2026年03月30日号
先週の為替相場
有事のドル買いからドル円は2024年以来の160円台へ上昇
先週(3月23日〜27日)は、中東情勢を巡る地政学リスクに翻弄される極めて神経質な展開となった。トランプ米大統領とイランによる応酬が激化し、軍事衝突の懸念と停戦への期待が交錯する中で、ヘッドライン一つでリスクオンとリスクオフが短時間に切り替わる様相を呈した。主要通貨や原油、株式市場が同時に揺れ動く中、ドル円は最終的に160円の大台を突破し、2024年7月以来の高値となる160.41円を付けた。
週明け23日の東京市場は、有事のドル買いが優勢で始まった。週末にトランプ大統領がイランに対し、48時間以内のホルムズ海峡完全開放を要求し、拒否すれば発電施設等への攻撃を辞さないと警告したことが背景にある。ドル円は159.60円台まで上昇し、ユーロやポンドに対してもドル高が進行した。しかし、ロンドン市場で局面は一変する。トランプ大統領が「イランと建設的な協議を行った」として軍事攻撃の5日間延期を示唆すると、有事のドル買いは急速に巻き戻された。ドル円は159.66円から158.20円台へ急落し、NY原油先物も101ドル台から一時84ドル台へと暴落。市場は地政学リスクの緩和を好感したが、状況は不安定で神経質な値動きが続くこととなった。
24日から25日にかけては、水面下での交渉報道に一喜一憂する展開となった。24日の東京市場では、イラン側が交渉を否定したことで買い戻しが入るも、日経平均の上昇によるリスク警戒感の後退がドル円の上値を抑えた。NY市場終盤には、米国が1カ月の停戦計画を送付したとの報道で再びドル売りが強まる場面も見られた。25日に入ると、イスラム革命防衛隊(RGC)が米国の提示した条件を非難し、再びリスク警戒感が強まった。ドル円はじりじりと値を戻し、一時159円台を回復。欧州では独Ifo景況感指数の悪化やラガルドECB総裁の慎重発言があったものの、市場の関心は完全に中東情勢に集中しており、経済指標の影響は限定的となった。NY市場では、米国が15項目の紛争終結計画を策定した一方でイランがこれを拒否するなど、混迷を極める中でドル高の流れが維持された。
26日は、これまでの激しい動きに対する反動と、年度末を控えた実需の動き、さらには大規模なオプションカットの影響で、主要通貨は狭いレンジでの揉み合いに終始した。ドル円は160円を目前にしながらも、不透明感から上値追いは慎重となり、159円台半ばでの推移が続いた。NY市場終了間際、トランプ大統領がエネルギー施設への攻撃期限を4月6日まで再延長すると発表。これにより緊張が一時的に和らぎ、ドル円は159.40円近辺まで押し戻された。しかし、ホルムズ海峡の封鎖リスクという根本的な問題は解決しておらず、市場参加者は次の材料を待つ格好となった。
27日の東京市場では片山財務相による「断固とした措置」を含めた円安けん制発言が伝わり、一時159円台半ばまで円が買い戻される場面があった。介入への警戒感が再認識された形だが、その効果は一時的なものにとどまった。ロンドン市場に入ると、原油価格が再び97ドル台へ上昇するなど警戒感が広がった。さらにイランの重水炉施設(用語説明1)への攻撃報道が飛び込むと、有事のドル買いが加速。160.00円の節目に置かれていた売りオーダーをこなし、ストップロスを巻き込みながら160.41円まで急騰した。介入警戒感を地政学リスクに伴うドル需要が上回る結果となり、ドル独歩高となって週の取引を終えた。
今週の見通し
イラン紛争をにらみながらの展開が続く。ドル円は27日の市場で節目の160円台に乗せたことで、ドル高が進みやすくなったが、日本の通貨当局によるドル売り円買い介入に対する警戒感が強まっており、動きは比較的慎重だ。財務省で通貨政策を担う三村財務官が、「この状況が続けば、そろそろ断固たる措置が必要」と発言したこともあり、介入警戒感が高まっている。
ただ、有事のドル買いが続くようだと、ドル高円安の流れが継続しそうだ。イエメンの親イラン武装組織フーシ派が28日にイスラエルへのミサイル攻撃を行っており、紛争の長期化・激化が警戒される。一方、トランプ大統領はパキスタン経由でイランに提示した紛争終結に向けた15項目の要求について、「彼らは計画に同意しつつある」と発言している。発言通りであれば解決に前向きな動きとなるが、市場は先行きを慎重にみており、不透明感が継続している。
なお今週金曜日はグッドフライデー(用語説明2)、翌週月曜日はイースターマンデーで、取引参加者が極端に少なくなる。そうした中で、イラン紛争がらみで材料が入った場合、想定以上に粗っぽい展開になる可能性がある点には注意したい。
ドル円はドル高継続を意識する展開を見込んでいる。ターゲットは2024年7月に付けた高値161.95円となる。同水準を超えると1986年以来、約40年ぶりのドル高圏となる。介入警戒感の高まりから上値追いには慎重になっているが、ドル全面高の中では介入の効果は限定的にとどまるとみられ、流れを変えることは難しいとみている。
ユーロドルは3月13日に付けた1.1411ドルが目先のターゲットとなる。同水準を割り込むと1.12-1.13ドルに向けた動きが見込まれる。
ユーロ円はドル主導の展開で不安定な動きとなりそうだ。183-185円のレンジを中心に方向性を見極める展開を予想している。
用語の解説
| 重水炉施設 | 中性子のスピードを落とす減速材として、通常の水(軽水)ではなく、重水を利用する原子炉。一般的な軽水炉と違って、ウランの濃縮の必要がなく、天然ウランやプルトニウムが利用しやすい。 |
|---|---|
| グッドフライデー | グッドフライデー(聖金曜日)は、キリスト教の復活祭(イースター)直前の金曜日のこと。イエス・キリストの受難と死を記念する日。欧米の多くの国で祝日となり、ニューヨークやロンドンなどの主要な金融市場が休場となる。このため為替市場では流動性が極端に低下し、突発的なニュースで値動きが不安定になりやすいため注意が必要だ。翌週月曜のイースターマンデーまで休場が続く市場も多い。なお、米国は連邦政府の休日ではないため、労働省労働統計局による雇用統計は発表される。 |
今週の注目指標
| 米雇用動態調査(JOLTS)求人件数(1月) 3月31日23:00 ☆☆☆ | 前回1月の米JOLTS求人件数は、予想の675万件を上回る694.6万件とまずまずの好結果となった。解雇(レイオフ)率が12月の1.1%から1.0%へ低下したことも好印象を与えた。ただ離職率が2.0%と低い水準で横ばいとなっている点は警戒感につながった。労働者が新たな職を見つけることが困難であると感じているという印象を与えている。今回の求人件数の予想は689.5万件と前回から大きな乖離はないとみられている。予想からある程度のブレのある指標だけに、予想を大きく下回って求人件数が減少していた場合は、米雇用市場の厳しさが意識されてドル売りとなる可能性があり、ドル円は158円台に向けた動きが見込まれる。 |
|---|---|
| ISM製造業景気指数(3月) 4月1日23:00 ☆☆☆ | 前回2月のISM製造業景気指数は、総合指数が52.4と1月の52.6から小幅に鈍化したが、市場予想の51.5は上回った。また、好悪判断の境となる50を2か月連続で上回った。新規受注や生産が1月から悪化したが、雇用部門は48.8と好悪判断の境となる50を下回ったものの1月の48.1から0.7ポイントの改善となり、全体を支えた。指数の算出には影響しないが、調査項目のうち目立っていたのが仕入れ価格の上昇で、1月の59.0から2月は70.5を付けた。2022年6月以来の高水準となる(同項目は総合指数の算出には影響しない)。関税の価格転嫁などにより生産財の上昇が急速に進んでいるのではという警戒感につながっている。今回の予想は52.4と2月から横ばいの見込み。2日の米雇用統計を前に雇用部門に要注意。また前回大きく上昇した仕入れ価格は73.8と更なる上昇が見込まれている。総合指数が予想から大きく乖離しない限り、影響は限定的とみられるが、弱く出た場合は市場の米景気に対する先行き不透明感につながるだけに注意が必要。 |
| 米雇用統計(3月) 4月3日21:30 ☆☆☆ | 2月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が前月比-9.2万人となり、市場予想(+5.0万人)および1月実績(+12.6万人:速報値+13.0万人から下方修正)を大幅に下回る極めて弱い結果となった。失業率についても4.4%と、1月の4.3%から悪化した。市場予想は4.3%の横ばいであり、労働市場の減速が鮮明となった。NFPは予想から乖離しやすい指標ではあるが、今回の数字は「景気警戒感の中でも雇用は底堅い」というこれまでの楽観的な見方を打ち消す内容であった。 2月NFPの内訳をみると、金融業(+1.0万人)など一部を除き、幅広い業種で弱さが目立った。財部門は-2.5万人となった。1月に14か月ぶりにプラス圏へ浮上したばかりの製造業が再びマイナス(-1.2万人)に転じたほか、悪天候の影響で建設業も1月の+4.8万人から-1.1万人へと悪化した。サービス部門は-6.1万人となった。これまで全体を支えてきた教育・医療部門が-3.4万人(前月+12.9万人)と大きく落ち込んだことが響いている。これは医療従事者のストライキによる約3.7万人分の下押しや、前月の好調からの反動が主因と考えられる。また、雇用規模の大きい飲食部門が-2.97万人と冴えず、娯楽・接客部門全体でも-2.7万人となった。そのほか、情報や運輸・倉庫業でも弱さが継続している。 一方で、ポジティブな兆候も一部で見られた。広義の失業率であるU6失業率(「仕事を探すのを諦めた者」や「フルタイム希望のパートタイム労働者」を含む指標)は7.9%となり、3か月連続で改善している。労働市場の表面的な数字(NFP)は弱いが、潜在的な労働供給の質という側面では強さが残っている。しかし、全体像としては依然として弱気な印象が拭えない。 3月雇用統計ではNFPが+5.7万人と、一転して回復に向かうとの予測が出されている。失業率は4.4%で横ばいの見込みとなっている。前回見られたストライキや悪天候といった特殊要因が解消され、予想通りの回復が確認できれば、市場の過度な警戒感は一服するとみられる。ただ、足元ではイラン紛争に伴う物価高への懸念が根強い。雇用指標が底堅さを示した場合、インフレ抑制に向けた利上げ期待が再び強まる可能性があり、ドル高となる可能性がある。ドル円は2024年の高値161.95円を意識する展開となりそう。 |
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