2025年09月08日号
先週の為替相場
米雇用統計前にいったんドル高円安、雇用統計でドル安
先週(9月1-5日)のドル円は、5日発表の8月米雇用統計をにらみ、神経質な動きが見られた。週前半はドル買いがやや優勢だったが、8月の雇用統計発表を前に行き過ぎた動きへの警戒感もあり、弱めの雇用統計の発表後はドル売りが一気に強まった。
週明け1日は米国が祝日(レイバーデー)で休場ということあり、1ドル=147円00銭を挟んで推移した。8月29日に米連邦巡回区控訴裁判所(用語説明1)が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税措置を違憲としたことがドルの上値を抑えたが、米国勢が不在ということもあり、影響は限定的だった。
2日に氷見野日銀副総裁が道東地域金融経済懇談会(用語説明2)で、追加利上げに慎重な姿勢を示したことを受けて円安となった。同日の10年物国債(第379回債)入札で応札倍率が3.92倍と2023年10月以来の高い倍率となったことで、長期債価格が上昇(利回りが低下)したことも円売り材料となった。ロンドンでポンド安ドル高が進むと、ユーロも対ドルで連れ安し、ドルの対円レートも上昇し、148円94銭までドル高円安が進んだ。当初は円売り主導だったこともあり、クロス円もポンドの急落までは上昇。ユーロ円は2日朝の1ユーロ=172円20銭台から173円41銭に、ポンド円は1ポンド=199円30銭台から200円27銭にそれぞれ上昇し、先週の高値を付けた。
ロンドン市場に入ってポンドが対ドル、対円で急落。ユーロは対ポンドで上昇も、対ドル、対円では下落した。ポンドドルは1ポンド=1.3530ドル前後から1.3340台まで急落。ポンド円も200円20銭台から198円40銭台を付けている。秋の英予算案発表を前に財政赤字懸念が広がり、ポンドが売られた。英30年債は一時5.69%まで上昇し、1998年以来の高水準(債券価格は下落)となる中、英国売りへの警戒感が広がった。
5日の米雇用統計を前に行き過ぎた動きへの警戒感もあり、3日朝に148円割れを付けるなどドル高円安が一服となったが、すぐに反発。ポンド売り一服からポンド円やユーロ円に買いが入ったことで、ドル円もしっかりとなり、3日のロンドン市場午前に149円10銭台と先週の高値圏を付けた。同日日本時間23時に発表された7月の米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が、下方修正された前回水準をさらに下回る弱い結果となった。内訳をみると、直近の雇用統計を支えていたヘルスケア部門の求人件数が減少するなど、5日の雇用統計を前に厳しい結果となった。
8月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比+2.2万人と市場予想(+7.5万人)を大きく下回った。7月は+7.3万人から+7.9万人へ小幅に上方修正されたが、6月分は前回速報値+14.7万人から+1.4万人へ大幅下方修正されたのに続き、今回は-1.3万人と、2020年以来の雇用者数減少となった。失業率は市場予想通りながら7月の4.2%から4.3%に悪化した。
この厳しい結果を受けてドル円は148円20銭前後から146円80銭台まで急落し、週末を前に少し戻して147円40銭台で前週の取引を終えた。
ユーロドルは1ユーロ=1.1680ドル台から1.1760ドル前後までユーロ高ドル安となり、やや緩んで1.1710ドル台を付けた。
ユーロ円は173円20銭前後で雇用統計を迎えると、ドル円の下げがユーロドルの上昇を上回る形で172円50銭台を付け、172円70銭台で先週の取引を終えた。
今週の見通し
週末に石破首相が退陣を表明し、円安が進んで今週の取引がスタートした。一般的に政権交代自体が通貨安材料となることに加え、次期首相の有力候補の一人とされる高市前経済安保相が積極財政を志向するとみられ、海外勢を中心に財政赤字への警戒感が広がっていることも円売り材料となっている。
もっとも政局に関しては各有力候補の情勢や発言、総裁選日程などをにらんだ展開となり、月曜朝に円安が一服した後は材料とはなりにくい面がある。円売り材料としてドル円が下がると買いが出るものの、上値追いが進むかどうかは微妙なところだ。
前週末の米雇用統計の弱さから9月の利下げはほぼ確定的と言える。ごく一部で0.5%利下げの可能性も指摘されるが、こちらはさすがに期待先行とみられる。ただ、米雇用統計前まで年内2回か3回かで利下げ見通しが分かれる中、やや2回が優勢となっていた状況から、8割がた年3回まで利下げ継続期待が広がっている。こうした動きはドル売り材料となるだけに、ドル円は政局をにらんだ円売りと、金利動向を受けたドル売りの交錯が見込まれる。
147円台から148円台を中心に次の方向性を見極めたいところだ。日本の政局が落ち着けばドル安の勢いが強まりそうだが、現時点ではやや不透明だろう。
クロス円もドル円次第で上下どちらもありそうだ。ユーロ円は172円から173円台を中心に、上下どちらの可能性も考えられる。対ドルでユーロ買いが入りやすい分、どちらかというと上のリスクが高いか。
用語の解説
| 連邦巡回区控訴裁判所 | 連邦巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Federal Circuit, CAFC)は、米国の控訴裁判所の一つで、関税や特許などに関する事案を管轄している。 |
|---|---|
| 道東地域金融経済懇談会 | 日本銀行の正副総裁と審議委員は定期的に日本の各県・地域で金融経済懇談会を開催し、当該地域の経済・物価情勢や金融政策について講演するほか、同地域の産業関係者、金融関係者などと意見交換する。道東地域は日銀の支店がある北海道釧路市や帯広市を含む十勝・釧路総合と根室の両振興局の所管区域を指す。 |
今週の注目指標
| 米雇用者数年次改定中間報告 9月9日23:00 ☆☆☆ | 米国の雇用統計はサンプルデータを基に推計されているが、1月の結果が発表される2月初めの雇用統計発表に合わせて、前年3月までの1年間の数値が、失業保険申請に基づく全数調査の結果に置き換えられ、夏ごろに中間報告が発表される。今回発表されるのは2024年4月から2025年3月までのデータ。昨年8月に発表された2023年4月から2024年3月までの年次改定中間報告では81.8万人の下方修正が示された。今回も50万人を超える下方修正が見込まれている。下方修正幅が大きければ0.5%の大幅利下げや年内3回利下げなどの観測が強まり、ドル売りが見込まれる。ドル円は146円台を目指す可能性がある。 |
|---|---|
| 米生産者物価指数(PPI)(8月) 9月10日21:30 ☆☆☆ | 前回7月の米PPIは前年比+3.3%、コア前年比+3.7%と市場予想の+2.5%、+3.0%、6月の+2.3%、+2.6%を大きく超える伸びとなった。関税の影響が警戒され、9月の0.5%大幅利下げ予想が後退。年内の利下げ回数見通しも3回から2回が多数派となった。米連邦準備制度理事会(FOMC)のインフレ目標の対象である個人消費支出(PCE)価格指数の算出に利用される項目のうち、ポートフォリオ管理費が前月比+5.8%と急騰。航空旅客サービスは直近のマイナス圏からプラス圏に浮上と強さを見せたことも、利下げ期待後退につながった。 今回は前年比+3.3%、コア前年比+3.5%とコアの伸び率鈍化が予想される。前月比は+0.3%、コア前月比は+0.3%と共に前回から鈍化する見込みだ。市場予想以上に鈍化すると米国の大幅利下げ観測につながり、ドル売りを誘うだろう。ただ、今回はCPIよりもPPIの発表が先となる。より注目度の高いCPIの発表待ちとなる可能性もあり、よほど予想からずれない限りは相場の動きは限られそうだ。 |
| 米消費者物価指数(CPI)(8月) 9月11日21:30 ☆☆☆ | 前回7月の米CPIは前年比+2.7%と市場予想の+2.8%を下回り、6月から横ばいだった。コア前年比は+3.1%と予想の+3.0%、6月の+2.9%を上回る伸びとなった。前年比の内訳は、ガソリン価格が-9.5%と落ち込んだためエネルギーが-1.6%と弱く、全体の伸びを抑えた。食品とエネルギーを除いたコア項目では、中古車・トラックが+4.8%と好調だったが、衣料品が-0.2%とマイナス圏となるなど、まちまちだった。コアサービスは運輸や医療の項目が強く、+3.6%だった。前月比は+0.2%、コア前月比が+0.3%と共に市場予想通りだった。もっともコア前月比は今年1月以来の高い伸びとなり、警戒感がやや強まる水準だった。ただ、コア財の伸びは+0.2%と6月から横ばいで、強かったのはコアサービス。運輸が+0.8%、医療費も+0.8%と高い伸びとなっていた。これらの項目は関税の直接の影響を受けにくく、人件費の上昇が響いたようだ。このため、市場の関税警戒が後退し、発表後はドルがやや売られた。 今回の予想は前月比が+0.3%と前回から伸びが強まる見込み。コア前月比+0.3%と7月から横ばい見込み。前年比は+2.9%、コア+3.1%と総合は伸びが強まる見込みだが、コアは横ばい予想となっている。総合の前年比についてはガソリンの影響が強いと予想されている。予想前後の伸びにとどまれば、前日のPPIにもよるがドルは利下げ期待からの売りとなる可能性がある。PPIとCPIの水準によっては、ドル円は145円トライもありそう。 |
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