2026年04月20日号
先週の為替相場
中東情勢受けて動きの大きな展開
先週(4月13日-17日)の外国為替市場は、中東情勢を巡る地政学リスクと、日米欧の金融政策見通しが複雑に絡み合い、ドル円・ユーロドルともに極めてボラティリティの高い、方向感を欠く展開となった。週前半は米国とイランの協議難航への懸念から「有事のドル買い」が先行したものの、週の終盤にかけてはイランによるホルムズ海峡(用語説明1)の封鎖解除という極めて大きなヘッドラインが飛び込み、ドル安・円高・原油安へと一気に巻き戻される劇的な幕切れとなった。
4月13日(月):協議不調による有事のドル買いと160円の壁
週明けの東京市場は、週末の米イラン協議が合意に至らなかったことを受け、リスク回避のドル買いが先行した。ドル円は先週末終値の159.27円から窓を開けてスタートし、午前中に159.85円まで上値を伸ばした。しかし、160.00円の大台を前にしては達成感や介入警戒感から戻り売りが強く、午後には159.50円台へ押し戻された。ロンドン市場に入ると、アジア時間での過敏な反応が一服し、159.60-159.70円レベルでの小動きに終始した。中東情勢の不透明感は依然として高いものの、市場は協議の難航をある程度織り込み始めていた。NY市場でもドル円は159円台後半での振幅を繰り返したが、後半は米金利の低下とともに159円台前半へ下落。ユーロドルは1.1658ドルまで下げた後に1.17ドル台を回復、ポンドドルも1.35ドル台へ買い戻されるなど、ドル高一辺倒の展開には至らなかった。
4月14日(火):和平期待の再燃と日銀の物価見通し
14日は一転してリスク警戒感が後退する場面が見られた。米イラン協議の再開期待が報じられると、株高を背景としたドル安・円高の流れが進行した。ドル円は東京市場で159.50円近辺から159.00円割れまで下落。ロンドン市場でもこの流れを引き継ぎ、交渉団がイスラマバードを再訪するとのニュースがドル安を後押しした。また、この日は日本国内の材料も意識された。「日銀が原油高を受けて物価見通しの引き上げを検討」との報道が伝わると、早期利上げへの期待から円買いが強まり、ドル円は158.70円台まで沈んだ。ユーロドルはドル安を受けて7日続伸となり、一時1.18ドル台を回復。市場の関心は有事の緊張感から、徐々にファンダメンタルズへと移り始めた。
4月15日(水):交錯する楽観と不安、牽制発言の短命
15日は中東情勢を巡る楽観論と不安が交互に押し寄せた。東京市場では前日のドル安が一服し、159.00円台を回復する場面があった。しかし、ロンドン市場では米国による中東への追加派兵報道や、イランによる封鎖威嚇が再び伝わると、原油先物が93ドル台へ再上昇。これを受け、市場は再び不安定な地合いとなった。NY市場では、片山財務相による「断固たる措置」を辞さない旨の円安牽制発言が飛び出し、ドル円が急落する場面も見られた。しかし、日銀の早期利上げに対する懐疑的な見方が根強く、円を買う動きは持続しなかった。結局、ドル円は159.00円を挟んだ水準で膠着状態となり、ポンドドルが8日続伸するなど、ドル安基調の中での個別の強弱感が目立つ展開となった。
4月16日(木):当局の不整合なメッセージとボラティリティの拡大
16日は日本の政策当局による発言が市場を翻弄した。東京市場午前、片山財務相や三村財務官が為替市場の連携を強調すると、介入への警戒感からドル円は158.27円付近まで急落した。しかしその直後、片山財務相が「利上げは経済に悪影響」と言及したことが伝わると、市場はこれを「早期利上げ否定」と受け取り、ドル円は158.90円前後まで急速に買い戻された。このメッセージの不整合は、ロンドン市場でのさらなるドル買いを誘発し、ドル円は一時159.13円まで上昇した。NY市場では米当局がイランとの合意には長期間(6カ月)を要するとの認識を示したことで不透明感が嫌気され、一時158.20円台まで押し戻されたが、株価の堅調さもあって最終的には159.00円台を回復して引けた。
4月17日(金):ホルムズ海峡封鎖解除という衝撃の結末
週末の17日は、今週最大の動きとなった。東京市場では、今月の日銀会合での利上げ見送り観測や燃料供給不安から、円売りが全面的に広がった。ドル円は159.53円まで上値を伸ばし、ユーロ円や豪ドル円も記録的な高値を更新。円安主導の展開が鮮明となった。しかし、ロンドン市場に入ると和平協議への期待から原油価格が下落に転じ、ドル円は159.00円付近へ反落。そしてNY市場午前、イランが「ホルムズ海峡の封鎖解除」を電撃発表した。これに合わせ、米国も協議再開に向けた前向きな姿勢を示し、イスラエル軍も平時体制への移行を示唆するなど、中東情勢は一気に沈静化へと向かった。このヘッドラインを受け、積み上がっていた「有事のドル買い」と「円売り」のポジションが一気に解消された。時間足データによれば、21時台に159.17円だったドル円は、23時台には157.59円まで急落。わずか数時間で1.5円以上の暴落を記録した。ユーロドルも1.1849ドルの高値を付けたが、その後は対円でのドル安が波及し、1.1761ドルまで反落するなど、クロス円の乱高下を伴う激しい動きとなった。
総括
週末のドル円は安値から一部買い戻されたものの、158.63円で週の取引を終えた。一時は160円を伺う勢いを見せていたドル円だが、中東情勢の急展開によって上値を大きく抑えられた格好である。13日からの週の動きは、地政学リスクがいかに為替市場を支配するかを改めて見せつけた。
今週の見通し
米国がイランの港湾封鎖を継続し、大型貨物船を拿捕したことなどに反発して、イランがホルムズ海峡の再封鎖を発表した。先週末、紛争終結に向けた動きが期待されたが、週明けは再びリスク警戒感が強まる展開となっている。
もっとも、先週末のドル円はいったん下げた後に買い戻しが目立ち、ユーロドルに至ってはドル安が進んだ後、封鎖解除報道前の水準を割り込む形でユーロ安・ドル高が進むなど、有事のドル買いの調整は限定的なものにとどまっていた。両国の協議難航を警戒した動きであったとみられ、週明けのドル買いも今のところ限定的だ。
この後もイラン情勢をにらみながらの展開が見込まれる。トランプ大統領は21日にも両国の協議再開を示唆しているが、一方でイラン側は再協議を拒否していると報じられている。
再びホルムズ海峡の封鎖解除に向けた動きが広がれば、ドル売り・円買いが強まる可能性が高い。先週末に付けた安値を割り込み、一気に値を下げる可能性もある。一方、紛争が長期化すれば円売りの動きが広がるだろう。159.50-160.00円は上値抵抗水準として意識されているが、情勢次第ではここを抜けてくることもあり得る。
また、一時は織り込む勢いを見せていた今月の日銀会合での利上げ見通しが大きく後退しており、円売りが出やすい地合いになっている点にも注意したい。
ドル円は中東情勢を注視しつつ、方向性を探る展開。状況次第で上下どちらにも動き得る流れとなっている。来週の日銀金融政策決定会合や米連邦公開市場委員会(FOMC)待ちという面もあり、来週に向けて警戒感を高めつつも、値動き自体は159円台を中心とした範囲にとどまる可能性もありそうだ。なお、FOMCに関しては18日からブラックアウト期間(用語説明2)に入っており、関係者発言などの新規材料は期待できない。
ユーロドルは上値の重さが意識される。先週末にイランによるホルムズ海峡の封鎖解除が報じられた際も1.1850ドルを付けきれずに下落するなど、上値での売り意欲が見られ、流れは下方向か。一時強まっていた今月のECB理事会での利上げ期待が後退していることもユーロ売り材料となり、1.16ドル台に向けた動きが想定される。
ユーロ円は対ドルでの下げもあって先週金曜日に大きく値を落とした。これまでの上昇を受けて高値警戒感も広がっており、戻りでは売りが出る展開となりそうだ。187円台では断続的な売りを見込んでいる。
用語の解説
| ホルムズ海峡 | ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ、イランとオマーンに挟まれた海域。幅は最も狭い箇所で約33Km。船舶の衝突を避けるため幅3kmずつの航行出入レーンが設けられている。世界の原油輸送の約20-30%が通過する「エネルギー供給の生命線」であり、特に日本は輸入する原油の約8割が同海域を通過する。 |
|---|---|
| ブラックアウト期間 | 中央銀行の金融政策会合前後で、会合関係者が金融政策についての発言を制限される期間。米FOMCは会合2週間前の土曜日からFOMC終了日の深夜12時までとなる。日銀は会合の2営業日前から終了後に総裁会見が終了するまでとなる。 |
今週の注目指標
| 米小売売上高(3月) 4月21日21:30 ☆☆☆ | 前回2月分は前月比+0.6%と、市場予想(+0.5%)を上回る伸びとなった。これは2025年7月以来、7カ月ぶりの高水準である。販促活動が功を奏した自動車部門が牽引したほか、衣料品、趣味・スポーツ・書籍、ガソリンスタンドなども堅調で、自動車を除くコア指数は+0.5%と、こちらも市場予想(+0.3%)を上回った。 今後の焦点は、イラン情勢悪化に伴う原油高とガソリン価格上昇の影響である。米国では一部の大都市圏を除いて自動車が生活必需品であるため、ガソリン価格が上昇しても売上高ベースでは数字が拡大する。しかし、ガソリン代への支出増が他の消費項目を圧迫する懸念があり、今回の数字でその影響がどこまで顕在化しているかが注目される。EIA(米エネルギー情報局)の調査によれば、全米のガソリン平均価格は2月から3月にかけて1ガロン当たり3.039ドルから3.771ドルへと24.1%も急騰している。 今回の予想は前月比+1.4%、コア前月比+1.4%と大幅な伸びが見込まれている。ただ、その大半はガソリンスタンド売上高の増加によるものと見られる。そのため、市場の関心は「自動車とガソリンを除いた実質的な消費動向(前回+0.4%→今回予想+0.2%)」に集まるだろう。仮にこの数字がマイナス圏に沈むようなら、米消費の冷え込みと受け止められ、ドル売り材料となる可能性がある。ドル円は157円台を試す展開も想定しておきたい。 |
|---|---|
| 英消費者物価指数(3月) 4月22日15:00 ☆☆☆ | 22日15時に3月英物価統計(消費者物価指数(CPI)、小売物価指数(RPI)、生産者物価指数(PPI))が発表される。最も注目度の高いCPI前年比は、前回+3.0%と市場予想と一致し、1月から横ばいとなった。2024年9月に+1.7%とインフレターゲットを下回るところまで鈍化した英CPIは、その後反発。昨年は7、8、9月と3カ月続けて+3.8%を記録した後、いったん鈍化に転じ、今年1月、2月は+3.0%まで低下した。インフレターゲットである+2.0%はまだ遠いものの、許容上限(注)とされる+3.0%まで落ち着いてきていた。しかし、イラン紛争を受けた原油高によって、物価の上昇圧力が高まると見込まれている。 (注)英中銀はCPIがインフレターゲットである+2.0%から±1%の幅を超過すると、財務大臣に対して公開書簡を提出し、改善策などを提示する必要がある。 今回の市場予想は+3.3%。1月、2月はガソリン価格の低下が全体を押し下げていたが、3月は原油高によるガソリン価格の上昇が見られたことで、CPIも+3.0%を超える伸びが見込まれる。 国内需要の影響を表し、中長期的なインフレ圧力につながるとして中銀が注視しているサービスCPIは、前回+4.3%と1月の+4.4%から鈍化したものの、市場予想の+4.2%を上回り、高い水準での推移となった。今回は+4.3%での維持が見込まれており、全体の強さと合わせ、警戒感につながる可能性がある。予想を超えて物価の伸びが見られると、利上げ期待が広がり、ポンド高となる可能性がある。ポンドドルは1.3600ドルに向けた動きが見込まれる。 |
| 日本全国消費者物価指数(3月) 4月24日08:30 ☆☆ | 前回2月の日本全国消費者物価指数(CPI)生鮮食品を除くコア前年比は+1.6%と、47カ月ぶりにインフレターゲットである+2.0%を下回った。電気代、都市ガス代補助金の再開により、エネルギー価格が-9.1%まで低下したことが要因となった。 3月31日に発表された3月東京都区部消費者物価指数(東京CPI)は、生鮮食品を除くコア前年比が+1.7%と2月の+1.8%から鈍化しており、今回の全国消費者物価指数も落ち着いた水準が見込まれる。市場予想は+1.7%と前回から小幅に伸びが強まる見込みだが、2%割れの継続が予想されている。仮に予想を超えて伸びが強まるようだと、日銀の追加利上げ期待にもつながり、円買いが見込まれる。ドル円は157円台に向けた動きが期待される。 |
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