開か。170円から171円にかけての水準は買いが入ってくるとみている。

用語の解説

中川日銀審議委員 中川順子日銀審議委員。神戸大学を卒業後、野村證券に入社。野村ホールディングス執行役員、野村アセットマネジメントCEO兼代表取締役、同社会長を経て、令和3年6月30日より現職。比較的ハト派な金融政策スタンスと市場では認識されている。
フランスの政局混乱 フランスのバイル首相は8月25日、財政赤字の増加抑制のための歳出削減を狙った予算案の是非を問うために、内閣信任投票を要求した。9月8日に信任投票が実施される。国民連合のバルデラ党首や社会党のフォール第1書記など、野党勢力は右派、左派ともに歳出削減の予算案への反対の姿勢を崩しておらず、不信任が成立する可能性がある。

今週の注目指標

ISM製造業景気指数(8月)
9月2日23:00
☆☆☆ 
 前回7月のISM製造業景気指数は6月の49.0からの改善が期待されていたが、48.0に悪化した。好悪判断の境となる50を5カ月連続で下回る厳しい結果となった。内訳をみると新規受注が6月から改善も50を下回る47.1と低い水準での推移が続いた。雇用は45.0と弱かった6月からさらに悪化し43.4となっている。
 今回は49.0と前回から改善見込みも、6カ月連続での50割れが見込まれている。内訳のうち、新規受注、雇用ともに7月から改善見込みも、50を下回る状況が続くとみられている。予想前後であれば、雇用統計待ちの流れが継続と見られるが、予想に反して前回から悪化した場合、雇用部門の数字にもよるが、5日の雇用統計の厳しい数字への警戒に繋がり、ドル売りとなる可能性がある。ドル円は146円00銭を試す可能性がありそう。
ミランFRB理事候補 公聴会 9月4日
☆☆☆
 トランプ大統領が8月8日付で退任したクーグラー理事の後任となる理事候補として指名したミラン大統領経済諮問委員会(CEA)の公聴会が上院銀行住宅都市問題委員会で開催される。なお人事については上院のみに承認権限がある。同氏の任期はクーグラー前理事の残りの任期である来年1月末までとなっており、比較的承認のハードルが低いとみられている。1月末までの任期中に、次期FRB議長候補の人選を進め、現理事以外の候補が次期議長の候補となった場合、2月からの理事に指名する方針と見られている(FRB議長は理事である必要がある)。
 ミラン候補は関税による米物価への影響はないとして大幅な利下げの方針を主張するとみられている。内容次第では今後の積極的な利下げへの期待が強まり、ドル売りが広がる可能性がある。ユーロドルは1.1800ドルをトライする動きにある可能性がある。
 
米雇用統計(8月) 9月5日21:30
☆☆☆
 前回7月の雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが前月比+7.3万人と市場予想の+10.6万人を大きく下回ったことに加え、5月と6月の数字が+14.4万人、+14.7万人から+1.9万人、+1.4万人と計25.8万人の大規模な下方修正となった。7月の弱い数字と合わせ、米雇用市場の堅調さへの疑義が広がり、利下げ期待につながっている。失業率は市場予想通りながら4.2%と6月の4.1%から悪化した。
 5月及び6月の下方修正を確認すると、目立つのが政府部門の弱さ。7月初めに発表された5月改定値、6月速報値時点では政府部門が+0.7万人、+7.3万人となっていたが、8月1日発表の5月確報値、6月改定値では-5.0万人、+1.1万人とともに5万人以上の下方修正となった。民間部門で目立つのは小売業の悪化。5月改定値の-0.7万人が確報値で-1.5万人、6月速報値の+0.2万人が改定値で-1.4万人となった。小売業は比較的景気に敏感な部門だけに、警戒感につながった。
 前回7月ののNFPの内訳をみると、幅広い業種で弱さが見られ、雇用市場の厳しさが印象的となった。民間部門は、製造業が-1.1万人と3カ月連続でマイナス圏。部門単体で1236万人の雇用者を抱える飲食業が-0.3万人とマイナス圏となり、同部門を含む娯楽接客業が+0.5万人と6月の+0.4万人に続いて厳しい数字となっている。政府部門は-1.0万人と2カ月ぶりのマイナス圏。教育部門が連邦政府、地方政府ともにマイナス圏となっており、特に地方政府は-1.04万人と大きなマイナスとなった。ただ、地方の教育部門は季節調整前の数字が-107.88万人と100万人超えのマイナス(米国の学校は9月スタートで7月は年度末となり大幅減は例年のこと)。大きな動きがある分、季節調整などでブレが大きくなりがちな点に注意が必要。
 これまで発表済みの関連指標をみると、8月26日に発表された8月のコンファレンスボード消費者信頼感指数は全体の数字が市場予想を上回る好結果。ただ、雇用部門に関しては職を探すのが困難との答えが20.0%まで上昇。2021年以来の高水準となっている。職が豊富にあるとの回答は29.7%と7月から小幅低下し、エコノミストが重視しているとされる両者の差は9.7ポイントまで縮まっている。  
 こうした状況を受けて今回8月分の予想をみると、NFPが+7.5万人と7月とほぼ同水準。失業率は4.3%と0.1%ポイントの悪化見込みとなっている。これから発表されるISMやADPといった関連指標の状況にもよるが、厳しい数字が見込まれている。ただ前回の発表で予想からの大きな乖離や前回値、前々回値の大幅修正が見られたことで、今回も予想からの乖離が警戒されている。前回同様に弱めの数字が出てくると、9月の利下げに加え、年内3回利下げの可能性などが意識されてドル売りが強まる可能性がある。結果次第であるが、145円を試すような大きな動きとなる可能性がある。

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